別館に移るとスタッフ達からの元気な挨拶に迎えられた。
「天空のサウナにようこそ!」
天空のサウナ、素晴らしい響きです!
何て甘美な言葉なのだろう。
これだけでもう整いそうである。
俺に続いてアイルさんが転移扉を潜る。
別館を見渡してアイルさんが言った、
「良いわねこの雰囲気、神界から見ていたけどやっぱり現地で見ると全く違うはね」
そうでしょう、そうでしょう!そりゃあ肌で感じないとね。
「ではここからは俺がアテンドさせて貰いましょう、まずはバレルサウナなんて如何でしょうか?」
既に俺はバレルサウナに入る気満々です!
「行きましょう。遂に私も初サウナね」
俺はアイルさんをバレルサウナに誘導した。
まずはアロマ水を選択することにした。
「何のフレーバーにしましょうか?」
「ハーブなんてどうかしら?」
通ですねー、ナイスな選択です。
「了解です」
俺は桶にハーブのアロマ水を移して、柄杓を持ってバレルサウナに入る。
心地良い熱気が俺達を包み込む。
室温を確認すると八十五度だった。
いいですねー、最適な温度です。
スタッフの皆さんグッジョブ!
俺の隣にアイルさんが腰かける。
「これがバレルサウナ・・・結構熱いわね」
「これが良いんですよ」
自分でもそれと分かるぐらい俺はどや顔しているな。
「そうなのね・・・」
「少し汗をかいてからセルフロウリュウをしましょう」
汗をかく前のロウリュウは肌が痛くなるからね。
焦りは禁物です。
「分かったわ・・・サウナの事は守に任せるわ」
お任せください!
俺達は無言でじっくりとバレルサウナを堪能する。
数分経過すると良い感じで汗をかきだした。
バレルサウナの狭いけど窮屈ではない感覚が癖になる。
我ながら素晴らしいサウナを造ったもんだ。
「そろそろセルフロウリュウをしましょうか?」
「そうね、どうすればいい?」
「まずは柄杓でアロマ水を掬って、このサウナストーンに回す様にゆっくりとかけてください」
柄杓を受け取るとアイルさんがサウナストーンにゆっくりとアロマ水をかける。
サウナストーンがジュウジュウと音を立てている。
心地の良い音だ。
蒸気が体を優しく包み込む。
そして一気に身体が温まる。
「結構強烈ね・・・」
「でも気持ちいいですよね?」
「そうね・・・」
その後俺達は数分間バレルサウナを楽しんだ。
「じゃあ水風呂に入りましょうか」
「良いわね」
俺達は連れ立ってバレルサウナを出て泳げる水風呂へと向かう。
掛け水をしてから一気に泳げる水風呂に飛び込む。
「ああ・・・最高・・・」
「気持ちいい・・・」
火照った身体が一気に熱を失う。
其れと共に感じる体の内側の熱。
俺は泳いで滝へと向かい頭から水を被った。
ドバドバと大量の水が頭を打ち付ける。
ここはもっと過激にいこう。
俺は神石に手を添えて神力を流し込む。
すると滝の水量が増した。
これは強烈だ!
水飛沫が飛び捲っている。
泳げる水風呂を出て外気浴場へと向かう。
アイルさんも同行している。
パパとギルの整い部屋に入りインフィニティーチェアーを勧める。
インフィニティーチェアーに腰かけて椅子を目一杯後ろに倒す。
そして心拍数に意識を傾ける。
此処からは『黄金の整い』の時間だ。
俺は複式呼吸を始める。
隣を見るとアイルさんも『黄金の整い』を始めていた。
特に指導は必要なさそうだ。
恐らく神界から見ていたのだろう。
俺達は『黄金の整い』を堪能した。
もはや言葉は要らない。
心地よい感覚に身を任せよう。
俺達は最高の余韻を楽しんだ。
「守・・・最高ね!」
アイルさんが万遍の笑顔と共に親指が挙がっていた。
お褒め頂き光栄です!
「ですよね!」
サウナを楽しんでくれている様で何よりです。
「それに『黄金の整い』よ、舐めていたわ、最高じゃないの!」
「そうですよね!最高ですよね!」
有頂天になりそうだ。
同意を得られて光栄です!
