世界に平和が訪れていた。
それを見守り、成し遂げたと感じた俺は、遂に最後の修業を行う事を決心した。
これが最後の修業となるだろう。
遂に神様修業はこれで終わりを告げる。
最後のこの世界の旅となる。
どれだけの時間が掛かるのかは分からない。
本当に成し遂げられるのかもである。
簡単にはいかない事は分かっている。
これまでの修業とは違い、大きな存在に挑まなければいけないからだ。
でもやるしかない。
俺は創造神に成ると決めたのだから。
この決意は変わらない。
もう機は熟している。
挑まない訳にいかないのだから。
それを島野一家と旧メンバー、そして神様ズに俺は告げた。
最後の旅に出ると。
どれだけの旅になるのかは分からない。
帰って来れるのかも定かではないと。
各自はそれぞれの反応を示していた。
否、好き勝手な回答をしていた。
本当にこいつらは・・・いい加減にして欲しい、やれやれである。
でもこの反応も俺には笑えてしまった。
そんな気分になってしまっていたのだ。
もしかしたら今生の別れになるかもしれないからだ。
まあそうするつもりはないけどね。
最初にドランさんは、
「ガハハハ!島野君、行ってらっしゃい!ガハハハ!」
大声で笑っていた。
大きなお腹は優雅に揺れていた。
安定の大笑いである。
あんたは最後までスタンスは変わらないね。
カールおじさん。
レイモンドさんは、
「気を付けてー、行って来てねー」
間延びしながら話していた。
マイペースは変わらないねぇ。
それでいいと思うよ。
生ビールの飲み過ぎには御注意を。
ゴンズさんは、
「そうか、達者でな!」
元気に送り出してくれるみたいだ。
この人らしくあっさりしているな。
五郎さんは、
「島野・・・絶対帰って来いよ!ええっ!分かってんだろうな!」
少し苦い顔をしていた。
ちょっとグッときてしまった。
あざっすパイセン!
恩にきます!
エンゾさんは、
「早く帰ってきてよね、今度新しいスイーツをお披露目するんだから!」
自分勝手な事を言っていた。
はいはい。
もうあなたはどうでもいいです。
スイーツ好きの上から女神め!
始めはこうじゃなかったのに・・・
ランドールさんは、
「行くんですね・・・私は島野さんの帰りを待っていますよ・・・」
珍しく少々涙ぐんでいた。
俺は嬉しく感じていた。
ありがとうランドールさん。
エロ神モードは程々にね。
オズとガードナーは、
「島野さん!うっ・・・うっ・・・」
「そうですか・・・ううっ・・」
涙を流していた。
否、号泣していた。
こつらはほんとに・・・手の掛かる奴らだ。
今生の別れにはしないからな。
またお前らのラーメンを食いにくるからな!
ゴンガスの親父さんは、
「という事は、赤レンガ工房は儂が貰っていいという事かの?」
無遠慮に宣っていた。
あんたはいい加減遠慮を学べ。
また締めるぞ!おっさん!
カインさんは、
「島野君が帰ってくる頃には新たなカレーの味を提供する事を約束するよ!」
要らない約束をしてくれた。
あんたはダンジョンの神の名を返上してくれ。
あんたはもうカレーの神だ。
そろそろ改名しろ!
マリアさんは、
「ムフ!」
最大限のムフを頂いた。
結局ムフって何?
俺には分からないのだが・・・
オリビアさんは、
「否だ!行かないで!」
無茶苦茶ごねられた。
・・・ごめんなさい。これ以外に言えることはない・・・
いろんな意味で・・・
オリビアファンクラブを解散して下さい。
ファメラは、
「そうなの、頑張ってね!」
余り関心は無いみたいだ。
ファメラは安定しているな。
子供食堂頑張れよ!
ダイコクさんは、
「ほんまかいな?何でやねん?」
関西弁全開だった。
でんがなまんがな。
ポタリーさんは、
「旦那の事だから問題ないだろうさ」
信頼をよせてくれていた。
ありがとうございます。
エスメスは、
「僕らの場所で待ってるよ」
自然な笑顔で送り出してくれていた。
川岸のサウナで再開しよう、エルメス。
我が親友よ。
エリスは、
「守さん!坊やとエアーズロックで待ってるよ!」
ギルはエリスに道連れにされそうだ。
ギルはそれでいいのだろうか?
まあいいか。
ゼノンは、
「そうか、待っておるぞ」
余裕の表情を浮かべていた。
お前はそうだろうな。
そしてアンジェリっちは、
「守っち・・・時間を貰える?」
どうやら何か話があるみたいだった。
少し意外な申し入れだった。
でも俺も彼女と二人で過ごしたかった。
実際これまでに二人で過ごしたことは一度も無い。
やっとという気持ちもある。
少々浮足立っている俺もいる。
嬉しい申し入れだった。
上級神一同は放置しておいた。
特に言わなくでもいいと思ったからだ。
旧メンバーは案の定の反応だった。
ランドは、
「そうですか・・・」
なんとも言えない歯痒い表情を浮かべていた。
マークを支えてくれよな、頼むぞ。
メルルは、
「ホノカと待ってますね」
勘違いを受けそうな発言をしていた。
ジョシュア・・・ごめんよ・・・俺は赤子たらしだからな。
ロンメルは、
「旦那・・・寂しいじゃねえかよ・・・」
柄にも無くシュンとしていた。
どうした情報屋、お前は飄々と送り出してくれると思っていたのだがな。
でもありがとうな、ムードメーカー。
メタンは、
「・・・」
無言で号泣しながら神気を濛々と発していた。
神気減少問題はお前がいれば解決出来そうだよ。
あ!もう解決してたか。
プルゴブと仲良くやってくれい!
そしてマークは、
「サウナ島は俺が守ります!心置きなく修業に励んで下さい!」
心強く送り出してくれた。
マークは頼もしくなったな『サウナ島』はお前に任せる。
どうやらマークは一皮むけたみたいである。
その隣でエリカは黙って話を聞いていた。
このサウナ島はお前達に任せた!
島野一家の反応も様々であった。
アイリスさんは、
「サウナ島の畑は任せて下さいね」
かなり前から既にお任せしていますよ。
畑の拡張は程々にして下さいね。
エアーズロックは、
「北半球の転移扉はお任せあれ!」
本当に好青年だな。
助かるよ。
クモマルは、
「我が主、邪魔せぬよう遠くから見守らせて頂きます」
どうやら俺を遠くから見守るつもりの様だ。
任せるよ、クモマル。
エクスは、
「マスター帰ってきてくれるんだよな?そうだよな?」
不安そうにしていた。
このビビり野郎が、でもお前も成長したな。
レケは、
「ボス・・・」
言葉になっていなかった。
いい加減飲み過ぎるなよ。
エルは、
「お帰りを待っていますの!」
歯茎全開で笑っていた。
変な子モードになるかと思った・・・
ゴンは、
「主・・・」
涙を必死に堪えていた。
ルイ君と幸せにな・・・これで合ってるのか?
ギルは、
「・・・パパ、待ってる・・・」
寂しそうな顔をしていた。
エリスと青春を謳歌するんだぞ。
着いてくると言い出すかと、ちょっと冷や冷やしていたが、ギルはそれを察してか、飲み込んだみたいだ。
そしてノンは、
「いいよー、僕は着いてくからねー」
勝手に着いてくると宣言していた。
そうだろうなとは思っていた。
ノンは絶対に俺に着いてくると言うと。
こいつはどこまでも俺に着いてくると分かっている。
例えそれが地獄だとしても。
マイペースに飄々と着いてくよと言うだろうなと。
流石は俺の相棒だ。
着いておいで、ノン。
一緒に行こうか!
最後の旅に!
俺はアンジェリっちの為に時間を作った。
否、俺の為でもあるのかもしれない。
場所はサウナ島にあるアンジェリっちの部屋である。
女性の部屋に入ることに少々抵抗はあったが、そんな事はいいからと誘われてしまっては断れなかった。
やっと二人の時間を過ごせるみたいだ。
少し嬉しい俺がいる。
アンジェリっちは徐に、
「ワインでいいかな?」
問いかけてきた。
「ああ、任せるよ」
俺は自然に頷いていた。
ワイングラスを重ねて、俺達は乾杯をした。
軽快なグラスの音が部屋に響き渡る。
特に何を話すことなく過ごしていた。
適当にワインを飲み、ツマミにチーズを食べていた。
俺には無言であることが全く苦にならなかった。
これが普通の出来事に感じていたからだ。
この自然体の感覚は何なのだろうと思っていた。
とても心地よく感じる。
何となくだが、夫婦とはこんなものなのかもしれないと思っていた。
すると何か決心したかの如くアンジェリっちが話し出した。
「守っち、行くんだね・・・」
彼女は視線を落としていた。
「ああ」
「長くなりそうなの?」
探る様に訪ねてきた。
「どうかな・・・」
俺にも分からないな。
「・・・ねえ?」
「なに?」
「オリビアの事はどうするつもりなの?」
真っすぐにこちらを見据えていた。
「どうするとは?」
俺は普通に問い返していた。
「分かってるんでしょ?」
「まあね・・・」
「で、どうするの?」
「どうにもしないよ・・・俺にはその気はないからさ・・・分かってるんだろ?」
「だと思った・・・」
ここでやっと視線が外れる。
「やっぱり?・・・」
「そりゃあ・・・分かるわよ・・・」
歯痒い時間を過ごしている。
でも嫌いじゃないな、こんな時間も。
「で、何か話でも?」
敢えて振ってみた。
答えは分かっている。
「まあね・・・」
「それで?・・・」
アンジェリっちが少し照れている様に、俺には見えた。
「もう少し飲もうか?」
「ああ・・・」
何とも言えない時間を過ごしていた。
でも居心地はよかった。
多分彼女もそう感じているのだろう。
時折交わす視線に微笑が含まれていた。
リラックスした時間を過ごしている。
ワインを取りがてら俺の隣に座った彼女が、不意に俺の手に彼女の手を重ねた。
とても暖かな手だった。
愛くるしい手だった。
いつまでも握っていられる、そんな気分だった。
「どうした?」
「いいから・・・」
アンジェリっちは肩を寄せてきた。
俺にしては珍しく、恥ずかしげも無く受け入れていた。
それが当たり前の様に。
そして俺はその手を握り返していた。
お互いの手がしっかりと握りしめられていた。
「・・・」
アンジェリっちが俺を見つめた。
自然に身体が動いていた。
それが当然であるかの如く。
俺達は唇を重ねていた。
まるで挨拶を交わすかの様に。
とても自然な行為だった。
これまでなんでこうして来なかったのかと思える程だった。
理由は要らない。
そして俺達は愛情に満ちた一夜を共にしたのだった。
ここに一つの愛が成就したのである。
これまでこうならなかったのが不思議な出来事であった。
余りに自然な行為であった。
俺は心の底でこう想っていた。
やっとかと・・・
最高の夜を過ごしていた。
それはとても愛情に満ちた時間だった。
俺はノンと共に旅立つ事にした、それも目立たずに。
見送られるのもどうかと想い、人知れず旅立つ事にしたのだ。
それを察してか、島野一家が俺の家のロビーに勢揃いしていた。
「主、いってらっしゃいませ!」
「お待ちしておりますわ!」
「待ってますよ!」
「パパ!絶対帰ってきてよ!ノン兄!パパを頼むよ!」
「我が主、警護はお任せください」
「ご主人様お待ちしてますの!」
「マスター、早く帰ってきてくれよ!」
「ボス!俺は寂しいよ!」
全員が送り出してくれるみたいだ。
俺は宣言した。
「お前達!俺は必ず帰ってくる!またな!」
俺は転移することにした。
一抹の寂しさを残して。
ヒュン!
