翌日、まずは朝食後に『ロックアップ』の皆さんを島の施設に案内することになった。
俺の脇にはゴンが控えており、説明のサポートを行ってくれている。
その他の者達は、既に畑の収穫作業を行っている。

「こうして、野菜の収穫作業を行います」
ゴンが丁寧に説明していた。
それを何度も確認しながら『ロックアップ』の皆さんが、質問を交えながら真剣に説明を聞いている。
うん、いいじゃないか、熱心なことだと感心する俺。
次にお風呂へと向かった。

「すげえ、露天風呂まであるのかよ」
ロンメルが喜びながら言っていた。
これで驚いてもらっては困るな。
何せこの島にはサウナがあるからね、サウナが。
フフフ・・・
多分俺どや顔してるな。

「島には露天風呂だけじゃなく、サウナもあるからな、それも塩サウナまでな」
俺はほくそ笑んでいた。
間違いなくドヤ顔してるな俺。
だって自慢したいじゃないか。
サウナだよ!
分かるよね?

「サウナですか?」
やはりサウナを知らないようだな。

「そうかそうか、この世界にはサウナが無いんだったな。いやいやいや、これはもったいない」
と俺は得意げに言う。

「主、自慢は後にしてください。ちゃんと案内しないといけませんので」
ゴンに嗜まれてしまった。
さすが生徒会長、きっちりしてるね。
どうぞどうぞ、次に行ってくださいな。
ちぇっ!

「いやゴンちゃん、せっかくの旦那の申し入れだ。そのサウナってもんを見せてはくれないかい?」
ロンメルが食いついてきた。
お!いいぞロンメル!

「駄目です、後にしてくだいさい。どのみち夕方には皆で入ることになるんですから」
ゴンは堅いな、真面目過ぎる。もうちょとこう、ねえ?
人生遊びがあってもいいと思うんだが、まあでもこれがゴンのいい所なんだよね。
しょうがないな。

「そうなのか?じゃあその時でいいや」
ロンメル食い下がるなよ、と口にしかけて止めておいた。
まあ、ゴンの言う通りだからな。
但し『黄金の整い』は教えませんよ。
そんなこんなで、一通り見学が済んだところで昼飯になった。

本日の昼飯は、昨日の残り物で適当に野菜炒めを作った。どうにも簡単にすると野菜炒めになるんだよな、確かにこの島の野菜は格段に美味いからね。
何でも野菜入りの野菜炒め。うーん、語呂が悪い。
後はご飯に味噌汁。
皆さん適当に召し上がってください。

「しかし島野様、この島で採れる野菜はお世辞抜きで美味しいですな。何か秘訣でも?」
メタンが話し掛けてきた。

「メタン、様は止めて欲しいな、照れちゃうじゃないか」
様は照れる、なんだか擽ったい。

「いやしかし、そう言われましてもな」
譲る気は無さそうだ。

「お前は相変わらず堅いな」
マークがツッコんでいる。

「まあ好きにしてくれればいいさ」
と俺は話を続けた。

「実はなメタン、秘訣はあるんだよ」

「といいますと?」
興味深々のメタン。

「正確には二つかな、まずはなんといってもアイリスさんだな、彼女は植物のプロだからな。肥料であったり、間引きであったり、雑草の処理だったり、後はどの辺に水を撒けばいいかとか、彼女の貢献は測り知れないね」
そうこの島の野菜の美味しさは、アイリスさんの愛情で出来ているのだ。

「さすがは世界樹様と言ったところなのでしょうな」
ウンウンと頷いている。

「後一つはこれさ」
俺は右手に神気を出してみせた。
右手が光り輝く。

「「おお!」」
マークとメタンが慄いている。

「神気ですな!」
メタンが神気を不思議そうに眺めている。

「これを畑の土に定期的にやっているんだ」
これが野菜の成長を促すんだよね。

「なるほど、この野菜はまさに神の野菜なんですな」
神の野菜って言い過ぎでしょ?
でもまぁそうなのか?

「そうだな、ありがたく頂だこう」
と同意するマーク。
なんだか俺のことは神様確定って感じだな。
まあいいや。
もうめんどくさくなってきた。

「それと島野様、ここの野菜は、ただ美味しいだけではなく、元気になりますな。こう身体の中から気力が溢れ出てくるというか、なんというか、力が漲ってきますな」
元気がでるか・・・俺達は普通に腹が減ったから、食べているだけなんだけど・・・
せっかく食べるのなら、美味しく食べたいと、工夫を凝らしているだけなんだけどな。
そう言って貰えるならなによりです。



午後からは個人面談だ、まずはマークから行う。
一人ずつ、俺の書斎に来てもらうことになった。
ドアがノックされる。
「どうぞ」
と声をかける。

「失礼します」
一礼してマークが入ってきた。
マークを椅子に誘導する。

「何か飲むか?」
俺は最近収穫を終えたコーヒーを飲んでいる。
このコーヒーは俺のお気に入りだ、豆をローストするのには結構時間が掛かった。
火加減が難しい。

「では、お茶をいただけるかな?」
横に控えるゴンにお願いした。

マークが話しだした。
「島野さん、まずは本当にありがとうございます。ジャイアントシャークから助けてもらったこと、ちゃんと感謝を伝えていませんでした」
律儀な奴だな、嫌いじゃないよそういうとこ。