「さて、今度はテントサウナに行きましょうか?」
「そうね、行きましょう」
アイルさんもサウナスイッチが入ったみたいだ。
自然な笑顔で頷いてる。
バレルサウナに続いて今度はテントサウナだ。
アロマ水のフレーバーはローズに変更した。
連れ立って俺達はテントサウナに入る。
室温は九十度だった。
先程のバレルサウナよりも若干熱を感じるが強烈という程ではない。
「テントサウナもこじんまりしているけどいいわね」
「ですよね、このテントサウナは少人数で楽しんで貰いたいと思って造ったんですよ」
「なるほどね」
「家族や友人と利用して欲しいと考えたんです」
「良いわね」
どうやらこちらも賛同を得られたみたいだ。
「こちらも少し温まってからセルフロウリュウを行いましょう」
「分かったわ」
俺達はじっくりと五分ほどテントサウナを堪能した。
「そろそろかしら?」
「そうですね、こちらはセルフロウリュウの水の量に気を付けてくださいね」
「というと?」
「入れ過ぎると一気に温度が上がり過ぎてしまうんです」
「なるほど、流石は守、上級サウナーね」
アイルさんは慎重にアロマ水をサウナストーンにかけていた。
「本当だ、少しの量で充分に蒸気が上がるわね」
「テントサウナは狭いこともあって、蒸気が周り易いんです」
「そういうことね」
実はこれは経験談なのだが、初めてのテントサウナで調子に乗ってアロマ水をドバドバかけてしまって、火傷するかと思うぐらいの蒸気が発生したことがあったのだ。
俺はテントサウナから脱兎のごとく逃げ出したことを覚えている。
あれは酷かった。
加減は大事ということだ。
それにしてもローズの香りに癒される。
ローズも悪く無いな。
女性人気が高いのも頷ける。
「ではそろそろ出ましょうか?」
「そうね」
次に向かったのは炭酸水風呂だ。
掛け水をしてから炭酸水風呂に飛び込む。
通常の水風呂とは違う感覚に心が躍る。
シャキッとした感触に身体が引き締まった。
ゴールデンボウルが・・・ちょっと痛いぐらいだ。
「守、これも良いわね」
「ですよね!」
ですよね!しか言ってないな俺。
勘弁して下さいな。
だって同意してくれたら嬉しいじゃないか。
再びパパとギルの整い部屋に入って『黄金の整い』を堪能する俺達。
最高だ、このまま昇天してしまいそうだ。
隣を見るとアイルさんがとても寛いだ表情をしていた。
得意げになる俺。
ここに新たにサウナジャンキーが誕生したな。
最後にもう一度バレルサウナと泳げる水風呂を堪能して『黄金の整い』を終えた。
「守、癖になるかも・・・」
「分かりますよ・・・」
「これはあの人に自慢しなくちゃね」
「ご自由にどうぞ」
「こんな楽しみ方があったとは・・・ずっと気になっていたけど・・・来てよかったわ」
「・・・ありがとうございます」
その後余韻に浸ってからパパとギルの整い部屋を後にした。
まずは乾燥部屋で衣服を乾かし食事を摂ることにした。
「守、お勧めはあって?」
「そうですね、サ飯なんていかがでしょうか?」
「サ飯ね、試してみましょうか」
「じゃあ担々つけ麺なんてどうでしょうか?」
「それを頂こうかしら」
「あと飲み物は何にしますか?俺は生ビールにします」
「そうね、ここは郷に入れば郷に従えで私も生ビールにしましょうか」
「注文してきますので待っててください」
俺は注文をしにブースに向かった。
坦々つけ麺を二人前注文し、生ビールを二杯受け取ってから、食事の出来上がりを待つ。
一度テーブルに戻りロッカー番号を呼ばれるのを待つことになる。
これは食事が出来上がったら、ロッカーの番号を呼ばれることに成っているシステムだ。
拡声魔法を付与してある魔石に魔力を通して、大声でロッカー番号を呼ばれることに成っている。
本当は出来上がりを報せるセンサーを造りたかったのだが、魔法や神の能力を駆使しても、今の所代替え案が見当たらなかった。
神の能力も万能とは言えないな。
まあそんなもんだろう。
さてまずは生ビールを頂きましょうかね。
アイルさんにジョッキを渡して乾杯する。
「「乾杯!」」
ジョッキを重ねて幸せの音が響き渡る。
ゴクゴクと一気に生ビールを飲み干す俺。
最高だ!喉に潤いと生ビールのほろ苦さが充満する。
アイルさんも一気に生ビールを煽っていた。
うーん、豪快です!
