宴会の代金は眼を疑う金額だったのだがそんな事はどうだっていいことだ。
そんな事よりも沢山の者達が俺の為に手を貸してくれたことに、俺は感謝の念が堪えなかった。
俺は本当に沢山の人達から愛されていると実感していた。
嬉しくて仕方が無かった。
もはや整いそうだった。
皆な、俺を愛してくれてありがとう!
俺も最大級の愛を返させて貰うよ!

そしてやっと真面にスーパー銭湯の別館のその後を見て周る事が出来た。
スーパー銭湯の大幅な拡張は功を奏し。
それでも入場制限は起こってはいるが、これまでとは違って微々たるものであった。
逆にこれでも入場制限を行わなければいけない現実に、俺はスーパー銭湯の可能性を大いに感じていたのだった。
この世界においてスーパー銭湯は娯楽の中心と言っても過言では無いと。

そして嬉しい事に利用者のお客達は笑顔が絶えず、最高の一時を過ごしてくれている様だった。
これに俺は無茶苦茶満足していた。
有難いとこちらから頭を下げたい思いでいっぱいだった。
ほんとに笑顔が絶えなかった。
この笑顔に俺は心を揺さぶられていた。
頑張ってよかったと・・・
実際アンケートも嬉しい賛辞が多かった。
こうなってくると、最早スーパー銭湯は極まっているのかもしれない。
今はこれ以上のブラシュアップは思いつきそうも無かった。
それぐらい完成度は高いと思われた。
極まっているとすら言える。
でもまだまだ脇は開かないけどね。



スーパー銭湯の別館がオープンしてから十日後のこと。
遂にクモマルから『念話』が入った。

「我が主、朗報です」

「どうした?」

「遂に見つけました」

「そうか・・・そちらに向かおう」

「仰せの儘に」
俺はクモマルの元に転移した。
俺の『転移』の能力だが、今では更に進化している。
家族や関係性の深い者達の元へなら、その場所を俺が知らなくとも転移出来る様になっていた。
魂の繋がりとでもいえばいいのだろうか?
その存在感を感じれば転移可能になっていたのだ。
簡単に言えばタクシー替わりに使われかねない状況になっていた。
これは良い事なのかどうなのか判断に迷うところだ。
現に一度ダイコクさんからタクシー替わりに使われそうになり、金を取りますよと言ったら諦めてくれた。
いい加減にして欲しい。
このおっさんは遠慮が無い。
気を抜けない相手だ。
本音を言えば少々ムカつく。
一度締めてやろうか?
それぐらいいいよね?

クモマルの元に転移するとそこは森の中の開けた場所だった。
日光が射しこんでいて煌びやかな光景が俺を待ち受けていた。
この光景を見て俺は本能的に感じていた。
遂に決着するのだと。

「我が主、お待ちしておりました」
跪こうとするクモマルを俺は制する。
相変わらずの硬さである。
いい加減砕けて欲しいものだ。
最近ではより硬くなってきている様に感じる。
もしかしてこいつはワザとやっているのか?
クモマルなりの冗談なのか?
あり得るな・・・
こいつの感性は独特過ぎる。
まあいいだろう。

そんな事はいいとして。
やっとにこの時が来たみたいだ。
俺の眼の前には大量の神石が転がっていた。
光輝く神気が神石に吸い寄せられている。
この様を見て瞬時に理解した。
これが神気減少問題の原因であったのだと。

そして樹の根元に座り込む一人の男性が居た。
虚ろな眼で神石を握っている。
ぼさぼさの髪で衣服は薄汚れていた。
清潔感など欠片も無かった。
一人でぶつぶつと何かを呟いている。
どうやらこちらには気づいていない様子。
こいつがラファエルだろう。
明らかに廃人と化している。
一先ずは外っておいてもいいだろう。
俺は声を掛ける気にもなれなかった。
余りに雑然としている。
お前は勝手に自分の世界に浸ってろ。

膨大な量の神石の一つを俺は拾い上げて調べてみることにした。
やっぱりな、神気吸収の能力が神石に付与されていた。
これは相当な量の神気が堪っていそうだ。
神気減少問題の原因が今正に俺の眼の前に存在していた。
俺の予想通りだった。
これまで敢えて言わなかったが、そうだろうなと思っていたことだった。

