早速エアーズロックを島ごと転移することにした。
安全を期して、島民は全員サウナ島に移動している。
俺は先ずは『同調』でエアーズロックと意識を共有する。
とても面白い感覚だった。
フワフワした体感が心地よく、いつまでも繋がっていたいとの想いに陥りそうだった。
そして分かったのは、この島には意識があるという事だった。
そうでは無かろうかとは思ってはいた。
実際に繋がってみると、その存在を俺は受け止めざるを得なかった。
会話したい衝動に駆られたが、今はその時では無いと思っていたのだが、先方から声が掛けられた。
どうやらエアーズロックは俺と話がしたい様だ。
ならば話をしてみよう。
どんな会話になることやら。
(・・・我をどうするつもりなのだ?神よ・・・)
(エアーズロック・・・始めまして・・・俺は島野守・・・半神だ・・・)
(半神?・・・創造者ではないというのか?我にはそう感じたのだが・・・)
(そうか・・・直にそうなるのかもな・・・それでエアーズロック・・・お前を移動させるけどいいか?)
(移動?・・・何処に?・・・)
(南半球にだよ・・・駄目かい?)
(それはどうして?・・・)
(簡単なことだよ・・・この島の魅力をもっと知って貰う為だよ・・・)
(ほう・・・嬉しい話だ・・・)
(ああ・・・これまで以上に人が行き来する様になると思う・・・困った事が有ったら遠慮なく言ってくれよ・・・)
(ほう・・・良いのか?・・・だが我は沈下しておるのだが・・・)
(ああ・・・構わない・・・何とかしてみるよ・・・)
(そうか・・・どうやって?・・・)
(そうだな・・・魔石か・・・神石を使ってみようかと考えている・・・)
(ほう・・・興味深い・・・だが、そんな事をしなくともよい・・・)
(というと?・・・)
(我に神力を分けて貰えないか?・・・)
(構わないが・・・それで沈下が止まるのか?・・・)
(ああ・・・我にはその力がある・・・)
(そうか・・・もしかしてお前も神なのか?・・・)
(少々違うが・・・似たような存在かもしれん・・・)
(まあいい・・・分かった・・・始めていいか?・・・)
(よろしく頼む・・・)
俺はエアーズロックに触れて、神力贈呈を発動した。
(おお!・・・島野守・・・我はお主に従おうぞ・・・)
(エアーズロック・・・ありがとうな・・・じゃあ転移する・・・準備してくれ・・・)
俺はエアーズロックとの繋がりを堪能していた。
自分自身が自然の一部になった様な心地よさだった。
とても興味を引く体験だった。
またこいつとは話をしてみたい。
(エアーズロック・・・行くぞ)
(あい分かった・・・)
俺はエアーズロックごと転移した。
フュン!
サウナ島では本当に天空の島『エアーズロック』が転移するのかと、噂を聞いた人々で溢れ返っていた。
今か今かと俺とエアーズロックの到着を待っている。
転移する位置は、サウナ島の真上では不味いと、南の海岸から更に南に一キロほど離れた場所にすることにした。
結構な数の見学者が集まっている。
これはイベントに成ると、商魂逞しくエリカは屋台を出店し見学者達をもてなしていた。
これはマークには出来ない芸当だ。
エリカはここぞとばかりに本領を発揮していた。
「本当に島ごと転移なんて出来るのか?」
「島野さんなら或いは・・・」
「サウナの神様はやると言ったらやると思うぞ」
各々好きにコメントしていた。
そしてその時は突如訪れた。
ヒュン!
そんな音がしたのかもしれない。
エアーズロックが突如サウナ島の南の上空に現れたのだ。
余りの出来事に驚愕する見学者達。
そして一拍遅れて歓声が挙がった。
「うおおーーー!!!」
「マジか!」
「島が空に浮かんでいるぞ!」
「見てはいけないものを見てしまった!」
見学者達の興奮は収まりそうにない。
自然と拍手が巻き起こっていた。
島野一家の面々はそれをドヤ顔で受け止めていた。
俺はエアーズロックごと転移した。
特に神力をたくさん使ったという実感は無い。
どちらかといえば、エアーズロックに神力贈呈を行った方が、減りが多かった気がする。
でも相変わらず計測不能に変わりは無い。
まあ神力お化けですので。
まあこんなもんでしょ。
にしても歓声が凄い。
ここまで歓声が届くとは・・・
騒ぎ過ぎじゃね?