「パァ・・・クゥー!旨い!守!喉に染みるわね!」
「ですよね!」
やっぱり今日はこれしか言って無いな。
「これは癖になるわね」
「初サウナを楽しんでくれた様で俺は嬉しいですよ」
「誘って貰って嬉しかったわ、また来させて貰うわね」
「もちろんです!」
ここでサウナ明けの五郎さんが混じってきた。
「よう島野、そろそろ紹介してくれや」
「五郎さん、紹介しますね。時の神アイルさんです」
アイルさんは五郎さんを見ると笑顔で自己紹介を行った。
「温泉街の五郎ね、アイルよ。よろしくね」
「アイルさんか、えれえ別嬪さんじゃねえか、ええ!島野、独り占めするんじゃねえぞ!」
五郎さんはご機嫌な様子。
「五郎さんも生ビールで良かったですか?」
「ああ、すまねえな」
俺は五郎さんの為にブースに生ビールを注文しに行った。
ここはお替りが必要かと俺とアイルさんの分も注文する。
後輩としては先輩を立てねばなるまい。
五郎さんは俺の席の隣に腰かけてアイルさんと寛いでいる。
流石は五郎さんだ、すんなりと打ち解けている。
受付で生ビールを受け取ると席に向かう。
すると興味深い会話が耳に飛び込んできた。
「するってえと、あの声の主はやはり創造神ってことかい?」
「そうよ、あの時実は私もあの人の隣にいたのよ」
「本当かい?」
「ええ、五郎の事は私が見つけたのよ。絶対スカウトすべきだってね」
「かあー!そうなのかい!アイルさんが儂を見つけて創造神が儂をスカウトしてくれたって事かい、嬉しいじゃねえか。創造神にもお礼を言わねえとな!」
「五郎さんどうぞ!アイルさんお替りが要りますよね?」
「島野、気が利くじゃねえか」
「あら守、ありがとうね」
再び乾杯する俺達。
「それで、ちょっと聞こえてましたけど、どういうことなんですか?五郎さんの事はアイルさんが見つけて、スカウトは創造神様がしたってことなんですか?」
「そうよ、実は私にはあの人程ではないけれど、地球を見る能力があるのね」
ちょっと待て、そんな話を気軽にしてもいいのかい?
完全な個人情報では?
「五郎を見つけた時は嬉しかったわ、こんな逸材がいるんだってね」
「かあー!嬉しい事言ってくれるじゃねか!ええ!アイルさんよ、今度儂の温泉街に来てくれや、最高のおもてなしを約束しようじゃねえか!」
何時になく五郎さんが浮かれている。
するとここでウィンドミルさんとアクアマリンさんも混じってきた。
「母様いたー」
「見つけたー」
抜け感満載である。
そしてここでアナウンスが入る。
「キー番号二十六番様、食事の提供が出来ましたので受付までお越しください」
俺はアナウンスに従いブースに食事を取りにいく。
アイルさんと俺の注文した坦々つけ麺を持ってテーブルに向かう。
アイルさんが待ってましたと、笑顔で迎え入れてくれる。
「これがサ飯ね、美味しそう」
「では頂きましょうか?」
「「頂きます!」」
合唱した。
我ながらのレシピではあるのだがこれは旨い!
胡麻の風味とラー油の辛味が最大限引き出されている。
つけ麺であることが憎い。
麺に関しては実はちょっとした工夫がなされている。
つけ麺の味を左右する要素は、俺はどれだけ麺にスープが絡むかということだと考えていた。
そこで麺は見た目はただのちぢれ太麺だが、実は麺に味が染み込む様にとたくさんの穴が空いている。
これは極小サイズの為、見た目にはまったく分からない。
麺が千切れなく、かつ味が染み込む様にと配慮をしていたのだ。
これがつけ麺の味を各段に上げることになった。
麺につけ汁がよく絡み最高の味に仕上がっていたのだ。
これは旨い、自画自賛だがここは許して欲しい。
「守、これは美味しいわ」
「ありがとうございます」
ここは謙遜なんてしない。
有難く賛辞を受け取っておこう。
そして雪崩式に神様ズが乱入してきた。
全員襟を正してアイルさんに挨拶を行っている。
やれば出来るじゃないですか、普段からそうしてくださいよ。
特に緊張の激しいオズとガードナーは噛み捲っていた。
実際舌を噛んでいた。
おー、痛そう。
ランドールさんはまた鼻血を出していた・・・
だから何でなんだよ!
