同盟の会議で語られた通り『イヤーズ』にスーパー銭湯が建設された。
構想から一年、実に守の拘りの詰まったスーパー銭湯が出来上がっていた。
守はここの運営は『イヤーズ』に任せると、ノウハウだけを伝授していた。
建設も自ら行わず、知恵を貸しただけに過ぎない。
そうした事には意味があった。
それは自らの力で復興を果たしたと国民達に達成感を得させる為だった。
島野様に造って貰ったでは意味が無い。
復興とは自らの力で成し遂げる物であると守は考えていたからだった。
守は草案と必要な知識を与えただけである。
でもやはりここは口を挟まずにはいられない守であった。
ここは他の娯楽とは訳が違う、事はスーパー銭湯とサウナなのだから。
守は拘りを散々ぶちまけた。
それは『イヤーズ』の大工達を困らせる程に。
でもその想いを感じ取った大工達は自然と姿勢を改めていった。
それは守がここまで言うという事には、これまでに以上に重要な事なのだと受け止めていたからだった。
本当は違っている。
守は好きなスーパー銭湯とサウナに妥協をしたくなかっただけに過ぎない。
でも大工達はそうとは受け取っていなかった。
というのも、他の国々のアドバイスをする守の様を伝え聞いていたからだった。
その守とは余りに違う様相に期待を寄せていたのだった。
これはこれまでとは違うと、我らの神は本気なのだと胸を躍らせていたのだった。
せっかくなので守の拘りの一部紹介しておこう。
サウナの収容人数は二百名、最上段にはなんと畳が敷かれている。
その意図はサウナで寝ても良い事にある。
サウナで横になる事はご法度である。
それを解禁したということだ。
但しサウナマットはちゃんと敷かないといけない、ここは徹底されていた。
そしてこのサウナはなんちゃって水筒が持ち込み可能となっていた。
これもご法度破りである。
サウナ内に飲料を持ち込むなど厳禁である。
なんちゃって水筒には熱くて持てなくならない様に、ゴムが持ち手の部分に巻かれている。
水筒の中身はアロマ水と水、そして麦茶に限られている。
全てスーパー銭湯で無料で提供されている飲料である。
もしアルコールを持ち込んだら出禁になると声高々に宣言されていた。
流石のゴンガスもこれには従っていた。
以前に守から烈火の如く叱られたからである。
サウナ島から追い出すと、見かねた守が遂にその重たい腰を挙げたのである。
もう見逃さないと守は珍しく本気で叱っていた。
アルコール摂取後のサウナは厳禁であると。
やれやれである。
更には水風呂は最深部で三メートルの深さとなっていた。
掛け水後にはドボンと飛び込み可能である。
潜水行為もしてもいい。
これもご法度破りである。
実際に建設に力を貸したのは、オクボスとゴブロウ率いる魔物大工集団である。
こいつらにとっては念願のスーパー銭湯建設である。
これは二人にとっての夢でもあった。
それに二人はそもそも『サウナ島』のスーパー銭湯が大好きなのである。
休日には必ず訪れる程の嵌りっぷりなのだ。
更にあの伝説のスーパー銭湯の奇跡の突貫工事に二人は従事していた。
スーパー銭湯建設が嬉しくない訳が無い。
二人は前に一度守からスーパー銭湯を造ってみるかと言われていた事があった。
その当時の想いがあるのだろう、いつも以上に力が入っている様に見受けられた。
実際この二人の活躍は凄まじかった。
ランドールの元で学び、そして免許皆伝を受けてからもその技術の向上に勤めてきていたのだから。
この二人にとっては、この為に守から名を授けられたと感じていたぐらいなのだから。
二人は鼻息荒く勤しんでいた。
でも笑顔は常に絶やさなかった。
嬉しくてしょうがなかったのである。
スーパー銭湯の建設に足らない資材等は『シマーノ』から調達されていた。
実にこのスーパー銭湯には魔物達が積極的に力を貸していた。
魔物達にとってはスーパー銭湯には格別な想いがあるのだろう。
自分達が力を貸したという実績を残したいみたいだった。