まあ好きにしてくれていいけど。
早速転移扉を設置して、サウナ島の受付に行くことにした。
受付に着くとエクスが駆け寄ってきた。
「マスター!凄え!おいら見てたぞ!」
エクスは興奮冷めやらぬといった具合だ。
「そうか、にしても凄い歓声だったな、エアーズロックにまで届いていたぞ」
「そりゃあそうだぜ、興奮するに決まってる!」
そうなのか?
俺にはよく分からん。
使い慣れた能力を披露したに過ぎないのだけどな。
「まあいいや、中に入るぞ」
「ああ、マスター。入ってくれ!」
エクスはそう言うと、入口の扉を開いてくれた。
サウナ島に入ると拍手で迎えられた。
しょうがないので俺は片手を挙げて答えることにした。
なんだかな・・・
人々を掻き分けてエリス達の所へ向かう。
エリスが笑顔で俺を出向かえてくれた。
「守さん、凄いな!」
「そうか?それよりも転移扉を繋げたから天使と悪魔を連れて、一度エアーズロックに戻ってみてくれないか?」
「分かった」
「その後エアーズロックの開発に関する打ち合わせをするから、事務所の会議室に集合だ」
「了解!じゃあ行ってくる」
「ああ」
俺は事務所の会議室に転移した。
だって人に囲まれていたからね。
いい加減人酔いしそうだ。
勘弁してくれよ。
会議室に着くと既にランドールさんが俺を待っていた。
「うわわ!」
いきなり現れた俺にランドールさんが驚いていた。
すまない、誰も居るとは思ってなかったよ。
「すいません、驚かせてしまいましたね」
「ええ、ビックリしましたよ・・・」
イケメンの驚く顔はちょっと笑えた。
息を整えたランドールさんから質問を受けることになった。
「それで島野さん、今度は何を造るおつもりで?」
「ランドールさん、それはメンバーが集まってから話しますよ」
「そうかい、でも島野さんのことだ、面白いことを始めるんだろうね」
「面白いがどうかは分かりませんが、力をお借りしますよ」
「私でよければ」
ランドールさんはノリノリだ。
メッサーラの学校も既に八校が出来上がっている。
その建設工事も今ではほとんど弟子達に任せており、ランドールさんはこれまでに無い新しい建築物を造りたいと以前話していた。
実は前に何かないかと意見を求められていた。
俺はどうしたものかと日本に帰り、建築物に関する本を何冊か購入し、ランドールさんにプレゼントしていた。
その本は今ではランドールさんのバイブルに成っていると彼は語っていた。
喜んでくれてなによりだ。
その後ランドールさんとは世間話をして、他のメンバーを待つことにした。
打ち合わせのメンバーは俺とランドールさん、エアーズロックからはエリスとマルとコロ、島野商事からはマークとランドとエリカだ。
後はギルとゼノンがオブザーバーとして参加している。
全員揃ったところで俺は打ち合わせを開始することにした。
「では、打ち合わせを始めよう」
無言で頷くメンバー。
「今回のエアーズロックの転移を経て、これからはランドールさん協力の元、まずはレストラン街の建設に従事することになる」
「ほお、レストラン街か」
ランドールさんは頷きながら答える。
「島野さん、それは今サウナ島にあるレストランの様なものになるのですか?」
エリカからの質問だ。
実は現在サウナ島にはレストランと呼ばれる店舗が二店舗ある。
まず一つは鉄板焼きのお店だ。
これは島野商事の直営店である。
来島者からの声で造ったお店だ。
それまでのサウナ島では、食事をしようとした場合に取れる手段は限られていた。
スーパー銭湯の大食堂か、迎賓館か、屋台かの選択肢しか無かった。
その為、観光や視察等で訪れた者達には、食事を楽しむ施設は限られていた。
迎賓館は割高の料金設定になっているし、スーパー銭湯の大食堂に入るには入泉料を払わなければならない。
そうなると残された選択肢は屋台となるのだが、常時営業している屋台はゴンズさんの大たこ焼きの屋台に限られる。
その他の屋台はイベント時に島野商事が出店しているぐらいでしかない。
他の選択肢が欲しいとの要望が後を絶たなかった為、鉄板焼きのお店を開くことにしたのだ。