他の男神達は眼をハートマークにさせている。
デカいプーさんまで眼がハートマークになっていた。
幼気な子供達には見せられないな。
マリアさんとオリビアさんが妙に低身低頭していたし。
上から女神は随分と謙虚にしていた。
普段からそうしてくださいよ。
アースラさんはぎこち無くしており、つられてアイリスさんまでぎこち無く成っていた。
あなたの母親では?
スカイクラウンはバイトの練習で今回は不参加だ。
練習など不要な筈だが?
逃げたのかどうかはよく分からない。
フレイズも何かを感じ取ったのか今回は不参加だった。
あいつは絶対に逃げたな。
間違いない。
ファメラは自分のお店の準備に相当忙しく不参加だった。
それはそうだろう、ファメラは事実上お店を二つ造るのだから。
フレイズの激辛料理のお店と子供食堂だ。
ちょっと可哀そうなぐらいだ。
そして親父さん以外の全ての神達が新たに出来る自分達のレストランに来て欲しいとお願いしていた。
どうやら時の神が食事をしに来たとお店に箔をつけたいみたいだ。
その気持ちは分からなくもない。
でも俺はアイルさんを特別扱いする気は毛頭ありませんがね。
ことサウナ島では地位や立場に関係なく平等にがモットーですので。
一般人と変わりませんよ。
そして俺はこの場を借りて全員にちゃんとアンケート用紙に記載することを念押しした。
これで明日にはアンケート用紙が集まってくるだろう。
その態度を見る限り問題無いだろう。
アイルさんを誘って正解だったみたいだ。
ほんとに神様ズは・・・骨が折れるな。
普段からこうしてくれよ!
そして最後に無遠慮にゼノンが混じってきた、ギルとエリスを引き連れて。
「どうやらご機嫌の様じゃな、母上」
ゼノンはニコニコしながら席に交じってきた。
ちょっと待て、母上?どういうことだ?
「おいゼノン、お前今アイルさんを母上と呼んだよな?どういうことだ?」
ギルもエリスも固まっている。
「ん?言って無かったか?正確な所で親族とは違うが、儂の育ての親は時の神なんじゃが?」
「「「はあー?」」」
ギルとエリスとハモってしまった。
「いやいやいや、聞いて無いけど?てことは、エリスはアイルさんの孫で、ギルは曾孫ってことなのか?」
「そうじゃが?」
「お前なあ・・・教えておけよ!」
エリスとギルが何とも言えない表情をしていた。
「あらゼノン、ちゃんとお話ししないといけないでしょう?」
「母上、これはすまんかったのう」
余裕のアイルさんと頭を掻くゼノン。
何なんだよ全く・・・
「ちょっと待ってくれよ親父・・・俺は時の神様をなんて呼べばいいんだ?」
「そうだよジイジ・・・僕もなんて呼んだらいいの?」
そうなるよな・・・
「そうね、間違っても婆ばなんて呼ばれたくは無いわね、お婆さん扱いは嫌よ。そうだ!アイちゃんなんてどう?」
否、アイルさん。
それはハードルが高いと思いますが・・・
「それでいいのかい?じゃあ俺はアイちゃんと呼ばせて貰うよ」
おいおいエリス!お前は遠慮ってもんがないのかい?
「僕は・・・決められないよ・・・パパ・・・どうしよう・・・」
ギルよ、俺にボールを回すんじゃありません。
「ギル・・・ここは乗っかっておきなさい」
そうとしか言えなかった。
だって代替案が無いんだもん、そうするしか無いじゃないか。
「分かった・・・アイちゃんね・・・」
ギルがそう言うとアイルさんが変貌した。
「嬉しい!やっとそう呼ばれることが出来た!」
ハイテンションで騒ぎ出した。
「もう、そう呼んでって言うのに誰も私をそう呼んでくれないんだもん、やっとそう呼ばれた!」
いきなりのキャラ変は止めてくれ!
もうそういうの間にあってますから。
ここで空気を読んでギルとエリスがハモった。
「「アイちゃん!」」
「キャアー!嬉しい!」
アイルさんが騒いでいた。
勘弁してくれよ・・・やれやれだ。
「天空のサウナにようこそ!」
天空のサウナ、素晴らしい響きです!