さてどうしたものか?
この神石を持ち帰るか?
否、これは封印すべきだろう。
同じことをしでかす馬鹿が今後も現れないとは限らない。
それにしてもよくもこんなに沢山の神石を集められたものだ。
凄惨な戦争を巻き起こしたのは、地面に眠る膨大な量の神石を集める為だったんだな。
そんな事だろうと思っていたよ。
ふと俺は興味を覚えた為、ラファエルを鑑定してみることにした。
こんな奴に遠慮は要らない。

『鑑定』

名前:ラファエル・バーンズ
種族:仙人
職業:宗教家Lv9
神気:10
体力:235
魔力:786
能力:土魔法Lv7 火魔法LV7 鑑定魔法LV6 催眠魔法LV12 契約魔法Lv6 照明魔法LV2 浄化魔法LV2 集団催眠魔法Lv9 (神気吸収LV2)

っち!
人の身でありながら神の能力を使えるってことか・・・仙人か・・・進化してやがったのか・・・だからか・・・
俺は半神半仙であった時がある為、何となく人の身でありながらも神の能力を使えるのではと思った事が実は何度かあったのだ。
恐らくハイヒューマンではこうはいかない。
人族の上位種である仙人であるからこそであろう。
聖人は更にその上の上位種となる。

だがその神力の値を見る限り限定的であるのは分かる。
実際神力吸収の能力もカッコ書きになっている。
多分聖獣と一緒で神気を取り込むことは出来るのだろうが、霧散してしまうのだろう。
その為神気を集めることに固執したのだろうと思う。
それが為の神石のこの数なんだろう。

何とも哀れだ。
ラファエルは未だこちらに気づかずに一人の世界に没頭していた。

「どうやらあの者は精神が崩壊している様です、我が主」
クモマルがラファエルを哀れな眼で見つめていた。

「その様だな、見れば分かる」

「ここに辿り着くまでにも、何度もあの様に一人の世界に入り込んでおりました。既に壊れております」

「そうか・・・末期だな」

「はい・・・」

俺は『念動』で神石を集めて一つづつ付与してある能力を解除し『収納』に神石を保管していった。
結構な時間が掛かってしまっていた。
でも既に九割方の作業は終わりつつあった。

そこに不意に声が掛けられる、
「止めろお前!何をやってやがる!俺の神石だぞ!」
ラファエルが血相を変えてこちらを睨んでいた。
どうやらやっと自分の世界から抜け出たみたいだ。
俺は作業の手を止めてラファエルを正面から見据えた。

「よう!やっと気づいたみたいだな」
ラファエルが今にも飛び掛からんと俺を睨んでいる。

「お前は誰だ!私を神と知っての狼藉か!」

「お前、ラファエルだろう?馬鹿を言うんじゃねえよ!お前は神では無いだろうが!嘘を付くんじゃねえよ!」
慄くラファエル。

「なっ!・・・もしかして・・・お前はシマノか?」

「察しが良いじゃないか、そうだ俺は島野だ、俺の事を知っているみたいだな。ラファエル」
ラファエルは鬼気迫る表所を浮かべていた。

「・・・お前だけは許せない!・・・お前の所為で俺の世界は・・・この野郎!死ね!殺してやる!」
ラファエルは立ち上がると火魔法で攻撃を加えてきた。
クモマルが迎撃しようとするのを俺は手で制して『結界』を張った。
ここは俺が対処しなくてはならないだろう。
力の違いを思い知らせなければならない。
ラファエルのファイヤーボールは俺に届くことなく霧散していた。
余りに陳腐だ。

「なっ!クソッ!」
今度は土魔法で土の塊を投げつけてきた。
当然俺には届かない。
俺はゆっくりとラファエルに歩み寄る。

するとラファエルはニヤリと口元を緩めると自身満々な表情で、
「『催眠』」
催眠魔法を行使した。
ラファエルは勝ったと余裕な顔をしていた。
そして一瞬にしてラファエルの表情が凍り付く。
俺に催眠魔法が効いていない事を理解したみたいだ。
利くわけねえだろうが、阿呆が!
俺は構わず歩みを進める。
ラファエルを見据えて近寄っていく。