鉄板焼き屋は、お昼は粉物中心のリーズナブルなお店だが、夜になるとステーキハウスとなり高級感溢れるお店となる、緩急をつけたお店となっていた。
更に夜の九時を過ぎると、バーとしての営業を行っており、俺はこのお店をカメレオン店舗と呼んでいた。
時間帯によって変貌するお店だ。
実に評判の高いにお店になっている。
ステーキハウスに関しては予約を取ろうものなら、半年待ちだ。
そしてもう一つのお店はマット君のお店である。
遂にマット君が独立という夢を叶えたのである。
その際にはいろいろなやり取りがあった。
まずは独立出来るだけの貯金を貯め、結婚予定の彼女との婚約を確たるものにしたマット君ではあったのだが。
いざ独立を考えた際に、メルラドに返って独立するのは不安があった様だ。
そこでマット君はマークを通じて俺に相談を持ち掛けてきた。
それはサウナ島でお店を構えさせて貰えないかというものだった。
その気持ちはよく分かる。
サウナ島ならレストランは足りておらず、来島者も財布の紐は緩みがちだ。
上客となる者は多いと考えられる。
俺は勿論受けてやりたかったのだが、そう簡単にはいかなかった。
というのも、サウナ島では国の直営店舗か、神様の店舗としてしかこれまで出店を認めてこなかったからだ。
その理由は明らかだ。
それ以外を許すと、ここぞとばかりに我こそはと出店を望む者達が大挙することは眼に見えていたからだ。
心情的にはマット君にはサウナ島で店舗を構えて欲しいところなのだが、体裁がそれを許さない。
そこで俺はリチャードさんを呼び出した。
「リチャードさん、相談があります」
「何なりとお申し付け下さいませ!」
リチャードさんは俺の部下かというほどに俺に従順だ。
何でかなぁ?
あんた外務大臣だよね?
リチャードさん・・・立場を弁えて下さいよ・・・。
「実はマット君が、このサウナ島で独立をしたいと言い出しました」
「なんと・・・」
「俺はそれを全面的に協力してあげたいと思っています」
「左様で御座いますか?」
「そこでメルラドの直営店舗の体裁を整えたいと思うのですが、如何でしょうか?」
「それは・・・お任せください!」
リチャードさんは簡単に認めていた。
本当にいいのかい?
と言いたくなったが、俺は堪えることにした。
こう言っては何だが、しめしめである。
こうして簡単に体裁は整えられた。
サウナ島との直接的な契約はメルラドの名義で行われおり、そしてメルラドがマット君と契約を行う。
要は転貸である。
転貸料金はほぼ無料に近い。
こうしてマット君のお店が建設されることになったのだった。
そしてマット君のお店は無事にオープンした。
レストランは定食屋だった。
これがサウナ島に訪れる者達に絶大な支持を得た。
安価で美味しい料理が食べられると、大いにウケていたのである。
ほとんどの料理が銀貨十枚以下で食べられると、そのリーズナブルな料金設定にも注目が集まった。
マット君のお店は大いに流行っていた。
定食屋は一定数以上の客からの支持を受けていた。
実際何を食べても美味しいのだ。
それはそうだろう。
マット君は副料理長として長くキャリアを重ねており、かつサウナビレッジの厨房を任されてきたのだから。
料理の腕は間違いがないのだ。
話を戻そう。
「さて、今回の建設の中心はレストラン街だ。それにフードコートも建設する予定としたい」
ランドールさんが手を挙げる。
「島野さん、フードコートとは何なんだい?」
「フードコートとは分かり易く言うと、屋台街みたいなもので、セルフサービス形式の食事の為の屋台共有スペースですよ」
「なるほど、それは面白そうですね、セルフサービスというのがいいですね、その分安く済むということですね?」
「そうですね、細かい仕組みは設計段階で教えますよ。それとフードコートは絶景の見える箇所に造ることにしたい」
「「「おおー!!!」」」
声が挙がる。
「エアーズロックは空に浮かんでいることが一番の利点だ。それを活かすのは景色だろ?」
