他にもグランドオープンに向けて真っ先に手を入れたのは更衣室だった。
最大収納人数を上げないと話にならない。
先ずは更衣室を倍以上に拡張した。
そして男女各四百個ずつあったロッカーを千台に増やした。
これで最大収容人数は倍以上となり、より多くの人達にスーパー銭湯と別館を楽しんで貰えることになる。
それでも足りないとなれば後でいくらでも手は加えることは出来る。
先ずはオープン時の様子と、オープン以降のお客の同行を見てみることにしようと思う。
どんな反応をするのか楽しみだ。
俺はスーパー銭湯のオープン時の事を思い出していた。
あの時はすったもんだがあったな。
異世界でまさかのテープカットがあり、その時にオリビアさんが勝手に歌い出して胴上げをされた。
たくさんの花輪を頂きとても恐縮したのを覚えている。
五郎さんの粋な計らいには舌を巻いたよ。
今回は此方から丁重にお断りをしておいた。
だって神様ズはそれぞれのお店のオープンがあるし、そうなってしまうと花輪だらけになってしまうからね。
実は花はサウナ島の八百屋で販売されている。
こんなことで儲けなくてもいいでしょ?
さて、レストラン街とフードコートのオープンと、レジャー施設のオープンに加えてスーパー銭湯の別館のオープンを同時にする訳にはいかない。
此処を重ねてしまってはエアーズロック渋滞が顕著になるし、オープン時の様子をしっかりと見ることが出来ない。
俺の都合となるが五郎さんも同意見だった。
「島野、そうしちまうとえれえ一日になるぞ、止めておけ」
と言っていた。
その忠告を俺は受け入れることにした。
五郎さん達も自分のお店のオープンが気になるだろうし、場合によっては現場に入るかもしれない。
それにある程度落ち着いてからの方が、スーパー銭湯の別館のグランドオープンも楽しめるということだろう。
そしてスーパー銭湯の別館がグランドオープンを向かえる一週間前、遂にエアーズロックのレストラン街とフードコートと、レジャー施設がグランドオープンした。
特に式典等は行わない。
というのも神様ズは皆自分のお店のグランドオープンの準備に大忙しだからだ。
始めは大体的に式典を行おうという意見もあったが、俺の予想通り無くなった。
結構お店のグランドオープン時って忙しいものなのだよ。
通常の営業のみならず様々なサービスを提供するものだからね。
いつも以上の労力と賑わいがあるものなんだよな。
それに気持ちもそっちに向かうからね。
そんな時に式典なんてやってられないよね。
さて、サウナ島の受付では朝の九時の段階で既に渋滞が起きていた。
そのほとんどがエアーズロックに繋がる転移扉の利用者だ。
既にグランドオープンの準備の為に、お店のスタッフや関係者達の移動は済んでいる。
ランドがその大きな身体を揺らしながら一生懸命に受付業務を行っていた。
エクスとエアーズロックの分身体も大忙しだ。
今では受付所は全部で十箇所あるがその全てが埋まっている。
スタッフも全員が慌ただしい。
俺はその様子を眺めた後に、直接転移でエアーズロックに移動した。
エアーズロック側の転移扉の脇にはコロとマルが控えており。
訪れた者達全員に元気よく、
「エアーズロックにようこそ!」
挨拶をして受け入れを行っていた。
二人共とてもニコニコしている。
相当嬉しいみたいだ。
こいつらの人嫌いはいつの間にか解消できていたみたいだ。
よかった、よかった。
マルが俺を見つけて駆け寄ってこようとしたのだが、俺が笑顔と手でそれを制止した。
今は受け入れの挨拶を優先させてくれよ。
俺の事は二の次でいいからさ。
俺は先ずはレストラン街を見に行くことにした。
殆どのお店が十一時開店となっているが、マリアさんのお店のみ十時開店となっている。
昼間は個展を開くお店ということだったのだが、どうなっているのだろうか?
実は俺はまだマリアさんのお店の中には入ったことが無い。
マリアさんのお店の前に行くと既に開店待ちのお客の列が出来上がっていた。
おおー!これは凄いな、まだ開店一時間前だよ?
