また話を戻すが、居酒屋のラインナップはアルコール類は紹介した通りだが、実はスーパー銭湯同様に麦茶と水は無料で提供させて貰っている。
だがジュースや炭酸飲料などは料金を頂くことにしている。
特にオロポは最早サウナーの定番となっており、今ではサウナ明けには飲むべき飲料との意見が多い。
その為この屋台街にはオロポは必須となっていた。
そして提供される料理だが、正に何でもありの様相になってきているのだが、やはりサ飯が注目を浴びそうだ。
極力サウナビレッジとの棲み分けは行いたいのが本音だが、今ではスーパー銭湯とサウナビレッジとの棲み分けは無くなっている。
その為この屋台街のサ飯は月一で限定メニューを導入するというチャレンジングな内容にすることにした。
此処はどうしても俺の出番になりそうだ。
それは即ち、俺が月に一度はサ飯の限定メニューを導入しなければならないということだ。

ここは困ったら日本に返って情報を掻き集めるしかない。
日本ならば情報に溢れているだろうから心配には及ばないのだが・・・
オープン時に提供する新たなサ飯は、坦々つけ麺と辛味噌ホルモン焼き、そして鉄板キムチ豚チーズ焼きにした。
これならば問題無いと思えるラインナップだ。
フレイズがいちゃもんをつけてきそうなものだが問答無用でやっつけてやろう。
最早フレイズでは俺には全く敵わない。
あいつの相手はもう慣れっこだ。
俺に敵いたければまずは時間停止を覚えるがいい。
まあフレイズには無理でしょうがね。
それを分かってか最近のフレイズは俺には挑まなくなってきていた。
あのバカも少しは反省を学んだみたいだ。

何でもありの食事とは言ったものの、ちゃんと説明をすると。
先ずはやはりサウナ島産の野菜をふんだんに使ったサラダがある。
ミックスサラダから始まり、水菜サラダや大根サラダや海藻サラダにコールスロー、そして定番のツナサラダ。
それ以外にもサラダは多い。
更にはドレッシングも豊富だ。
ノンオイルや、胡麻、紫蘇、シーザー、オニオン、チーズ等、好きに使っていい事になっている。
このドレッシングだが、始めて俺が作ってみた時にはなかなかの騒動があった。

実はアイリスさんにここぞとばかりに叱られてしまったのだ。
野菜に煩いアイリスさんから、
「こんな食べ方があるなんて聞いていませんわ!」
恐ろしい程に詰め寄られてしまった。

アイリスさんの本気の怒りは無茶苦茶怖い。
アイリスさん曰く、
「これならば、野菜嫌いの子供達でもたくさん食べられますでしょ?」
納得の話だった。

すいません・・・ごめんなさい・・・あなたには逆らいません・・・
ぐうの音も出なかった。
サウナ島の裏番長の意見は絶大である。
それに何より的を得ている。
俺はアイリスさんには逆らわない事を再度確認した。
アイリスさん怖えよー!
すんませんした!

次に串物が充実している。
焼き鳥、豚串、牛串から始まり、ネギマ、つくね、軟骨、串カツ等を取り揃えている。
焼き鳥は塩とタレがあり、タレの開発にはそれなりに時間が掛かった。
醤油ベースに変わりは無いのだが、試行錯誤を繰り返してやっとこの味に辿り着いた。
門外不出にしたいタレが出来上がっている。
でもここは惜しげも無く尋ねられればレシピは公開した。
一部スタッフからそれを望まない声もあったのだが、それよりもタレ文化が広まって欲しいとの望みもあったからだ。
タレは実に奥深い。
ラーメンと同様に人生を掛けても答えに辿り着けない程の物であると俺は考えている。
現に前に獲ることができた鰻だが、まだ鰻重のタレは完成していない。
まだ試行錯誤を繰り返している。
ゼノンに約束してしまった手前、ここは手を抜くことは出来ない。
継ぎ足しを重ねる濃厚なタレを造りたい。
ここまでくると最早俺の趣味ではあるのだが、ここは納得できるまで提供はしないつもりである。
待たせてすまんなゼノンよ・・・
最高のタレを作ってやるからな。