「確かに、サウナ島を見下ろせるってのが好評となりそうですね」
エリカはよく分かっている。
今度はエリスが手を挙げる。
「守さん、レストラン街とはどんな感じにするんだい?」
「レストランは日本料理店、中華料理店、イタリアン料理店は欠かせない。後は居酒屋なんてのもどうかと考えている、後は自分で焼く粉物の店とか、いろいろ造りたい」
「おお!居酒屋ですか?」
「甘美な響き」
マルとコロは嬉しいみたいだ、ニコニコとしている。
「だが、喜ぶのはまだ早い、問題は山ほどある」
「と言いますと?」
「まずは初期投資だ」
マークが話を繋ぐ。
「ああ、そうですよね」
「そこで、ここに関しては島野商事が全面的に協力しようと考えている」
ここに島野商事のメンバーが参加していることに意味がある。
「宜しいので?」
マルは前のめりになっていた。
「島野さんならそう言うと思ってましたよ」
マークは笑顔だ。
「だな、間違いない」
ランドも同意していた。
「島野商事なら資金には事欠きませんからね」
エリカが後押しする。
「でも、勘違いしないで欲しい。こちらにも理がある仕組みにさせて貰うからな」
「というと?」
エリスは理解しようと懸命について来ている。
「簡単に話すと、お店の先行投資はこちらで全額持つが、毎月の売り上げの一部を賃料として支払って貰う」
要はアンジェリっちの美容院とメルラドの服屋と同じスキームだ。
こちらは何をしなくとも賃料にて利益が得られるからね、とは言っても将来的にはということにはなるけれど。
それに大きな違いは土地に対しての権利は発生しないから、エアーズロックには土地に関しての賃貸借契約は結ばなければいけない、当然割安にして貰うけどね。
従って美容院や服屋ほどのマージンは受け取れない。
だが・・・
「今では美容院と服屋の投資回収はとっくに終わっていて、権利収入と化してますしね、同じスキームを今回も利用するということですね?」
エリカは理解が早い。
「その通りだ、だが、土地に関してはこちらの物ではないからそこに関してはちゃんと賃料は支払う、美容院や服屋ほどのマージンは発生しない、だが美容院や服屋に負けない程のポテンシャルがエアーズロックにはあると俺は考えている。なんなら俺の自己資金で行ってもいいとも考えているのだが・・・」
「それは困ります、是非島野商事でやらせて下さい!」
エリカから懇願されてしまった。
「そうか?まあ任せるよ」
エリカは胸を撫で降ろしていた。
今ではエリカも立派な島野商事の社員だ。
会社の利益を優先して考えている。
ありがたい事だ。
「なんだか凄い事になってきた・・・」
コロが思わず声を漏らしていた。
「そして一番大事な料理の調理法などに関してだが、島野商事にプロデュースさせて貰うことにする」
「何と!そこもご協力して貰えると?」
「当たり前だろう?だがその見返りとして、スーパー銭湯の別館を造らせて貰う。ここはあくまでサウナ島のスーパー銭湯の延長線だ、即ち我々の持ち物であり、土地に関しても権利を主張させて貰う、口は挟ませないし、エアーズロック内ではあるが、これは島野商事の所有物であるという事になる、その為賃料などは支払わない。どうだ?この条件を飲めるか?」
ここは駆け引きめいているが、譲れない。
俺の拘りのスーパー銭湯である。
誰にも権利を主張させないし、口を挟ませない。
俺の自由に出来るものでないと意味が無いのだ。
それに賃料など取らせない。
当たり前だろう?
要は主導権は一切与えませんということだ。
逡巡したエリスであるが、その返事はあっさりとしていた。
「マル、コロ、守さんを信じよう。否、ここは信じるしか無いよ。それにエアーズロックに天空のお風呂やサウナが出来るなんて嬉しいじゃないか!土地が自分達の物じゃなくてもいいじゃないか!」
「ですね!エリス様!」
「そうです!」
随分と信用されたものだ。
あっさりと受け入れられてしまったな。
であれば遠慮は要らない。
本気でスーパー銭湯の別館を造らせて頂こう。
さてさて楽しくなってまいりましたよ!