すると外の様子を見に来たマリアさんに俺は捕まった。
「守ちゃん、おはよう!ムフ!」
何時になくメイクに気合が入っている。
バッチリ決め込んでいた。
「マリアさん、おはようございます」
「守ちゃん寄ってくう?」
「いいんですか?」
「だって守ちゃんまだお店の中に入った事が無いでしょ?」
「ですね」
「ムフ!」
ムフ!の意味はよく分からんが、やっぱりマリアさんは俺の評価を気にするみたいだ。
実は何度か時間が出来たら見に来てくれとは言われてはいたのだ。
でも今日まで本当に時間を取ることが出来なかった。
申し訳ないとは思っている。
特にスーパー銭湯の別館を造り出してからは現場を離れる事が出来なかったのだ。
俺はマリアさんに続いてお店の中に入った。
おお!正に個展だ。
そこにはマリアさんが作り上げた様々な芸術品が列挙していた。
漫画から始まり、絵画や石像などの芸術品。
特に絵画は品数が多い、色々な絵画が展示されている。
俺は決して芸術に精通はしていないが絵画の素晴らしさ、その芸術力の高さがを窺い知ることができた。
「マリアさん、また腕を上げましたね」
「ムフ!ありがとう、守ちゃん」
「これはやっぱり漫画の影響ですか?」
「ムフ!そうよ」
「この絵画なんてタッチが違いますもんね」
「守ちゃんには分かるみたいね、ムフ!」
「これぐらい誰でも分かりますよ」
「ムフ!」
ムフ!多めの会話になってしまった。
それにしても最初はゲイバーとの話だったのだが、昼間のこの個展のみでいいんじゃないか?
わざわざ芸術品を移動させてゲイバーにする必要があるのか?
まあいいや、俺のお店じゃないし。
好きにしてくれ。
「もうお店を開けるんですか?」
「どう思う?」
「時間まで待って貰った方がいいと思いますよ、そうじゃないと早く来たら開けて貰えるお店だと勘違いされることになりますよ」
「そうね・・・そうするわ・・・それでこのお店はどう?」
やっぱり俺の評価が気になるのか・・・
「素晴らしいと感じます、人気が出そうですね」
「ムフ!」
マリアさんは誇らしげにしていた。
「じゃあ、他のお店の様子が見たいので行きますね」
「もう行っちゃうの?」
マリアさんは少し寂しそうにしていた。
「はい、では」
「ムフ!分かったわ」
マリアさんに手を振られて俺はマリアさんのお店を離れることにした。
次に五郎さんのお店を見に行くと既に長蛇の列が並んでいた。
これは凄いな、流石は五郎さんのお店だ。
五郎さんからは三日間オープンセールとして全品半額にすると聞いている。
その効果だけではないだろう、やはり安定の味を提供されることは間違い事は知れ渡っている。
それは大将が仕切るお店だと評判が立っているからだ。
温泉街『ゴロウ』の料理長の座は伊達ではない。
それにあの人の料理に掛ける情熱は熱々だからね。
間違いのない旨い寿司を提供する寿司屋になるだろう。
マグロの解体ショーについてはよく分からない。
まあやらないだろうけどね・・・
カインさんのカレー屋も長蛇の列が出来上がっていた。
そしてカインさん自ら整理券を配布していた。
何やっての?この人?
「やあ島野君!見てくれよこの賑わいを!」
カインさんは大層ご機嫌だった。
「凄いことになっていますね」
「だろう?こんなにカレーを愛する者達がいるなんて私は嬉しいよ!」
あっ、そう。
とは口が裂けても言えないな・・・
カレー愛が半端なさ過ぎなんだよこの人は・・・
「カレーは人生を変えますからね」
「そうだよね!」
しまった!余計な一言を発してしまったみたいだ。
カインさんの笑顔が眩し過ぎる!
「ハハハ・・・それでオープン時には何か特別な催しでもするんですか?」
ふと真面目な顔付きになったカインさん。
「実は・・・次回無料券を配る事にしたんだよ!どうだい!このアイデアは?」
無難だな・・・とは言えないな・・・
「へえー、考えましたね」
「だろー!三日間寝ずに考えたんだよ!」
はあ・・・そんなことはいいからダンジョンの運営をしてくださいよ・・・
「それは頑張りましたね・・・」
もう合わす事しか出来ませんて。
「こんな楽しい日々はこれまでに無かったよ!」
マジかよ?・・・だからダンジョンの運営は?ダンジョンの運営も楽しいんじゃないんですか?