何て甘美な言葉なのだろう。
これだけでもう整いそうである。
俺に続いてアイルさんが転移扉を潜る。
別館を見渡してアイルさんが言った、
「良いわねこの雰囲気、神界から見ていたけどやっぱり現地で見ると全く違うはね」
そうでしょう、そうでしょう!そりゃあ肌で感じないとね。
「ではここからは俺がアテンドさせて貰いましょう、まずはバレルサウナなんて如何でしょうか?」
既に俺はバレルサウナに入る気満々です!
「行きましょう。遂に私も初サウナね」
俺はアイルさんをバレルサウナに誘導した。
まずはアロマ水を選択することにした。
「何のフレーバーにしましょうか?」
「ハーブなんてどうかしら?」
通ですねー、ナイスな選択です。
「了解です」
俺は桶にハーブのアロマ水を移して、柄杓を持ってバレルサウナに入る。
心地良い熱気が俺達を包み込む。
室温を確認すると八十五度だった。
いいですねー、最適な温度です。
スタッフの皆さんグッジョブ!
俺の隣にアイルさんが腰かける。
「これがバレルサウナ・・・結構熱いわね」
「これが良いんですよ」
自分でもそれと分かるぐらい俺はどや顔しているな。
「そうなのね・・・」
「少し汗をかいてからセルフロウリュウをしましょう」
汗をかく前のロウリュウは肌が痛くなるからね。
焦りは禁物です。
「分かったわ・・・サウナの事は守に任せるわ」
お任せください!
俺達は無言でじっくりとバレルサウナを堪能する。
数分経過すると良い感じで汗をかきだした。
バレルサウナの狭いけど窮屈ではない感覚が癖になる。
我ながら素晴らしいサウナを造ったもんだ。
「そろそろセルフロウリュウをしましょうか?」
「そうね、どうすればいい?」
「まずは柄杓でアロマ水を掬って、このサウナストーンに回す様にゆっくりとかけてください」
柄杓を受け取るとアイルさんがサウナストーンにゆっくりとアロマ水をかける。
サウナストーンがジュウジュウと音を立てている。
心地の良い音だ。
蒸気が体を優しく包み込む。
そして一気に身体が温まる。
「結構強烈ね・・・」
「でも気持ちいいですよね?」
「そうね・・・」
その後俺達は数分間バレルサウナを楽しんだ。
「じゃあ水風呂に入りましょうか」
「良いわね」
俺達は連れ立ってバレルサウナを出て泳げる水風呂へと向かう。
掛け水をしてから一気に泳げる水風呂に飛び込む。
「ああ・・・最高・・・」
「気持ちいい・・・」
火照った身体が一気に熱を失う。
其れと共に感じる体の内側の熱。
俺は泳いで滝へと向かい頭から水を被った。
ドバドバと大量の水が頭を打ち付ける。
ここはもっと過激にいこう。
俺は神石に手を添えて神力を流し込む。
すると滝の水量が増した。
これは強烈だ!
水飛沫が飛び捲っている。
泳げる水風呂を出て外気浴場へと向かう。
アイルさんも同行している。
パパとギルの整い部屋に入りインフィニティーチェアーを勧める。
インフィニティーチェアーに腰かけて椅子を目一杯後ろに倒す。
そして心拍数に意識を傾ける。
此処からは『黄金の整い』の時間だ。
俺は複式呼吸を始める。
隣を見るとアイルさんも『黄金の整い』を始めていた。
特に指導は必要なさそうだ。
恐らく神界から見ていたのだろう。
俺達は『黄金の整い』を堪能した。
もはや言葉は要らない。
心地よい感覚に身を任せよう。
俺達は最高の余韻を楽しんだ。
「守・・・最高ね!」
アイルさんが万遍の笑顔と共に親指が挙がっていた。
お褒め頂き光栄です!
「ですよね!」
サウナを楽しんでくれている様で何よりです。
「それに『黄金の整い』よ、舐めていたわ、最高じゃないの!」
「そうですよね!最高ですよね!」
有頂天になりそうだ。
同意を得られて光栄です!