「ああ、もういいってことよ、それよりさっそくなんだが『鑑定』してもいいか?」
この際だから全員『鑑定』をさせて貰う、これは健康診断みたいなものだ、まだ流石に全幅の信頼を置くには早すぎる。
それにこいつらの能力を知っておきたい。

「はい、どうぞ」
というと、マークは姿勢を正した。
うーん『鑑定』をするというと皆姿勢を正すんだよな。これはあれか?医者が聴診器を持って、診察しますって時の患者の反応と一緒か?
まあそれは置いといて

『鑑定』

名前:マーク
種族:人間Lv8
職業:ガーディアン
神力:0
体力:1351
魔力:136
能力:パーフェクトウォールLV2 防御力倍増Lv1 鼓舞奮闘LV2

パーフェクトウォールってなんだ?

「マーク、パーフェクトウォールってなんだ?」

「ああそれは、俺の固有魔法の一つでして、五平米の透明な壁を作ることができるんです。三分間限定なんですが、魔法も物理攻撃も全て防ぐことが出来きます。ただ難点がありまして、敵からの攻撃だけじゃなく、こちらの攻撃も通らないんですよ。使い道に困る魔法です」

「完全な撤退時にしか、使えそうも無いってことか」
ここで、ゴンがお茶を持ってきてくれた。
ゴンからお茶を受け取り、話を続ける。

「その通りです、もう一つ難点がありまして、使用後に体力がかなり削られるんです」

「うーん、そうなると、本当の奥の手だな」

「はい、仰る通りです」
あと固有魔法とはなんだろう?

「マーク、すまないが俺はあまり魔法には詳しくはないんだが、固有魔法って何なんだ?」

「そうですか、固有魔法はその個人が持つ特性に合わせて開発した魔法です」
個人の特性に合わせた魔法があるのか、それも開発できるってことか?
隣でゴンが目を輝かせている。

「主、固有魔法は私も初めて聞きます」
もしかしてゴンの場合は『変化』が固有魔法になるんじゃないかな?

「ゴン『変化』は固有魔法なんじゃないのか?」

「どうでしょうか?分かりません、研究のし甲斐があります」
うん、それでいいと思うぞ。

「あとマークはどこ出身なんだ?」

「俺とランドは、大工の街の出身です」
確か歴史的な文化財の家があるとかなんとか、カイさんが言ってたような気がするな。

「ということは、大工仕事なんかもできるのか?」
これ大事なところ。

「はい、俺とあいつは小さい頃から、大工の基本的なことは仕込まれています。あと、土木作業なんかも多少はできます」
おお!これは拾いものかもしれないぞ、いよいよインフラに着手できるかもしれないな。

「マークは、上下水道については知識があったりするのか?」

「上下水道ですか?すいません、そこは分からないです」
俺は知りうる限りの上下水道の知識を伝えた。

「なるほど、面白いですね理屈は分かりました。となると、大事なのは高低差ですね」
おっ!こいつ飲み込みが速いじゃないか、いいねそれなりに賢いみたいだ。

「そうなんだ、高低差が無いと、上下水道は機能しないんだ」
考え込んでいるマーク、新たな知識を得て彼なりに吸収しようとしているんだと思う。

「マーク、ひとまずは畑の作業に尽力してくれ、上下水道に関しては、ランドと相談して決めよう、それでどうだ?」
これで何とかなりそうだな。

「はい、分かりました。よろしくお願いします」
マークは一礼した。

「じゃあランドを呼んできてくれ」
マークは退室していった。



ランドが大きな身体を窄めながら部屋に入ってきた。
先ほどのマークと同様に飲み物がいるか聞いたが、要らないとのことだった。

「まずは『鑑定』してもいいか?」

「どうぞ、お願いします」
こいつも姿勢を正している。
なんだか医者になった気分。

『鑑定』

名前:ランド
種族:獣人Lv9
職業:重戦士
神力:0
体力:1602
魔力:68
能力:咆哮Lv2 斧ぶんまわしLv2

斧ぶんまわしって、まんまなんだけど・・・

「ランド実はな、さっきマークと話をしたんだ」
俺はマークと交わした会話を説明した。

「なるほど、そうですか、とりあえず俺にもその上下水道ってものを説明してもらってもいいですか?」
お!やる気がありますね、前向きで結構。

「ああ、いいぞ」
俺は上下水道に関する知識を話した。

「なるほど、随分と暮らしが楽になりそうですね、ただ俺にはまだその蛇口という物の構造がいまいち理解できないです」
そこは俺に任せて頂戴な。

「まあそこに関しては俺が造るから、完成物を見て貰ったら分かるようになると思う」

「分かりました」
話が早くて結構。

「あと、一つ質問があるんだがいいかな?」
これ単純な俺の興味です。

「なんでしょう?」

「君は牛の獣人なんだよね?」

「はい、そうです」

「ミノタウロスとの違いってなんなの?」

「違いはないですよ、どっちも同じです」

「えっそうなの!」
そうなのかー、一緒なのね、いやいやこれはいけない、勝手に俺のイメージを押し付けちゃいけないな、こうミノタウロスっていったら、牛の魔人みたいなイメージなんだけど、固定概念はよくないな。
この世界では一緒と本人が言うんだから、それでいいじゃないか。

「何か気になりましたか?」
いや、逆にすっきりしたよ。

「いやいや、気にしないでくれ、じゃあ次はロンメルを呼んできてくれ」
ハハハ・・・
ランドが退室していった。



ロンメルが部屋に入ってきた、ゴンがさっそく飲み物のリクエストを聞いている。
うん、ゴンはよくできた秘書みたいだな。

「ロンメル早速だが『鑑定』をさせて貰うがいいか?」

「ああ、構わない」
おっこいつは姿勢を正さない、案外肝が据わってるのかな?

