神様修業を再開することにした。
振り返ってみて本当によかったと思う。
心を決めることが出来たしね。
後はやり遂げるのみだ。
気合を入れようか。

さて、先ずはラファエルの尻拭いをしないといけない。
あいつの所為で未だ戦時中の国があるのだ。
これを解決しない限り創造神にはなれないし、これを解決せずに創造神には成りたくは無い。
どうしても解決しなければならない問題だ。
ラファエル・・・ちっ!しょうがねえなあ。
替わりにやってやるよ。
ちゃんと感謝しろよな!

俺はゼノンとエリスとギルを呼び出した。
ゼノンは何かを察したのだろう。
ニコニコしている。
ギルとエリスは何で呼び出されたのかと首を捻っていた。
そして俺達は連日打ち合わせを重ねることになった。
所謂作戦会議である。
加えてゼノンに俺は特訓を行った。
ゼノンは時折文句を言っていたが、何とかやり遂げていた。
いい加減こいつには映画監督業以外の、神としての仕事をさせなければいけない。
特別扱いなんて俺はしないよ。
だって俺の将来の相棒なんだからさ。
やることはやって貰わないとね。



数日後、
俺はギルとオーフェルン国に向かっていた。
そして同時にゼノンとエリスがサファリス国に向かっている。
俺はギルに跨り上空を飛んでいた。
イヤーズから東に向かっておよそ半日の距離だ。
戦争の仲裁となるとドラゴンにしか出来ない事だ。
他の神達を巻き込む訳にはいかない。
此処は平和の象徴と一緒に解決しなければならないだろう。
俺はそう考えている。
脈々と続く復讐の連鎖を止めるには、俺一人で当たって良いとは思えなかった。
やろうと思えばやれるが、何か違うと感じたし、なによりエリスが戦争に対して思う処があると感じていたからだ。

今回はオリビアさんに関しては御遠慮願うことにした。
彼女の権能を考えれば同行もありとは思えるが、まだ戦争の面影が燻っているのだ。
荒事になる可能性は捨てきれない。
彼女には後で文句の一言も言われそうだが、安全第一に勤めたい。
その為どうしても巻き込む訳にはいかないのだ。
ギルもエリスもゼノンも『結界』の能力を持っている。
万が一荒事になった特には、こいつらには刃は届かない。
それは俺も同様のことだ。
そんなこともあってのこのメンバーなのである。

上から眺めるオーフェルン国の第一印象は寂しい国だった。
頑丈そうな王城は返って暗い印象を受ける。
国全体を重たい空気が覆っている様だ。
何処か虚無感を感じる、そんな雰囲気だった。
未だ戦時中であるのだから当然の事なのかもしれない。

俺はギルに王城の前にホバリングする様に指示を出した。
それに従いギルが王城のベランダの前にホバリングする。
何事が起こったのかと国民達が騒いでいた。
辺り一面騒然としている。

「神獣様だ!」

「ドラゴンだと!」

「ドラゴンの背に乗る者は一体誰だ?!」

「どうなっているんだ?」
突如飛来したドラゴンに国民はたじろいでいた。
一気に動揺が広がっていく。
そして拡声魔法を取得したギルから俺は拡声魔法を掛けて貰った。
俺の声を国民に届ける為だ。

「俺は島野だ!この国の代表者に告ぐ、今直ぐ出て来い!!!」
俺の発言に国民は静まり返る。
その発言を受けて国の重鎮であろう者達が血相を変えてベランダに飛び出してきた。
ドタバタと慌ただしい。
その者達は高貴な衣装に身を包み、位が高い者達であることが窺い知れた。
大臣クラスではなかろうかと思われる。

「島野様で御座いますか!私はオーフェルン国の大臣の一人、ロイドで御座います、何用で御座いましょうか?」
その中の一人が話し掛けてきた。

「ロイド!俺のことは噂で聞いているんだろ?!」

「は!それはもう充分と!」

「そうか!では国王を連れて来て貰おうか?!」
ロイドは狼狽えていた。

「なっ!御用を申しつけ下さいませ!いきなり国王に会わせる事などできませぬ!」

「ほう!俺にそんな態度を取るのか!!!」

「滅相も御座いません!」
ロイドは挺身低頭だ。
顔が青ざめている。

「ロイド!大臣如きでは話にならん!これ以上煩わせるなら力づくで行使するがいいのか?!」
ここは勘違いして貰っては困る。
こちらは神なのだ、柄では無いのは承知しているが、ここは威勢を張らなければいけない所だ。
国のトップが先ずは頭を下げに来るべきだ。
俺の噂を聞いているなら猶更だ。
逡巡した後にロイドが答えた。

「失礼致しました、ご案内させて頂きます」
悔い改めたのか、ロイドは頭を下げていた。

「ロイド!・・・お前まだ分から無いのか?!何故俺が足を運ばなければいけないのだ!さっさと呼んで来い!!!」
しまったとロイドは更に表情を改めた。
本当はこんな態度は取りたくはない。
だが演出は必要だ。
あくまでこちらが上位であると知らしめる必要がある。
このやり取りを国民達は固唾を飲んで見守っていた。
誰一人として声を発することなく、緊張の面持ちで行方を見守っている。