「さて、今度はテントサウナに行きましょうか?」
「そうね、行きましょう」
アイルさんもサウナスイッチが入ったみたいだ。
自然な笑顔で頷いてる。
バレルサウナに続いて今度はテントサウナだ。
アロマ水のフレーバーはローズに変更した。
連れ立って俺達はテントサウナに入る。
室温は九十度だった。
先程のバレルサウナよりも若干熱を感じるが強烈という程ではない。
「テントサウナもこじんまりしているけどいいわね」
「ですよね、このテントサウナは少人数で楽しんで貰いたいと思って造ったんですよ」
「なるほどね」
「家族や友人と利用して欲しいと考えたんです」
「良いわね」
どうやらこちらも賛同を得られたみたいだ。
「こちらも少し温まってからセルフロウリュウを行いましょう」
「分かったわ」
俺達はじっくりと五分ほどテントサウナを堪能した。
「そろそろかしら?」
「そうですね、こちらはセルフロウリュウの水の量に気を付けてくださいね」
「というと?」
「入れ過ぎると一気に温度が上がり過ぎてしまうんです」
「なるほど、流石は守、上級サウナーね」
アイルさんは慎重にアロマ水をサウナストーンにかけていた。
「本当だ、少しの量で充分に蒸気が上がるわね」
「テントサウナは狭いこともあって、蒸気が周り易いんです」
「そういうことね」
実はこれは経験談なのだが、初めてのテントサウナで調子に乗ってアロマ水をドバドバかけてしまって、火傷するかと思うぐらいの蒸気が発生したことがあったのだ。
俺はテントサウナから脱兎のごとく逃げ出したことを覚えている。
あれは酷かった。
加減は大事ということだ。
それにしてもローズの香りに癒される。
ローズも悪く無いな。
女性人気が高いのも頷ける。
「ではそろそろ出ましょうか?」
「そうね」
次に向かったのは炭酸水風呂だ。
掛け水をしてから炭酸水風呂に飛び込む。
通常の水風呂とは違う感覚に心が躍る。
シャキッとした感触に身体が引き締まった。
ゴールデンボウルが・・・ちょっと痛いぐらいだ。
「守、これも良いわね」
「ですよね!」
ですよね!しか言ってないな俺。
勘弁して下さいな。
だって同意してくれたら嬉しいじゃないか。
再びパパとギルの整い部屋に入って『黄金の整い』を堪能する俺達。
最高だ、このまま昇天してしまいそうだ。
隣を見るとアイルさんがとても寛いだ表情をしていた。
得意げになる俺。
ここに新たにサウナジャンキーが誕生したな。
最後にもう一度バレルサウナと泳げる水風呂を堪能して『黄金の整い』を終えた。
「守、癖になるかも・・・」
「分かりますよ・・・」
「これはあの人に自慢しなくちゃね」
「ご自由にどうぞ」
「こんな楽しみ方があったとは・・・ずっと気になっていたけど・・・来てよかったわ」
「・・・ありがとうございます」
その後余韻に浸ってからパパとギルの整い部屋を後にした。
まずは乾燥部屋で衣服を乾かし食事を摂ることにした。
「守、お勧めはあって?」
「そうですね、サ飯なんていかがでしょうか?」
「サ飯ね、試してみましょうか」
「じゃあ担々つけ麺なんてどうでしょうか?」
「それを頂こうかしら」
「あと飲み物は何にしますか?俺は生ビールにします」
「そうね、ここは郷に入れば郷に従えで私も生ビールにしましょうか」
「注文してきますので待っててください」
俺は注文をしにブースに向かった。
坦々つけ麺を二人前注文し、生ビールを二杯受け取ってから、食事の出来上がりを待つ。
一度テーブルに戻りロッカー番号を呼ばれるのを待つことになる。
これは食事が出来上がったら、ロッカーの番号を呼ばれることに成っているシステムだ。
拡声魔法を付与してある魔石に魔力を通して、大声でロッカー番号を呼ばれることに成っている。
本当は出来上がりを報せるセンサーを造りたかったのだが、魔法や神の能力を駆使しても、今の所代替え案が見当たらなかった。
神の能力も万能とは言えないな。
まあそんなもんだろう。
さてまずは生ビールを頂きましょうかね。
アイルさんにジョッキを渡して乾杯する。
「「乾杯!」」
ジョッキを重ねて幸せの音が響き渡る。
ゴクゴクと一気に生ビールを飲み干す俺。
最高だ!喉に潤いと生ビールのほろ苦さが充満する。
アイルさんも一気に生ビールを煽っていた。
うーん、豪快です!