『鑑定』

名前:ロンメル
種族:犬の獣人Lv10
職業:斥候
神力:0
体力:1203
魔力:201
能力:ムードメーカーLV3 探索LV1 跳躍LV1

「ロンメル、この探索なんだが、どんな能力なんだ」
あえて聞いてみた。

「ああそれかい、多分俺の探索よりも、ノンの鼻の方が数段レベルが高いと思うぜ。俺も基本的には鼻で獲物の数や位置を把握できるが、百メートル先が限界だな」
なるほど、百メートル範囲となるならロンメルの考えは正しい。
ノンの場合は鼻だけじゃなく気配も辿っているからな、精度は格段に違う。
探索は斥候としては必須な能力なんだろう。

「そういえば、ロンメルは船の操船をしてたよな?」
確か帆を畳んでいたような覚えがある。

「ああ、俺は漁師の街育ちなんだ、漁師の街の奴らは操船ができて当たり前、ってことなんだ」
ここでゴンがお茶を持ってきた。

「あの船で漁は可能か?」
できれば、海産物も増やせたら助かるんだが・・・

「うーん、漁に出るにはいくつか手を加えないといけねえな、でも旦那、なんといってもあの船には網が無いんだ」
それぐらいなら簡単に出来るな。

「ああ、それなら何も問題ない。網の形状を教えてくれれば、俺が直ぐに網を造れるから」

「そうかい、旦那、あんた出鱈目だな」
やっぱりそうだよね。

「ああ、自覚はあるよ」
最近何となく芽生えましたよ。

「じゃあロンメルには週に二回漁に出て欲しい、ただしエルとギルをお供に連れていってくれ、飛べるあいつらがいれば、最悪のことは起きないだろ?」
一人で海はきつ過ぎるだろうしな。

「ああ、助かる」

「ただし午前中は畑の作業にあててくれよ、漁はそれ以外の時間で頼む、決して無理はしないで欲しい。安全第一で頼む」
そう安全第一であって欲しい。

「ああ、分かった」

「じゃあ次はメタンを呼んで来てくれ」
ロンメルが退室した。



メタンが部屋に入って来た、いつになく神妙な面持ちであった。
ゴンが飲み物を訪ねたが、
「お構いなく」
とのことだった。

「じゃあメタンまずは『鑑定』させて貰えるかな?」

「いつでもどうぞ」
というと、メタンは両手を広げて待ち構えていた。
こいつなんなの?
熱波でも受けるのか?

『鑑定』

名前:メタン
種族:人間Lv9
職業:魔法士
神力:0
体力:864
魔力:586
能力:火魔法LV6 土魔法LV7 崇拝の魔力化LV5

はあ?なんだこの崇拝の魔力化って?
なんなのこれ?
なんだか怖いんですけど・・・

「メタン、教えてくれ、この崇拝の魔力化とはなんだ?」
なんかやばそうな響きだよね。

「はい、これは創造神様を崇拝することによって、魔法の威力を倍増させる魔法ですな」
目を輝かせながらメタンが説明してくれた。
でも、俺を見るこの羨望の眼差しは何なんだ?
俺は創造神様じゃないんだけど。

「私達魔法を愛する者達にとって、創造神様は唯一無二の神様でございますな」
唯一無二って、この世界にはいろんな神様が顕現してますけど・・・
それでいいのか?

「その創造神様の再来が島野様だと、私は睨んでおります」
髭面のおっさんが、ドヤ顔で俺を見ている。
いやー、勘弁してくれよ。
視線に耐えられないよ、だって俺は創造神様の後任らしいから、あながち間違ってないんだよね。
ていうか、羨望の眼差しを止めてくれっての、髭ずらのおじさんにそんな目でみられても、かえって気持ち悪いんですけど・・・
いけない、気を取り直そう。

咳払いをしてから面談を再開した。
「ところで、メタンの出身地はどこなんだ?」

「はい、魔法国『メッサーラ』でございますな」
ゴンが反応した、魔法が得意な人なら、この国に行けなんていわれてる国だって、カイさんが言っていたな。

「何か特技とかあるか?」

「はい、私はやはり魔法を得意としています。それ以外で言うと、読み書き計算はできます。この世界ではできない人が、結構多いのですな」
なるほど、読み書き計算ね。いいじゃないか。

「じゃあ、午前中は畑作業を行ってもらって、午後からはゴンと一緒に、在庫の管理や数量のチェックなどを行ってくれ、あとゴンがなにかと魔法の研究をしているから、一緒にやってみてくれないか?」