「いいかエリス、マル、コロ、島野商事プロデュースは決して甘くは無いぞ、ただ単にレシピを伝授するだけでは無い、その心から学んで貰うからな!」
「心得た!」
「お願いします!」
「感謝します!」
いい返事だ。
こうして大まかな概要は出来上がった。
オブザーバーで控えるギルとゼノンも万遍の笑顔を見せていた。
さて忙しくなって参りましたよ。
ここはと肩を回す俺だった。
安全を期して、島民は全員サウナ島に移動している。
俺は先ずは『同調』でエアーズロックと意識を共有する。
とても面白い感覚だった。
フワフワした体感が心地よく、いつまでも繋がっていたいとの想いに陥りそうだった。
そして分かったのは、この島には意識があるという事だった。
そうでは無かろうかとは思ってはいた。
実際に繋がってみると、その存在を俺は受け止めざるを得なかった。
会話したい衝動に駆られたが、今はその時では無いと思っていたのだが、先方から声が掛けられた。
どうやらエアーズロックは俺と話がしたい様だ。
ならば話をしてみよう。
どんな会話になることやら。
(・・・我をどうするつもりなのだ?神よ・・・)
(エアーズロック・・・始めまして・・・俺は島野守・・・半神だ・・・)
(半神?・・・創造者ではないというのか?我にはそう感じたのだが・・・)
(そうか・・・直にそうなるのかもな・・・それでエアーズロック・・・お前を移動させるけどいいか?)
(移動?・・・何処に?・・・)
(南半球にだよ・・・駄目かい?)
(それはどうして?・・・)
(簡単なことだよ・・・この島の魅力をもっと知って貰う為だよ・・・)
(ほう・・・嬉しい話だ・・・)
(ああ・・・これまで以上に人が行き来する様になると思う・・・困った事が有ったら遠慮なく言ってくれよ・・・)
(ほう・・・良いのか?・・・だが我は沈下しておるのだが・・・)
(ああ・・・構わない・・・何とかしてみるよ・・・)
(そうか・・・どうやって?・・・)
(そうだな・・・魔石か・・・神石を使ってみようかと考えている・・・)
(ほう・・・興味深い・・・だが、そんな事をしなくともよい・・・)
(というと?・・・)
(我に神力を分けて貰えないか?・・・)
(構わないが・・・それで沈下が止まるのか?・・・)
(ああ・・・我にはその力がある・・・)
(そうか・・・もしかしてお前も神なのか?・・・)
(少々違うが・・・似たような存在かもしれん・・・)
(まあいい・・・分かった・・・始めていいか?・・・)
(よろしく頼む・・・)
俺はエアーズロックに触れて、神力贈呈を発動した。
(おお!・・・島野守・・・我はお主に従おうぞ・・・)
(エアーズロック・・・ありがとうな・・・じゃあ転移する・・・準備してくれ・・・)
俺はエアーズロックとの繋がりを堪能していた。
自分自身が自然の一部になった様な心地よさだった。
とても興味を引く体験だった。
またこいつとは話をしてみたい。
(エアーズロック・・・行くぞ)
(あい分かった・・・)
俺はエアーズロックごと転移した。
フュン!
サウナ島では本当に天空の島『エアーズロック』が転移するのかと、噂を聞いた人々で溢れ返っていた。
今か今かと俺とエアーズロックの到着を待っている。
転移する位置は、サウナ島の真上では不味いと、南の海岸から更に南に一キロほど離れた場所にすることにした。
結構な数の見学者が集まっている。
これはイベントに成ると、商魂逞しくエリカは屋台を出店し見学者達をもてなしていた。
これはマークには出来ない芸当だ。
エリカはここぞとばかりに本領を発揮していた。
「本当に島ごと転移なんて出来るのか?」
「島野さんなら或いは・・・」
「サウナの神様はやると言ったらやると思うぞ」
各々好きにコメントしていた。
そしてその時は突如訪れた。
ヒュン!
そんな音がしたのかもしれない。
エアーズロックが突如サウナ島の南の上空に現れたのだ。
余りの出来事に驚愕する見学者達。
そして一拍遅れて歓声が挙がった。
「うおおーーー!!!」
「マジか!」
「島が空に浮かんでいるぞ!」
「見てはいけないものを見てしまった!」
見学者達の興奮は収まりそうにない。
自然と拍手が巻き起こっていた。
島野一家の面々はそれをドヤ顔で受け止めていた。
俺はエアーズロックごと転移した。
特に神力をたくさん使ったという実感は無い。
どちらかといえば、エアーズロックに神力贈呈を行った方が、減りが多かった気がする。
でも相変わらず計測不能に変わりは無い。
まあ神力お化けですので。
まあこんなもんでしょ。
にしても歓声が凄い。
ここまで歓声が届くとは・・・
騒ぎ過ぎじゃね?