「じゃあ他のお店の様子を見たいから行きますね?」
「そうかい、また寄ってくれよ!」
万遍の笑顔でカインさんに送り出された俺だった。
何なんだ一体・・・
俺は見てはならない者達を見ている気分だった。
それはオリビアさんのライブハウスの前で円陣を組む一団を発見してしまったからだ。
全員鉢巻と法被を着こんでおり、その鉢巻と法被にはオリビア命と書き込まれている。
そしてオリビアさんの楽曲を全員で合唱していた。
勘弁してくれよ・・・苦情になるだろうなこれは・・・
無茶苦茶煩い。
通り縋る人達の蔑むような横眼が痛々しい。
オリビアさんのファン達が一致団結していた。
前々からこの兆候はあった。
オリビアファンクラブがその結束を高めようとしていることを。
オリビアさんは映画出演をきっかけに、多くのファンの獲得に成功していたのだ。
そしてその勢力を拡大していた。
そのファン達はあろうことか北半球にまで達していた。
現にこの集団を纏めているのはゴブオクンなのである・・・
こいつ本気で殴ってやろうか?
死ぬぞ?
そして困ったことにこのファン達から俺は嫌われるのかと思っていたのだが、その反応は真逆だったのである。
実に遠慮の無いファン達から、
「島野さん、オリビアさんの事はどう想っているのですか?添い遂げて貰えますよね?」
「島野様!オリビア様の連れ合いは島野様しか居ないだべ!」
「実際の所どうなんですか?もう秒読みですよね?」
要らない事を散々尋ねられることになっていた。
こいつら纏めて放り投げてやろうかと本気で考えてしまった。
煩いんだよ!
外っておいてくれよ!
お前らには関係無いだろうが!
俺に気づいた数名が近寄ってくる気配があった為、俺は転移でその場をしれっと離れることにした。
ふざけんな!
ファメラの子供食堂は特に行列は出来てはいなかったが、既に営業は開始されていた。
ファメラは笑顔で子供食堂の入口に立ち、腹を空かせた子供達にここだよと呼び込んでいた。
俺は気になって裏口から厨房に入ると、テリーとフィリップが全力で中華鍋を振っていた。
いいじゃないか!俺はこういう光景が見たかったんだよな。
決してオリビアファンクラブなんて見たくは無い!
俺は声を掛けることにした、
「お前達、頑張っているな!」
俺の声に振り返る二人、
「島野さん!お疲れ様です!」
「お疲れ様です!」
笑顔で答えるテリーとフィリップ。
「手を貸そうか?」
「いや、それには及びません。俺達でやらせてください!」
「そうです!俺達で充分です!」
こいつらも言う様になったもんだ。
嬉しいじゃないか!
「そうか、何かあったら遠慮なく言うんだぞ」
「「はい、ありがとうございます!」」
頼りになるな。
俺は感慨深い気持ちになっていた。
もうこいつらも一端の大人だな。
ここまで成長するなんて・・・もう俺には見守ることしか出来そうもないな。
ちょっと寂しい気もするが・・・
フレイズの激辛料理のお店の前は異様な空気感が漂っていた。
数名の客らしき一団が言い争いをしていたのだ。
「激辛の最高峰は台湾ラーメンだ!」
「何を言う、スパイシーピザに決まっているだろう!」
「否、山椒を効かせた麻婆豆腐に勝てる訳がない!」
アホらしい・・・勝手にやってろ。
止めに入る気にもなれなかった。
するとお店の中からエプロンを着たフレイズが飛び出してきた。
「ガハハハ!良いぞお前達!その心意気や良し!我が最高の辛みを提供してくれるわ!ガハハハ!」
「おお!フレイズ様!」
「最高の辛みですか?期待大!」
「痺れる辛みを所望します!」
言い争いは済んだみたいだが・・・相手をしてはいられないな。
好きにやってろ!
馬鹿どもめ!
ドランさんのアイスクリーム屋には家族連れが行列をなしていた。
いいねー、ほのぼのとするな。
ドランさんはオープン三日間は牛乳とヨーグルトを無料でプレゼントすると言っていた。
意外にウケるかもしれないな。
それ目当てかどうかは分からないが、実際にこうやって家族連れに支持されているのは火を見るよりも明らかだ。
アイスクリーム屋は流行って当たり前だな。
心が癒されるよ。
良いものを見たな。
フレイズのお店の後だから五割り増しか?