「主、いいのですか?」
ゴンが割り込んできた。

「ああ、お前も一人で考え込まなくても頼れる隣人がいた方が、はかどるだろ?」

「はい、助かります」
ゴンが喜んでいる。

「では、ゴン様、今後ともよろしくお願いいたします」
こいつゴンまで様呼びかよ。
まあいいや。

「じゃあメルルを呼んで来てくれ」

「かしこまりました」
メタンが仰々しくお辞儀をして退室していった。



ドアがノックされた。
「どうぞ」
ゴンが内側から扉を開けた。
メルルが入室してきた。

「もう体調は万全か?」

「ええ、大丈夫です。全ては島野さんのお陰です」
そう言われると照れるな。
厳密にはアイリスさんのお陰なんだけどね。

「座ってくれ」

「早速なんだが『鑑定』を行ってもいいかな?」

「はい、どうぞ」
メルルは少しだけ姿勢を正した。
うん、皆ほどではないが、やはり姿勢は正すのね。

『鑑定』

名前:メルル
種族:人間Lv10
職業:僧侶
神力:0
体力:749
魔力:589
能力:風魔法LV6 治癒魔法LV7 鎮魂歌LV2

鎮魂歌ってなんだ?

「なあ、この鎮魂歌って何なんだ?」

「それは、いわゆるお祓いみたいなものです」
お祓い?なんでかな?

「お祓い?幽霊でもいるのか?」

「いえ、幽霊のお祓いでは無く、土地を清めるであったり、不浄の汚れを祓ったりします」

「不浄の汚れとは?」

「主にアンデットですね」
なにそれ。怖いんだけど。

「アンデットてことは、死体が動いてるってこと?」

「はい、稀に森で出現します。鎮魂歌は聖魔法の一つです」
聖魔法?まあ僧侶だからそうなんだろうな。

「そういえば、島野さん一つよろしいでしょうか?」

「どうぞ」
なんか気になることでもあるのか?

「私の実感として、お話しさせてもらいます。治癒系の魔法を得意としてますので、昨日の体験は滅多にない良い機会を頂いたと思っています」
世界樹の葉のことかな?

「それで」

「世界樹の葉で私の病気は完治しました、それと同時に少し体力が回復しました。問題はその後なんです」
メルル曰く、世界樹の葉で病気は完治し体力も少し回復したが、その後の食事で通常では考えられないくらい、体力が回復したらしい。なんでも、治癒魔法では傷は治せるが、体力まで戻そうとなると、LV10以上無いとできないらしい。そしてLV10以上の治癒魔法の使い手となると、Sランク以上の者となり、滅多にいないらしい。
島の野菜の体力回復力は、ハンター達の常識を変えてしまうかもしれないとのことだった。

「そうなのか?」
野菜の方だったのね。

「はい、昔から体力回復薬は研究されておりますが、完成したとは聞いていません」
体力回復薬って、いわゆるポーションってやつだよな。いや何か違うな。

「で、この島の野菜は体力回復薬になるということか?」
ならば、新たな収入源となりえるってことか?

「その通りです、ハンター経験者として考えても、体力回復薬があると戦闘内容が大きく変わります、これまでは体力を温存した戦い方を強いられてましたが、体力回復薬があれば始めから全力でいけます」

「そういうことか、ちなみに魔力は回復するのか?」

「いえ、それはありませんでした」
体力回復に限定なのね、となれば魔力の回復手段が次に求められるな。

「魔力の回復方法はどうなんだ?」

「一般的なのは魔石を使います」
魔石なんだ、そういえば一個持ってたな。
俺は『収納』から魔石を取りだした。

「でっか!なんですか?その魔石」
デカいんだこれ。

「ああ、魔獣化したジャイアントイーグルの魔石だよ、見てみるか?」

「是非、お願いします」
俺は魔石を手渡した。

「で、この魔石が魔力の回復方法になるのか?」

「はい、ではやってみますね」
とメルルは言うと、両手で包むように魔石を握り、魔力を込め出した。
魔石が少し光ったように見えた。

「こうやって魔力を込めておくと魔石に魔力が溜まります、逆に魔石から魔力を取り出すこともできます」
なるほど、魔力の出し入れが可能ってことね。

「なるほどね、予め魔力を貯めておいて、必要な時に取り出すということだな」

「その通りです、あと実は魔石にはもう一つ使い道がありまして、魔法を閉じ込めておくこともできます。そして、魔力を流すと魔法が発動するという性質があります」
付与するってことだな、だから高額品として取引されてるってことか。
それでタイロンのハンター協会の会長はニヤけてたのか。
売らなきゃよかったな。

「神力は貯めれないのか?」

「神力を貯めれるのは神石ですね、たしかマークが・・・ちょっと待ってて貰えますか?」

「ああ、いいよ」
軽くお辞儀をしてメルルは退室していった。
その後、マークを伴って入室してきた。

「島野さんこれよかったら使ってください」
マークは手を差し出してきた、手の平には黒い丸い石のような物が三個あった。
手に取ってみる。
感触としては、石よりも少し柔らかい感じがする。

「これがさっき話していた神石です」

「これが・・・」
神石か、いろいろと試してみないとな。

「これも先ほどの魔石と一緒で、神力を貯めておくことと、能力を発動することができるんです」
これは使えるぞ、これはありがたい。なんといっても、これでマイサウナのグレードがまた上がる。
素晴らしい!

