ゴンとノンから『念話』が入った。
迎えに来てくれということだ。
準備は整ったみたいだ。
さて、タクシー代わりに成りましょうかね。

「スターシップ、今連絡が入った、迎えに行ってくる」

「はっ!お待ちしております」
スターシップは席から立ち上がった。
それに倣って全員が席を立つ。
魔物達が実に誇らしそうな表情をしていた。

「じゃあ、後でな」
フュン!
ニヒルな笑顔を残して俺は転移した。



先ずはゴン達を迎えに行くことにした。
ゴンの元に転移すると、国王と思わしき者と数名のお付きの者達が跪いて俺を待っていた。
流石は生徒会長兼風紀委員長のゴンだ、躾が成っている。
礼儀に煩いゴンの事だから、こんな事だろうなとは思っていたが、案の定だ。
国王でも締め上げたに違いない。
国王らしき男性がこちらを見上げていた。

「島野様、私はルミル・ノワール・エスペランザで御座います、先ほど王位を継いだ者となります」
はて?先ほど王位を継いだ?

「ちょっと待て、先程王位を継いだとはどういうことだ?」
誇らしそうな表情でゴンが前に出てきた。

「主、それは前の国王は無礼者であり、こいつの方が話が分かると判断した為、その様にすることにさせました」
はあ?ゴンお前何やってくれてんだ?
思いっきり内政干渉してるじゃないか!

「・・・」
俺は困った顔をしていたのであろう。
大臣の一人が助け船を出してきた。

「島野様、ご安心ください。先の王は政治に興味が無く、自らも国王を止めたいと申しておりました。また、我々としても弟のルミル様の方が断然国王になるべきと考えていた所存で御座います」

「そうなのか?」

「はっ!『エスペランザ』は代々長男が国王を世襲する慣習でしたが、これによって不毛な慣習は撤廃出来そうです」
あれまぁ、やっちまったなあ。

「左様で御座います」

「仰る通りかと」

「感謝致します」
他の大臣達も続く。
それを困った表情でルミルが眺めていた。

「ルミル、お前本当にそれでいいのか?」
思わず尋ねてしまっていた。

「・・・こう言われてしまうと私がやるしか無いようです」
ルミルは首を横に振っていた。

「そうか、じゃあお前も腹を決めるんだな!」
ルミルは切り替えの早い奴みたいだ。

「はっ!やってやります!」
やる気の表情に変わっていた。
にしても、ゴンがやる気を出すとなんかちぐはぐになるんだよな。
前にも似たような事がなかったっけ・・・
気の所為か?
まあいいや。

「悪いが人を待たせている、早速転移するがいいか?」

「御意に」
俺はゴンとエル、国王とその一団を連れて『シマーノ』の記念館にある会議室の前に転移した。
ルミル国王とその一団が慄いていた。
初めての転移はこんな物だろう、最早見慣れた光景だ。
直に慣れるよってね。

「入って良いのは、国王と付き人一人までだ、俺は先を急ぐ、ゴン、エル後は任せる」

「はい!」

「はいですの!」
二人の返事を聞いてから、今度はノン達を迎えに行くことにした。
この調子じゃあ、こっちも何かありそうだな。
やれやれだ。
フュン!



ノンとクモマルの所に転移すると何故か大歓迎で迎えられてしまった。
それも国王と思わしき人物と大臣の一団はウェーブを行っている。
当然の様にノンがそのウェーブの中心におり、指揮を執って煽っていた。
その一団の脇でクモマルが頭を抱えていた。
ノンはほんとにふざけている。
やりたい放題だな。
何が楽しいんだろう。

でも実はこれは俺の狙いだったりもするのだ。
『イヤーズ』はこれまでの他国とは違い、今や存続の危機を迎えている国だからだ。
暗くて当然だ。
少しでも明るくしたい。
それぐらい宗教の解散はインパクトがデカかったのだ。
ラファエルが居なくなったことで、インフラも使用を制限しているとクモマルからは報告を受けていた。
まだラファエルに遠慮があるのだろう。
それぐらい洗脳から抜け出せたとしても、影響は残り続けるということだ。
実際国の大半をラファエルが支配していたのだから。
それに洗脳が解けたと言っても、その後遺症はあるものだ。

その為、国の重鎮達は半端なく落ち込んでいるだろうと考えた。
であればノンぐらいのお調子者が騒ぎ立てるぐらいで丁度良いと思ったからだ。
ここは気分を変えようということだ。
実際吹っ切れたのか、国王達は嬉しそうにしている。
笑顔が溢れていた。

「島野様!お待ち申し上げておりました!」

「歓迎致します!」

「遂に御尊顔を見ることが叶いました!」
何とも奇妙な歓迎を受けてしまっていた。

「分かったからもう止めろ!そこまでだ!」
ノンが食い気味で突っ込んだ。

「ええー、もうちょっとやろうよー」
物足りないのかそう言っていた。

「駄目だ、それよりも少し話をしよう。いいか?」
動くのを止めた一団は俺に向き直った。
数名が跪こうとしたのを俺は手を挙げて制した。
この国はさっさと行こうかという訳にはいかない、全く事情が違う。