俺はノンと転移した。
俺とノンはあのラファエルが埋葬されている森に転移した。
最後の修業にはここしかないと俺は想っていたからだった。
特に意味はない。
何となくここが良いと思ったのだ。
静かな森が俺達を迎え入れていた。
僅かな微風すらも吹いてはいなかった。
ノンは早速匂いを嗅いで、この地が安全であるかを確かめていた。
その尻尾が優雅に振れていた。
安全と言う事だろう。
俺は『探索』は行わなかった。
ノンに絶大な信頼をおいているからだ。
「ノン、お前はどうするつもりなんだ?」
「ん?ここで主と一緒にいるよ」
「そうか、好きにすればいいさ。どれぐらい時間が掛かるか分からないから適当に過ごしてくれよ」
「分かった」
ノンは俺の隣に控えていた。
俺の側から離れる気は無いらしい。
好きにしてくれればいい。
ノンには俺は全幅の信頼を置いている。
ノンは絶対に俺に尽くしてくれるのだと。
俺の最高の相棒だからな。
俺は適当に寛げる場所を探した。
近くに寛げそうな樹を見つけた。
樹の根元に腰かけ、足を投げ出して俺は寛いだ。
ノンも俺の脇で獣スタイルで寛いでいる。
さて、始めようか。
俺は呼吸に意識を向ける。
複式呼吸である。
鼻から息を吸い込んで、口から細く長く息を吐き出す。
慣れ親しんだ手慣れた呼吸法だ。
この呼吸法を始めるだけで俺は深い自己催眠状態へと移行する。
そしてイメージを重ねていく。
そのイメージは大地に向けられていた。
俺はこの惑星と同調を始めた。
自分の意識が深く、惑星の中心へと向かっていく。
大地の土を感じ、石を感じ、鉱石を感じ、生物を感じる。
更に無機質な物質、水分、自然その物を感じていく。
そしてラファエルの遺骨も・・・
同調を深めていくと、遂に大地の下に眠るマグマに辿り着く。
俺は意識であるから焼かれることは無い。
でも不思議なもので熱を感じる気がした。
そこから今度は全方位に向けて意識を拡げていく。
するとこれまでの同調で得られた感覚以上に、惑星との繋がりを感じた。
絶大な存在が俺を包み込んでくる。
意識はじわじわと拡がり、惑星とより繋がっていく。
ゆっくりとだが確実に、意識が惑星と同調を始めた。
自分が世界と解け合わさっていくのを感じる。
それはとても心地の良い感覚だった。
自分が自然の一部になっていく。
雄大な温かみを感じる。
絶大な信頼感すらも。
これまでも何度か大地と同調をした事はあったが、これまでには感じられなかった意識の拡がりを感じる。
惑星の壮大感に触れる様な、そんな感覚だった。
『演算』と『最適化』の能力は使わなかった。
特に急ぐ必要がなかったし、なにより自然体でいたかったからだ。
極力能力を使わずに、ただの俺としてこの惑星と向き合いたかったのだ。
自己催眠の極みを知りたかったというのもあった。
その為、今の同調の状態も能力で得た物では無く、自己催眠で得ている同調である。
そしてその同調は、同調を超えて俺は惑星と同化を始めた。
五感を超えて魂で惑星を感じ始めた。
惑星を魂で感じる。
惑星とはこんなにも優しかったのか。
惑星とはこんなにも優雅だったのか。
惑星とはこんなにも力強かったのか。
惑星とはこんなにも深かったのか。
惑星とはこんなにも拡かったのか。
惑星とはこんなにも愛情深かったのか。
惑星とはこんなにも慈悲深かったのかと。
惑星を俺は魂の中心で感じていた。
あまりに大きな存在だった。
そんな存在に抱かれている様な感覚だった。
そして俺の意識はゆっくりとだが、確実に惑星を覆いだしていた。
どれぐらいの時間が経っているかは既に見失っている。
『演算』と『最適化』の能力を使用していたらこうはならなかっただろうが、気にもならなかった。
時間は気にしない。
気にしなくていい。
否、したくも無い。
もう食べずとも、寝なくとも生きていける状態にあるのだから。
身体はもうほとんど神に成っているのだ。
まだ数分しか経っていないかもしれない。
もう一年以上が経過しているのかもしれない。
時間の喪失が起こっていた。
ここまでの時間の喪失は始めてだった。
完全に時間を見失っていた。
でもそんなことはどうだっていいことだ。
俺は更に惑星全体に意識を拡げる。
同化はより深く、より拡がりをみせていた。
そして俺は感じ出していた。
そう、この惑星の意識を。
有ることは分かっていた。
この惑星そのものに意識があるのだと。
惑星は一つの人格を持っているのだと。
アイリスさんやエアーズロックがそうであった様に、自然には意識が宿っている。
そしてそれは一つの人格であると俺は捉えていた。
実際にアイリスさんやエアーズロックは個性を持っている。
であるならば、それは人格以外の何者でもない。
そして俺はこの惑星の意識に辿り着いた。
これを俺は漫然と受け止めていた。
それがまるで当たり前の様に。
こうして惑星との対話が遂に始まろうとしていた。
不意に声が掛けられる。
「守よ・・・この時を待っておったぞ・・・」
穏やかな慈愛に満ちた声だった。
それでいて威厳を感じる。
俺は嬉しくなっていた。
きっと顔は笑顔になっているのだろう。
今は意識として存在しているので自分の肉体を感じない。
「待たせたみたいだな・・・」
「ああ・・・待っておったぞ・・・」
「何と呼べばいい?」
「・・・我に・・・名は無い・・・」
「そうか・・・」
「ここは・・・世界とでも呼んでくれ・・・」
「分かった」
「して・・・守よ・・・お主は創造神になるのか?・・・」
「ああ・・・その為に此処にやってきた」
「そうであるか・・・守よ・・・この世界が出来てから・・・幾万年か分からぬが・・・遂に真の平和が訪れたようだ・・・この世は神気と幸せの気に満ちている。これまでに歴史を辿ってもこんな時代は一度も無かった・・・」
「そうか・・・」
「これまでこの世は・・・常にどこかに争いがあった・・・始めはそうでは無かった・・・自然が出来上がり・・・そして生物が生れ・・・やがて人類が誕生し・・・文明が出来上がった・・・」
「深い歴史があるんだな」
「そうだ・・・創造神様の意思に従い・・・我はその成長を促してきた・・・」
「・・・」
「そして人類が誕生してからは・・・争いが後を絶えなかった・・・」
「そうか・・・儚いな・・・」
「人々はどうしてこうも争うのか・・・創造神様の意思を我は何度も疑った・・・どうして人類などお造りになられたのかと・・・」
「創造神様の意思とは?」
「創造神様の意思は人類を誕生させる事・・・そしてその人類を見守る事・・・我にはそれ以上は慮ることは出来ぬ・・・」
「そうなのか・・・」
「創造神様の意思はもうよいのだ・・・今では何となく分かる気がする・・・」
「そうなのか?」
「ああ・・・お主がおるからな・・・」
「?・・・」
俺は世界との会話を楽しんでいた。
世界はとつとつと話し出した。
「まあよい・・・してお主はこの世をどうするつもりなのだ?・・・」
「どうするも何も・・・俺はもう見守る事しか出来ないと思うのだか?・・・違うか?」
「そうか・・・それならば良い・・・」
「もう充分に俺は与えるだけの物は与えてきたと感じている・・・その背中は見せてきたと・・・アドバイスは与えたと・・・」
「であろうな・・・実際・・・これまでよくぞ創造神様が口を挟まなかったのかと疑う程であったからな・・・」
「そうなのか?・・・」
「守よ・・・気づいておらなんだか・・・」
「何をだ?」
「お主は例外中の例外だったのだぞ・・・」
「それは分かっている・・・」
「ならば良い・・・」
「俺はこの世の神のルールに縛られない唯一の存在だったっていうんだろ?」
「そうだ・・・でもそれだけでは無いぞ・・・」
「それは?・・・」
「お主は人の身でありながら神の能力を使えたな・・・」
「ああ・・・そうだ・・・」
「それが何を意味するのか・・・分かるか・・・・」
「・・・まさか・・・俺はこの世に来た時には既に神であったということなのか?」
「ほう・・・察しがいいようだ・・・正確には少々違う・・・」
「どう違うと?」
「それは・・・次期創造神候補であるということだ・・・厳密には神であって・・・神ではない存在・・・お主の世界の言葉で近いのは・・・そうだな・・・強いて言うならば聖霊だ・・・人類に神意の啓示を行い・・・精神活動を起こさせる存在だ・・・」
「聖霊か・・・」
「謂わば神の意志の統一を示し、許しと希望を与える者である・・・言い換えるならば、人類と神の指導者、この世の導き手ということか・・・」
「そうだったのか・・・何となくは分かっていたよ・・・」
「であったか・・・」
「ステータスは一つの指標であって、全てではないし、本当にそうだとは限らないということだな・・・」
「そこまでとは我には言えんが・・・実際そうなんだろう・・・我に創造神様の意図を理解することなど不可能だ・・・」
「でも納得がいったよ・・・」
「そうか・・・」
「詰まる所、俺は例外だということだな・・・」
「そうだ・・・」
「なあ・・・世界・・・俺は知りたい事がある・・・」
「ほう・・・何をだ?」
「この世の最終地点は何処になるんだ?」
「それは・・・我にも分からぬ・・・でもそれは・・・創造者にも無いのではなかろうか?・・・我にはそう想うのだが・・・」
「だろうな・・・これは究極の質問だからな・・・この世の完結は何処になるのか・・・恐らく無いんだろうな・・・否・・・無くていいよ・・・無い方が良い・・・俺はそう感じている」
「であるか・・・分からなくもない・・・」
「だってそうだろう・・・この世には陽があって陰がある。必ず相反する物が存在するからな。それは分かり易く言えば、善と悪だ」
「そうだな・・・」
「要はこのバランスをどうしていくのかという事が最大のミッションなんだろ?」
「であろうか・・・」
「違うか?」
「我には分からぬ・・・」
「そして今のこの世だが、完全にバランスは善に満ちている・・・ここは否定出来ない・・・多少の悪は残っているが、それはどうでもいいことだ・・・その為の精神活動を俺は行ってきた・・・その自負もある!それに人類は神に成ることに挑み始めた」
「それは分かっている・・・」
「これはこの世が、この先を見透せる段階に入っているのではと俺は考えている・・・」
「それは・・・」
「創造神の爺さんの意図は俺にも分かってはいない・・・でも感じるんだ・・・俺には・・・人類は次のステージに向かおうとしているのだと・・・欲や業に塗れた世を超えた世を、新たに造り出す段階に進みだそうとしているのではないかと・・・新たな世を造り出そうとしているのだと・・・どう思う?世界」
「であろうか・・・」
「今では人々は神に成ろうと努力を始め出した・・・そしてその洗堀者や導き手もいる・・・もし人類の全てが神に至ったら・・・どうなると思う?」
「果たしてそうなるのであろうか?・・・」
「その楔は打てていると俺は感じている・・・違うか?」
「お主の言う通りやもしれぬな・・・その先の未来は何になるのだろうか?・・・」
「それは・・・俺にも分からないな・・・俺はお前の言う通り導き手であり、指導者でしかないのだから・・」
「やもしれぬな・・・」
「さて・・・世界との会話は楽しかったよ・・・でもそろそろ結論を出そうか・・・」
「ほう・・・よいのか?」
「ああ・・・俺の心は決まっている・・・」
「そうか・・・では任せる・・・我が主よ・・・」
俺は世界に加護を与えた。
「お前の名は・・・」
ここで俺の意識は一瞬ブラックアウトした。
意識が戻ると凄まじい程の脱力感に俺は押しつぶされそうになっていた。
これまでに溜めに溜め捲った神力をごっそりと奪われていたのだった。
既に半分以上の神力が奪われているのを感じている。
不味い!
神力計測不能の俺だが、直感的に感じていた。
このペースでは俺は枯渇してしまう。
ここで其れはあり得ない。
なんとしても堪えなければ!
抗わなければ!