誰もが積極的に力を貸していた。
唯一問題になったのは運営する上での人材の少なさであった。
まだまだ国民は『イヤーズ』に戻って来てはいなかったのである。
そこで守は『イヤーズ』に隣接するスレイブの森に棲む魔物達に加護を与えた。
スレイブの森にはゴブリンやオークが多数存在していたのだ。
それを知ったプルゴブやオクボスはとても喜んでいた。
同族と手を取り合えると意の一番に駆けつけていた。
そして守に寄って『イヤーズ』は魔物達が闊歩する国となっていた。
最初は及び腰の国民もいたが、守が良き隣人と仲良くしろよとの魔水晶のからのメッセージに寄って簡単にそれは受け入れられていた。
守が唯一手を貸したのはこれぐらいである。
後は拘りをサウナにぶつけたに過ぎない。
でも『イヤーズ』の国民にしてみたらこの見守られている事だけでも、とても心強かったのである。
あの島野様が国に訪れてくれた。
あの島野様が知恵を貸してくれた。
あの島野様が見てくれている。
『イヤーズ』では守は国を救った英雄扱いである。
誰しもが守を始め、島野一家を崇拝していた。
守は本当はそうして欲しくはなかったのだが、そうなってしまっていた。
守は『イヤーズ』の国民には、一度崇拝や宗教的な感覚からは離れて欲しいと考えていたのだが、そうは成らなかった。
本物の神を得たと国民の信仰心はとても高まっていたのだ。
ラファエルの宗教などちんけに感じる程の絶大な支持を得ていた。
そしてどこから知り得たのか、南半球に倣ってお地蔵さんが『イヤーズ』では沢山造られていた。
今では国の有りとあらゆる所でお地蔵さんを見かける。
そしてそこらじゅうで『聖者の祈り』が散見されていた。
その様を見て守も諦めるしか無かった。
中には創造神では無く、守にそっくりなお地蔵さんもあったのだが、それを嫌がる事を『イヤーズ』の国民の嬉しそうな顔を見て、守も押し黙ってしまっていた。
いい加減守も腹を括ったのかもしれない。
そうなるぐらい『イヤーズ』の国民の守に対する信仰心は絶大だった。
少し話は脱線するが、北半球の発展の最中に、オンタイムで放送出来る魔水晶の技術に寄って、画期的な開発が成されていた。
新たな娯楽と北半球ではそれは受け入れられていた。
それはまるでテレビを彷彿とさせた。
実はこれをゼノンに入れ知恵したのはノンである。
テレビ大好きなノンは、日本にはこんな物が有るとゼノンに教えていたのだった。
そのコンテンツや内容に至るまで。
それをゼノンはパクらない訳が無い。
映像大好きなゼノンなのだから。
チャンネルは一つしかないが、なんちゃってテレビが各国に五台以上提供されたのである。
各国の人々の集まる街頭に魔水晶が設置され、不定期に放送がなされていたのである。
この放送に寄ってテレビコマーシャルも放送される様になり、ある意味テレビ局と化したゼノンは大金持ちになっていた。
そしてそれを大好きな映画の製作費に回していた。
これで守は出資から手を離せると満足げにしていた。
そしてこのなんちゃってテレビは、新たな娯楽として各国で受け入れられていた。
特にたまに放映される映画には齧りつくように見る者が後を絶たなかった。
『島野一家のダンジョン冒険記』は北半球の国民では知らない者はいなかったぐらいだ。
その際には広場には屋台が集まり、お祭りと言える程の賑わいを見せていた。
実は始めにコマーシャルを作製したのは守である。
島野商事の資金でおいて『サウナ島』のスーパー銭湯を宣伝していたのである。
これに寄って『サウナ島』のスーパー銭湯は北半球で強烈な興味を得ていた。
誰もが一度は行きたいと胸を弾ましていたのである。
北半球の国民は『サウナ島』に想いを募らせるばかりであった。
それに倣ってゼノンも自らの映画を宣伝していた。
この宣伝も北半球の国民にとっては嬉しい娯楽となっていた。
そして『ドラゴム』の映画館に人は集まっていた。
それはそうであろう、そもそも国民達はコマーシャルを知らない。