因みに鰻の塩焼きはゼノンに作ってやった。
「鰻とはこんなに美味しい魚であったのか!」
相当口に合ったみたいだ、ゼノンはとても満足そうにしていた。

そんな拘りはいいとしてだ。
次に外せないのはたこ焼き、焼きそば、ラーメン、お好み焼きだ。
屋台にこれが無いのは頷けない。
そして俺はいかせんを作り、玉せんを作ってみた。
そして身内から大絶賛されてしまった。

「これは食事なのか?お菓子なのか?」

「このパリパリ感と卵の抱擁感が良い!」

「紅ショウガがいいアクセントになっている!」
好きに食レポしてくれていた。

エリカに至っては、
「ディスイズ、ジャパニーズフーズ!」
英語で叫んでいた。
好きにしてくださいな。

他にも定食系や丼物、おつまみ等もある。
ここで宴会になることは無いだろうがおつまみは必要だろう。
小食の人もいるだろうしね。
それに一品物を頼みたい者もいるだろう。
後は揚げ物だ。
から揚げは外せないしフライドポテトも定番だ。
それにコロッケ等もある。
他にはアジフライやエビフライ、クリームコロッケもある。
揚げ物はいくらでも増やすことは出来るがまずはこれぐらいにしておいた。
いくらでも増やせば良いという物でも無いだろう。

そして遂にこれに俺は手を出した。
ポテチである。
無茶苦茶ヒットしそうだ。
既に身内には絶大な支持を受けており、アイリスさんが特に大のお気に入りの様子。
連日作って欲しいとおねだりされている。
アイリスさんにおねだりされたら答えるしかない。
裏番長に逆らわないと決めたばかりだからね。
俺はギルとエルを巻き込んで黙々と大量のポテチを作ることになった。
やれやれだ。
味付けは塩とコンソメだ。
他にも色々と出来るが、収集が付かなくなる為ここまでにしておいた。
本当に余裕が出来た時に手を加えるとしよう。
すまないが今はこれで勘弁して欲しい。
次はノリ塩辺りか?



今回のスーパー銭湯の別館を造るに当たり、従業員を大幅に募集しなければならない。
その前にまずは社員寮の建設だ。
ここはランドールさんに丸投げした。
そして実はこの時ランドールさんは、俺の指導により『分離』を獲得していた。
俺の経験として、確か『加工』と『分離』がレベルアップしたことで『合成』を獲得できたと覚えている。

そのことを伝えると、
「島野さんありがとう、レベルアップに励むよ」
手を差し伸べてきたので、握り返しがてら『神力贈呈』で神力を分けておいた。
ニヤリと口元を緩めるランドールさん。
ここは現場に入るべきと社員寮の建設に勤しんでいた。
有難いことである。

新入社員の募集だがここも丸投げすることにした。
丸投げ先は安定のエリカである。
今ではエリカは俺の丸投げ先ナンバーワンの異名を誇っている。
何故かエリカは俺からの丸投げを喜ぶ傾向にある。
何とも不思議である。

マーク曰く、
「島野さんに頼られて嬉しいんですよ」
とのことだったが、俺にはよく分からん感覚である。

だって面倒事を押し付けられているんだよ?
本当にいいのかい?
俺は嫌だな。
間違いなく投げ返すだろう。

エリカは実に大体的に新人募集を行っていた。
それは南半球に限らず『シマーノ』にも行っていた。
これは収取が付かなくなるぞエリカ君よ。
知らないぞ?
魔物達の信仰心を舐めてはいけない。
相当数の応募人数になるに決まっている。
流石に首領陣は応募しないだろうが、それ以外の魔物達は我先にと応募するに決まっている。

実際俺の予想は正しく。
殆どの魔物達が新入社員募集に反応した。
但しここはエリカも黙ってはいない。
エリカはいつくかの条件を付けていた。
まずは読み書き計算が出来ること。
次に社員寮に住むことが出来ること。
使用期間は半年とする。
『鑑定』魔法を受け、鑑定書と職務経歴書と履歴書を持参すること。
推薦状などは受け付けない。
等々・・・

ガチガチじゃないか・・・
流石はエリカだ。
身体検査は厳重で、簡単にはいかないぞとの暗黙のプレッシャーを感じる。
にしても履歴書は未だしも職務経歴書って・・・
やり過ぎじゃね?