俺は意識を身体に戻し『収納』からラファエルの神石を大量に取り出した。
次々に神力を吸収する。
取り込んでは吸い出されている。
今も神石から神力を取り込んでは吸われている。
どこまでこれがもつのだろうか。
これを気が遠くなる程のラリーが続いた。
いったいどれだけの神石を取り出しているのだろうか。
数なんて数えていられない。
もうどれだけこのラリーが続いているのか分からなくなっていた。
もしかしたら数時間であるのかもしれない。
でも本当は数ヶ月かもしれない。
こうなってくると精神力を試されている気分になる。
まるでサウナに一時間以上入っている様な忍耐力と、立ち上がれなくなる程の徒労感を感じる。
でもここは堪え切らなくてはならない。
先は全く見えない。
その事に恐怖心も感じていた。
終わりの無いラリーに心が折れそうになる。
いつまでこれが続くのか・・・
ここまで追い込まれるとは・・・
少々舐めていたのかもしれない・・・
アイルさんの修業が陳腐に感じてしまう。
他に何が出来る?
そうだ!
俺は『黄金の整い』を始めた。
これしかない!
再度俺は自己催眠状態に入り、複式呼吸を始めた。
それと同時にラファエルの神石からの神力の補給も行う。
よし!いいぞ!
少し余裕が生まれてきた。
これなら行けるか?
甘かったみたいだ・・・
最初は此方のペースになったと感じたが、それは徐々に覆されていた。
本当はステータスを見て、数値を見て状況を知りたかった。
でもそんな余裕はない。
未だに終わりが見えない。
畜生!ここで終われる訳が無い!
こんな中途半端なんて許されない!
なんとしてもここは・・・
何度も意識が飛びそうになった。
それを気合で封じ込める。
時折後ろから頭を殴られる様な急激な神力の吸収を感じた。
完全に振り回されている。
でもコントロールなんて出来る筈が無い。
差し出せる物、全てを差し出している気分だった。
それは神力だけではない。
身体の中に眠る細胞の中にある力、爪の先まで差し出している様な、そんな感覚だった。
有りとあらゆる力を俺は差し出している。
生命力その物を奪われている。
そんな感覚だった。
でもそこまでしても堪えれそうにない。
余りに膨大な力に屈しそうになる。
でも俺は退けない。
なんとしてもここで打ち勝たなければならない。
俺は必ず創造神になると決めたのだから。
それに待っている家族や仲間達がいる。
愛しいアンジェリ。
彼女に会いたい。
そう想ってしまった。
そんな余裕は無いのに。
この想いだけが俺を支えていた。
必ず会いに行くと、やっと結ばれたのだから。
ここで屈する訳にはいかないんだと。
いつの間にか俺は走馬灯を見ていた。
生れてから今日に至るまで、ゆっくりとその行いや、その時感じた想いを回顧していた。
そうすると不思議と力が沸いて来ていた。
これまで接してきた者達の想いが神力になっていた。
幾千、幾万の者達の想いが俺を突き動かしていた。
不思議な出来事だった。
俺の身体を通じて皆の想いが、そして愛情が神力になっていた。
その神力が俺を突き動かす。
俺は感じていた。
俺は一人ではない・・・
多くの者達が俺を支えているのだと・・・
ありがとう・・・
俺はこんなにも愛されているのだと。
こんなにも幸せなんだと。
一気に背中を押されていた。
俺は反撃を開始した。
皆の想いが神力に変わり、俺を支えていた。
俺は無敵感を感じていた。
こんなに心強いのか・・・
これで負けるなんてあり得ない。
そう感じていた。
必ず勝てると・・・
その想いは余りにも無慈悲に踏みにじられていた。
だから何だと言わんかの如く、俺の身体からは神力が奪われていた。
もっと寄越せと猛烈に神力を吸われていた。
反撃をしたつもりが、真逆にこちらが追い込まれていた。
あり得ない・・・
もっと寄越せと言うのか・・・
いったいどこまで・・・
もう差し出せる物は・・・
ウオオオオオオオ!!!!
俺の中の何かが弾ける様な音がした気がした。
本当の所は分からない。
でも俺の中の何かが弾けた。
全てを剥き出しにしていた。
これ以上はもう何もないと。
俺の生命力、俺の魂すらも削る程の爆発であった。
全身全霊以上の全てを曝け出していた。
ここで俺は最後の賭けに出たのだ。
もうこれ以上は俺にはなにも無い。
儘よ!
世界よ、これが俺の全てだ!!!
結果は散々だった。
俺の全てだけではない。
俺の仲間や全ての者達の想いや愛情すらも全て吐き出したのに届かなかった。
・・・
もう何も考えられなかった。
もう何も感じられなかった。
もう意識も薄れ出していた。
既に神力はとうに尽き、全てを吐き出して、人族としても形を亡くしそうに俺はなっていた。
今は只の意識でしかない。
フワフワと空気中に浮かぶ思念でしかなかった。
俺は終わってしまったのか・・・
世界に名を授けるなど・・・
無謀な挑戦をしてしまったのだろうか・・・
そうとは思えない・・・
だが現実はどうだ・・・
こうして俺は思念でしかなくなってしまった・・・
あと少しだという気がする・・・
でももう・・・差し出せる物は・・・なにもない・・・
思念まで差し出してしまっては・・・
もう俺は俺ではなくなってしまう・・・
消えてしまうだろう・・・
ここであり得ない現象が起こっていた。
地面が突如光り出し、守を包みだしたのだった。
神力を失い、身体も全て差し出した守は思念体であったのが、肉体を得てこれまでの守に急速に戻っていたのだ。
此処に奇跡が起こっていた。
身体を取り戻した守は急激に復活した。
「ウオオオオオ!!!!」
叫んだ守は最後の反撃の狼煙を挙げた。
一気に複式呼吸を始めた守は一気に神気を吸い込み、世界に神力を吸われていた。
そして遂に世界は守から膨大な神力を吸収し終えたのだった。
ピンピロリーン!
「熟練度が一定に達しました、ステータスをご確認下さい」
世界の声が響き渡っていた。
奇跡の正体はラファエルの遺骨だった。
地中に埋まっているラファエルの遺骨から突然俺の思念に神力が移ってきたのだ。
正に奇跡の出来事だった。
思念の状態であったからそれを俺は感じ取れたのかもしれない。
それを俺は手に取る様に理解出来た。
あの野郎・・・
恩返しってか?
良いとこ持ってくんじゃねえよと、口にしたいぐらいだった。
まあいいさ・・・ありがとうな・・・ラファエル・・・我が友よ・・・
そして俺の意識は次の段階に移っていた。
これで終わらせてはくれない様だ。
もう精魂尽き掛けているのに・・・
まだ続きがあるみたいだ。
せめて一息つきたい処である。
そんな俺の気持ちは無視されていた。
俺の前にある存在が鎮座していた。
『アカシックレコード』
惑星の全てを知る存在。
この存在を俺は知っていた。
かつてヒプノセラピーを学んだ時にこの存在を、M氏から教えられていたからだ。
世界の全てを記憶する存在であると、それは惑星の歴史だけに留まらず、人類の一人一人全ての歴史や辿ってきた軌跡、そしてその想いに至るまで。
全ての世界の事象や現象の全てが詰まっている存在であると。
それは未来の出来事に至るまでもだ。
インドのある高僧はこれを一つの大樹に表現した。
幹は惑星その物であり、枝がその惑星の歴史であると。
そして葉の一枚一枚が人の歴史であり、その葉を観ればその人の歴史と未来があからさまに観えるのだと。
実に多くの高次なる次元と繋がる事が出来た者達が、アカシックレコードに関する多くの表現を残していた。
そのアカシックレコードが俺の前に存在していた。
俺にはそれは大きな光り輝く球体に見えていた。
とても大きな存在だった。
否、ここは大きさで表現することなんて間違っている様に感じる。
サイズではないのだ。
永遠と続き、そして深淵となる存在。
それは時空など超越した存在であった。
圧倒的な存在感。
これは何の為に存在し、何の為に在るのか。
おそらく創造神の爺さんが何かしらの意図でこれを創造したのだろう。
今の俺にはまだその意味を感じ取れなった。
その意味を俺は知らなければならない。
創造神に成る為の最後の壁。
圧倒的な存在感だった。
気を抜くと飲み込まれてしまう様な感覚があった。
決して気は抜けない。
俺はその球体に触れてみた。
そうすべきだと想ったからだ。
するとこの惑星の記憶が一気に俺に流れ込んできた。
俺は瞬時に『演算』と『最適化』の能力を発動した。
ここは自然体とはいかない。
能力をフル活用するしかない。
情報の波と戦わなければならない。
もう援軍は存在しないのだから。
ラファエルが起こした奇跡の様な現象はあり得ないのだ。
孤軍奮闘するしかない。
ここはアカシックレコードと俺とのタイマン勝負である。
さて、最後の勝負をしようじゃないか!
俺は不敵な笑顔を浮かべていた。
やってやろうじゃないか!
絶対に勝ってやる!
俺には情報戦の経験がある。
時間との戦いを経験しているのだ。
でも楽な戦いになるとは考えられなかった。
連戦に告ぐ連戦。
精神力を試されている。
本音を言えば精魂尽きそうであった。
でもそうはいかない。
本当の意味でこれが最後の戦いになるだろう。
俺は更に気合を入れた。
ここはなにを持ってしても勝たなければならない。
絶対に家族とアンジェリの元に帰るんだ!
アカシックレコードから惑星の歴史が俺に流れ込んできた。
俺はこの歴史を知る必要がある。
その理由は明らかだ。
俺は創造神になるのだから。
創造神とは言っても、俺は一から世界を造る訳ではない。
俺は後継者なのだ。
要は引継ぎが必要なのだ。
俺はこの惑星に起きた歴史を知る必要がある。
創造神の爺さんが造ったこの惑星を、俺は理解しなければならない。
正直言ってしまえば、一から造った方が簡単である。
引き継ぐ、受け継ぐといったことの方が大変である。
だってそうだろう。
一から造るとなればその工程や経緯を分かっている。
でも受け継ぐとなると、その意図や想いから知らなければならない。
それも他者の物である。
こちらの方が難しいのだ。
そして俺は本能的に感じていた。
アカシックレコードには意識はないと。
あって欲しかったのが本音だった。
だって意識があったのならば教えて貰えるからだ。
でもそれは出来ない。
自ら学ぶしかないからだ。
アカシックレコードはあくまで記憶媒体でしかない。
もっというならば、そこに未来を見透す機能が付いている触媒でしかないのだから。
情報戦は此方が優位だった。
それはその筈である。
先ほどのレベルアップで俺はある能力を獲得していたからだ。
『同化』である。
『同調』上位能力である。
それにこのアカシックレコードの存在を俺が知っていた事が優位に働いていたのだろう。
要は心構えが出来ていたということだ。
ある程度の予測が出来ていたのだ。
それに先程の戦いで俺は戦いの本質を見抜いていた。
戦いの本質とは相手に勝つ事ではないということだ。
事は自らの限界に挑むことなのだと。
決して自分と戦う事ではない。
ここは間違っては欲しくない。
あくまで自らの限界に挑むことであるのだ。
俺は『同化』の能力を発動させた。
俺はアカシックレコードと同化していく。
それは例えるならば、風に乗って運ばれた若葉が海に辿り着き、海面に波紋を発生させる。
その波紋が収まることなく拡大していき、それはやがて波となる。
その波が海全体に行き渡っていき、津波となっていく。
そんな感覚だった。
全体を覆い尽くしていく。
ここに同化の本質が現れていた。
情報を包み込んでいったのである。
アカシックレコードの情報量は途轍もなく多い。
時間の把握の時に感じた情報量よりも圧倒的に。
しかし、時間の時に感じた様な切迫感はなかった。
始めは膨大な情報が押し寄せてくる感覚だった。
だが『同化』の能力を発動してからは大きく変わっていた。
いうならば、始めは向うから迫って来る感覚であったが、『同化』を始めてからは此方から情報を取りに行く感覚に変わっていたのだ。
この差はあまりに大きい。
攻めるられるのではなく、攻めているのだから。
余りに大きな違いだった。
そして俺はこの惑星の歴史を知った。
この地に生を成した数多くの者達の歴史や経緯、そして想い、その行いを知ったのだ。
更に今生きている者達の歴史も。
未来に関しては敢えて情報を集めなかった。
未来を知りたくは無かったからだ。
未来は切り開く物であるし、結果の分かっている人生なんて歩みたくはない。
それに本当は知りたければいくらでも知ることが出来る。
今はこれが必要とは思えなかったからだ。
そして俺は遂にアカシックレコードと完全に同化した。
アカシックレコードを完全に読み解いたのだ。
ピンピロリーン!