まあ好きにしてくれていいけど。
早速転移扉を設置して、サウナ島の受付に行くことにした。
受付に着くとエクスが駆け寄ってきた。
「マスター!凄え!おいら見てたぞ!」
エクスは興奮冷めやらぬといった具合だ。
「そうか、にしても凄い歓声だったな、エアーズロックにまで届いていたぞ」
「そりゃあそうだぜ、興奮するに決まってる!」
そうなのか?
俺にはよく分からん。
使い慣れた能力を披露したに過ぎないのだけどな。
「まあいいや、中に入るぞ」
「ああ、マスター。入ってくれ!」
エクスはそう言うと、入口の扉を開いてくれた。
サウナ島に入ると拍手で迎えられた。
しょうがないので俺は片手を挙げて答えることにした。
なんだかな・・・
人々を掻き分けてエリス達の所へ向かう。
エリスが笑顔で俺を出向かえてくれた。
「守さん、凄いな!」
「そうか?それよりも転移扉を繋げたから天使と悪魔を連れて、一度エアーズロックに戻ってみてくれないか?」
「分かった」
「その後エアーズロックの開発に関する打ち合わせをするから、事務所の会議室に集合だ」
「了解!じゃあ行ってくる」
「ああ」
俺は事務所の会議室に転移した。
だって人に囲まれていたからね。
いい加減人酔いしそうだ。
勘弁してくれよ。
会議室に着くと既にランドールさんが俺を待っていた。
「うわわ!」
いきなり現れた俺にランドールさんが驚いていた。
すまない、誰も居るとは思ってなかったよ。
「すいません、驚かせてしまいましたね」
「ええ、ビックリしましたよ・・・」
イケメンの驚く顔はちょっと笑えた。
息を整えたランドールさんから質問を受けることになった。
「それで島野さん、今度は何を造るおつもりで?」
「ランドールさん、それはメンバーが集まってから話しますよ」
「そうかい、でも島野さんのことだ、面白いことを始めるんだろうね」
「面白いがどうかは分かりませんが、力をお借りしますよ」
「私でよければ」
ランドールさんはノリノリだ。
メッサーラの学校も既に八校が出来上がっている。
その建設工事も今ではほとんど弟子達に任せており、ランドールさんはこれまでに無い新しい建築物を造りたいと以前話していた。
実は前に何かないかと意見を求められていた。
俺はどうしたものかと日本に帰り、建築物に関する本を何冊か購入し、ランドールさんにプレゼントしていた。
その本は今ではランドールさんのバイブルに成っていると彼は語っていた。
喜んでくれてなによりだ。
その後ランドールさんとは世間話をして、他のメンバーを待つことにした。
打ち合わせのメンバーは俺とランドールさん、エアーズロックからはエリスとマルとコロ、島野商事からはマークとランドとエリカだ。
後はギルとゼノンがオブザーバーとして参加している。
全員揃ったところで俺は打ち合わせを開始することにした。
「では、打ち合わせを始めよう」
無言で頷くメンバー。
「今回のエアーズロックの転移を経て、これからはランドールさん協力の元、まずはレストラン街の建設に従事することになる」
「ほお、レストラン街か」
ランドールさんは頷きながら答える。
「島野さん、それは今サウナ島にあるレストランの様なものになるのですか?」
エリカからの質問だ。
実は現在サウナ島にはレストランと呼ばれる店舗が二店舗ある。
まず一つは鉄板焼きのお店だ。
これは島野商事の直営店である。
来島者からの声で造ったお店だ。
それまでのサウナ島では、食事をしようとした場合に取れる手段は限られていた。
スーパー銭湯の大食堂か、迎賓館か、屋台かの選択肢しか無かった。
その為、観光や視察等で訪れた者達には、食事を楽しむ施設は限られていた。
迎賓館は割高の料金設定になっているし、スーパー銭湯の大食堂に入るには入泉料を払わなければならない。
そうなると残された選択肢は屋台となるのだが、常時営業している屋台はゴンズさんの大たこ焼きの屋台に限られる。
その他の屋台はイベント時に島野商事が出店しているぐらいでしかない。
他の選択肢が欲しいとの要望が後を絶たなかった為、鉄板焼きのお店を開くことにしたのだ。
鉄板焼き屋は、お昼は粉物中心のリーズナブルなお店だが、夜になるとステーキハウスとなり高級感溢れるお店となる、緩急をつけたお店となっていた。