その意味を知るのには数年も掛かったのである。
守の行った『サウナ島』のスーパー銭湯のコマーシャルのバックに流れている歌は、その後誰もが知らない者はいない歌となっていた。
歌を歌ったのは勿論オリビアである。
少々意外だったのは、この歌の作曲はノンが行ったものであった。
ノンはキャッチーなメロディーを造るのが実は得意だった様である。
というより日本のテレビを模倣していたに過ぎないのだが・・・
そしてこのテレビシステムをしれっとパクったのが守である。
流石に北半球での放送は南半球には届かなかった。
守は島野商事の資金を使って魔水晶を搔き集め、ゼノンに知恵を貸したのだからと、脅す様に『同調』魔法で魔水晶を繋げさせていた。
そして島野商事プレゼンツとして南半球でなんちゃってテレビを広めていた。
テレビ局の局長に就任したのは安定のエリカだった。
彼女の活躍は測り知れない。
でもよくよく考えてみれば、テレビの有用性を理解しているのはエリカ以外には居なかったのだ。
彼女の地球での知識がここでも生きていた。
実に働きづめのエリカであった。
でも嬉しそうに働くエリカには頭が下がる思いである。
話を戻すが、『イヤーズ』のスーパー銭湯は守が抱いた思いを体現していた。
北半球の平和の象徴としてその存在感を発揮していたのである。
『サウナ島』のスーパー銭湯にも劣らない、最高の娯楽施設であり、誰もが行きたがる魅惑の施設となっていた。
連日お客は後を絶えず、後に増床を繰り返す程の施設となっていた。
誰もがスーパー銭湯を楽しみ、その施設に行くことを夢に見ていた。
最高の娯楽施設が北半球に誕生したのである。
それを守は感慨深く眺めていた。
穏やかな笑顔を添えて。
そして北半球の者達は敬意を込めてこのスーパー銭湯をこう誇称した。
『神様のサウナ』
大きな感謝と最大限の愛情を込めて。
誰もがその様に話していた。
ここに誰もが愛して止まない娯楽施設が出来上がったのである。
更に『イヤーズ』はサウナ島を真似て、独自の発展を遂げていた。
国内では普通にホバーボードや、自転車を見かける。
面白い事に二人で漕ぐタイプの自転車も見かけたりする。
これは守が悪乗りしてエルメスと造った物である。
でも夫婦やカップルがデートにはこれでしょ?と何故か流行ってしまった。
作った守とエルメスも首を傾げていた。
二人はふざけて造っただけである。
宿屋やレストランは当たり前の様に建設され、極め付きはサウナビレッジを真似たサウナ施設まで出来上がっていた。
予約を取ろうものなら半年は待たなければいけない。
裏で糸を引いたのは守であるが、それを守は口外するなと箝口令を敷いていた。
国の総意としてこれを造ったことにしろと、国の上層部には徹底させていた。
その意図としては『イヤーズ』は守からサウナの免許皆伝を受けた国であると思わせる事にあったのだ。
それと知った国の上層部は守に対して更なる信仰心を高めていた。
そこまでしてくれるのかと、感謝の念が堪えなかったのだ。
これにて『イヤーズ』の復興と繁栄は約束されたのだった。
発展を遂げた北半球は次に南半球との交流を望んだ。
ここに関しては守もこれまで簡単には認めてこなかった。
極一部の認められた者達しか交流は認められてこなかったのである。
それは魔物達と神、そして国の重要人物のみである。
それは何も北半球からの渡航者だけではない、南半球からの渡航者も同一であった。
もうラファエルの影響はゼロに等しい、南半球に仇なす者はもういないだろう。
問題はそこでは無かった。
その理由はまだその段階に無いと守は考えていたからである。
より具体的に言うならば、文化のレベルにまだ差があったからだ。
此処を埋めることは簡単ではない。
守が危惧したのは文化レベルの高い者が、文化レベルの低い者を搾取する可能性があると考えたからだ。
より分かり易く言うとタイロンの商人達が、北半球で荒稼ぎするという事が有りうるからだった。
稼ぐこと自体は問題では無い。