レイモンドさんの和菓子屋にも長蛇の列が出来上がっていた。
店先でレイモンドさんが、
「ありがとー、ありがとー」
間延びした口調で感謝の言葉をお客に連呼していた。
客層を見るに年齢層は高めである。
この店も流行るんだろうな。
結構玄人受けする店かと思っていたが、そうでもなさそうだ。
俺も後で寄ろうかな?
最近は俺も和菓子が口に合う。
それなりの齢になったのか?
ランドールさんの割烹料理店の前にはお客の列は無かった。
それはそうだろう。
このお店は完全予約制である。
そんなお店に並んだところで中に入れて貰える訳はない。
だが、少しの間眺めていると予約をしようと引っ切り無しに人が集まってきていた。
それも明らかに地位の高そうな者達や、お金を持っていそうな者達だった。
それにリチャードさんも予約しに訪れていた。
「これは島野様、お久しぶりで御座います」
「リチャードさんも予約しにきたんですか?」
「はい、少々値は張りそうですが商談には打って付けのお店かと愚考いたしまして」
「なるほど、因みに商談相手は誰ですか?」
「タイロンの外務大臣で御座います」
「へえー、そうなんですね」
どうやらメルラドとタイロンの友好関係はその後も保てているみたいだ。
よかった、よかった。
アンジェリっちのサロンにも行列が出来ていた。
実にお洒落な方々が多い。
アンジェリっちはどうやらオープン記念の限定商品を準備しているとのことだった。
限定商品は化粧品らしい。
俺にはあまり興味は無いけど、お洒落女子には大事な事なのだろう。
ここは流行って当たり前かな。
お洒落と言えばアンジェリっちとの絶大な信頼を受けているからね。
そしてフードコートの入口にはとんでも無い数の人々が列を成して並んでいた。
何だこれは?
無茶苦茶多くないか?
レストラン街の行列なんて陳腐と思える程の大行列が出来上がっていた。
これは始めから入場規制確定だな。
凄い事になっている。
天使と悪魔達は大変だろうな。
でも、嬉しいご祝儀だな。
素敵なグランドオープンを迎えそうであった。
エアーズロックは活気に溢れていた。
最大収納人数を上げないと話にならない。
先ずは更衣室を倍以上に拡張した。
そして男女各四百個ずつあったロッカーを千台に増やした。
これで最大収容人数は倍以上となり、より多くの人達にスーパー銭湯と別館を楽しんで貰えることになる。
それでも足りないとなれば後でいくらでも手は加えることは出来る。
先ずはオープン時の様子と、オープン以降のお客の同行を見てみることにしようと思う。
どんな反応をするのか楽しみだ。
俺はスーパー銭湯のオープン時の事を思い出していた。
あの時はすったもんだがあったな。
異世界でまさかのテープカットがあり、その時にオリビアさんが勝手に歌い出して胴上げをされた。
たくさんの花輪を頂きとても恐縮したのを覚えている。
五郎さんの粋な計らいには舌を巻いたよ。
今回は此方から丁重にお断りをしておいた。
だって神様ズはそれぞれのお店のオープンがあるし、そうなってしまうと花輪だらけになってしまうからね。
実は花はサウナ島の八百屋で販売されている。
こんなことで儲けなくてもいいでしょ?