「止めろ、来るな!来ないでくれ!」
逃げようとするラファエルを『念動』で捕まえて、数メートルほど浮かしてみた。

「止めろ!止めてくれ!」
空中でラファエルはバタバタと動いている。
その動きを封じてやった。
ピタリとラファエルは動きを止めた。
俺は『浮遊』で浮かぶとラファエルの正面に浮かび上がった。

「俺が何をしたっていうんだ!止めてくれ!お願いだ!」
ラファエルは恐怖で顔が歪み、懇願する様に視線を向けてきた。
余りに哀れだ。
よく見るとラファエルは股間を濡らしていた。
それだけでは無い、身体の穴という穴から汁を出していた。
でもそれすらもラファエルは気づいていない。
少々臭いぐらいだ。

ここは多少お仕置きをすべきだろう。
俺は『念動』で適当に上下左右にラファエルをぶん投げてみた。
ラファエルは声を発することも出来ず身体を震わせていた。
そして失神仕掛けていた。
否、失神していた。
やり過ぎたか?
でもまだまだだ。
此処からでしょうよ。
そう思いません?
失神したラファエルを一旦地面に寝かせると、問答無用で『自然操作』の水をぶっかけまくった。
一瞬にして意識を回復するラファエル。
ガバっと上半身を起こすと何が起こったのかとキョロキョロとしていた。

「起きたか?ラファエル、さて続きを始めようか?」

「なっ!シマノ!くそぅ!」
ラファエルは懲りていないみたいだ。
眼光鋭く俺を睨んでいる。

「良いねー、ラファエル。付き合ってやるよ」
俺は『念動』でまたラファエルを浮き上がらせた。
一瞬にして態度を改めるラファエル。

「止めろ!止めてくれ!お願いだ!ごめん!謝るからさ!」
そんな事は無視して俺は適当にラファエルを『念動』でぶん投げる。
再びラファエルは失神した。
根性の無い奴だ。
まだまだ先は長いぞ。
俺は何処までも付きあってやるぞ。
再び水をぶっかけられて意識を取り戻すラファエル。
そしてまた『念動』で空中に浮かばせてブンブンと投げ捲る。
これを何度も何度も続けることになった。

俺にとっては何てこと無いお仕置きだった。
俺はちょっとでもラファエルを真面に出来ないかと荒地療法を行っているに過ぎない。
というのも俺はラファエルに関してどうしても知りたいことが一つだけあったのだ。
それは神に成りたいというその動機だった。
どうしても単にこの世界を崩壊させたいというだけのことでは無いと感じていたからだった。
こいつの本心は既に把握できている。
人々に崇められることに憧れを抱いたのだろう。
そしてそれに酔っていたのだろう。
俺にとっては嬉しくない感覚なのだが、こいつにとっては崇められることに価値観を見出していたのだろう。
それが心地よかったのだろう。
だから神に成ることを目指した。
そんな程度の事であるに違いない。
でもそのきっかけが分からない。
単純に崇められたいと言うだけの事では無いと感じてしまったからだ。
その根本的な理由を俺は知りたかったのだ。
なんで神に成ることを目指したのかを。
その為には少しでもこいつを真面にする必要がある。
それを鑑みてのお仕置きでもあったのだ。
まあ俺の意趣返しとも言えるのだが・・・
これぐらい良いよね?
コンプライアンスに抵触するのか?
よく分からん。
これぐらいいいじゃないか!
時には力業も必要だよね?

そして何度も起き上がる度にラファエルは様々な感情を剥き出しにした。
情緒不安定感この上ない。
怒ったと思えば懇願したり、時に泣き出したと思えば罵倒したりと様々な感情のオンパレードだった。
よくもまあこれほどまでに精神が壊れたものだ。
やれやれだ。
ここまで壊れた奴を俺は見たことが無い。

でもこれに俺は根気よく付き合った。
もう何度ラファエルをぶん投げたのか、百回目ぐらいからアホらしくなって数えていない。
そして遂にラファエルは何の感情も発しなくなった。
やっと出涸らしになったみたいだ。
その顔からは感情が抜け落ち、瞬きすらも真面にしていない。
俺はゆっくりとラファエルを地上に降ろした。