その方法が人の道から外れた物になる可能性があると考えたのだ。
要は詐欺や騙しといった行為が人知れず横行すると思われたからだ。
その事が守には充分に想像出来ていた。
未来を予測することなど、今の守にはお手のものなのである。
そしてその危険性もそろそろ薄れてきているとも守は考えていた。
遂に交流の時期が訪れたのだと。
これまでの転移扉の運用は、神、又は神の能力を使える者に限られてきた。
転移扉はこの世界には今では無くてはならない神具となっている。
そしてそれの恩恵を受けている者が大半であった。
移動には資金が必要で、その中心にはサウナ島があった。
この転移扉を様々な者が移動手段として利用し、各々の目的に応じてその利用がされてきた。
世界を変えてしまった神具である。
その移動速度は今の日本以上のものである。
南半球の者達のほとんどがその恩恵を受けていた。
既に北半球には転移扉のネットワークが出来上がっている。
その中心には『シマーノ』があった。
サウナ島を模して、転移扉の受付所があり、そこの運営を『シマーノ』の魔物達と北半球の神達とエアーズロックの分身体が行っていた。
正直言って手は足りていなかった。
時に見かねて南半球の神達が手を貸すこともあったぐらいだ。
そこで守は信用のおける人物にのみに実験的にあることを行っていた。
それはあのラファエルが神気を溜めに溜め捲った神石を使う方法だった。
ここにあの神石が生きてきたのである。
利用方法は簡単である。
神石を転移扉のドアノブにくっ付ければ転移扉を開く事が出来る。
問題は誰が転移扉を潜る者達を選別するのかである。
守はここは慎重に事を運んだ。
そこで同盟国に守はお達しをした。
それは、
「各国内で信用に足る人物で、かつ人を見る能力に長けた者を二名選出しろ」
というものだった。
そして各国選別された者達が守の面接を受けることになっていた。
面接官が守であることに面接の参加者達は全員が委縮していた。
でもそこは選び抜かれた者達である。
全員が守のお眼鏡に叶ったのだった。
そしてその者達は前面に出て転移扉を潜っていい者を選別することを行わなかった。
その理由はその権限を知られることで、要らない賄賂や接待等を受けない為であった。
目立たずその職務を全うする様に手配はされていた。
完全シークレットは徹底されていた。
それを破った者は追放するとされていた。
仕組みは簡単である。
転移扉の利用の申請を受けた者を、先ずは書類審査を行い、そして面接を行う。
それを面接官として参加せず、別室でそれを魔水晶で見守るのだ。
ここでもゼノンの同調した魔水晶が力を発揮していた。
面が割れる訳にはいかないと、各国はここはシークレットを貫いた。
実際誰が転移扉を潜る権限を持っているのかと、国民達は捜索を始めていた。
中には懸賞金をかける貴族まで現れた。
だがそんな貴族達は数日後にはアラクネ達に連行されていた。
全員がとにかく転移扉を利用したくて溜まらなかったのだ。
その気持ちはよく分かる。
それ程までに北半球の者にとっては『サウナ島』は魅惑の楽園であったのだ。
そしてその仕組みは南半球でも運用された。
神様ズは手が離れたと喜ぶ者と、報酬が減ったという一部の者に分かれた。
ここは守は敢えて無視していた。
報酬が減ったという一部の者を呆れていただけであるのだが。
それはゴンガスのみであったことは記しておこう。
こうして実験段階を経て、遂に北半球と南半球の交流が始まったのである。
この世界は平和に満ちた世界となっていた。
世界は神気に満ち溢れ、時に世界は金色に色を染めた。
神への崇拝と、尊敬の念に世界は包まれていた。
そして人々は神に成ることを目指した。
ある者は一芸を極めようと、ある者は慈悲深くあろうと。
そしてある者は得を積もうと。
人類は神に至る道へと歩を進めたのだった。
人類は次の段階に移り始めていたのだ。
世界が変わり始めていた。
世界は大きく変貌を遂げようとしていたのである。