「メッセージでも伝えたが、ラファエルは死んだ。そのことで国に混乱が有ると思うがどうなっているのか説明して貰えないか?」
大臣の一人であろう初老の男性が前に出てきた。

「島野様、私し『イヤーズ』の内務大臣をしております、ケレスと申します」
ケレスは仰々しくお辞儀をしていた。

「そうか」

「私しめがご説明させて頂きます」

「分かった」
俺は頷いた。

「教祖の行方が分からなくなってからおよそ半年になります、死亡した事は先ほど存じ上げました。教祖が所有していた財産や土地は今後国が管理することになりますが、問題はインフラになります」

「というと?」

「死亡した事により、土地や貨幣に関しては国が接収することが可能ですが、契約魔法の契約を基に造られた上下水道や、馬車の定期便や魔道具等の利権は国が接収することが出来ないのです」

「それは契約魔法で縛られているからということか?」

「そうなります、契約魔法はその内容にも拠りますが、契約者本人が死亡した際の覚書が無ければ永久的に権利が行使されます。教祖と結んだ契約では死亡した際の覚書は締結されておりませんので」
なるほどな。

「であれば契約魔法を無効化すればいいじゃないか?」

「それを出来る程の腕前の魔法士が『イヤーズ』にはおりません」
ここはゴンの出番だな。
先程はやらかしてくれたから働きなさいよ、ゴンさんや。

「大丈夫だ、家の聖獣で契約魔法が得意な者が居る、その契約は破棄しよう」
この発言に国王一同がざわつく。

「おお!それは!」

「何としたことか!」

「これで国が復興出来るぞ!」

「ああ・・・やっと解放される」
ノンがへらへらと前に出てきた。

「よかったね!」

「おお!ノン様!」

「ありがとうございます!」

「嬉しいです!」
そんなノンを理解不能と無表情でクモマルが見つめていた。
俺が来る前に何があったっていうんだ?
まあいいだろう。

「ということだ、他に問題はあるか?」
ここで国王が前に出てきた。

「申し遅れました、私は『イヤーズ』の国王、ラズベルト・フィリス・イヤーズと申します」
少し草臥れた印象を受ける男性だった。
これまでラファエルには洗脳されたり、無理難題を押し付けて来られたのだろう。
その表情に苦労が滲み出ていた。

「そうか」

「島野様には感謝しかありません、ラファエルから救って貰い、その上この様なご処置まで・・・『イヤーズ』の国民を挙げて感謝致します!」
そう言うとラズベルトは跪いた。
それに倣って他の者も跪く。

「私共はあなた様に従います!何なりとお申し付け下さいませ!」
勘弁してくれよ、もういいってそういうのはさ。

「止めてくれ!もうそういうのは要らない、充分足りてるから!」

「いえ!そんなことはおっしゃらず!」

「そうです!遠慮しないで下さい!」

「何なりと!」
こいつら・・・分かってないなあ。

「そうじゃなくて・・・あーもう!お前達はやっとラファエルの支配から逃れられたんだろう?ここからが大事なんだろ?俺のことなんて構ってちゃいけないだろうが!国を立て直す必要があるだろうが!」

「それはそれです、それに同盟を結べれば国の立て直しは可能です」
くそぅ、胡麻化せれなかったか。
なかなか食い下がってくれなさそうだな。

「じゃなくてさ・・・崇拝とか忠誠とか、そういう物から一端距離を置いたらどうなんだ?」

「それは・・・」

「確かに・・・」

「盲目になっておりましたな」
やったか?
ケレスが立ち上がって狼煙を挙げた。

「否!島野様、失礼ながら申し上げます!我等は偽の神を崇拝していた身ではあります、しかしながら我々はそれを知っているからこそ、本物を分るのです!忠誠を誓わせて下さい!」
この発言で風向きが変わってしまった。
この野郎!・・・はあ・・・しょうがないか・・・

「そうです!本物万歳!」

「我が忠誠を捧げます!」

「真なる神!」
ここでこれまで控えていたクモマルが前に出てきた。

「お前達!いい加減にしなさい!我が主が困っているのが分かりませんか!それぐらいになさい!それよりもお客様がお待ちです、先を急ぎましょう」
おお!クモマル!良い仕事するねー!
グッジョブだ!

「と言う事だ、俺の事はどうでもいいから『シマーノ』に行くぞ!同盟に加入出来るかはお前達次第なんだからな、分かっているのか?」
不意に会場に沈黙が流れた。

「・・・」

「と、いいますと?」

「えっ!」
そうか!
こいつらも知らないんだった。
あー、もう面倒臭いなあ!