「本当に貰っていいのか?」
ありがたい、大いに使わせていただこう。

「ええ、俺達には不要の産物なんで、売ることもできませんし」

「そうか、ありがたくいただくよ」
しめしめ、これで・・・いいね。最高だよ!
さて、話を戻そう。

「メルル、君の仕事は午前中は皆と一緒に畑の作業をしてくれ、午後からは体力回復薬の研究をしてみるってのはどうだ?」

「えっ、いいのですか?」

「ちょっと、体力回復薬ってなんですか?」

「悪いなマーク、後でメルルから聞いてくれ。メルル、この島には野菜は豊富にあるし、僧侶としては興味があるんじゃないか?」
面倒な説明はお任せということで。

「もちろんです、私にとっては夢の仕事です」
メルルは興奮している様子。

「それに、体力回復薬が完成したら、大儲けできるぞ」
おれはニヤリと微笑んだ。

「ですね」
メルルもニヤリと微笑んだ。
ひとり置き去りのマークだった。



個人面談を終えた。
皆で、晩飯の時間。
本日の晩飯は、ミックスサラダに、ジャイアントボアとジャイアントピッグの粗びきハンバーグ、コーンスープ、ご飯かパンはお好みでといったところ。

「では手を合わせて、いただきます」

「「「「いただきます」」」」
大合唱。

「皆、食べながらでいいから聞いてくれ、これからの仕事内容について、皆と共有させてもらうことにする」
皆な食事を始めながらも、こちらに注目している。

「まず先に家族の皆とアイリスさん、これまでは俺の能力のことは明かさないように努めてきたが、俺もこうなった以上腹を括った。積極的に俺の能力を明かす気は更々無いが、神様の修業中であることを、この島の中では隠すことはしないことにする」
エルが手を挙げた。

「アグネス様にはどうするおつもりですの?」

「ああ、さすがにあの駄目天使も付き合いが長いし、言いふらすような馬鹿なことはしないだろう、方向性を変えるよ。もし言い降らす様なら、もう一回締めてやろう」

「うん、賛成!」
ノンが言った。
ノンのやつ、アグネスを締めるのが楽しくなってないか?

「そうですの」
エルも同意した。
お前もか!
まああれでいて、アグネスなりに気を使ってくれていることは知っているからな。
さて、ここからが本日の本番だ。

「皆な、心して聞いてくれ、まず俺は会社を設立する。さしずめ『島野商事』ってところかな?」
ノンが手を挙げた。

「主、会社って何?」

「営利を目的に経済活動をする組織のことだ、要はお金を稼ぐ組織ってことだよ」
ウンウンと皆が頷いている。

「そこで、各担当を発表します。まずは農場部門の責任者はアイリスさん」
アイリスさんが立ち上がって一礼した。
自然と拍手が起きる。

「島野商事にとって、農業部門は根幹となる部門です、アイリスさんよろしくお願いします。皆、休日以外の者は、午前中はアグネスさんの指示に従って、農作業を行うようにしてくれ」
俺もアイリスさんに軽く一礼した。

「続いて建設部門の責任者は、マークにお願いしたい、サポート役としてランドを任命する」

「お、俺ですか?いいのですか?」
マークが驚いている。

「ああ、よろしく頼むよ。やはりこの島にとってインフラは欠かせない、先ほど話した上下水道は急務と考えている。上下水道が整ったら、その後は各種施設を設けようと考えている。最も体力が必要な部門だ、出来るな?お前達?」

「ええ、任せてください」

「力仕事は任せてください」
二人は胸を張っていた。
いろいろと考えてみた結果、お金は掛かるのは分かっているが、はやりインフラの整備は必要との結論にたどりついた。その一番の理由は、畑の水やり作業が、一定の者に限定されていることにあった。
水魔法を使えるゴンと、自然操作が使える俺しかいない。
この不平等感は解消したい。
それにやはり水洗トイレが欲しい。
人が増えたことだし、文化的な暮らしは必要だと思う。

あとは温泉街『ゴロウ』もインフラが整備されていた。
こう言ってはなんだが、五郎さんにできて、俺にできないとは思いづらい。

「次に魔法研究部門及び管理部門はゴンが責任者で、メタンがサポートをする」
ゴンとメタンが立ち上がった。

「島野様の会社の発展の為、精神誠意努めさせていただきます!」
いきなりメタンが宣誓した。

「おまえ、そんなキャラだったか?」
マークがツッコむと爆笑が起った。

「何を言うリーダー、島野様と出会って私は変わったのですな」
真剣に言うメタン。
更に爆笑が起こった。
だが俺には笑えなかった、勘弁してくれよメタン、お前ちょっとキモいぞ・・・
気を取り直そう。

「次に行っていいか?次に体力回復薬研究部門はメルルに任せる、そして俺がサポートに入る」

「えっ!体力回復薬って、なんのことだ?旦那」
ロンメルが気になったのか、話しに割り込んできた。

「詳しくはメルルに聞いてくれ」
マークの時と同じく、面倒なのでメルルに振った。
細かい話は極力避けたいと思う俺だった。
めんどくさがり屋で、すんません。

「そして漁部門はロンメルに任せる、サポートにギルとエルが付いてくれ」

「ギル坊、エルちゃんよろしくな」
ロンメルが言った。

「ロンメルおじちゃん、ギル坊って言うなよ、それを言っていいのは五郎さんだけなんだぞ」
なんで五郎さんはいいんだ?
ギルの拘りか?