「熟練度が一定に達しました、ステータスをご確認下さい」
世界の声が響き渡っていた。
最後の戦いを終え、アカシックレコードに同化した俺は、やっと普段の自分に戻っていた。
遂に肩の力が抜けるみたいだ。
一気に疲労感が押し寄せてきた。
ああ・・・風呂に入りたい。
徒労感が半端ない。
俺は眼を開けた。
其処には心配そうに顔をくしゃくしゃにしたノンが俺を見下げていた。
「ウェーン!、主ー!怖かったよーー!、グスン・・・グスン・・・」
ノンが大泣きすると共に俺の身体にもたれ掛かってきた。
「怖かったよーー!、主が死んじゃうかと思ったよーーー!!、やだよーーー!グスン・・・グスン・・・」
俺はノンの頭を撫でた。
「ノン・・・心配かけたみたいだな・・・悪かったな・・・」
「ウェーーーン!、ウッ、ウッ・・・」
「ノン・・・俺がお前をおいて死ぬ訳がないだろ?」
「うん!・・・うん!・・・」
「俺達が離れるなんてあり得ないんだからさ・・・地獄にだって一緒に行くんだろ?」
「そうだよ!そうだよ!主と僕はずっと一緒なんだよ!・・・僕は主にずっと着いて行くんだからね!」
「ああ・・・分かってるよ」
俺は想わず空を眺めていた。
どうやら俺は本当に創造神になったみたいだ。
今は何も考えたくはなかった。
ただただぼんやりと空を眺めていたかった。
とても綺麗な澄んだ空だった。
世界は俺に跪いた。
(我が主・・・)
これは俺の意識の中である。
それは『念話』に近い。
声だけでは無く、その情景が浮かんでいるのである。
世界が俺に頭を垂れていた。
(よお・・・たくさん持っていってくれたな)
(はい・・・申し訳ありません・・・)
ほんとやってくれたよ、ラファエルのあれがなかったら・・・俺はここにはいなかったのかもしれないな。
(まあいいさ、それに跪かなくていい)
(何故?)
(俺はお前に加護を与えたが、それは創造神に成る為に必要な事だったからだ。それにお前はそもそも創造神の爺さんの眷属みたいなもんなんだろ?)
(否・・・それは・・・)
答えていいのか逡巡が伺える。
(いいさ、分かっている)
(そうですか・・・)
(ということだ・・・カノン)
俺は世界に『カノン』の名を授けた。
惑星『カノン』
その意味は永遠に続くという言葉の意味と、ギリシャ語で物差しの意味を持つ言葉であるのだが、それが転じて信仰の中心となる教えという意味があり、更には地球の有名楽曲のパッヘルベルのカノンは基本コードと呼ばれており、この世界には打って付けの名だと想ったからだ。
それに女性的な響きであることもいいと思えた。
母なる大地といった処だ。
いい名づけが出来たと想う。
(このカノンという名・・・気に入っております)
(そうか、まぁよろしく頼むよ)
(はい、数ヶ月後には分身体として参上致します)
(分かった、待っているぞ)
未だ俺から離れようとしないノンの頭を撫でた。
「ノン、この惑星の名前が決まったぞ」
「ん?そうなの?」
ノンは頭を挙げた。
「ああ、聞いて驚くなよ」
「なに?なに?」
「この星はな・・・この惑星の名前はな・・・『カノン』だ」
ノンが俺から飛び跳ねる様に離れた。
「嘘っそー!凄い!凄い!僕の名前とそっくりだ!」
「ハハハ!よかったな」
「うん!やったー!嬉しいなー!」
ノンはやっといつものノンに戻ったみたいだ。
調子に乗って変てこダンスを始めた。
俺は想わず笑ってしまった。
「ハハハ!良いぞノン!その調子だ!」
「イエーイ!」
ノンは絶好調だ。
俺は笑顔でノンを眺めていた。
こいつはこうでなくっちゃな。
心配かけてごめんな。
ノン!ありがとうな!
俺はステータスを見る気にもならなかった。
そんな事をしなくても得た能力は分かっている。
でもせっかくだから見て見ることにした。
其処には新たに『万物想像』の能力が加わっていた。
そして神力はラファエルのお陰で計測不能に戻っている。
俺は手の平を眺めて『万物想像』を発動した。
掌の上には俺がイメーした通り、石が出来上がっていた。
何てこと無いただの石だ。
更に今度は小鳥をイメージしてみた。
掌の上で小鳥が囀っていた。
ピーピーと鳴いている。
俺はノンに小鳥を渡した。
ノンはこの事に驚いていた。
大事そうに小鳥を抱いている。
俺はイメージしただけで何でも生み出せる様になっていた。
それは無機物だけに留まらない、有機物や生物までも。
正に創造神だ。
そしてステータスにははっきりと創造神と明記してあった。
遂に成ってしまった。
特に達成感はない。
成るべくして成ったとしか思えなかった。
そして最大のミッションはここからだった。
神と成ったからにはこれまでの様に例外とはいかない。
神のルールに縛られる可能性が大だからだ。
俺は創造神の爺さんに念話を繋げた。
さて、会話を始めようか。
(もしもし、儂じゃ)
(もしもし守です、創造神様、話があります)
(そうか、お主やってくれたのう・・・まあよい、それよりもサウナ島に直ぐに帰った方がよくないかのう?)
やってくれたとは?
まあいいか。
にしても今直ぐ帰れとは?
(・・・というと?)
(いいから早く『念話』でギルに話し掛けるがよい!)
ん?何かあったのか?
どうなっている?
(分かりました、では!)
俺は忠告に従ってギルに『念話』を繋げた。
(ギル!俺だ!)
安堵の声と共に緊迫した声が返って来る。
(ああ・・・パパ!やっと繋がった!早く帰ってきてよ!)
(何があった!)
(いいから早く!)
ギルらしくもなく切羽詰まっているみたいだ。
(分かった、直ぐに行く)
(早くね!今直ぐだよ!)
俺は『念話』を終えた。
「ノン、サウナ島に帰るぞ!何かあったみたいだ!」
「えっ!そうなの?」
小鳥を大事そうに抱えていたノンは驚いていた。
「行くぞ!」
「うん!」
俺はノンを伴ってサウナ島に転移した。
サウナ島の俺の家の前に転移すると、ギルとゴンが家から飛び出してきた。
どうにも忙しない。
「パパ!早く!」
「主!さあ早く!」
ギルとゴンが血相を変えて俺を家の中に誘導した。
いったいどうしたってんだ?
「ギル!何があったんだ?」
ギルが事も無げに答える。
「パパ!生まれるんだよ!」
「はあ?何が?」
「パパの子供だよ!」
はいー?何ですとー?
俺の子供?
何の事だ?・・・
まさか・・・
思い当たる節はある・・・
でもエルフは妊娠しずらいって言ってなかったか?・・・
そんなことはどうでもいいか・・・
突拍子もない出来事に俺も気が動転しているみたいだ。
どうでもいい事を考えている。
こんなんが創造神でいいのか?
まあいいか。
そんなことよりも。
俺とアンジェリの子供か。
最高じゃないか!
俺の寝室の扉を開けると、アンジェリが今正に出産に入ろうとしていた。
彼女は俺の顔を見るとほっとした表情を浮かべていた。
その表情を見て俺は全てを察した。
苦労を掛けてしまったなと。
申し訳ない・・・
一人で寂しいかっただろうに・・・
ここからはずっと一緒にいような。
俺はいったいどれぐらいの時間、カノンと対話していたのだろうか。
こんな事になっていようとは・・・
俺は『演算』の能力を発動して時間を意識した。
まじか・・・一年って。
余りに長い旅になっていたみたいだった。
時間の喪失は確かに強烈だったからな。
にしても・・・急展開過ぎるだろ!
いい加減にしてくれよ。
どうにも翻弄されるな。
「守よ!良いからこちらに来るのじゃ、アンジェリの手を握ってやらぬか!」
アースラさんに怒られてしまった。
俺はアンジェリの隣に瞬間移動し、彼女の手を握りしめた。
安心したのか彼女の表情は穏やかになった。
心配かけてごめんな。
心細かったよな。
そんな俺の想いを察してか彼女はこう言っていた。
「守・・・間にあってくれてありがとう・・・会いたかった・・・」
「ごめん・・・待たせたみたいだ」
「大丈夫・・・こうして来てくれたから・・・」
「そうか・・・」
俺はアンジェリを抱きしめたい想いだった。
愛しいアンジェリ・・・愛している。
時は遡る。
最後の旅に出た守を見送ったアンジェリはいつもの生活を続けていた。
止めどなく訪れるお客の髪を切り、美容の相談に乗る。
髪を染めて、パーマをかける。
今では弟子も増えて、現場に入ることは減ったが、彼女の忙しさは変わらない。
引っ切り無しに訪れるお客をアンジェリは対応していた。
時にアンジェリは相談を受けることが多い。
それは恋愛や家族の事や、仕事に至るまで。
実に様々な相談が後を絶たなかった。
彼女は優雅に髪を切りながらも、その相談事に真摯に受け答えした。
時に人を紹介したり、何かを斡旋したり、懇切丁寧に対応していた。
彼女の接客は正に神業と称されていた。
全ての接客業の基本となると崇め奉られていた。
でもそれは彼女にとっては当たり前の事に過ぎない。
彼女の慈悲深さは本物である。
実に姉御肌の彼女ではあるのだが、こういった細かい事もそつなくこなす事が出来るのが彼女の強みであった。
それはじんわりと訪れた。
守との逢瀬から実に三ヶ月が経っていた。
体調の変化に違和感を感じつつも、彼女はたまたまの事であると高を括っていたのである。
しかし余りにこれはおかしいと彼女は考えだしていた。
体調の不調を繰り返している現状に、ちゃんと向き合おうと考えたのだ。
それはそうだろう。
彼女は神なのだ、病気なんてあり得ないのだから。
こうなると思い当たる事は一つしかない。
彼女は真っ先にアースラに相談する事にした。
ディープな相談となると彼女以外にはあり得なかった。
彼女はアースラとアイリスに事の顛末を話した。
アースラの診断は明確だった。
「アンジェリや、おめでたじゃよ!」
アンジェリはこの言葉にこれまでにない最高の幸福感を得ていた。
最愛の者の子供を身籠る事が出来たのだ。
嬉しくて涙が止まらなかった。
無上の喜びを噛みしめていた。
天地が引っ繰り返る程の幸福感だった。
早くあの人に会いたいとその想いは募るばかりだった。
でも現実はそうはいかない。
最愛のあの人は今正に最後の旅に出ているのだから。
全身全霊で戦っていたのだから。
それにオリビアの事もある。
どうしようかと不安とプレッシャーに苛まれていた。
それを察したのかアースラからは気遣の一言が掛けられた。
「アンジェリや・・・ここは極秘じゃな?」
「はい・・・そうして下さい。迷惑を掛けます」
「よいのじゃよ・・・それよりも身体を大切にするのやえ」
こう答えるしかなかった。
数日後、
アンジェリは決断した。
こうなってしまったからには正直に話すしかない。
隠し通せるものでは無いからだ。
妹には辛い思いをさせるのかもしれない。
でもそれ以外には考えられなかった。
辛い時間を過ごすのかもしれない。
唇を噛みしめて彼女は腹を決めた。
オリビアに全てを話そうと。
アンジェリはいつもの様に普通にオリビアを呼び出した。
一緒に夕食を食べようと。
そこに違和感は無かった。
アンジェリは実はそれなりに料理が得意である。