更に夜の九時を過ぎると、バーとしての営業を行っており、俺はこのお店をカメレオン店舗と呼んでいた。
時間帯によって変貌するお店だ。
実に評判の高いにお店になっている。
ステーキハウスに関しては予約を取ろうものなら、半年待ちだ。
そしてもう一つのお店はマット君のお店である。
遂にマット君が独立という夢を叶えたのである。
その際にはいろいろなやり取りがあった。
まずは独立出来るだけの貯金を貯め、結婚予定の彼女との婚約を確たるものにしたマット君ではあったのだが。
いざ独立を考えた際に、メルラドに返って独立するのは不安があった様だ。
そこでマット君はマークを通じて俺に相談を持ち掛けてきた。
それはサウナ島でお店を構えさせて貰えないかというものだった。
その気持ちはよく分かる。
サウナ島ならレストランは足りておらず、来島者も財布の紐は緩みがちだ。
上客となる者は多いと考えられる。
俺は勿論受けてやりたかったのだが、そう簡単にはいかなかった。
というのも、サウナ島では国の直営店舗か、神様の店舗としてしかこれまで出店を認めてこなかったからだ。
その理由は明らかだ。
それ以外を許すと、ここぞとばかりに我こそはと出店を望む者達が大挙することは眼に見えていたからだ。
心情的にはマット君にはサウナ島で店舗を構えて欲しいところなのだが、体裁がそれを許さない。
そこで俺はリチャードさんを呼び出した。
「リチャードさん、相談があります」
「何なりとお申し付け下さいませ!」
リチャードさんは俺の部下かというほどに俺に従順だ。
何でかなぁ?
あんた外務大臣だよね?
リチャードさん・・・立場を弁えて下さいよ・・・。
「実はマット君が、このサウナ島で独立をしたいと言い出しました」
「なんと・・・」
「俺はそれを全面的に協力してあげたいと思っています」
「左様で御座いますか?」
「そこでメルラドの直営店舗の体裁を整えたいと思うのですが、如何でしょうか?」
「それは・・・お任せください!」
リチャードさんは簡単に認めていた。
本当にいいのかい?
と言いたくなったが、俺は堪えることにした。
こう言っては何だが、しめしめである。
こうして簡単に体裁は整えられた。
サウナ島との直接的な契約はメルラドの名義で行われおり、そしてメルラドがマット君と契約を行う。
要は転貸である。
転貸料金はほぼ無料に近い。
こうしてマット君のお店が建設されることになったのだった。
そしてマット君のお店は無事にオープンした。
レストランは定食屋だった。
これがサウナ島に訪れる者達に絶大な支持を得た。
安価で美味しい料理が食べられると、大いにウケていたのである。
ほとんどの料理が銀貨十枚以下で食べられると、そのリーズナブルな料金設定にも注目が集まった。
マット君のお店は大いに流行っていた。
定食屋は一定数以上の客からの支持を受けていた。
実際何を食べても美味しいのだ。
それはそうだろう。
マット君は副料理長として長くキャリアを重ねており、かつサウナビレッジの厨房を任されてきたのだから。
料理の腕は間違いがないのだ。
話を戻そう。
「さて、今回の建設の中心はレストラン街だ。それにフードコートも建設する予定としたい」
ランドールさんが手を挙げる。
「島野さん、フードコートとは何なんだい?」
「フードコートとは分かり易く言うと、屋台街みたいなもので、セルフサービス形式の食事の為の屋台共有スペースですよ」
「なるほど、それは面白そうですね、セルフサービスというのがいいですね、その分安く済むということですね?」
「そうですね、細かい仕組みは設計段階で教えますよ。それとフードコートは絶景の見える箇所に造ることにしたい」
「「「おおー!!!」」」
声が挙がる。
「エアーズロックは空に浮かんでいることが一番の利点だ。それを活かすのは景色だろ?」
「確かに、サウナ島を見下ろせるってのが好評となりそうですね」
エリカはよく分かっている。
今度はエリスが手を挙げる。
「守さん、レストラン街とはどんな感じにするんだい?」