さて、レストラン街とフードコートのオープンと、レジャー施設のオープンに加えてスーパー銭湯の別館のオープンを同時にする訳にはいかない。
此処を重ねてしまってはエアーズロック渋滞が顕著になるし、オープン時の様子をしっかりと見ることが出来ない。
俺の都合となるが五郎さんも同意見だった。
「島野、そうしちまうとえれえ一日になるぞ、止めておけ」
と言っていた。
その忠告を俺は受け入れることにした。
五郎さん達も自分のお店のオープンが気になるだろうし、場合によっては現場に入るかもしれない。
それにある程度落ち着いてからの方が、スーパー銭湯の別館のグランドオープンも楽しめるということだろう。
そしてスーパー銭湯の別館がグランドオープンを向かえる一週間前、遂にエアーズロックのレストラン街とフードコートと、レジャー施設がグランドオープンした。
特に式典等は行わない。
というのも神様ズは皆自分のお店のグランドオープンの準備に大忙しだからだ。
始めは大体的に式典を行おうという意見もあったが、俺の予想通り無くなった。
結構お店のグランドオープン時って忙しいものなのだよ。
通常の営業のみならず様々なサービスを提供するものだからね。
いつも以上の労力と賑わいがあるものなんだよな。
それに気持ちもそっちに向かうからね。
そんな時に式典なんてやってられないよね。
さて、サウナ島の受付では朝の九時の段階で既に渋滞が起きていた。
そのほとんどがエアーズロックに繋がる転移扉の利用者だ。
既にグランドオープンの準備の為に、お店のスタッフや関係者達の移動は済んでいる。
ランドがその大きな身体を揺らしながら一生懸命に受付業務を行っていた。
エクスとエアーズロックの分身体も大忙しだ。
今では受付所は全部で十箇所あるがその全てが埋まっている。
スタッフも全員が慌ただしい。
俺はその様子を眺めた後に、直接転移でエアーズロックに移動した。
エアーズロック側の転移扉の脇にはコロとマルが控えており。
訪れた者達全員に元気よく、
「エアーズロックにようこそ!」
挨拶をして受け入れを行っていた。
二人共とてもニコニコしている。
相当嬉しいみたいだ。
こいつらの人嫌いはいつの間にか解消できていたみたいだ。
よかった、よかった。
マルが俺を見つけて駆け寄ってこようとしたのだが、俺が笑顔と手でそれを制止した。
今は受け入れの挨拶を優先させてくれよ。
俺の事は二の次でいいからさ。
俺は先ずはレストラン街を見に行くことにした。
殆どのお店が十一時開店となっているが、マリアさんのお店のみ十時開店となっている。
昼間は個展を開くお店ということだったのだが、どうなっているのだろうか?
実は俺はまだマリアさんのお店の中には入ったことが無い。
マリアさんのお店の前に行くと既に開店待ちのお客の列が出来上がっていた。
おおー!これは凄いな、まだ開店一時間前だよ?
すると外の様子を見に来たマリアさんに俺は捕まった。
「守ちゃん、おはよう!ムフ!」
何時になくメイクに気合が入っている。
バッチリ決め込んでいた。
「マリアさん、おはようございます」
「守ちゃん寄ってくう?」
「いいんですか?」
「だって守ちゃんまだお店の中に入った事が無いでしょ?」
「ですね」
「ムフ!」
ムフ!の意味はよく分からんが、やっぱりマリアさんは俺の評価を気にするみたいだ。
実は何度か時間が出来たら見に来てくれとは言われてはいたのだ。
でも今日まで本当に時間を取ることが出来なかった。
申し訳ないとは思っている。
特にスーパー銭湯の別館を造り出してからは現場を離れる事が出来なかったのだ。
俺はマリアさんに続いてお店の中に入った。
おお!正に個展だ。
そこにはマリアさんが作り上げた様々な芸術品が列挙していた。
漫画から始まり、絵画や石像などの芸術品。
特に絵画は品数が多い、色々な絵画が展示されている。
俺は決して芸術に精通はしていないが絵画の素晴らしさ、その芸術力の高さがを窺い知ることができた。
「マリアさん、また腕を上げましたね」
「ムフ!ありがとう、守ちゃん」
「これはやっぱり漫画の影響ですか?」
「ムフ!そうよ」
「この絵画なんてタッチが違いますもんね」
「守ちゃんには分かるみたいね、ムフ!」
「これぐらい誰でも分かりますよ」
「ムフ!」
ムフ!多めの会話になってしまった。
それにしても最初はゲイバーとの話だったのだが、昼間のこの個展のみでいいんじゃないか?
わざわざ芸術品を移動させてゲイバーにする必要があるのか?