人類の進化はまだ始まったばかりであった。
構想から一年、実に守の拘りの詰まったスーパー銭湯が出来上がっていた。
守はここの運営は『イヤーズ』に任せると、ノウハウだけを伝授していた。
建設も自ら行わず、知恵を貸しただけに過ぎない。
そうした事には意味があった。
それは自らの力で復興を果たしたと国民達に達成感を得させる為だった。
島野様に造って貰ったでは意味が無い。
復興とは自らの力で成し遂げる物であると守は考えていたからだった。
守は草案と必要な知識を与えただけである。
でもやはりここは口を挟まずにはいられない守であった。
ここは他の娯楽とは訳が違う、事はスーパー銭湯とサウナなのだから。
守は拘りを散々ぶちまけた。
それは『イヤーズ』の大工達を困らせる程に。
でもその想いを感じ取った大工達は自然と姿勢を改めていった。
それは守がここまで言うという事には、これまでに以上に重要な事なのだと受け止めていたからだった。
本当は違っている。
守は好きなスーパー銭湯とサウナに妥協をしたくなかっただけに過ぎない。
でも大工達はそうとは受け取っていなかった。
というのも、他の国々のアドバイスをする守の様を伝え聞いていたからだった。
その守とは余りに違う様相に期待を寄せていたのだった。
これはこれまでとは違うと、我らの神は本気なのだと胸を躍らせていたのだった。
せっかくなので守の拘りの一部紹介しておこう。
サウナの収容人数は二百名、最上段にはなんと畳が敷かれている。
その意図はサウナで寝ても良い事にある。
サウナで横になる事はご法度である。
それを解禁したということだ。
但しサウナマットはちゃんと敷かないといけない、ここは徹底されていた。
そしてこのサウナはなんちゃって水筒が持ち込み可能となっていた。
これもご法度破りである。
サウナ内に飲料を持ち込むなど厳禁である。
なんちゃって水筒には熱くて持てなくならない様に、ゴムが持ち手の部分に巻かれている。
水筒の中身はアロマ水と水、そして麦茶に限られている。
全てスーパー銭湯で無料で提供されている飲料である。
もしアルコールを持ち込んだら出禁になると声高々に宣言されていた。
流石のゴンガスもこれには従っていた。
以前に守から烈火の如く叱られたからである。
サウナ島から追い出すと、見かねた守が遂にその重たい腰を挙げたのである。
もう見逃さないと守は珍しく本気で叱っていた。
アルコール摂取後のサウナは厳禁であると。
やれやれである。
更には水風呂は最深部で三メートルの深さとなっていた。
掛け水後にはドボンと飛び込み可能である。
潜水行為もしてもいい。
これもご法度破りである。
実際に建設に力を貸したのは、オクボスとゴブロウ率いる魔物大工集団である。
こいつらにとっては念願のスーパー銭湯建設である。
これは二人にとっての夢でもあった。
それに二人はそもそも『サウナ島』のスーパー銭湯が大好きなのである。
休日には必ず訪れる程の嵌りっぷりなのだ。
更にあの伝説のスーパー銭湯の奇跡の突貫工事に二人は従事していた。
スーパー銭湯建設が嬉しくない訳が無い。
二人は前に一度守からスーパー銭湯を造ってみるかと言われていた事があった。
その当時の想いがあるのだろう、いつも以上に力が入っている様に見受けられた。
実際この二人の活躍は凄まじかった。
ランドールの元で学び、そして免許皆伝を受けてからもその技術の向上に勤めてきていたのだから。
この二人にとっては、この為に守から名を授けられたと感じていたぐらいなのだから。
二人は鼻息荒く勤しんでいた。
でも笑顔は常に絶やさなかった。
嬉しくてしょうがなかったのである。
スーパー銭湯の建設に足らない資材等は『シマーノ』から調達されていた。
実にこのスーパー銭湯には魔物達が積極的に力を貸していた。
魔物達にとってはスーパー銭湯には格別な想いがあるのだろう。
自分達が力を貸したという実績を残したいみたいだった。
誰もが積極的に力を貸していた。