「あのなあ、教えておくけど『サファリス』と『オーフェルン』の戦争を引き起こしたのは、何を隠そうあのラファエルなんだぞ」

「「「ええーーー!!!」」」
驚きを隠せないみたいだ。
中には仰け反っている者もいた。

「今は『サファリス』と『オーフェルン』は終戦を迎えて歓迎ムードだが、事の次第によっては、お前達は戦争の責任を問われる可能性があるんだからな、分かっているのか?とても重要なことなんだぞ」

「・・・そうだったのか」

「知らなかった・・・」

「嘘でしょ」
全員茫然としていた。
やっと現状を理解できたみたいだ。
話しておいて良かったー、何もせず乗り込んでいたら終わっていたな。

「だから入らせて欲しいからと言って、同盟国に成れるとは限らないんだぞ。いい加減気を引き締めろ!」
そう言う俺にノンが割って入った。

「大丈夫だよ、主が居るからさ」
ノンさんや、勝手な事を言わないでくれるかな?
何でも俺に任せるではいけませんよ。

「ノン兄さん!いい加減にして下さいよ!」
クモマルは気合が入ってるなー。

「何言ってるのさ、クモマル、主に策がない訳ないでしょ?」
この野郎!・・・はあ・・・もういいや。
先回りされるのって、なんか無気力になるな。

「そうなのですか?我が主?」

「まあ・・・無い事は無い・・・」

「ほらね」
ノンは勝ち誇った顔をしていた。
なんかノンの奴、変な所で神様ズに似て来てないか?
驚きの表情でクモマルが俺を見ていた。

「いいから行くぞ!良いな!」
不安を隠せない表情で『イヤーズ』の一同は俺を見ていた。

「返事は?!」

「「「「「はい!!!!!」」」」」
俺は一同を伴って『シマーノ』に転移した。



『シマーノ』にイヤーズの一団を従えて戻ってくると、そこにはクロマルが控えていた。
何時もの如く跪くクロマル。
忍者スタイルは変わらない。

「島野様、ご報告があります」
クロマルは眼も会わせない、忍者スタイルは徹底されている。

「どうした?」

「ダイコク様とポタリー様がお越しです、今は別室で控えて貰っておりますが、如何なさいましょうか?」
おっと!ダイコクさんは未だしも、ポタリーさんまで来るとはな。
少々以外だ。
でも北半球の行く末が気になったんだろう、あの人も慈悲深い人だからね。

「そうか、会いに行こう」

「はっ!仰せの儘に」
俺は『イヤーズ』の一団に声を掛けた、

「ちょっと急用が出来たみたいだ、一先ず国王とお付きの者は一人だけ中に入っていてくれ、他の者達は好きにしてくれていいぞ」
ルミルが答える。

「承知しました」
俺はクロマルとダイコクさん達が控える別室に向かうことにした。



別室に着くと我物顔のダイコクさんが寛いでいた。
ポタリーさんはそんなダイコクさんを残念そうに見つめている。

「お二人も来たんですね?」

「それはそうやで、来ん訳にはいかんがな」
いつものひょうきんな顔で答えていた。

「旦那、すまないね。あたいもどうしても気になってね」
それはそうだろうな。

「ちょうど出揃った所です、行きましょうか?」
ダイコクさんが姿勢を正した。

「ちょっと待ちいな、島野はん、あんた何を考えとんねん」

「というと?」

「『イヤーズ』やがな、あそこまで同盟に交じる必要があるんかいな?」

「旦那、あたいもそこが気になってねえ」
なるほどな、言いたいことは分かる。

「必要はありますよ」

「どういう事やねん」
ポタリーさんも前のめりになっている。

「ここで戦争の影を全て払拭する為には『イヤーズ』の参加無くしては始まらないですよ、終戦したとしてもまだまだ禍根は残っています。それにここでラファエルの件の後始末を終わらせたいんですよ」

「・・・」
二人は無言だった。

「戦争の原因がここに来て詳らかになりました、原因はラファエルです『イヤーズ』は見方によってはこれに加担した事になります」

「そうやな」

「責任を問われかねないねえ」

「そう思われる節はあるでしょう、でもそれは百年以上前に居た者達であって、その子孫までそこに加えるのはおかしいでしょう?」
二人は顔を見合わせていた。

「それにここでラファエルのやったことを全部清算しておく必要があると俺は考えています」

「旦那、言いたいことは分かるが、旦那は何であのラファエルのケツまで拭こうってんだい?」

「それは・・・」
何でと言われてもなあ・・・
何でだろう?
こう言っては何だが、俺もあいつも似た者だと思う処があるからだろうな。
変な友情みたいなものが生れてしまったしね。
それに俺は『イヤーズ』をラファエルに託されたと感じていた。
迷惑この上ない話なのだが。
まあここは俺はとびっきりのお人好しということにしておきましょうかね?
そんな事を言ってもこの二人には分からないでしょうし。

「創造神に成る為にはこれは避けては通れない道だからです、それに俺はラファエルの最後に立ち会いました。あいつも何だかんだ言っても良い死に顔をしてましたよ」

「はあ・・・旦那って人は・・・」

「島野はん・・・何やねん」
二人は呆れた顔で俺を見ていた。

「俺はお人好しって事ですね」

その後気分を変えたのか、
「しょうがない、旦那の言う事だ。あたいは信じるよ」

「まあええわ、なる様になるやろ」
二人も同盟国に関する会議に参加することに成った。
さて、どうなることやら。