まあいいや、俺のお店じゃないし。
好きにしてくれ。
「もうお店を開けるんですか?」
「どう思う?」
「時間まで待って貰った方がいいと思いますよ、そうじゃないと早く来たら開けて貰えるお店だと勘違いされることになりますよ」
「そうね・・・そうするわ・・・それでこのお店はどう?」
やっぱり俺の評価が気になるのか・・・
「素晴らしいと感じます、人気が出そうですね」
「ムフ!」
マリアさんは誇らしげにしていた。
「じゃあ、他のお店の様子が見たいので行きますね」
「もう行っちゃうの?」
マリアさんは少し寂しそうにしていた。
「はい、では」
「ムフ!分かったわ」
マリアさんに手を振られて俺はマリアさんのお店を離れることにした。
次に五郎さんのお店を見に行くと既に長蛇の列が並んでいた。
これは凄いな、流石は五郎さんのお店だ。
五郎さんからは三日間オープンセールとして全品半額にすると聞いている。
その効果だけではないだろう、やはり安定の味を提供されることは間違い事は知れ渡っている。
それは大将が仕切るお店だと評判が立っているからだ。
温泉街『ゴロウ』の料理長の座は伊達ではない。
それにあの人の料理に掛ける情熱は熱々だからね。
間違いのない旨い寿司を提供する寿司屋になるだろう。
マグロの解体ショーについてはよく分からない。
まあやらないだろうけどね・・・
カインさんのカレー屋も長蛇の列が出来上がっていた。
そしてカインさん自ら整理券を配布していた。
何やっての?この人?
「やあ島野君!見てくれよこの賑わいを!」
カインさんは大層ご機嫌だった。
「凄いことになっていますね」
「だろう?こんなにカレーを愛する者達がいるなんて私は嬉しいよ!」
あっ、そう。
とは口が裂けても言えないな・・・
カレー愛が半端なさ過ぎなんだよこの人は・・・
「カレーは人生を変えますからね」
「そうだよね!」
しまった!余計な一言を発してしまったみたいだ。
カインさんの笑顔が眩し過ぎる!
「ハハハ・・・それでオープン時には何か特別な催しでもするんですか?」
ふと真面目な顔付きになったカインさん。
「実は・・・次回無料券を配る事にしたんだよ!どうだい!このアイデアは?」
無難だな・・・とは言えないな・・・
「へえー、考えましたね」
「だろー!三日間寝ずに考えたんだよ!」
はあ・・・そんなことはいいからダンジョンの運営をしてくださいよ・・・
「それは頑張りましたね・・・」
もう合わす事しか出来ませんて。
「こんな楽しい日々はこれまでに無かったよ!」
マジかよ?・・・だからダンジョンの運営は?ダンジョンの運営も楽しいんじゃないんですか?
「じゃあ他のお店の様子を見たいから行きますね?」
「そうかい、また寄ってくれよ!」
万遍の笑顔でカインさんに送り出された俺だった。
何なんだ一体・・・
俺は見てはならない者達を見ている気分だった。
それはオリビアさんのライブハウスの前で円陣を組む一団を発見してしまったからだ。
全員鉢巻と法被を着こんでおり、その鉢巻と法被にはオリビア命と書き込まれている。
そしてオリビアさんの楽曲を全員で合唱していた。
勘弁してくれよ・・・苦情になるだろうなこれは・・・
無茶苦茶煩い。
通り縋る人達の蔑むような横眼が痛々しい。
オリビアさんのファン達が一致団結していた。
前々からこの兆候はあった。
オリビアファンクラブがその結束を高めようとしていることを。
オリビアさんは映画出演をきっかけに、多くのファンの獲得に成功していたのだ。
そしてその勢力を拡大していた。
そのファン達はあろうことか北半球にまで達していた。
現にこの集団を纏めているのはゴブオクンなのである・・・
こいつ本気で殴ってやろうか?
死ぬぞ?
そして困ったことにこのファン達から俺は嫌われるのかと思っていたのだが、その反応は真逆だったのである。
実に遠慮の無いファン達から、
「島野さん、オリビアさんの事はどう想っているのですか?添い遂げて貰えますよね?」
「島野様!オリビア様の連れ合いは島野様しか居ないだべ!」
「実際の所どうなんですか?もう秒読みですよね?」
要らない事を散々尋ねられることになっていた。
こいつら纏めて放り投げてやろうかと本気で考えてしまった。
煩いんだよ!
外っておいてくれよ!
お前らには関係無いだろうが!
俺に気づいた数名が近寄ってくる気配があった為、俺は転移でその場をしれっと離れることにした。
ふざけんな!
ファメラの子供食堂は特に行列は出来てはいなかったが、既に営業は開始されていた。
ファメラは笑顔で子供食堂の入口に立ち、腹を空かせた子供達にここだよと呼び込んでいた。
俺は気になって裏口から厨房に入ると、テリーとフィリップが全力で中華鍋を振っていた。
いいじゃないか!俺はこういう光景が見たかったんだよな。
決してオリビアファンクラブなんて見たくは無い!