これによって随分と応募者が減るであろうと思われたがそうはいかなかった。
それはそうであろう。
特に魔物達に関しては読み書き計算に関しては、ゴン先生の教えによりほぼ全ての魔物達が出来ている。
それにその他の条件も簡単にクリアするだろう。
それぐらいあいつらはサウナ島を愛しているのだ。
魔物達にしてみれば、サウナ島に行く為に日々の労働を頑張っていると言っても過言ではないのだから。
そんなサウナ島の従業員に成れるのならどれだけのハードルでも乗り越えてくるに違いない。
これはもしかしたら新入社員のほとんどが魔物達になるのかもしれないな・・・
俺はそんな気がする・・・

その予想は間違ってはいなかった。
応募者の九割は魔物達になっていた。
ていうか・・・南半球の皆さん・・・大丈夫ですか?
勉強して下さいよ・・・
思いの外読み書き計算が出来る者が少なかったみたいだ・・・

そして俺はマークから相談を受けることになっていた。
その原因はゴブオクンである。
あいつは何を勘違いしたのか面接でやらかしたみたいだ。

「おいらは島野様から一目置かれている」

「おいらは島野様に認められている」

「おらはノン様にも気にいられている」

「ゴン先生には何度も褒められた」
等々、好きに宣ったらしい。
マークも俺がゴブオクンを気に入っている事を知っている為、判断に悩んだみたいだ。
それはエリカも同様であったらしい。

俺は問答無用で、
「不採用だ!」
との決断を下した。
ゴブオクン・・・反省しなさい!
この決断にマークとエリカは胸を撫で降ろしていた。
やれやれだ。



スーパー銭湯の別館の試運転を終えた俺達は反省会を行うことになった。
参加者は島野一家と旧メンバーとエリカである。
そしてオブザーバーにエリスとゼノンだ。
神様ズからは五郎さんのみ参加して貰っている。
他の神様ズは此方から御遠慮願った。
真面な意見を貰えるとは思えなかったし、これ以上参加されると収取が付かなくなるに決まっている。

早速意見が飛び交った、
「島野、これはこれでいいんじゃねえか?個人的には風呂がねえのが物足りねえがな」

「主、此処にならずっと一日中居れます!」

「テントサウナは強烈です!」

「バレルサウナは玄人受けしそうです」

「休憩室の寛ぎ感がいいです」

「サ飯は人気が出るでしょうね」
好きに言っている。
ていうか反省会になっていない。
籠手入れ出来る意見が欲しかったのだが・・・
ここは上手く行っていると受け止めておこう。
という事で解散!
速攻で反省会は終わってしまった。
ていうか反省会に成っていない。



後日、
遂に残念な上級神にバイトを与えることにした。
これならばなんとかなるだろう。

それに以前にクビになった事が相当堪えたのか、
「島野、お願いだ!俺を再雇用してくれ!もうこれ以上アイリスに殴られたくないんだ!」
連日俺の所に嘆願に来ていた。
その度にもう少し待てと俺はスカイクラウンを追いやっていた。

「絶対だぞ、頼むぞ!」
そこまで反省しているならチャンスを与えようと思う。
にしてもその動機がね・・・どうなんだろうね?・・・
深くは考えないようにしよう。
俺は巻き込まれたくは無いからな。

俺は暇を見つけてはハングライダーとパラシュートを造った。
ハングライダーの骨組みはカーボン、そして羽の素材は安定のアラクネの糸だ。
まずは試しにとハングライダーを五個造り先ずはギルと一緒に飛んでみた。
ギルなら失敗しても何とかなるだろう。
飛べるしね。

エアーズロックの縁に発射装置を造った。
この発射装置は案外簡単な構造をしている。
鉄でローラーを造って、それをいくつも並べてその上に簡単なボードを乗せる。
そしてそのボードには二本の太いゴムが繋がっており、大きなパイプに括り付けられている。
その上に腹ばいになって準備完了。
ボードをスタッフに引っ張って貰って合図と共にハングライダーごと発射されるのだ。
推進力を得たハングライダーはそのままエアーズロックの縁から上空に飛び立つ。

そしてこれが面白いぐらいに楽しかった。
ギルも楽しかったのか、何度も何度もハングライダーで飛んでいた。
そこにノンとエルも加わって大空の旅を楽しんだ。

そして浮遊魔法を取得できていないゴンがハングライダーに乗ることになった。
ゴンは少し緊張気味だが、
「失敗しても、ちゃんと助けてやるから安心しろ」
俺のこの発言に腹を決めた様で鼻息荒くやる気に満ちていた。