「パァ・・・クゥー!旨い!守!喉に染みるわね!」
「ですよね!」
やっぱり今日はこれしか言って無いな。
「これは癖になるわね」
「初サウナを楽しんでくれた様で俺は嬉しいですよ」
「誘って貰って嬉しかったわ、また来させて貰うわね」
「もちろんです!」
ここでサウナ明けの五郎さんが混じってきた。
「よう島野、そろそろ紹介してくれや」
「五郎さん、紹介しますね。時の神アイルさんです」
アイルさんは五郎さんを見ると笑顔で自己紹介を行った。
「温泉街の五郎ね、アイルよ。よろしくね」
「アイルさんか、えれえ別嬪さんじゃねえか、ええ!島野、独り占めするんじゃねえぞ!」
五郎さんはご機嫌な様子。
「五郎さんも生ビールで良かったですか?」
「ああ、すまねえな」
俺は五郎さんの為にブースに生ビールを注文しに行った。
ここはお替りが必要かと俺とアイルさんの分も注文する。
後輩としては先輩を立てねばなるまい。
五郎さんは俺の席の隣に腰かけてアイルさんと寛いでいる。
流石は五郎さんだ、すんなりと打ち解けている。
受付で生ビールを受け取ると席に向かう。
すると興味深い会話が耳に飛び込んできた。
「するってえと、あの声の主はやはり創造神ってことかい?」
「そうよ、あの時実は私もあの人の隣にいたのよ」
「本当かい?」
「ええ、五郎の事は私が見つけたのよ。絶対スカウトすべきだってね」
「かあー!そうなのかい!アイルさんが儂を見つけて創造神が儂をスカウトしてくれたって事かい、嬉しいじゃねえか。創造神にもお礼を言わねえとな!」
「五郎さんどうぞ!アイルさんお替りが要りますよね?」
「島野、気が利くじゃねえか」
「あら守、ありがとうね」
再び乾杯する俺達。
「それで、ちょっと聞こえてましたけど、どういうことなんですか?五郎さんの事はアイルさんが見つけて、スカウトは創造神様がしたってことなんですか?」
「そうよ、実は私にはあの人程ではないけれど、地球を見る能力があるのね」
ちょっと待て、そんな話を気軽にしてもいいのかい?
完全な個人情報では?
「五郎を見つけた時は嬉しかったわ、こんな逸材がいるんだってね」
「かあー!嬉しい事言ってくれるじゃねか!ええ!アイルさんよ、今度儂の温泉街に来てくれや、最高のおもてなしを約束しようじゃねえか!」
何時になく五郎さんが浮かれている。
するとここでウィンドミルさんとアクアマリンさんも混じってきた。
「母様いたー」
「見つけたー」
抜け感満載である。
そしてここでアナウンスが入る。
「キー番号二十六番様、食事の提供が出来ましたので受付までお越しください」
俺はアナウンスに従いブースに食事を取りにいく。
アイルさんと俺の注文した坦々つけ麺を持ってテーブルに向かう。
アイルさんが待ってましたと、笑顔で迎え入れてくれる。
「これがサ飯ね、美味しそう」
「では頂きましょうか?」
「「頂きます!」」
合唱した。
我ながらのレシピではあるのだがこれは旨い!
胡麻の風味とラー油の辛味が最大限引き出されている。
つけ麺であることが憎い。
麺に関しては実はちょっとした工夫がなされている。
つけ麺の味を左右する要素は、俺はどれだけ麺にスープが絡むかということだと考えていた。
そこで麺は見た目はただのちぢれ太麺だが、実は麺に味が染み込む様にとたくさんの穴が空いている。
これは極小サイズの為、見た目にはまったく分からない。
麺が千切れなく、かつ味が染み込む様にと配慮をしていたのだ。
これがつけ麺の味を各段に上げることになった。
麺につけ汁がよく絡み最高の味に仕上がっていたのだ。
これは旨い、自画自賛だがここは許して欲しい。
「守、これは美味しいわ」
「ありがとうございます」
ここは謙遜なんてしない。
有難く賛辞を受け取っておこう。
そして雪崩式に神様ズが乱入してきた。
全員襟を正してアイルさんに挨拶を行っている。
やれば出来るじゃないですか、普段からそうしてくださいよ。
特に緊張の激しいオズとガードナーは噛み捲っていた。
実際舌を噛んでいた。
おー、痛そう。
ランドールさんはまた鼻血を出していた・・・
だから何でなんだよ!