俺は声を掛けることにした、
「お前達、頑張っているな!」
俺の声に振り返る二人、
「島野さん!お疲れ様です!」
「お疲れ様です!」
笑顔で答えるテリーとフィリップ。
「手を貸そうか?」
「いや、それには及びません。俺達でやらせてください!」
「そうです!俺達で充分です!」
こいつらも言う様になったもんだ。
嬉しいじゃないか!
「そうか、何かあったら遠慮なく言うんだぞ」
「「はい、ありがとうございます!」」
頼りになるな。
俺は感慨深い気持ちになっていた。
もうこいつらも一端の大人だな。
ここまで成長するなんて・・・もう俺には見守ることしか出来そうもないな。
ちょっと寂しい気もするが・・・
フレイズの激辛料理のお店の前は異様な空気感が漂っていた。
数名の客らしき一団が言い争いをしていたのだ。
「激辛の最高峰は台湾ラーメンだ!」
「何を言う、スパイシーピザに決まっているだろう!」
「否、山椒を効かせた麻婆豆腐に勝てる訳がない!」
アホらしい・・・勝手にやってろ。
止めに入る気にもなれなかった。
するとお店の中からエプロンを着たフレイズが飛び出してきた。
「ガハハハ!良いぞお前達!その心意気や良し!我が最高の辛みを提供してくれるわ!ガハハハ!」
「おお!フレイズ様!」
「最高の辛みですか?期待大!」
「痺れる辛みを所望します!」
言い争いは済んだみたいだが・・・相手をしてはいられないな。
好きにやってろ!
馬鹿どもめ!
ドランさんのアイスクリーム屋には家族連れが行列をなしていた。
いいねー、ほのぼのとするな。
ドランさんはオープン三日間は牛乳とヨーグルトを無料でプレゼントすると言っていた。
意外にウケるかもしれないな。
それ目当てかどうかは分からないが、実際にこうやって家族連れに支持されているのは火を見るよりも明らかだ。
アイスクリーム屋は流行って当たり前だな。
心が癒されるよ。
良いものを見たな。
フレイズのお店の後だから五割り増しか?
レイモンドさんの和菓子屋にも長蛇の列が出来上がっていた。
店先でレイモンドさんが、
「ありがとー、ありがとー」
間延びした口調で感謝の言葉をお客に連呼していた。
客層を見るに年齢層は高めである。
この店も流行るんだろうな。
結構玄人受けする店かと思っていたが、そうでもなさそうだ。
俺も後で寄ろうかな?
最近は俺も和菓子が口に合う。
それなりの齢になったのか?
ランドールさんの割烹料理店の前にはお客の列は無かった。
それはそうだろう。
このお店は完全予約制である。
そんなお店に並んだところで中に入れて貰える訳はない。
だが、少しの間眺めていると予約をしようと引っ切り無しに人が集まってきていた。
それも明らかに地位の高そうな者達や、お金を持っていそうな者達だった。
それにリチャードさんも予約しに訪れていた。
「これは島野様、お久しぶりで御座います」
「リチャードさんも予約しにきたんですか?」
「はい、少々値は張りそうですが商談には打って付けのお店かと愚考いたしまして」
「なるほど、因みに商談相手は誰ですか?」
「タイロンの外務大臣で御座います」
「へえー、そうなんですね」
どうやらメルラドとタイロンの友好関係はその後も保てているみたいだ。
よかった、よかった。
アンジェリっちのサロンにも行列が出来ていた。
実にお洒落な方々が多い。
アンジェリっちはどうやらオープン記念の限定商品を準備しているとのことだった。
限定商品は化粧品らしい。
俺にはあまり興味は無いけど、お洒落女子には大事な事なのだろう。
ここは流行って当たり前かな。
お洒落と言えばアンジェリっちとの絶大な信頼を受けているからね。
そしてフードコートの入口にはとんでも無い数の人々が列を成して並んでいた。
何だこれは?
無茶苦茶多くないか?
レストラン街の行列なんて陳腐と思える程の大行列が出来上がっていた。
これは始めから入場規制確定だな。
凄い事になっている。
天使と悪魔達は大変だろうな。
でも、嬉しいご祝儀だな。
素敵なグランドオープンを迎えそうであった。
エアーズロックは活気に溢れていた。