彼女の料理はエルフの伝統に則った料理である。
エルフの料理の特徴はその味付けにある。
日本でいう処の生姜を使った物が多いだった。
冷えた身体を温めようと先祖代々受け継いだレシピが多い。
その中でもアンジェリが得意としたのは、大根にジャイアントピッグの肉、そこにゆで卵を加えて煮込んだ料理である。
生姜と共に煮込むことによって味に深みが増し、健康に良いとされていた。
それだけではない。
守を真似てアンジェリはいろいろな料理に手を出していた。
テーブルにはたくさんの料理が並んでいた。
実はそれなりに食べる二人には、食事はいくらあってもいいのだ。
それに今ではなんちゃって冷蔵庫等、保存方法は多岐に渡る。
守が造ったゴムの保存容器も、今では当たり前の様に各家庭で使われていた。
食材が長持ちすると各家庭では重宝されていたのである。
豪華な食事がテーブルを満たしていた。
「お姉ちゃん、今日は力入り過ぎじゃないの?」
「そんなことないじゃんね」
「そう?嬉しからいいけど」
「でしょ?」
オリビアはニコニコしていた。
いつも通りの姉妹の夕食をするつもりであったのだから。
「じゃあ食べようか?」
「だね」
「「いただきます!」」
二人は合唱した。
「ねえ、お姉ちゃん。このいただきますって、守さんが広めたんだよね・・・面白いね。今では皆な言ってるよね?」
「そうね・・・守っちは影響力が凄いじゃんね」
「だよね!流石は守さんね!」
オリビアは嬉しそうにしている。
「ねえ・・・オリビア・・・」
「何?お姉ちゃん」
「あんたは本当に守っちが好きなのね・・・」
「お姉ちゃん、今更何を言ってるの?当たり前でしょ?」
オリビアは平然としている。
不意にアンジェリの表情が曇る。
「・・・オリビア・・・ごめんね・・・」
アンジェリは箸を止めた。
「ん?何?」
何かを感じ取ったのかオリビアの表情は一変した。
「私・・・守っちと・・・結ばれたの・・・」
オリビアの眼が大きく見開かれた。
「それって・・・」
「ごめん・・・オリビアが守っちの事が大好きなのは分かってたの・・・でも私もあの人が大好きなの・・・」
オリビアは言葉を失った。
上を向いて一度肩を落としてから、ため息を付いた。
「そんなこと・・・分かってるわよ・・・」
「分かってたんだ・・・」
アンジェリは真面にオリビアを見ることが出来なかった。
彼女は下を向いている。
「当たり前でしょ?」
「そうか・・・そうね・・・」
「で?・・・」
オリビアの眼は座っていた。
ここでアンジェリはオリビアをしっかりと見据えた。
何かを決心した眼差しであった。
「私は・・・私の中には・・・あの人の・・・」
「まさか・・・」
「身籠ったのよ・・・」
オリビアは天を見上げた。
そして静かに涙を流していた。
それは美しい涙だった。
その涙の意味する処は・・・
「お姉ちゃん・・・おめでとう!」
オリビアは涙を拭う事無くアンジェリを見つめていた。
とても慈悲に満ちた目をしていた。
最大限の賛辞だった。
「・・・オリビア・・・ありがとう・・・ごめんね・・・」
アンジェリはオリビアの手を握りしめた。
申し訳無いと。
「いいのよ・・・」
「・・・」
アンジェリに罪悪感が募る。
「守さんが振り向いてくれない事は分かっていたから・・・それに守さんはお姉ちゃんの事が好きな事もね・・・」
「オリビア・・・」
聡明な妹は全てを察したいのだとアンジェリは気づいた。
「はああ・・・もうやんなっちゃうな・・・まさかこんな振られ方をするとはね・・・どうせ守さんは一夫多妻制なんて認めてくれないだろうから・・・第二夫人なんて認めてくれないだろうし・・・もう言い寄れないわね」
「だろうね・・・あれでいて守っちは案外お堅いじゃんね」
「分かってるよ・・・」
「それで、どっちなの?男の子?女の子?」
「分からないわよ」
「お姉ちゃんの直感はどっちなの?」
「どうだろう?・・・」
「こういう時は大体直感通り当たるらしいよ、そうマリアが言ってたわ」
「マリアが言ってたの?一番当てにならないじゃない!」
「アハハ!そうね!」
「もう!オリビアったら」
一頻笑った後に、急にオリビアが真顔になった。
「お姉ちゃん、守さんと幸せにね」
「オリビア・・・ありがとう・・・」
アンジェリは涙を流していた。
「こうなると・・・私はワインを飲むけどお姉ちゃんはお預けよ」
「だね・・・」
「大丈夫、お姉ちゃんの分も飲んであげるから」
「オリビアったら・・・」
「ねえお姉ちゃん、私は格好いい叔母さんになるわよ!」
「あんたならなれるわよ」
「分かってるわよ!」
二人は幸せな時間を過ごしていた。
俺の手にはアンジェリの手が握られていた。
とても暖かく優しい手だった。
そしてアンジェリは笑顔だった。
俺は彼女の心強さに打ち震えそうになった。
出産を控えたこの状況にあって、何で笑顔でいられるのだろうかと。
俺の存在がここまでの安心感を与えているとは思えなかった。
彼女の何かがそうさせたのだろう。
余りに自然な笑顔だった。
母は強いということなのだろうか?
この笑顔を見て俺は冷静に成ることが出来た。
カノンとの余りに長いラリーを終え、アカシックレコードを読み解き、創造神になったと思いきや、急に我が子の出産である。
怒涛の展開に驚きを隠せなかったのだから。
少し浮足立っていたみたいだ。
俺もまだまだだな・・・創造神なのに。
でもよかった、よかった。
そしてアースラさんから声が掛けられる。
「守や、あとは余とアイリスに任せるやえ」
「そうです、守さんは外で待っていて下さい」
この二人に任せておけば大丈夫だろう。
何かがあったとしても世界樹の葉があるだろうしね。
俺は忠告に従って部屋を後にした。
リビングでは島野一家とオリビアさんが俺を待っていた。
誰も何も言わずにいた。
俺は全員の顔を見て一度頷いた。
皆は俺を見てほっとした表情を浮かべていた。
そして俺達は待つことにした。
我が子の誕生を。
心待ちにして。
どれぐらい待っただろうか?
何度も中に入ろうかと思ったが、思い留まった。
ここはアースラさんとアイリスさんに任せたんだから、出しゃばってはいけない。
でも身体が動きそうになる。
ここは待つんだ・・・
それにしても・・・俺とアンジェリの子供か・・・
男の子なのか?女の子なのか?
どちらでもいいよな・・・
子育ては既に経験している・・・
ん?ドラゴンと人間では違うのか?
あれ?そもそも人が生れてくるのか?
・・・絶対違うよな。
まあ人であれ神であれ、我が子に変わりは無い。
慈悲深く育てよう、最大限の愛情を込めて。
でも本当は・・・まあいいか。
異世界だしな。
俺の寝室から元気な赤子の無く声がした。
「ウエーン!ウエーン!ウエーン!」
鳴き声がおかしくないか?
普通はオギャーじゃないか?
どうなってんだ?
寝室の扉が開けられる。
アイリスさんが顔を出して俺を呼び込んだ。
寝室に入るとアンジェリが赤子を抱えていた。
彼女は汗だくだが笑顔だった。
そして俺はアンジェリと唇を重ねた。
それが意外だったのか、一瞬アンジェリは驚いていた。
そして俺は生まれたばかりの赤子を眺めた。
玉の様な赤ん坊だった。
俺は一瞬にして心を奪われていた。
ああ・・・愛している・・・
愛しい我が子よ・・・始めまして・・・
俺がパパだよ!
そして驚く事が起こっていた。
赤子が俺に向かって話し掛けてきたのだった。
「パパー!」
万遍の笑みで俺に向かって赤ん坊が両手を差し出している。
嘘でしょ!なにこれ!
俺は釣られて思わず赤子を抱っこした。
「パパ!会いたかったよ!」
「・・・ああ、俺もだ」
「やっと会えたね!」
「そうだな・・・」
「テヘへ!」
アンジェリが言葉を添える。
「やっぱり守の子ね。この子は妊娠八ヶ月ぐらい経った頃には『念話』で話掛けてきたのよ」
「そうなのか・・・」
流石は異世界、何でもありだな。
でももうこんな事にも慣れてきたな。
「パパ!大好き!」
完全に振り回されていた。
カノンに挑むよりも驚愕する出来事だった。
やれやれである。
でもちょっと笑えてしまった。
「ハハハ!なんか面白いな!」
「そうね、もう何でもありじゃんね!」
アンジェリはアイリスさんに貰った世界樹の葉で急速に回復していた。
我が子の驚きの誕生に、俺達はこの先どうなる事やらである。
ええ、笑って下さいな!
我が子のハチャメチャ感に俺はてんてこ舞いだった。
余りの規格外に翻弄されている。
どうにも俺は我が子に振り回されるみたいだ。
好き放題にされている。
でもそんな様子も愛して止まない。
本音は嬉しいものである。
既に親バカだ。
これはデレデレともいう。
性別は女の子、生まれながらにして神である。
俺の予想通りだった。
所謂女神だ。
赤ん坊の女神なんて・・・聞いたことが無いな。
アンジェリ曰く、胎児の頃から『念話』で話し掛けていたらしい。
いい加減にして欲しい。
そんな赤ん坊は聞いたことが無い。
本当は俺は普通に子育てがしたかったのだが・・・こうなってしまっては受け止めざるを得ない。
本当にやれやれだ。
もはや俺には普通の人生なんてあり得ないのだ。
俺は妻のアンジェリと共に名づけについて何度も協議を重ねた。
だがアンジェリ曰く、
「守に任せるよ、だって私よりも守の方が良いに決まってるじゃんね。それに私は名づけなんてしたことないもん」
とのこと。
これの一点張りだった。
まったく協議に成らなかった。
いい加減にして欲しい。
面倒な事は俺に丸投げってか?
結局俺が考えることになってしまった。
結構名づけは大変なんだよ。
何なら体験してみるかい?
分かって貰えるかな?
俺は三日三晩寝ずに考えた。
というのも、本当に俺が名付けて良いのかと考えてしまったからだ。
その理由は余りに我が子のステータスが高かったからだ。
驚くなかれ、こんな感じである。
名前:
種族:中級神
職業:時期創造神候補?
神力:77777
体力:77
魔力:777
能力:念話魔法Lv2 念話Lv2 赤ちゃんパック
空いた口が塞がらなかった。
生まれながらに中級神である。
でも確か創造神から生まれた存在は中級神以上だと、前にドランさんが言っていたような気がする。
それにこの赤ちゃんパックだが、かなり高性能だった。
言語理解や言語発言は当たり前に備わっており、収納は勿論の事、更には演算も加わっていた。
いい加減にして欲しい。
こんな存在に名づけを行っていいのだろうか?
それに職業になんでハテナが付いているのか?
理解に苦しむ。
それに魔力も備わっている。
ある意味俺以上じゃないか・・・
俺の加護が付いたらハテナが採れるとか?
分からない・・・
もう名付ける必要なんて無いんじゃないか?
でも・・・そういう訳にもいかないよな。
それに・・・なんで神力や体力が7揃いなんだよ!
ふざけんな!
フィーバーかよ!
確変でも起こってるのか?
てかさ・・・万の位でも数値は計測出来るんだね。
俺は結局どれぐらいの神力を持っているのだろうか?