他の男神達は眼をハートマークにさせている。
デカいプーさんまで眼がハートマークになっていた。
幼気な子供達には見せられないな。
マリアさんとオリビアさんが妙に低身低頭していたし。
上から女神は随分と謙虚にしていた。
普段からそうしてくださいよ。
アースラさんはぎこち無くしており、つられてアイリスさんまでぎこち無く成っていた。
あなたの母親では?
スカイクラウンはバイトの練習で今回は不参加だ。
練習など不要な筈だが?
逃げたのかどうかはよく分からない。
フレイズも何かを感じ取ったのか今回は不参加だった。
あいつは絶対に逃げたな。
間違いない。
ファメラは自分のお店の準備に相当忙しく不参加だった。
それはそうだろう、ファメラは事実上お店を二つ造るのだから。
フレイズの激辛料理のお店と子供食堂だ。
ちょっと可哀そうなぐらいだ。
そして親父さん以外の全ての神達が新たに出来る自分達のレストランに来て欲しいとお願いしていた。
どうやら時の神が食事をしに来たとお店に箔をつけたいみたいだ。
その気持ちは分からなくもない。
でも俺はアイルさんを特別扱いする気は毛頭ありませんがね。
ことサウナ島では地位や立場に関係なく平等にがモットーですので。
一般人と変わりませんよ。
そして俺はこの場を借りて全員にちゃんとアンケート用紙に記載することを念押しした。
これで明日にはアンケート用紙が集まってくるだろう。
その態度を見る限り問題無いだろう。
アイルさんを誘って正解だったみたいだ。
ほんとに神様ズは・・・骨が折れるな。
普段からこうしてくれよ!
そして最後に無遠慮にゼノンが混じってきた、ギルとエリスを引き連れて。
「どうやらご機嫌の様じゃな、母上」
ゼノンはニコニコしながら席に交じってきた。
ちょっと待て、母上?どういうことだ?
「おいゼノン、お前今アイルさんを母上と呼んだよな?どういうことだ?」
ギルもエリスも固まっている。
「ん?言って無かったか?正確な所で親族とは違うが、儂の育ての親は時の神なんじゃが?」
「「「はあー?」」」
ギルとエリスとハモってしまった。
「いやいやいや、聞いて無いけど?てことは、エリスはアイルさんの孫で、ギルは曾孫ってことなのか?」
「そうじゃが?」
「お前なあ・・・教えておけよ!」
エリスとギルが何とも言えない表情をしていた。
「あらゼノン、ちゃんとお話ししないといけないでしょう?」
「母上、これはすまんかったのう」
余裕のアイルさんと頭を掻くゼノン。
何なんだよ全く・・・
「ちょっと待ってくれよ親父・・・俺は時の神様をなんて呼べばいいんだ?」
「そうだよジイジ・・・僕もなんて呼んだらいいの?」
そうなるよな・・・
「そうね、間違っても婆ばなんて呼ばれたくは無いわね、お婆さん扱いは嫌よ。そうだ!アイちゃんなんてどう?」
否、アイルさん。
それはハードルが高いと思いますが・・・
「それでいいのかい?じゃあ俺はアイちゃんと呼ばせて貰うよ」
おいおいエリス!お前は遠慮ってもんがないのかい?
「僕は・・・決められないよ・・・パパ・・・どうしよう・・・」
ギルよ、俺にボールを回すんじゃありません。
「ギル・・・ここは乗っかっておきなさい」
そうとしか言えなかった。
だって代替案が無いんだもん、そうするしか無いじゃないか。
「分かった・・・アイちゃんね・・・」
ギルがそう言うとアイルさんが変貌した。
「嬉しい!やっとそう呼ばれることが出来た!」
ハイテンションで騒ぎ出した。
「もう、そう呼んでって言うのに誰も私をそう呼んでくれないんだもん、やっとそう呼ばれた!」
いきなりのキャラ変は止めてくれ!
もうそういうの間にあってますから。
ここで空気を読んでギルとエリスがハモった。
「「アイちゃん!」」
「キャアー!嬉しい!」
アイルさんが騒いでいた。
勘弁してくれよ・・・やれやれだ。