「ギル坊こそ、おじちゃんって言うなよ」

「へん、お返しさ」
また笑いが起きた。
仲が良い事はいいことです。

「そして、狩りと家畜の世話部門はノンをリーダとする」

「はーい」
流石のノン、軽い返事だ。

「ギルとエルは漁の無い日はノンを手伝うように」

「「了解」」
ギルとエルはコクリと頷いた。

「最後に、全てを統括した責任者を俺が務める、いいな?」
俺は皆を見渡した。

「もちろんですな」

「あたりまえだぜ」

「主以外ありえません」

「いいよー」
皆口々に賛成の意を伝えてきた。

「ということで『島野商事』設立です!」
拍手が鳴りやまなかった。
まさか異世界に来て会社を設立するとは・・・人生ってのは驚きの連続ですね。



翌日、俺は五郎さんの所に納品に来ていた。

「五郎さん、こちらでいいですか?」
大量の農産物を、指定された場所に置いた。

「おお、いつも悪りぃな」

「そう言えば五郎さん、一つお願いがあるのですが、聞いてもらえますか?」
俺は改めて相談しようと考えていた。

「おお、何でえ?」
俺にとっては深刻な悩みであった、それは島の野菜の体力回復力だ。
よくよく考えてみると、体力回復薬が無いこの世界にとって、島の野菜は非常に価値の高いものであると考えられた。
ハンターにとっては、在ると無いとでは狩りにおいて雲泥の差となる。
その秘密を知りたいと考える者達は必ず現れるだろうし、場合によっては、国家ぐるみで解明しようと躍起になることも予想できた。
島の安全の為には、慎重にしなければならないと思われたのだ。

「この野菜なんですが、実は体力回復力があるんですよ」

「ああ」
平然と返事をする五郎さん。

「それでその・・・生産者を明かさないで欲しいんです」

「はあ?おめえ今さら何言ってやがるんだ?」
五郎さんが呆れた顔をしていた。

「えっ!」

「お前え・・・まさか・・・この野菜に体力回復力があるって、知らなかったってのか?」
何?何ですと?嘘でしょ?

「ガッハッハッハ!お前え、今さら何言ってやがる、そんなことは始めから分かってらあ、だから取引を申し入れたってのに今更何でえ、ガッハッハ!お前え、案外抜けてんなあー!」
いやー、俺ってそういうところあるんですよねー・・・って、五郎さんはとっくに分かってたってことなんですね・・・あー、やだやだ・・・ちょいちょい俺にはこんなことがありますよ・・・ハハハ。

「いやー、島野、お前え、結構抜けてやがんな。あー、笑わせやがる。大丈夫だ、生産者は明かさねえようにしてるから安心しろや、あー、面白れえ!」

「ハハハ・・・」
もう笑うしかなかった。


 
島野商事設立から一ヵ月が経った。
今の暮らしぶりを、話しておこうと思う。

建設部門の二人はコツコツとインフラ整備の作業を進めていた。
この村から川岸まで直線距離でおよそ一キロといったところ。
最短距離にて測量が開始され、今は道で繋ぐように、森の樹を切り倒している。
あと数日で川岸にまで到達する、というところまでたどり着いた。

作業はやはり体力勝負で、切り倒した樹の枝を払い、丸太の状態にして、村まで運ばなければいけない。
インフラ完成後に各種施設を造る為には、この木材を使用するからだ。
従って、ただ単に樹を切り倒すだけでは無く手間がかかっている。
打ち払われた枝も、回収できる時は回収させている。
良質な薪になるからね。

俺の能力を持ってすれば、簡単にことは運びそうだが、あえて手を出さずに任せる様にしている。
やはり自分達で造るという達成感は必要だと思う。
何でもかんでも簡単にできればいいという物ではないからだ。
それに圧倒的な力を見せびらかすのは、志気を下げることにも繋がる。
ここは最高責任者として、任せることが重要であるとの考えだ。
それに、狩りの合間にノンやギル達が手伝っていることも聞いている。
いいチームワークが生れているということだ。
順調、順調。

漁部門も週二で海に出ている。
ロンメルの希望する網を能力で作成後、本格的に漁を開始した。
ロンメルやノンの『探索』は、海では通用しない為。
本当は『探索』持ちの俺が同行すれば、魚群を見つけることは容易い。
しかしこれもあえて手を出さずに任せる様にしている。

何度か海獣にも遭遇したようだが、ギルがあっさりと追い払っているようで、護衛としての役割をちゃんとこなしているようだ。
大量に魚が捕れる日もあれば、まったくもって捕れない日もあり、これに関してはどうしようもないと考えている。

ありがたかったのは、カツオが釣れたことがあり、そのほとんどは、藁焼きにして皆で食べてしまったが、鰹節も出来上がった事だ。
これにより味噌汁の味が大幅に飛躍した。やはり出汁は料理にとって重要な要素であると改めて感じた出来事だった。

ちなみにロンメルは漁にでない日は、船の整備とワカメの収穫、そして海苔の作成を行っている。
この世界では海苔は無く、海藻は海のゴミとして扱われていたようだ。

たしか地球でも海外ではそう思われていたような気がする。
この海苔の作成は、アイリスさんが興味があるらしく、暇になると手伝っているようだった。
実にいいことだ。

一番手こずっているのは魔法開発部門だ。
理論派のメタンと本能型のゴン、なかなか噛み合わないようである。
まあじっくり腰を据えて行って欲しい。

魔法に関しては俺は使えないし、理屈も分からないので、当然手出しなどはしない。
ただ、要望だけは伝えておいた。
それは、転移魔法を習得して欲しいということ。
理由は簡単で『転移』は俺しか使えない為、役割が分担できないからだ。