もうどうでもいいや。
考えるだけ無駄だな。
そんな感じなのである。
どうしたものか・・・
もうどうとでもなれだ。
少々投げやりになりそうだった。
結果、真剣に悩んで決めた名前は『ティナ』になった。
日本語にすると、輝名。
可愛く育ってと言う意味が有り、多言語化すると有能、陽気、フレンドリー、幸運、気分が良い、クリエイティブ、アクティブ等の多岐に渡るプラスな意味がある。
それに単純に光輝く名前と言う意味だ。
この世界にとっては名前は重要だからね。
これ以外に考えられなかった。
加えて異世界の名前には響きが良いと感じてしまったのだ。
俺はアンジェリにこれにしたいと相談すると、
「いいじゃんね!流石は守!」
と二言返事で了解を得てしまった。
てかさ、我が妻よ・・・あんた何も考えていないよね?
完全に丸投げだよね?
夫婦関係ってこれでいいのだろうか?
まあ愛しているからいいのか?
もうなんでもありだ。
俺の苦労を分かってくれているのだろうか?
甚だ疑問だ。
どうせ分かってないんだろうな。
先日アンジェリからもう一人子供が欲しいと言われてしまった。
勿論努力は始めた。
また直ぐに出来てしまう気がする・・・
俺は引きが強いからね。
一回につき一人、そんな気がする。
それにしてもティナ誕生後の騒動は凄かった。
どこからこんなにも人が集まってきたのか。
話を聞きつけた人達が大挙して俺の家の周りに集まっていた。
恐怖を感じる程の賑わいだった。
その原因となったのは、ティナの誕生に興奮した島野一家が総出で騒ぎ出したからだった。
ギルは獣スタイルで空を飛んでティナの誕生を声高に叫び。
ノンは生まれたと言いながら変てこダンスを踊りまくっていた。
エルは歯茎剥き出しで、俊足で飛び回っていた。
レケは宴会だと叫び出し。
エクスはゴンガスの親父さんに真っ先に報告しにいっていた。
クモマルまで獣スタイルで興奮して叫んでいた。
アイリスさんまで浮かれていた。
エアーズロックも興奮して叫んでいたらしい。
まったく手が付けられなかった。
新たな神の誕生を祝おうと、あり得ないぐらいの人々が集まっていた。
家の中にいても外の喧騒が凄まじい。
「島野様!おめでとうございます!」
「新たな神の誕生!素晴らしい!」
「アンジェリ様!おめでとう!」
「万歳!」
「やったぞー!」
祝宴ムードが半端ない。
でもこれは凄すぎる。
恐怖すら感じる。
現に軽く地響きが起こっている。
これはなんとかしないとな。
勘弁してくれよ。
加減てものがあるでしょうよ。
俺はサウナ島上空に転移した。
なんだこれは・・・あり得ないぞ!
街を埋め尽くす程の人の山が出来上がっていた。
これは不味い!返って危険だ!
俺は興奮して飛び回るギルを捕まえて、拡声魔法を掛けて貰った。
俺は上空から大声で群衆に話し掛けた。
「お前達!!!祝いに来てくれてありがとう!!!でもこのままでは人の波で押しつぶされる人が出てしまう!!!後日改めて報告をさせて貰うから、今日の所は帰って貰えないか?!!!すまない!!!人命第一だ!!!それに数日でいい!!!家族の時間をくれ!!!」
その声に観衆は反応した。
「分かりました!」
「絶対に祝わせて下さいよ!」
「一先ず帰って宴会だ!」
「違う街で宴会をするぞ!」
「これは返って失礼だったか?」
「申し訳ありません!興奮してしまいました!」
好きに騒いでいた。
数時間後にはいつものサウナ島が帰ってきていたが、街の至る所で宴会が催されていた。
これ以上は咎められないよな。
やれやれだ。
数日後、
俺はなんちゃってテレビで全世界に話し掛けた。
数日前には番組が放送される事は、ゼノンとエリカによって番宣が行われている。
この放映に際して、俺はギルにとある指示を与えていた。
それはティナの体力を配慮した宴会にしれくれよということだ。
はっきり言って丸投げである。
でもギルは鼻息荒くこれを受け止めていた。
何が何でもやり遂げると連日『マモール』の参加国と会議を重ね、そして実行部隊への支持が飛んでいた。
俺は高みの見物である。
そしてギルは神様ズと南半球の主だった国の上層部を集めて会議を行った。
ギルにはゼノンとエリス、そして五郎さんの手助けが成されていた。
ここは俺は自ら行う事ではないと判断した。
それに俺は祝われる側なのである。
でもそれなりの配慮は求めたい。
そうなると適任者はギル以外考えられなかった。
エリカという手もあったが、既に彼女は働き過ぎなのである。
それになんちゃってテレビの放送を取り仕切らなければならない。
これ以上は過剰労働になる。
いい加減働き過ぎて倒れないか心配になる。
ギルならば北半球でも南半球でも顔が広い。
それにそつなく熟すセンスもある。
ここはギルに任せるしかなかった。
そして全世界に対して放送が行われることになった。
魔水晶が俺に向けられている。
最近では慣れてきた所為か、俺は緊張しなくなってきていた。
「皆、待たせたな!紹介しよう。俺の妻アンジェリと我が子のティナだ!」
俺の隣にアンジェリがティナを抱えて着席する。
放送ではあるのだが、視聴者の反応が手に取る様に感じられた。
初見の我が子にこの惑星の全住民が興奮しているのが分かる。
どうやら我が子は絶大な存在みたいだ。
そしてティナが話し出した、
「世界の皆、始めまして!ティナだよ!」
赤子が話し出した事に驚く者が続出した。
中には卒倒した者もいたらしい。
でも何故だか当たり前と受け止める者もたくさんいたみたいだ。
そしてこれが世界を揺るがせた。
まあそうなるでしょうね。
ほとんどの者達がこれに興奮していた。
そこらじゅうで騒ぎが起こっているのが把握出来た。
「皆、我が子を可愛がってくれたら嬉しい」
「よろしくね」
アンジェリも言葉を添える。
「ティナは喋れるが、まだまだ生後間もない、決して無理が出来る状態ではないんだ。お披露目をギルが計画してくれてはいるが、その辺を配慮して貰えると助かる」
「ごめんね、気持ちは嬉しいのよ」
「皆!ありがとう!」
「では宴会場で会おう!」
簡単な放送ではあったが、恐ろしい視聴率だったみたいだ。
後日エリスとゼノンからそう言われてしまった。
ギルの手配は完璧だった。
宴会会場は計一四カ所。
午前一時間と午後一時間のみ、お酌は禁止。
飲み食いは好きにしてくれと。
騒いでも良いが程々にしろよと。
特設会場が設置され、そこに向かって特別な馬車に乗った俺とアンジェリとティナが手を振って向かう。
要はパレードだ。
警備は厳重になされ、安全は担保されていた。
警備の責任者は勿論ガードナーだ。
あいつは無茶苦茶気合が入っている。
不届き者は許さんと肩を回していた。
特設会場に着くと、国の重鎮達や神様が数名挨拶を行うという内容だった。
ギルは頑張ってくれたみたいだ。
ティナはまだ生後間もない為、すぐ寝てしまう。
何度かパレードの最中でもこっくりとしていた。
でもその様が可愛いと黄色い声が挙がっていた。
このパレードの様子はなんちゃってテレビで連日放送され、誰もが釘付けであったみたいだ。
都合一週間に及ぶ顔見せは後日記念日とされ、大型連休として全世界共通の祝日となった。
ティナは無茶苦茶人気者になってしまった。
赤子にして最強のアイドルである。
この人気はオリビアさんも超える。
流石のオリビアさんも負けを認めてしまっていた。
というより、ティナにデレデレのオリビアさんがそう仕向けた節もある。
連日なんちゃってテレビで、オリビアさんはティナを紹介していたのである。
ここはティナの処世術が勝っていたと記しておこう。
ティナは甘え上手である。
オリビアさんも骨抜きにされていたのである。
とにかく甘え処を分かっている。
それも作為的に・・・
どこでこれを学んだのだろう?
俺には分からない。
どこに出してもティナは人気者だった。
当然俺の影響もアンジェリの影響もある。
でもそれだけではあり得ない程の支持を受けていた。
処によっては俺よりも信仰されていた。
人気は留まることを知らない。
正に次期創造新候補であった。
そして名づけを行った結果。
やっぱりティナは進化した。
本来神は進化しない。
でも俺は創造神なのである。
創造神であれば神を進化させることは出来る。
ティナは上級神になっていた。
こうなるだろうなと思ってはいた。
赤子にして母親越えである。
でもアンジェリは悔しがる処か喜んでいた。
だろうなとは思っていたが・・・
でもアンジェリも何故か下級神から中級神に進化していた。
それも出産を機に。
美容の神から美の神になっていた。
俺にはいまいち違いが分からなかったのだが・・・
まあいいだろう。
そしてティナだが能力が・・・チートだった。
赤子にして『念動』と『浮遊』を覚えていた。
我物顔で宙に浮きまくっている。
いい加減にして欲しい。
ティナはあり得ないぐらいに賢い。
生後一週間にして読み書き計算が出来た。
『演算』があるから当たり前か?
でも少々嬉しかったのは、身体の成長は急激にとはいかなかった。
生後数日は首が座らなかった。
でも生後三ヶ月にして既にハイハイしているのだが・・・
いきなり歩かれるよりは増しである。
まあ『浮遊』で浮かんでいるのだが・・・
どう受け止めようか?
ここは異世界・・・大らかに受け止めよう。
何でもありだと・・・
そしてハテナは無くなっていた。
やっぱりか・・・
まあ我が子が次期候補であることは嬉しくはあるのだが・・・
ちょっと複雑な想いだった。
だってまだ赤子だよ?
島野一家のティナの可愛がり様は凄かった。
あのゴンまでデレデレだった。
そしてノンとギルの二人に関しては、実際に眼に入れても痛くは無いのかもしれないというぐらい可愛がっていた。
異常な程の愛情を注いでいた。
暇さえあれば島野一家はティナを見に来た。
また来たのか?と言いたくなるぐらいだった。
あのレケすらもティナに御執心だった。
クモマルは常にティナの安全を気遣っており。
エルは歯茎全開だった。
エクスは照れるばかりで、アイリスさんは異常に赤ちゃん言葉で接していた。
そしてあの好青年のエアーズロックすらも目尻が歪みまくっていた。
ある日何気なくティナに近づこうとしたゴブオクンを、ノンが回し蹴りで撃退していたこともあった。
なんのことやらである。
まあ愛されているということだろう。
そう受け止めよう。
まだまだティナフィーバーは続きそうである。
やれやれだ。
そんなティナを軽く凌駕してしまったのがカノンだった。
問題となったのはカノンの分身体だ。
カノンはひと際美人だった。
見惚れる程の透明感。
誰もが振り替えって二度見していた。
何となくアイルさんに雰囲気が似ている。
絶世の美女とは彼女の事を指すのだろう。
アンジェリが見惚れる程だった。
美の神が見惚れるとは・・・
其れぐらいの美貌だった。
余りの美しさにゴブオクンは膝から崩れ落ちていた。
こいつの事はどうでもいいか。
そんな美貌の事など実はどうでもよかった。
なんと全ての上級神がカノンの分身体に跪いたのである。
それだけでは無い。
神様ズも跪いていた。
五郎さんを除いて。
流石に俺も驚いてしまった。
その様は創造神と変わらない。
でもよく考えてみると頷ける。
カノンは惑星なのである。
大地であれ、水であれ、自然は惑星の一部なのである。
ということは、俺はどうなるのだろうか?
そんな存在に名づけを行った俺って・・・
深くは考えないことにしよう。
ここはそうしよう。
それにしても五郎さんはどこまでもマイペースだ。
とても肝が据わっている。
ある意味最強と言える。
「なんでえ、あの別嬪さんはよ!」
と煩かったぐらいである。
多分正体を知っても五郎さんは跪かないだろうな。
五郎さんには是非そうであって欲しい。
俺のパイセンはこうでなくっちゃな。
カノンの事を裏でアースラさんに無茶苦茶切れられてしまった。
なんで教えてくれなかったのかと。
あのフレイズすらも挺身低頭に接していたのだ。
それぐらい重要な事であったらしい。
アクアマリン様に言わせると、ある意味創造神の爺さんと変わらないらしい。
そんな惑星に名づけをした俺って・・・やっぱりおかしいのか?