唯一問題になったのは運営する上での人材の少なさであった。
まだまだ国民は『イヤーズ』に戻って来てはいなかったのである。
そこで守は『イヤーズ』に隣接するスレイブの森に棲む魔物達に加護を与えた。
スレイブの森にはゴブリンやオークが多数存在していたのだ。
それを知ったプルゴブやオクボスはとても喜んでいた。
同族と手を取り合えると意の一番に駆けつけていた。
そして守に寄って『イヤーズ』は魔物達が闊歩する国となっていた。
最初は及び腰の国民もいたが、守が良き隣人と仲良くしろよとの魔水晶のからのメッセージに寄って簡単にそれは受け入れられていた。
守が唯一手を貸したのはこれぐらいである。
後は拘りをサウナにぶつけたに過ぎない。
でも『イヤーズ』の国民にしてみたらこの見守られている事だけでも、とても心強かったのである。
あの島野様が国に訪れてくれた。
あの島野様が知恵を貸してくれた。
あの島野様が見てくれている。
『イヤーズ』では守は国を救った英雄扱いである。
誰しもが守を始め、島野一家を崇拝していた。
守は本当はそうして欲しくはなかったのだが、そうなってしまっていた。
守は『イヤーズ』の国民には、一度崇拝や宗教的な感覚からは離れて欲しいと考えていたのだが、そうは成らなかった。
本物の神を得たと国民の信仰心はとても高まっていたのだ。
ラファエルの宗教などちんけに感じる程の絶大な支持を得ていた。
そしてどこから知り得たのか、南半球に倣ってお地蔵さんが『イヤーズ』では沢山造られていた。
今では国の有りとあらゆる所でお地蔵さんを見かける。
そしてそこらじゅうで『聖者の祈り』が散見されていた。
その様を見て守も諦めるしか無かった。
中には創造神では無く、守にそっくりなお地蔵さんもあったのだが、それを嫌がる事を『イヤーズ』の国民の嬉しそうな顔を見て、守も押し黙ってしまっていた。
いい加減守も腹を括ったのかもしれない。
そうなるぐらい『イヤーズ』の国民の守に対する信仰心は絶大だった。
少し話は脱線するが、北半球の発展の最中に、オンタイムで放送出来る魔水晶の技術に寄って、画期的な開発が成されていた。
新たな娯楽と北半球ではそれは受け入れられていた。
それはまるでテレビを彷彿とさせた。
実はこれをゼノンに入れ知恵したのはノンである。
テレビ大好きなノンは、日本にはこんな物が有るとゼノンに教えていたのだった。
そのコンテンツや内容に至るまで。
それをゼノンはパクらない訳が無い。
映像大好きなゼノンなのだから。
チャンネルは一つしかないが、なんちゃってテレビが各国に五台以上提供されたのである。
各国の人々の集まる街頭に魔水晶が設置され、不定期に放送がなされていたのである。
この放送に寄ってテレビコマーシャルも放送される様になり、ある意味テレビ局と化したゼノンは大金持ちになっていた。
そしてそれを大好きな映画の製作費に回していた。
これで守は出資から手を離せると満足げにしていた。
そしてこのなんちゃってテレビは、新たな娯楽として各国で受け入れられていた。
特にたまに放映される映画には齧りつくように見る者が後を絶たなかった。
『島野一家のダンジョン冒険記』は北半球の国民では知らない者はいなかったぐらいだ。
その際には広場には屋台が集まり、お祭りと言える程の賑わいを見せていた。
実は始めにコマーシャルを作製したのは守である。
島野商事の資金でおいて『サウナ島』のスーパー銭湯を宣伝していたのである。
これに寄って『サウナ島』のスーパー銭湯は北半球で強烈な興味を得ていた。
誰もが一度は行きたいと胸を弾ましていたのである。
北半球の国民は『サウナ島』に想いを募らせるばかりであった。
それに倣ってゼノンも自らの映画を宣伝していた。
この宣伝も北半球の国民にとっては嬉しい娯楽となっていた。
そして『ドラゴム』の映画館に人は集まっていた。
それはそうであろう、そもそも国民達はコマーシャルを知らない。
その意味を知るのには数年も掛かったのである。