実はこうしたことには意味がある。
俺は国民の前でやり取りをする必要があると考えたからだ。
眼の届かない個室で行われるやり取りでは意味が無いのだ。
俺の意思を、国の上層部の意思を国民に知らしめる必要がある。
後になって違ったものに捻じ曲げられる訳にはいかない。
とても重要な局面なのだから。

数分後、
王冠を被った初老のおじさんが血相を変えて飛び出してきた。
そして綺麗にスライディング土下座を決めていた。
おおー!良いスライディングです。

「お前が国王か?!」

「は!左様で御座います。家の家臣共が失礼致しました!」
多少は話の分かる奴みたいだ。
いきなりスライディング土下座とはなかなかやるな。

「さて、俺のどんな噂を聞いている?!答えて貰おうか!後、土下座は止めろ!曲りなりにも一国の王なんだろう?!お前は?!」

「有難き幸せ!」
そう言うと国王は立ち上がった、そして俺を申し訳なさそうに見つめていた。
その眼に恐怖心が滲み出ていた。
ここでやっと大臣一同がベランダに駆け足で現れた。
遅えよ、こいつら。
初老の国王に撒かれてるんじゃないよ、まったく。

「私が窺っている噂は、島野様はその手を煩わせる事無く、配下の神獣と聖獣を使ってイヤーズの宗教を壊滅に追いやった事ですとか、魔物の国を設立したですとか、一瞬にして移動したりするとかで御座います」

「ほう、そうか!」
俺はそう言うと瞬間移動して国王の前に移動した。

「うわっ!」
その様に国王は目玉が飛び出そうな程に驚いていた。

「こういうことかな?!」

「・・・」
そして国王はワナワナと震え出した。
ギルはホバリングを止めて人化すると俺の隣に並んだ。

「噂は本当だったんだ・・・」
顔を歪ませてロイドが呟く。

「なんだロイド、お前疑っていたのか?!」

「滅相も御座いません!」
ロイドは直立不動する。

「まあいいだろう、ところで国王!名を聞こうか?!」

「は!私はルメール・ジャン・オーフェルンで御座います」
国王は未だ体の震えを抑えられないみたいだ。
でも何とか俺の質問に答えようと踏ん張っている。
国民が見ているのだ、これ以上無様な所は見せられないだろう。

「そうか、ルメール!お前が聞いた噂は全部本当だよ!」

「そうだよ!パパはそんな噂なんてケチなぐらいもっと凄いんだぞ!」
ギルが鼻白む。

「この際だからはっきり言っておくけど!僕のパパは次期創造神なんだからね!」
この発言に国王一同だけで無く、国民もざわつく。

「そんな・・・」

「マジかよ!」

「次期創造神様・・・」

「あり得ない・・・」
喧騒は落ち着きそうもない。
これが一番分かり易いだろうと俺は『浮遊』して空中に浮かんでみせた。

「おお!」

「浮いてる・・・」

「ほんとの神だ!」

「遂に神が降臨されたのだ!」
騒ぎは止みそうにない。
それを俺は手を挙げて制することにした。
本当は無茶苦茶照れていて、今直ぐに帰りたい・・・
でもここは敢えてやらなければいけない。
更にこれが分かり易いだろうと、適当にその辺に置いてある石像とかを『念動』で指先を使って浮かしたり動かしたりしてみた。
更に国民達は興奮する。

「凄い!」

「物が浮いている!」

「流石は次期創造神様!」

「何てこったい!」
ちょっと俺も浮かれてしまいそうだ。
いやいや、そうはいかない。
ノンじゃあるまいし。
俺は変てこダンスなんて踊らないよ。

「これで多少は分かって貰えたかな?!」

「それはもう充分と・・・」
ルメールが呟く。

「そうか、ルメール!単刀直入に聞く!いつまでお前達は戦争を続ける気なんだ!」
ルメールが表情を改める。

「それは・・・」
ルメールは複雑な表情を浮かべていた。

「そもそもお前達は戦争の原因は何なのか分かっているのか?!」
この発言に国民達に動揺が広まる。

「戦争の原因・・・」

「知らないな・・・」

「何なんだ?」

「言われてみれば確かに・・・」
国民の大半は狐に摘ままれたかの如く呆けていた。

そしてルメールが口を開く、
「島野様・・・存じ上げません・・・しかし・・・」
苦虫を噛み潰したかの様な表情を浮かべていた。

「この際だルメール!はっきり言ってみたらどうなんだ!」

「それは・・・」
ここで俺はこっそりとルメールとその臣下達に『催眠』の能力を行使していた。
これでこいつらの本音が語られる事だろう。

「・・・私にとっては・・・この戦争は早く終わらせたいです、しかし・・・前王やその前の国王の意思を受け継がなければならない・・・そして命を散らした国民が多数おります・・・どう顔向けしたらいいのだか・・・でも勝てる戦争ではなくなっているのも現状です・・・私はどうしたら・・・」
いきなりの国王の本音の発言に国民は動揺していた。