俺は全く気にかけていなかったのだが。
ごめんなさい。
悪気はないです・・・
そしてカノンが簡単に俺に跪いた。
その後、上級神達と神様ズが俺を見る目が変わった様に感じる。
妙な距離感も感じる。
そういえば自分が創造神になった事を話して無かったな。
このまま当分の間は放置しておこう。
多分察することは出来るだろう。
でも何となく俺からは言う気にはなれなかった。
聞かれれば言うかもしれないが。
積極的に言う気にはなれなかった。
なんとなくそう想ってしまった。
うん、そうしよう。
否、絶対そうしよう。
意地悪に思えるかもしれないが、上級神と神様ズは、これまで好きにやってきたことをこれで帳消しにしてあげようと思う。
フフフ。
俺を舐めて貰っては困るよ。
俺は他人の褌で相撲が取れるんでね。
これを気にフレイズを俺の舎弟にしてやろうか?
否、要らないな。
あいつは使えない奴だからな。
どうでもいいか?
カノンは当然の如く崇拝されていた。
誰もが敬い、頭を垂れていた。
その様は創造神の様であったが、本人は少々嫌そうにしていた。
俺と同じで放っておいて欲しい質のようだ。
時折苦い顔をしていた。
カノンは温泉とサウナにドハマりしていた。
一日に二十セット近くサウナに入るらしい・・・
まあ、死なないからいいか・・・
只のサウナジャンキーだな。
ていうか・・・変態だな。
まあ好きに過ごしてくれよ。
実際カノンは好きに過ごしていた。
働かなくてもお布施を大量に貰っていたからだ。
実はこうなる様に、俺はサウナ島にある神社を管理しているメタンに話をし、その様に手配していたのだ。
メタンはこれを喜んで受け入れていた。
要はサウナ島にある神社に集まるお賽銭を、全部カノンに渡してくれとしたのだ。
そもそもこのサウナ島の神社に集まるお賽銭に関しては、その使い道に困っていたのだ。
孤児院に渡すにはその額が高すぎる、かといって島野商事の資金にするには憚られていたのだ。
所謂使途不明金になっていた。
時にそのやり場に困って、マークは俺に丸ごと渡したこともあった。
これは島野さんが使うべきだと勝手に押し付けられていた。
会長にはこれぐらい渡さないと沽券に関わると要らない理由を添えて。
まあ俺としては貰える物は貰うとしたのだが・・・
正直複雑な気持ちだった。
もう俺の貯金額は・・・
言わないでおこう・・・
というか、言っちゃ駄目だな・・・
また奢らされることになってしまうからね。
そして島野一家の聖獣達だが、全員神に成っていた。
ゴンを除いて・・・
言い伝え道りだった。
ノンは狩りの神に。
エルは俊足の神に。
ケレは日本酒造りの神に。
そしてクモマルは隠密の神に。
加えてアイリスさんは植物の神に。
エアーズロックは神には成らなかった、というよりほぼ神と変わらないのだからそれで良いと本人は言っていた。
でも新たな能力は授かったらしい。
厳密にはアイリスさんとエアーズロックは一家と言うよりは、アドバイザーなのだが、関係性を考えたら家族である。
俺もそう想っている。
そしてギルは俺との深い関係性が考慮されたのか上級神に成っていた。
それをギルは心良しとしていなかったのだが・・・
俺はギルと話しを重ねた。
最終的には、それぐらいお前は崇拝されているんだという一言が効いたみたいだ。
まだまだ中二病のギルを擽っただけだ。
パパがそう言うならばと、ギルはあっさりと受け入れていた。
一人事情が違ったゴンだが。
ゴン曰く、
「世界の声が聞こえた時に、時間を下さいと請願した処、受け入れて貰えました」
とのことだった。
そんな抜け道があるとは思わなかった。
案外良心的じゃないかと、創造神の爺さんを褒めてやりたくなったぐらいだ。
どうして時間が欲しいのかと思っていた所、数日後ゴンはルイ君を伴って俺の元に現れていた。
そういう事かと俺は納得した。
一際緊張したルイ君が俺に宣言した。
「島野さん!ゴンちゃんを僕に下さい!結婚させて下さい!」
ルイ君は深々と頭を下げていた。
「ルイ君、ゴンは俺の所有物じゃないぞ!でも俺の娘はやらん!」
俺の拒否発言に、ルイ君は口をぽかんと開けていた。
頭を振ったルイ君は再度俺に頭を下げた。
「お願いします!認めて下さい!」
横を見るとゴンが困った顔をしていた。
俺の隣に座るアンジェリは笑いを噛み殺していた。
肩が小刻みに震えている。
「そこまで言うなら付き合って貰おうか」
「えっ!それは何を・・・」
俺はルイ君とゴンとアンジェリを伴って転移した。
場所はメッサーラの武道館だった。
そして俺達の目の前には土俵があった。
俺の意を察したアンジェリが行司となり、俺とルイ君を呼び込む。
突然の出来事にルイ君は挙動不審になっていた。
察したのかゴンは笑いを堪えていた。
「ルイ君、俺を投げることが出来るかな?」
ルイ君の顔が真っ青になる。
「・・・到底、無理です、否、敵いません・・・」
「ほう、ルイ君は諦めると?」
この発言にスイッチが入ったルイ君。
複式呼吸を始めて準備運動を行っている。
やる気スイッチが入ったみたいだ。
「島野さん、勝ったらゴンちゃんとの結婚を認めてくれるのですね?」
「ああ、ルイ君が俺に勝てたらな。ルールは簡単だ。俺は能力を使わない、ルイ君も魔法は使わない。何度でも付き合ってやる!遠慮なくかかってこい!」
ルイ君は俺に一度頭を下げてから土俵に向かった。
俺は何度もルイ君をぶん投げていた。
もう何度も何度も。
もう何回投げたか分からない。
今ではゴンも真剣になってルイ君を応援している。
俺は一切手を抜かなかった。
ルイ君は既に全身土に塗れている。
でもまだ目は死んでいない。
もう百回以上は投げているだろう。
俺もいい加減へとへとだ。
でも俺は一切手を抜かない。
まだまだだ!
掛ってこいよ!
こんな事で俺の娘はやれないぞ!
そしてその時は突然訪れた。
決まり手が何だったのかは分からない。
俺は土俵に手を付いていた。
ふう・・・やっとか・・・
俺は不思議と安堵していた。
ルイ君・・・ゴンを頼んだぞ!
興奮したゴンがルイ君に抱きついていた。
ルイ君はヘトヘトで土俵に倒れ込んでいる。
アンジェリから俺に声が掛けられる。
「守、お疲れ様・・・」
「ああ・・・一度やってみたかったんだ・・・」
「だと思った」
「これを異世界では昭和の親父と言うんだ、アンジェリ」
「何それ?意味分からないじゃんね!」
「まあな」
「ハハハ!」
そこに声が掛けられる。
「島野さん・・・はあっ・・・はあっ・・・これで・・・認めて・・・貰えますよね?・・・」
「ああ・・・ゴンを頼んだぞ!ルイ君!」
「はい!」
ルイ君は天に向かって手を挙げていた。
ゴンはそんなルイ君を介抱しながら泣いていた。
「ゴン!幸せになるんだぞ!」
「はい!主!ありがとうございます!」
ゴンは泣きながら笑っていた。
その後ゴンはルイ君と結婚した後に魔法の神となり、メッサーラの一柱となっていた。
それを見届けたマリアさんは、弟子のいるエスペランザに居を構え、エスペランザを見守った。
ゴンの結婚式は盛大に行われていた。
メッサーラ国の威信を掛けて。
全ての神が集められ、各国の重鎮達も集められた。
全世界の重要人物が集まっていた。
俺はスピーチを任せられ、ゴンとルイ君との出会いから今日までの話を面白可笑しく話した。
時に笑いが起き、時に涙が流された。
とても幸せな時間を過ごしていた。
そして俺も感慨深くなっていた。
島野一家から遂に巣立つ者が現れたのだと。
ゴンは泣きじゃくっていた。
それは始めて出会った時を思い出す出来事だった。
ゴンは百年に渡って島で一人暮らしをしており、俺と出会って眷属になった時にこの様に大泣きしていたのだと。
俺の隣でオズも号泣していた。
その気持ちは痛い程分かった。
そんなゴンとルイ君を祝おうと、結婚式の参列者は万を超えた。
大行列が出来上がっていた。
皆が皆、笑顔であった。
ゴンとルイ君はとても幸せそうにしていた。
犬猿の仲のノンも盛大に祝っていた。
メッサーラには幸せの時間が流れていた。
後日語り継がれる程に。
俺が創造神になってからおよそ一年が経っていた。
そろそろ頃合いである。
俺は創造神の爺さんに『念話』を繋げた。
「もしもし、創造神様。俺です」
「守か、待っておったぞ」
「それはすまなかったですね」
「よいのじゃ、気にするでないわ」
「ありがとうございます」
「して、なんじゃ?改まって」
「そろそろお誘いしようかと」
「ほう?それはなんじゃ?」
「サウナに入りに来ませんか?」
「ホホホ!遂に誘ってくれたか!この時を待っておったぞ!」
「お待たせしたようですね、いつきますか?」
「そうじゃな、明日でどうじゃ?」
「分かりました、明日迎えに行きます」
「あい分かった。待っておるぞ」
「承知しました」
俺は『念話』を終えた。
俺はマークに事を伝えた。
明日はスーパー銭湯を貸し切りにすると。
これまでになかった出来事に、マークは戦慄を覚えていた。
その理由を聞かれて、俺は創造神の爺さんが来ると伝えた。
マークは納得したのか、
「そうすべきですね」
と頷いていた。
そして俺は創造神の爺さんを迎えに神界に転移した。
転移した先はあのエデンの園だった。
爺さんは椅子に腰かけて待っていた。
その手には島野標の入ったタオルが握りしめられている。
おお!これはやる気満々ですね。
いいじゃないですか。
俺はこういうのは好きですよ。
やっぱり相当サウナに興味があったみたいだ。
その表情も綻んでいた。
「守よ、待っておったぞ!」
「その様ですね、サウナの世界をご教授させていただきます!」
「そうか!これは愉快じゃ!」
爺さんも待ちに待った時が訪れたみたいだ。
さて、今日もサウナを満喫させていただきましょうかね!
俺は創造神の爺さんを伴ってスーパー銭湯に転移した。
受付のスタッフがいつも通りの笑顔で迎え入れてくれる。
今回の貸し切りに際して、俺はマークに、
「サウナ島のモットーはこれまでと変わらない、立場や地位は関係なく、皆が平等にだ、それは創造神の爺さんが相手でも一緒だ、決して跪く事や傅く必要は無い。いいな?」
と伝えておいた。
マークは、
「分かっています、全スタッフに徹底させます。任せてください!」
心強く返事していた。
こいつも成長したな、サウナ島はお前に託す!