そしてばたりと前のめりに倒れるラファエル。
俺は『念動』でラファエルを仰向けにした。
ラファエルは無表情で虚空を眺めている。
不意にラファエルの眼がきつく閉じられた。
ラファエルは声も上げずに泣いていた。
ただただ涙を流していた。

意を決したかの様にラファエルが口を開いた、その声はこれまでと違う響きの声だった。多少は真面になったみたいだ。
これは聞く価値はありそうだ。

「なあ・・・シマノ・・・お前は創造神なのか?・・・」
俺はラファエルの近くに腰かけた。
こいつの話を真面に聞こうと思ったからだ。

「いいや、違うな。俺は創造神じゃないよ」

「そうなのか?・・・なのに何でそんなにも強く、様々な能力を持っているんだ?」

「様々な能力?」
俺は『念動』と『浮遊』しか見せてないが?

「そうだ・・・お前の噂は聞いている・・・お前は瞬間移動したり、急激に作物を成長させたり出来るんだろう?・・・それに俺を念じるだけでほうり投げていたし、浮かんでもいた・・・違うか?」

「違わないなあ」

「だったらお前は創造神じゃないか?そんな事は創造神しか出来ない事だろうが」

「でも俺は創造神では無い・・・まあ今の所は成る予定だけどな・・・・」
ラファエルが目を強く瞑った。

「・・・」

「創造神が気になるのか?」

「俺は創造神に成ることを目指していた・・・」
だろうな・・・分かるぞ。

「それで?・・・」

「俺は創造神に成って・・・創造神に成って・・・成って・・・」
ラファエルは急にトーンダウンしていた。

「成ってどうしたかったんだ?」
そろそろ本音が聞けそうだ。
ここからが俺の聞きたかった話だ。

「・・・ああ・・・俺は何でこんな大事な事を忘れてしまっていたんだ・・・何で・・・ああ・・・俺は余りに馬鹿だ・・・そんなことも忘れて・・・ああ・・・もう死にたいよ・・・死なせてくれ!」
何を勝手な事を言ってるんだこの馬鹿は?

「死にたきゃあ勝手に死ね・・・そんな事よりお前は何で創造神に成りたかったんだ?崇め奉まつられたかっただけじゃないよな?成ろうと思ったきっかけは何だったんだ?いい加減吐けよ!」
俺はこれが知りたい。
早く話せよ!

「それは・・・ザックおじさんを・・・俺の父親代わりの恩人を・・・蘇生したかったんだ・・・でも俺は・・・いつしかそんなことも忘れてしまっていたみたいだ・・・何なんだよ・・・くそぅ!」
これがこいつの神に成ろうと思ったきっかけだったんだな。
でも自分の自我が先立って、いつしかその崇高な志すらも忘れてしまっていたんだろう。
本当の馬鹿野郎だな。
結局は自分の欲に塗れてしまったということか・・・
余りに弱い、弱すぎる。
でも状況が状況であれば誰しもが陥るかもしれない・・・
そう思う俺は甘いのだろうか?
でも間違っても戦争を引き起こしたりするようなことは出来ようがない。
こいつは早い段階から壊れていたんだろうな。
でなければそんな事は出来るはずもない。
俺は決してこいつに同情はしない。
こいつは自分の為に大惨事を引き起こした野郎だ。
許す事なんて出来ない。
だが・・・

「俺はザックおじさんと・・・一緒にワインを飲みたかっただけなんだよ・・・馬鹿みたいに騒いで・・・どうでもいい事を話して・・・ああ・・・ザックおじさん・・・ごめんよ・・・許しておくれよ・・・ザックおじさんは忠告してくれていたのに・・・なんで俺は・・・くそぅ!くそぅ!!!」
ラファエルの慟哭が木霊していた。
何となくだが俺には観えていた。
ラファエルとそのザックおじさんとの関係性が。
そこで俺は確かめることにした。
興味が沸いたということだ。
ラファエルという大罪人のこれまでの歩みを知りたくなったのだ。
そしてザックおじさんの事を。

「ラファエル、ちょっと待ってろ」
俺はそう告げた。

「え?」
俺は時間旅行を行使した。