そして大臣達も口を開く、
「そうです、戦死した者達に顔向けできません!」

「私は父親を・・・」

「息子は・・・」
やっぱりな、こういう反応を示すと思っていたよ。
さて、始めようか・・・

俺は全国民に対して集団催眠の能力を行使した。
本当はこんなことはしたくは無かった。
実はラファエルの最後を見守った俺は集団催眠の能力を獲得していた。
これはラファエルからの置き土産だと俺は捉えていた。
後は頼んだと・・・
迷惑この上ない話である。

こうした理由はこの先語られる会話の全てを心で感じて欲しいからだ。
頭で考えるのではなく、潜在意識で捉えて欲しい。
本音で語り、本音で聴く、そうすることに意味があるのだ。
理屈は要らない。
心からの対話を俺はしたいのだ。

「先ずお前達に教えておく!戦争の原因を創ったのはイヤーズのラファエルだ!」
この発言に国民達は騒めく。

「ラファエル?」

「それは誰だ?」

「知らないな」

「もしかして・・・」
ルメールが一歩前に出てきた。

「島野様、そのラファエルとはいったい・・・」
俺は回答する。

「ラファエルはイヤーズに宗教を興した張本人で、あの人と呼ばれていた者だ!イヤーズの元教祖だ!」

「なっ!なんと!」

「あの人だって?」

「そうだったのか・・・」

「そんな・・・」
俺は知っていた。
イヤーズを見限ったイヤーズの元国民がこの国に多数流れ込んでいることを。
即ちラファエルを知る者は多いのだ。

「ラファエルは催眠魔法を駆使して、両国間の間柄を悪くした!そして自由意志を奪いサファリスとオーフェルンを戦争へと導いたのだ!」

「マジか・・・」

「催眠とは?」

「自由意志を奪う・・・」

ルメールが口を開く、
「言われてみれば、納得です。元々両国は親しい間柄であったと聞いております。実際私の曾祖母はサファリスの王族です」

ロイドも続く、
「私の曽祖父もサファリスの貴族です・・・」

「して、島野様。そのラファエルは今は何処に?」
ルメールは気になったみたいだ。

「ラファエルは死んだよ!」

「・・・左様で御座いますか」

「そうなると・・・」
ロイドも呟く。

「しかし、戦争で死んだ者達に顔向け出来ませんし、手を掛けたものを放置してはおけません!」
ルメールが本音を漏らす。
やっぱりそうなるよな。
いくら戦争の原因を知ったとしても、これまでの過去は変わらない。
復讐の輪廻は終わることはないからだ。

「お前達の気持ちは分からなくはない!俺ももし身内や仲の良い者達に危害を加えられたら、怒るだろうし恨みもするだろう。間違っても許すなんて出来ない!」
国民や国王の一団は俺の言葉に食い入る様に耳を傾けている。
国民達は頷いていた。
そして口々に賛同する。

「そうに決まっている!」

「島野様の言う通りです!」

「許せる訳が無い!」

「そうだ!そうだ!」

「同じ気持ちです!」
俺は手を挙げて場を制する。

「だがな!人の命を奪う事には抵抗があるし、俺には出来そうもない!」
いくら戦争とは言っても人殺しに違い無いのだ。
俺には出来る筈がない。
ルメールが口を開く。

「島野様!仰ることは分かります、ですが・・・」
俺はルメールを遮った。

「なあ、殺られたから殺り返す!これを何度繰り返すつもりなんだ!それではお前達の心はどんどんすり減っていくだけだぞ!!!」

「しかし・・・」

「ですが・・・」

「心がすり減るか・・・」
俺は更に浮かんで国民の方に向き直った。

「今から俺の言う事を頭では無く、心で聴いて欲しい!いいか!!!」
俺の発言に国民達に緊張が走る。
全ての国民が俺の言葉に耳を傾けて、集中しているのが分る。
よし!心で聴いて貰おうか!

「俺はこう思うんだ!恨んだり憎むべき相手は戦争相手では無い!即ちサファリスの民や戦士達では無い!・・・憎むべきは恨むべきは戦争そのものだ!!!」
オーフェルンの全国民が静まり返った。
俺の想いを心で感じているのだろう。
中には何を言われたのか分かっていない者もいた。
呆けた表情をしている。
俺は畳み掛けることにした。

「そうは思わないか?いつまでも恨みつらみで生きていくことに何の意味があるんだ?!許せとまでは言わない!でも何も生まない削り合う関係を続けていくことなどいい加減辞めるべきだ!もう一度言う!戦争相手を憎むべきでは無く!戦争そのものを憎め!戦争の行為を許すな!戦争という物事を恨め!!!」
俺の慟哭にオーフェルン国は静まり返っていた。