守の行った『サウナ島』のスーパー銭湯のコマーシャルのバックに流れている歌は、その後誰もが知らない者はいない歌となっていた。
歌を歌ったのは勿論オリビアである。
少々意外だったのは、この歌の作曲はノンが行ったものであった。
ノンはキャッチーなメロディーを造るのが実は得意だった様である。
というより日本のテレビを模倣していたに過ぎないのだが・・・
そしてこのテレビシステムをしれっとパクったのが守である。
流石に北半球での放送は南半球には届かなかった。
守は島野商事の資金を使って魔水晶を搔き集め、ゼノンに知恵を貸したのだからと、脅す様に『同調』魔法で魔水晶を繋げさせていた。
そして島野商事プレゼンツとして南半球でなんちゃってテレビを広めていた。
テレビ局の局長に就任したのは安定のエリカだった。
彼女の活躍は測り知れない。
でもよくよく考えてみれば、テレビの有用性を理解しているのはエリカ以外には居なかったのだ。
彼女の地球での知識がここでも生きていた。
実に働きづめのエリカであった。
でも嬉しそうに働くエリカには頭が下がる思いである。
話を戻すが、『イヤーズ』のスーパー銭湯は守が抱いた思いを体現していた。
北半球の平和の象徴としてその存在感を発揮していたのである。
『サウナ島』のスーパー銭湯にも劣らない、最高の娯楽施設であり、誰もが行きたがる魅惑の施設となっていた。
連日お客は後を絶えず、後に増床を繰り返す程の施設となっていた。
誰もがスーパー銭湯を楽しみ、その施設に行くことを夢に見ていた。
最高の娯楽施設が北半球に誕生したのである。
それを守は感慨深く眺めていた。
穏やかな笑顔を添えて。
そして北半球の者達は敬意を込めてこのスーパー銭湯をこう誇称した。
『神様のサウナ』
大きな感謝と最大限の愛情を込めて。
誰もがその様に話していた。
ここに誰もが愛して止まない娯楽施設が出来上がったのである。
更に『イヤーズ』はサウナ島を真似て、独自の発展を遂げていた。
国内では普通にホバーボードや、自転車を見かける。
面白い事に二人で漕ぐタイプの自転車も見かけたりする。
これは守が悪乗りしてエルメスと造った物である。
でも夫婦やカップルがデートにはこれでしょ?と何故か流行ってしまった。
作った守とエルメスも首を傾げていた。
二人はふざけて造っただけである。
宿屋やレストランは当たり前の様に建設され、極め付きはサウナビレッジを真似たサウナ施設まで出来上がっていた。
予約を取ろうものなら半年は待たなければいけない。
裏で糸を引いたのは守であるが、それを守は口外するなと箝口令を敷いていた。
国の総意としてこれを造ったことにしろと、国の上層部には徹底させていた。
その意図としては『イヤーズ』は守からサウナの免許皆伝を受けた国であると思わせる事にあったのだ。
それと知った国の上層部は守に対して更なる信仰心を高めていた。
そこまでしてくれるのかと、感謝の念が堪えなかったのだ。
これにて『イヤーズ』の復興と繁栄は約束されたのだった。
発展を遂げた北半球は次に南半球との交流を望んだ。
ここに関しては守もこれまで簡単には認めてこなかった。
極一部の認められた者達しか交流は認められてこなかったのである。
それは魔物達と神、そして国の重要人物のみである。
それは何も北半球からの渡航者だけではない、南半球からの渡航者も同一であった。
もうラファエルの影響はゼロに等しい、南半球に仇なす者はもういないだろう。
問題はそこでは無かった。
その理由はまだその段階に無いと守は考えていたからである。
より具体的に言うならば、文化のレベルにまだ差があったからだ。
此処を埋めることは簡単ではない。
守が危惧したのは文化レベルの高い者が、文化レベルの低い者を搾取する可能性があると考えたからだ。
より分かり易く言うとタイロンの商人達が、北半球で荒稼ぎするという事が有りうるからだった。
稼ぐこと自体は問題では無い。
その方法が人の道から外れた物になる可能性があると考えたのだ。