それを伝えると、
「転移魔法ですか?上級の魔法士でも使える者など見たことがありませんな」
とメタンが言っていた。

「だから挑むんじゃないか」
適当に俺が返した所、

「さすが島野様、そうですな、仰る通りです。粉骨砕身努力致します!」
なぜだかメタンが鼻息荒く答えていた。
その横でゴンが呆れた顔でメタンを眺めていたのは記しておこう。

次に体力回復薬部門のメルルだが、ここは俺がサポート役の為、しっかりと手を出している。
というか、いいように使い回していると言っても、いいのかもしれない。

要は料理のお手伝いをさせているのである、理由は簡単、まずは野菜に触れてみるにはこれが一番だからだ。
とはいっても、ただ料理をしているのではなく、ちょこちょこ味見をしながら『鑑定』でどれだけ体力が戻るかを計測しながら行っている。どのように調理したら一番体力が回復するのか?野菜の組み合わせなども変えながら行っている。

あとは裏の理由として、この島では俺以外の者で、料理が出来る者がいない為、役割の幅を持たせるという側面もある。

実は、ギルとエルが料理に興味を持っているのは知っているが、彼らに関しては、今後追々と教えていければいいと思っている。
興味を持ってくれていること自体が嬉しいと感じる。



さて、今日は月末の為、後で皆に給料を払わなければいけない。
内訳としては、正社員の島野一家とアイリスさんには一律金貨十枚。
見習い社員の『ロックアップ』の皆には、一律金貨五枚。
俺は金貨三十枚を頂くつもりだが、あえて公表はしない。

今月の『島野商事』の収支だが、売上のほとんどが五郎さんの所で占めている状態で、アグネス便が重宝されていたころからは、考えられない金額となっており、その額はなんと約金貨五百枚となっている。
仕入れや経費は、万能種をたまに使うぐらいで、ほとんど掛かっていない。
掛かるのは人件費のみだ。
従って今月の利益は約金貨三百八十五枚となっている。

但し、この先インフラの整備等で、どれだけ万能鉱石を必要とするか分からない為、気を抜いてはいけないということはよく理解してる。
社長という立場の俺としては、社員の生活は守らなければいけないのだ。

などど言ってはみたものの、最悪経営破綻しても、衣食住には困らないことはよく分かっている。
だが、余裕のある生活は人生をまた違ったものすることも俺は知っているので、ゆとりのある暮らしを行ってほしいと心から思う。
その為に金貨が必要であるならば、稼ぐ手段を取ればいいと思っているだけなのだ。
生活が豊かになれば自然と心も豊かになるだろう。皆には幸せに過ごして欲しいと切に願っている。



休暇の過ごし方は、本当に人それぞれといった具合だ。
趣味に興じる者、体を鍛える者、何もしないでのんびりとしている者もいる。
そして俺の気まぐれで造った、ビリヤードと将棋が島でブームになっており、皆その研究に勤しんでいた。

ただ休日の過ごし方として共通しているのは、サウナは欠かさないという点だった。
その気持ちは痛いほどよく分かる。
それもそのはずで、遂にサウナにオートロウリュウ機能が追加されたからだ。

マークに貰った神石の三つの内、二つも使うことになったがサウナの新機能搭載を優先させた。
いろいろと神石については実験を行った。その結果として分かったことは、能力を込める際に時間を意識すると、能力の発動から休止までを行えると判明した。それを応用して行ったのが、今回のオートロウリュウ機能追加となった。

一定の時間が経つと神石から自動的に水がサウナストーンに打ち付けられ、その後もう一つの神石から熱風が送られるようになっている。
これがなかなか強烈な熱波であり、皆からの評判もいい。
ちなみに『ロックアップ』の皆さんには、サウナは教えたが『黄金の整い』は教えていない。
創造神様との約束はちゃんと守っている。

俺達が整っている様を見て、
「なんですかそれは?」
と聞かれたことはあったが。

「聖獣と神獣は、サウナで整うとこうなるんだ」
と適当な嘘で誤魔化しておいた。
嘘をつくのは偲び無いが、流石に創造神様との約束を裏切ることはできない、教えてあげたいのはやまやまなんだけどね。

俺の休暇はというと、決まって日本に帰っている。
やはり『おでんの湯』に行きたいとの気持ちもあるのだが、実は不安解消という側面もある。

今は畑の作業で神力をかなり使っていると思われる為、神気の補充ということを考えてのことだった。
まだ一度も計測不能から変化したことはないが、やはり島での『黄金の整い』で得られる神気は薄いので、日本で濃い神気を蓄えたいのだ。
もし、俺の神力が枯れてしまったらと思うと、ゾッとする。

日本との二重生活は当分の間止めれそうもない、というかやめる気もさらさらない。
それになにもサウナに入りたいが為だけに日本に帰っている訳ではない。
今後のことを考えて、ネットで調べ物をしたりもする必要があるし。
能力の開発のヒントも得たいと思っている。
それに俺にとってはこの二重生活も案外楽しいものになっているのだった。