ゴンがエアーズロックから飛び出した。
並走して俺も飛んでいる。
流石は聖獣だ、運動神経抜群である。
ゴンは速攻で乗れるようになっていた。

「主!楽しいです!それにこの感覚を掴めれば私も浮遊魔法を取得できそうです!」
自信満々で言っていた。
なるほど、そんな副産物もあって良いのかも。

レケは始めから、
「楽しいぜー!フォウー!」
全開で楽しんでいた。
こいつは恐怖心が薄い様だ。
何なら一度落ちてみたらいい。
レケなら死なないだろう。
多分・・・

一番ビビりなのがエクスだった。
「マスター・・・本当にやるのかよ?・・・」
無茶苦茶顔が引き攣っていた。

「エクス・・・お前ギルの能力を使えるんじゃないのか?だったら飛ぶことぐらい出来るだろう?」

「いや・・・そうだけど・・・実は怖くて一度も飛んだことがないんだよ・・・」
何だそれ?
ただの高所恐怖症か?

「まあいい、やってみろ。お前は一応神だから死ぬことはないからな」

「そうだけど・・・」

「ええい!いいからやるぞ!気合を入れろ!」
何だか腹が立ってきた。
俺は『念動』で強引にエクスを捕まえてボードに乗せた。

「マスター!止めてくれ!死んじゃうよ!」

「エクス!諦めろ!いいか、ハングライダーのバランスにだけ気を付けろ!行くぞ!」

「ああ!そんな!」
俺は問答無用でエクスを発射した。

「ビエエエエーーー!!!」
叫びつつも大空へと飛び立つエクス。
しょうがないので俺も並走することにした。
エクスは必死でハングライダーにしがみ付いていた。
何とかバランスを取ろうとしている。
しょうがないので『念動』で体勢を整えてやった。
すると次第に飛んでいる感覚に慣れてきたエクス。
多少の緊張感が残っているが上手くバランスを取れる様になってきていた。

「エクス、どうだ?」

「マスター!おいら飛んでるぞ!やった!飛んでるぞ!」
何とか飛べたみたいだ。
このビビり小僧め。
手のかかる奴だな。
その後自信がついたのか浮遊魔法も時々使う様になっていた。

そしてその発言通りゴンが浮遊魔法を覚えていた。

「主!私も飛べる様になりました!」
嬉しそうに報告してくれた。
はやりゴンは感覚派みたいだ。
透明化の時もそうだったけど身体で覚える質の様だ。
でも未だ転移魔法は覚えていない。
こればかりは別物なんだろうな・・・もしかして転移の魔法は無いのかな?

次にスカイダイビングだ。
こちらは簡単だ。
パラシュートを背負ってボードに乗って上空に投げ飛ばされるだけだ。
難しいのはパラシュートを開くタイミングだ。
此処は各自の判断に任せるしか無いのだが、念の為運営する上ではここで開かないといけないという高さを調べておく必要がある。
ギルとノンとゴンとエルとで何度も試しては、大体この辺だなという高さを割り出した。
それを天使と悪魔に伝えた。

こうしてエアーズロックに一大レジャー施設が出来上がった。
ここの運営は天使と悪魔に任せることにした。
そしてここの安全指導員兼監視役として、スカイクラウンがバイトを行うことに成ったのである。
間違うと死人が出るぞとの俺の脅しに姿勢を正すスカイクラウンであった。
やはりこいつも神なのだろう、この一言が相当堪えたみたいでプレオープン時を見る限り真面目に働いていた。
うん、常にそうあって欲しい。

でも俺はこっそりとあいつは当てにならないので、監視員は天使と悪魔に常時四名は配置する様に伝えた。
天使と悪魔も飛べるのだからどうにかなるだろう。
ただ空中で巨人族を支えるだけの力は無いだろう。
四人居ればどうにかなるのでなかろうか?
最悪の為と考えて浮遊の魔法を付与してある魔石を必ず装備するという安全対策も施している。
ここまでやれば問題ないはずだ。
後は事故が起こらない事を祈るばかりだ。

後日スカイクラウンから、
「俺は天職と出会えたみたいだ、ありがとう島野」
等と感謝されてしまった。

まあ浮かぶことしか出来ないお前の転職はこれしかないでしょうね。
それに実の所、スカイクランは自分が浮かぶだけでは無く浮かんでいることをサポートしたり、見ることが好きみたいだ。
ここは百歩譲って流石は大空の神と言っておこう。
やれやれだ。