「レストランは日本料理店、中華料理店、イタリアン料理店は欠かせない。後は居酒屋なんてのもどうかと考えている、後は自分で焼く粉物の店とか、いろいろ造りたい」
「おお!居酒屋ですか?」
「甘美な響き」
マルとコロは嬉しいみたいだ、ニコニコとしている。
「だが、喜ぶのはまだ早い、問題は山ほどある」
「と言いますと?」
「まずは初期投資だ」
マークが話を繋ぐ。
「ああ、そうですよね」
「そこで、ここに関しては島野商事が全面的に協力しようと考えている」
ここに島野商事のメンバーが参加していることに意味がある。
「宜しいので?」
マルは前のめりになっていた。
「島野さんならそう言うと思ってましたよ」
マークは笑顔だ。
「だな、間違いない」
ランドも同意していた。
「島野商事なら資金には事欠きませんからね」
エリカが後押しする。
「でも、勘違いしないで欲しい。こちらにも理がある仕組みにさせて貰うからな」
「というと?」
エリスは理解しようと懸命について来ている。
「簡単に話すと、お店の先行投資はこちらで全額持つが、毎月の売り上げの一部を賃料として支払って貰う」
要はアンジェリっちの美容院とメルラドの服屋と同じスキームだ。
こちらは何をしなくとも賃料にて利益が得られるからね、とは言っても将来的にはということにはなるけれど。
それに大きな違いは土地に対しての権利は発生しないから、エアーズロックには土地に関しての賃貸借契約は結ばなければいけない、当然割安にして貰うけどね。
従って美容院や服屋ほどのマージンは受け取れない。
だが・・・
「今では美容院と服屋の投資回収はとっくに終わっていて、権利収入と化してますしね、同じスキームを今回も利用するということですね?」
エリカは理解が早い。
「その通りだ、だが、土地に関してはこちらの物ではないからそこに関してはちゃんと賃料は支払う、美容院や服屋ほどのマージンは発生しない、だが美容院や服屋に負けない程のポテンシャルがエアーズロックにはあると俺は考えている。なんなら俺の自己資金で行ってもいいとも考えているのだが・・・」
「それは困ります、是非島野商事でやらせて下さい!」
エリカから懇願されてしまった。
「そうか?まあ任せるよ」
エリカは胸を撫で降ろしていた。
今ではエリカも立派な島野商事の社員だ。
会社の利益を優先して考えている。
ありがたい事だ。
「なんだか凄い事になってきた・・・」
コロが思わず声を漏らしていた。
「そして一番大事な料理の調理法などに関してだが、島野商事にプロデュースさせて貰うことにする」
「何と!そこもご協力して貰えると?」
「当たり前だろう?だがその見返りとして、スーパー銭湯の別館を造らせて貰う。ここはあくまでサウナ島のスーパー銭湯の延長線だ、即ち我々の持ち物であり、土地に関しても権利を主張させて貰う、口は挟ませないし、エアーズロック内ではあるが、これは島野商事の所有物であるという事になる、その為賃料などは支払わない。どうだ?この条件を飲めるか?」
ここは駆け引きめいているが、譲れない。
俺の拘りのスーパー銭湯である。
誰にも権利を主張させないし、口を挟ませない。
俺の自由に出来るものでないと意味が無いのだ。
それに賃料など取らせない。
当たり前だろう?
要は主導権は一切与えませんということだ。
逡巡したエリスであるが、その返事はあっさりとしていた。
「マル、コロ、守さんを信じよう。否、ここは信じるしか無いよ。それにエアーズロックに天空のお風呂やサウナが出来るなんて嬉しいじゃないか!土地が自分達の物じゃなくてもいいじゃないか!」
「ですね!エリス様!」
「そうです!」
随分と信用されたものだ。
あっさりと受け入れられてしまったな。
であれば遠慮は要らない。
本気でスーパー銭湯の別館を造らせて頂こう。
さてさて楽しくなってまいりましたよ!
「いいかエリス、マル、コロ、島野商事プロデュースは決して甘くは無いぞ、ただ単にレシピを伝授するだけでは無い、その心から学んで貰うからな!」
「心得た!」
「お願いします!」
「感謝します!」
いい返事だ。
こうして大まかな概要は出来上がった。
オブザーバーで控えるギルとゼノンも万遍の笑顔を見せていた。
さて忙しくなって参りましたよ。
ここはと肩を回す俺だった。