晩飯前に皆を集めた。その理由はこれから給料を手渡しするからだ。

「皆さん、この一ヶ月間お疲れ様でした!」
頷く一同。

「今日は月末です。ですので、これから皆さんに給料を手渡しさせていただきます」

「給料ってなに?」
ノンが尋ねて来た。

「労働で得る報酬のことさ」

「報酬とは?」
エルが疑問を口にした。

「お金だよ」

「へー、そうなんだ」
と無関心なノン。

「金額は島野一家の皆なとアイリスさんは、一律金貨十枚とします『ロックアップ』の皆さんは金貨五枚とします」

「「「おおー!」」」
と、どよめく一同。

「ちょっと待ってくれ島野さん、俺達は貰う訳にはいかないよ」
マークが焦りながら言った。

「そうです。貰う訳にはいきませんな」
メタンが追随した。
ここで俺は手を挙げて場を制した。

「いいか、よく聞いて欲しい。労働の対価を貰うのは当たり前のことだ。そもそも俺はこの島で働いて貰うと言ったんであって、誰も無報酬で働けとは言っていない。それに四ヵ月という期間は見習い期間だから、その後は他の皆と同じ、一ヶ月で金貨十枚渡すつもりだ。もしこの島に残ってくれればの話だがな」
『ロックアップ』の皆さんは苦虫を噛み潰したような表情になっていた。

そして一転して。
「旦那、あんたって人は・・・」

「まさに神の所業ですな」

「島野さん、俺は一生ついていくぜ」

「この島から離れるなんて考えられないわよ」
などと口々に言いだした。
どうやら『ロックアップの』の皆さんは、この先もこの島から離れる気は無さそうだ。
それはそれでよかった。

「ではまずはアイリスさんから」
アイリスさんが立ち上がって、俺の下に近づいてきた。

「お疲れさまでした、これからは温泉街『ゴロウ』でのお土産は、自分のお金で購入してくださいね」

「あら、そういう風にこれを使えばいいのですね」
アイリスさんは微笑んだ。
アイリスさんは俺が五郎さんの所に納品に行った際に、お土産として購入してくる饅頭が大好物なのだ。

「ノン、お疲れ様」

「はーい」
こいつは金銭の価値をどれだけ分かっているのだろうか?
まあいいや。
ノンに給料を手渡した。

こんな調子で皆に給料を手渡した。
受け取った一同は俺に感謝の言葉を告げた。

俺もちゃんと彼らの労働に感謝の意を込めて、全員に手渡しをさせて貰った。
今後もこういった。良い関係性を続けていきたいものだ。

改めて俺は皆に言った。
「皆聞いて欲しい、今日からはルールを新設することにした」

「ルールって何?パパ」
ギルが疑問を口にした。

「ルールってのはな、ギル、守るべき決め事ってことだ」

「うん、分かった、約束ってことね」
理解が速くてよろしい。

「まず今後の方針として、嗜好品は全て自分で購入するようにします」
数名がなるほどと頷いている。

「嗜好品とは?」
ゴンが聞いてきた。

「具体的に話そう、まずビールは一人二杯まではこれまで通り飲んでくれて構わないし、ビール以外のアルコールが欲しいのなら、同様の分はお金は取らない、三食の食事もこれまで道り提供するし、住む家もこれまで通りに使って貰って構わない、これはすなわち福利厚生だ」
皆が理解できているか皆を眺めて見る。
うん、よさそうだな。

「ルールとしては、ビールは三杯目以降は、一杯につき銀貨五枚頂くし、その他のアルコール類も同様で、飲みたければ自分の金銭で購入して欲しい。基本的にこの島の野菜やその他の収穫物や、製作されている物品は『島野商事』の物となる。従って、それらの物が欲しいときは、自分で『島野商事』から購入して欲しいということだ。購入先は俺かもしくは管理部門のゴンかメタンにお金を手渡して欲しい。ちなみにツケは無しだ。明朗会計のみとする」

「他には何が嗜好品に当たるんでしょうか?」

「そうだなまずは衣服、そして靴だな、後は雑貨や俺が造る物品などかな」
実は靴に関してはとても喜ばれたのが、スニーカーだった。
この世界の靴の基本は革製が主流で、靴底は皮によるものが多かった。
しかし俺の造るスニーカーは、靴底がゴム素材の為、グリップが効いて歩きやすいと評判が良い。
靴は生活における大事な要素なのだ。

「これまで道り作業着や長靴は支給品として扱うが、業務以外の物は自分達で購入することにする」
更に俺の『合成』の技術も相当な物となってきており、今ではありとあらゆる衣服の作成が可能となっていた。

「あとは俺が五郎さんの街に出かけた時に皆に、欲しい物があったら買ってくるから、これも自分たちの稼ぎで買うようにして貰う、今後はこのようなルールを設けます」

「分かりました」

「了解です」

「承知しました」
こうして、島のルールが新設された。

「じゃあさっそくワインを一本買わせてもらおうかな?」
マークがにやけ顔で言った。

「了解!ワインは一本銀貨三十枚、他では銀貨四十枚で売ってるけどな、社員割引きってことだ」

「おっ!良心価格」
と、こうしてルールの運用が始まった。

流石はマークだな、こうやって実践して皆に教えてくれているってことだ。心遣いに感謝する。
『ロックアップ』のリーダーは伊達じゃないね。
出来る部下がいると助かるなと感じる。
ありがたいことです。