社長、否、今では会長か。
因みに俺は相談役だ。
「ほう、此処がスーパー銭湯じゃな。うんうん、よい雰囲気じゃ」
爺さんはご機嫌の様子。
これまでに見たことがない笑顔をしていた。
実に表情が綻んでいる。
「ありがとうございます」
「にしても守よ、やっと呼んでくれたのう」
「?・・・やっととは?前に普通にサウナ島にやってきたことがあるじゃないですか、普通に来たければ来れたのでは?」
「・・・守よ・・・分からぬか?」
「・・・ああ・・・直接的な関与になりかねなかったということですか?」
「そうじゃ・・・」
「すいません・・・そこまで考えていませんでした。というより俺も創造神に成って、やっと分かりましたよ」
「じゃな、あの時はただのお知らせじゃったからな」
「なるほど・・・」
「まあよいではないか!この時を儂は待っておったのじゃからな」
爺さん・・・結構可愛いじゃないか。
こういうの嫌いじゃないですよ。
「そうですか、では大いに楽しみましょう!サウナですよ!」
「そうじゃな!そうしよう!」
俺達は連れ立って脱衣所に向かった。
先ずは身体を隈なく洗う。
最初のルーティーンだ。
そして内風呂に入る。
「ああ・・・」
「ふう・・・」
身体が解れる感覚に気分が上がる。
隣を見ると爺さんも幸せそうな顔をしていた。
次に外風呂の炭酸泉に浸かる。
「温泉が心地よいのう」
爺さんはご満悦の様だ。
でもここからでしょうが、本番は。
さて、入りましょうかね。
「では行きましょうか?」
「いよいよじゃな?」
「はい、サウナに入りましょう!」
「ホホホ」
「こちらです、どうぞどうぞ」
俺達は連れ立ってサウナ室に入った。
「ほう、結構強烈じゃな」
爺さんは驚いているみたいだ。
「アイルさんからは聞いて無かったんですか?」
俺達は最上段に座る。
「それな、無茶苦茶自慢されたわい!」
「ハハハ!そうですか」
「そうじゃ、やれこんなサウナに入っただの、あんな風呂に入っただの、楽しそうにしておるわい。極め付きはアイちゃんと呼ばれたとご満悦じゃったわい」
「ハハハ!ギルとエリスですね」
「そうじゃ、最近では時間を見つけるとあの二人に世話になっておるようじゃな」
「みたいですね、創造神様ももっと早くこれば良かったのに」
「そうはいかんわい、お主分かっておるんじゃろ?」
「まあ・・・今と成ってはですけどね」
「じゃろうな」
これはどういうことかと言うと、俺は創造神になってから気づいたことがいくつかあったのだ。
先ずはこの世界への直接的な手出しは厳禁ということだ。
これまでの様に好きに何かを造ったりすることは、あまりよくない事だと強く感じる様になったのだ。
本当は手出し出来る事も分かっている。
でもそうすることは、この惑星に住まう者達に考える事を放棄させることに繋がるから良いとは思えない。
困った時は島野様がどうにかして貰えると考える事になるということだ。
今ではこの世界の者達は神を目指さし出した。
そんな者達に直接手を出す事等、あってはならない。
自ら考え、行動し、時に失敗を重ねて、成功し実績を積む。
その道を奪うことをしてはならないのだ。
俺も変わったものだ。
あんなに現場感が抜けきらなかったのが懐かしい。
今では口も出さなくなっていた。
次に俺はともかく、創造神の爺さんはこの世界に顕現することは控えるべきだということだ。
この世界の頂点なのである。
軽々しく会える存在であってはならないのだ。
それを俺は理解したから今回は貸し切りにしたのである。
本当はメタンやプルゴブの様な信心深い者達には、会わせてやりたいものなのだが、そうはいかないという事だ。
俺はもうこの世界では超有名人となっている為、その限りでは無いのだが。
創造神とはこの世界の絶対者であるということだ。
安易に会えていい、存在ではないのだ。
「それにしても守よ、なかなかにこれは忍耐力を試されるのう」
「ここは無理は禁物ですよ、適度に楽しみましょう」
「そうか、まあお主に任せるわい」
「俺のお勧めは汗をかき出してから三分以上ですね」
「そうか、従おう」
俺達はじっくりと汗をかいた。
連れ立って水風呂へと向かう。
爺さんは俺に指導を受けることも無く、掛け水を行っていた。
たぶん神界から見ていたのだろう。
サウナマナーは分かっているみたいだ。
一気に超冷水風呂に飛び込む。
「おおー!」
「引き締まるー!」
ものの数秒で超冷水風呂から出る。
外気浴場に向かい、インフィニティーチェアーに腰かける。
後ろにチェアーを倒して呼吸に意識を向ける。
黄金の整いの時間だ。
隣を見ると爺さんも黄金の整いを行っていた。
猛烈な勢いで神気が爺さんに吸い込まれていく。
なんだこれ!流石は爺さんだ。
俺以上に吸い込んでいるぞ!
これは天晴だ。
敵わないな。
「守よ・・・気持ちいいのう・・・」
「ですよね・・・分かりますよ・・・」
「これは癖になりそうじゃわい・・・」
俺達は余韻を楽しんだ。
そして後二セットサウナを行った。
三セット目にはノンの熱波が待っていた。
爺さんは、
「ノンの熱波は強烈じゃなー!」
とご満悦だった。
ノンも嬉しかったのか、
「創造神の爺ちゃん、良い熱波だったでしょう?僕の熱波は主仕込みだからね!」
と宣っていた。
実に爺さんは満足げにしていた。
館内着に着替えて、別館へと移る。
ここに行かない訳にはいかないでしょう。
俺達は連れ立って別館へと移った。
爺さんは早速テントサウナに向かっている。
お目当てはそこですか、良いチョイスですね。
爺さんはテントサウナの前にある、セルフロウリュウ用の桶と柄杓を握っている。
「守よ、お勧めはどれじゃ?」
「そうですね、レモンなんてどうですか?」
「レモンな」
俺のお勧めに従ってレモン水を桶に入れている。
そしてテントサウナに入る。
すると爺さんは何故だか柄杓を握りしめて、離す様子が無かった。
ちょっと奪ってやろうと何度か手を出したが、手を払われた。
なんで鉄壁のガードなんだ?
そんなにセルフロウリュウがやりたいのか?
「ちょっと、そんなにセルフロウリュウがやりたいんですか?」
「そうじゃ、ここはアクアマリンに自分でやるべきと言われておるからのう
「へえー」
掛け過ぎて急激に熱くなってもしらねえぞ。
ここは黙っておこう。
いい感じで汗をかきだしたので声をかける。
「そろそろいい頃ですよ」
「そうか、いくぞい」
「どうぞ!ドバっといって下さい!」
俺は被害を受けたくないので、身体の周りに『結界』を張った。
爺さんが勢いよくアロマ水をサウナストーンにかけた。
勢いよく蒸気が発生し、一気に室内を満たした。
「熱っちい!なんじゃこれは!熱っちい!」
爺さんは脱兎の如くテントサウナから『転移』して飛び出していった。
俺も『転移』してテントサウナから出る。
「アハハハ!アクアマリンさんに嵌められましたね!」
「その様じゃな、ホホホ!」
爺さんは笑っていた。
泳げる水風呂では爺さんははしゃいでいたな。
頭から滝で水を浴びて喜んでいた。
気持ちは充分に分かるよ。
最後にバレルサウナに入る。
いい感じに熱を感じる。
今日も絶好調の様子。
不意に爺さんから話し掛けられた。
「守よ・・・」
「どうしましたか?」
「一つお願いがあるんじゃがよいか?」
変な事頼むんじゃないぞ。
「なんですか?改まって」
「いやのう、今日ここに来て儂は確信したんじゃ」
「何を?」
「サウナは気持ちいい!」
爺さんは両手を上に突き出していた。
なんだそれ?
この人もサウナジャンキーになるんじゃん。
「当たり前です!」
「そこでじゃ、神界にサウナを造ってくれんかのう?正真正銘の『神様のサウナ』じゃ、どうじゃ?」
「いいですけど、創神神様は自分で造れますよね?」
「出来る、でもここはお主に頼みたいんじゃよ」
「はあ・・・まあいいですけど」
「神界なら能力を存分に使って作業出来るしのう」
この一言が俺に火を付けた。
「なっ!」
「お主、うずうずしておるんじゃろ?」
「・・・まあね」
「分かっておるぞ、神界なら直接手を出すことは許されておるからのう」
「そうですか!・・・やってやりますよ!造って見せますよ。正真正銘の『神様のサウナ』を!」
「ホホホ!期待しておるぞ」
「お任せあれ!」
俺達は連れ立ってバレルサウナを出た。
黄金の整いで最高のリラックスを味わっていた。
そして俺はふと気になった事を思い出した。
もう少し余韻を楽しみたかったが、興味が勝ってしまったのだ。
「そういえば、前にやってくれたなと言ってましたけど。あれは何ですか?俺いけない事しましたか?」
「ん?それな・・・今と成ってはどうしようも無いわい」
「というと?」
「お主、惑星に名づけおったな・・・」
「ええ」
「それじゃよ・・・」
「はい?」
「そんな事はせんでもよかったんじゃよ」
「嘘でしょ?・・・」
あんなに苦労したのにか?
「本当じゃ、そんな事はせんでも、アカシックレコードには辿り着けたのじゃ」
「マジかよ・・・」
命がけだったのにな・・・
「なんであんな命がけの事をしたのじゃ!儂でも流石に肝を冷やしたわい!」
そんな事言われても・・・そうすべきだろうと思ったんだもん。
「・・・」
「それにその所為でこの惑星の所有者はお主に変わっておる。もう儂の物では無くなったのじゃ」
「マジか・・・勘弁してくれよ・・・」
「それはこっちの台詞じゃ!!!」
本気で怒られてしまった。
「すんません・・・」
「まあよいわ・・・全く、やれやれじゃわい!」
「それを言いますか?」
「言わせたのはお主じゃ!」
だね・・・すんません。
「うう・・・」
「ということで、こうなると儂は新たな世界を造らんとならん。そこでこの世界はお主が面倒をみるんじゃぞ!よいな!」
「はい・・・」
ん?あれ?それは・・・
まさか!やったぞ!
ここは最後の交渉が必要だと高を括っていたが、その必要は無かったみたいだ。
まだまだサウナ満喫生活は続けれそうだ。
家族とも一緒に居られるぞ!
命を懸けて名づけを行って良かったみたいだ!
まあ・・・結果論だけどね。
俺は肩を回していた。
久しぶりのサウナ建設である。
これが興奮しない訳が無い。
神界にサウナを造りに行くと告げたところ、カノンとティナが観たいという話となり、アンジェリも連れて神界に行くことになった。
神界に来たティナに創造神の爺さんはデレデレだった。
ジイジと呼んでくれと目尻が緩みまくっていた。
爺さんがこうも骨抜きにされるとは・・・ティナは怖い子。
アイルさんもアイちゃん呼ばわりされて嬉しがっていた。
流石の処世術だな。
ティナにはもう敵いませんがな。
そして俺は能力全開でサウナを建設した。
実は何度も神界に転移しては視察を繰り返し、どういったサウナにするかを入念に考えていた。
草案を纏めるのに一ヶ月も掛かってしまった。
でも無茶苦茶楽しい一ヶ月間だった。
本当は万物創造で一瞬で造れたのだが、敢えてそうはしなかった。
にしてもこんなに嬉しいことは無い。
そして能力全開で喜々としてサウナ建設を行う俺を、ティナとカノンはビビりまくって眺めていた。
ティナに関しては、
「パパって、こんなに凄かったんだ・・・」
と感心していた。
おい!父親を舐めんじゃねえよ!
まさか父親越えを果たした気でいたのか?
まだまだ負けないぞ!
カノンに関しては、始めはビビッていたが、そこはサウナ好きが功を奏したのか、手伝いを買って出ていた。
着工してから僅か一週間、最高のサウナ施設が出来上がっていた。
そして遂に完成した。
正真正銘の『神様のサウナ』が。
我ながら最高の出来だった。
幸福感が止まらない。
そして俺はサウナ島と神界を転移扉で繋げた。
サウナ島に俺は全ての神を招集した。
創造神島野守の名の元に。
数名の神が跪こうとしていた。
それを俺は手を挙げて制する。
「これまで通りの関係でいきましょうよ」
この発言に神様ズはほっとした表情をしていた。
いまさら傅かれてもねえ、返ってやりずらいよ。
俺は神達に宣言した、
「神界に『神様のサウナ』を建設した、此処は神しか利用する事は出来ない」
そして神界に繋がる転移扉を開く。
「さあ、お披露目です!正真正銘の『神様のサウナ』です!」
皆な喜び勇んで転移扉を潜っていた。
さて、今日もサウナ満喫生活を送らせて頂きましょうかね!
整わせて貰うよ!
黄金の整いと共にね。
今日も神気が上手いなあ!
『神様のサウナ』オープンです!
完