要は詐欺や騙しといった行為が人知れず横行すると思われたからだ。
その事が守には充分に想像出来ていた。
未来を予測することなど、今の守にはお手のものなのである。
そしてその危険性もそろそろ薄れてきているとも守は考えていた。
遂に交流の時期が訪れたのだと。
これまでの転移扉の運用は、神、又は神の能力を使える者に限られてきた。
転移扉はこの世界には今では無くてはならない神具となっている。
そしてそれの恩恵を受けている者が大半であった。
移動には資金が必要で、その中心にはサウナ島があった。
この転移扉を様々な者が移動手段として利用し、各々の目的に応じてその利用がされてきた。
世界を変えてしまった神具である。
その移動速度は今の日本以上のものである。
南半球の者達のほとんどがその恩恵を受けていた。
既に北半球には転移扉のネットワークが出来上がっている。
その中心には『シマーノ』があった。
サウナ島を模して、転移扉の受付所があり、そこの運営を『シマーノ』の魔物達と北半球の神達とエアーズロックの分身体が行っていた。
正直言って手は足りていなかった。
時に見かねて南半球の神達が手を貸すこともあったぐらいだ。
そこで守は信用のおける人物にのみに実験的にあることを行っていた。
それはあのラファエルが神気を溜めに溜め捲った神石を使う方法だった。
ここにあの神石が生きてきたのである。
利用方法は簡単である。
神石を転移扉のドアノブにくっ付ければ転移扉を開く事が出来る。
問題は誰が転移扉を潜る者達を選別するのかである。
守はここは慎重に事を運んだ。
そこで同盟国に守はお達しをした。
それは、
「各国内で信用に足る人物で、かつ人を見る能力に長けた者を二名選出しろ」
というものだった。
そして各国選別された者達が守の面接を受けることになっていた。
面接官が守であることに面接の参加者達は全員が委縮していた。
でもそこは選び抜かれた者達である。
全員が守のお眼鏡に叶ったのだった。
そしてその者達は前面に出て転移扉を潜っていい者を選別することを行わなかった。
その理由はその権限を知られることで、要らない賄賂や接待等を受けない為であった。
目立たずその職務を全うする様に手配はされていた。
完全シークレットは徹底されていた。
それを破った者は追放するとされていた。
仕組みは簡単である。
転移扉の利用の申請を受けた者を、先ずは書類審査を行い、そして面接を行う。
それを面接官として参加せず、別室でそれを魔水晶で見守るのだ。
ここでもゼノンの同調した魔水晶が力を発揮していた。
面が割れる訳にはいかないと、各国はここはシークレットを貫いた。
実際誰が転移扉を潜る権限を持っているのかと、国民達は捜索を始めていた。
中には懸賞金をかける貴族まで現れた。
だがそんな貴族達は数日後にはアラクネ達に連行されていた。
全員がとにかく転移扉を利用したくて溜まらなかったのだ。
その気持ちはよく分かる。
それ程までに北半球の者にとっては『サウナ島』は魅惑の楽園であったのだ。
そしてその仕組みは南半球でも運用された。
神様ズは手が離れたと喜ぶ者と、報酬が減ったという一部の者に分かれた。
ここは守は敢えて無視していた。
報酬が減ったという一部の者を呆れていただけであるのだが。
それはゴンガスのみであったことは記しておこう。
こうして実験段階を経て、遂に北半球と南半球の交流が始まったのである。
この世界は平和に満ちた世界となっていた。
世界は神気に満ち溢れ、時に世界は金色に色を染めた。
神への崇拝と、尊敬の念に世界は包まれていた。
そして人々は神に成ることを目指した。
ある者は一芸を極めようと、ある者は慈悲深くあろうと。
そしてある者は得を積もうと。
人類は神に至る道へと歩を進めたのだった。
人類は次の段階に移り始めていたのだ。
世界が変わり始めていた。
世界は大きく変貌を遂げようとしていたのである。
人類の進化はまだ始まったばかりであった。

