アースラさんの宴は大盛り上がりだった。
終始エリスとギルは笑顔で、アースラさんもアイリスさんも笑顔を絶やす事は無かった。
エリスもやはりドラゴンでフードファイターの如くガツガツと飯を食っていた。
それだけなら未だしも驚くほどに酒豪だ。
ゼノンの娘という時点で疑っていたのだが・・・
そして俺の奢りの金額は金貨十枚にもなっていた。
まあ困ることは無いのだが、これまでに悪い例をたくさん作り過ぎてしまった弊害が現れていた。
俺の奢りとなると誰もが手を抜いてくれない。
誰もが悪びれることも無く、飲んでや食っての大騒ぎだ。
俺相手なら財布は要らないと思われている節がある。
まぁ皆な楽しく、笑顔でいたからいいのだけれどね。
それにたくさん感謝されたしな。
途中から案の定神様ズが勝手に混じっていたけど・・・
もう慣れたよ。
あんたらはどうでもいいよ。
てか、いい加減遠慮を学べよ!

ゴンガスの親父さんとエリスの再開はちょっと笑えた。
ゴンガスの親父さんがエリスを見た時の、唖然とした顔には腹を抱えて笑いそうになってしまった。

それに対してエリスの反応は、
「よう!酒飲み親父!生きてやがったか?貸した金返せよ!」
だったからね。

その後、親父さんは本当にエリスに金貨を返していた。
親父さんも何でドラゴンに金を借りるかね?
百年以上経った今でも忘れていないエリスも大したもんだ。
にしても第一声が金返せは笑えたな。
ハハハ!



翌日
そろそろエアーズロックの今後について話をしなければならない。
場所は事務所の会議室。
参加者は俺とギル、エリスとゼノン、そして天使のマルと悪魔のコロ。
加えて島野商事からはマークとロンメル、ランドそしてエリカが出席している。
エリカは議事録係だ。
その為、会議中の彼女は発言しないだろうと思う。
島野商事のメンバーが加わっていることには意味がある。
それはこの先の会議でその答えが出るだろう。
まずは島野商事のメンバーと、エアーズロック組とが自己紹介を行っていた。
俺が仕切らずとも自ら話をしてくれるのは助かる。
特に島野商事組は大人の対応を心得ている。
人嫌いの天使と悪魔がこれを機に人族に対して考えを変えてくれるといいのだが、そう簡単にはいかないだろう。
でも時間を掛ければ関係性は変わって来るに違いない。
そうあって欲しいものだ。

一通りの自己紹介が終わったので、俺は話を始めた。
「さて、エアーズロックの今後について話をしようと思う」
全員が無言で頷く。

「まずは情報共有も含めておさらいをしたいと思う」

「では守さん、そこは私が」
エリスが挙手して発言の許可を求めた。
俺は顎を引いてエリスに発言の許可を出した。
このメンバーになると自然と俺が議長になる。

「まずエアーズロックの現状を話すと、資源に乏しく、浮遊石が劣化を始めているのが現状だよ」
その発言を受けてマークが挙手する。

「すまないが、エリスさん。我々は浮遊石を知らない。それはどんな物なんでしょうか?」

「そうか、浮遊石とはその名の通り浮遊の効果のある石なんだ。その石がエアーズロックの地盤には組み込まれていて、その浮遊石がエアーズロックを空に浮かべているということなのさ」

「話には聞いていたが、本当に島が空に浮かんでるんだな」
ロンメルは考えられないと首を横に振っていた。

「そうです、エアーズロックは空に浮かぶ島であります」
マルは誇らしそうにしている。

「我等天使族とコロ達悪魔族は数百年前からエアーズロックに住んでおります」

「そして今から百年前にゼノン様がエリス様をお連れになりました」
今度はコロが話を重ねる。

「そうじゃ、戦争を止めに入ったエリスじゃが、大爆発に巻き込まれてのう。その時に翼を失ってしもうたのじゃ、それをアースラが助け、儂の元に届けてくれたのはよいのじゃが、当時のドラゴムには治療を施す事が出来る状態ではなくてのう。治癒魔法が得意な天使達であれば、翼は戻らずとも傷は癒えると思ってのう」
ゼノンは当時を思い出しているのだろう、遠い眼をしていた。

「ゼノン、それだけでは無いんだろう?」
俺は勘ずいてた。

「守よ、分かっておったか、そうじゃ、戦争が起こっただけでは無く、北半球は我等神には少々住みづらい状況にあってのう」
ゼノンは素直に語った。

「だから天空の島なら安全に匿えるということだな。そもそも百年前に起きた戦争の黒幕は誰なんだよ?」
俺は思い当たっているのだが敢えて踏み込んでみた。

「そろそろ話してもよい頃じゃな、でも守は分かっておるのじゃろ?」

「ああ、どうせラファエルだろ?」
俺は一番高い可能性を話してみた。

「そうじゃよ」
この発言にエリスとギルが立ち上がる。

「あのイヤーズのラファエルなの?」

「誰だいそれは?」
どうやらエリスは分かっていないみたいだ。
戦争の黒幕を知らずして止めに入っていたみたいだ。
だろうなとは思っていたが・・・
豪快過ぎないか?エリス。

「確認するがエリス、百年前の戦争についてどれぐらい知っているんだ?」

「私が知っているのは、サファリス国とオーフェルン国が争ったということだけだよ」
そんなことだろうと思ったよ。
やれやれだ。

「えっ!ママ、本当なの?」
ギルは嘘でしょ?とツッコんでいた。

「いろいろ知りたかったよ、でもさ、戦争前に情報を集める時間は無かったし、この百年の間、知りたかったけど私は親父の権能で天空の島『エアーズロック』からは出られなかったから・・・」
ということらしい。
あっさりとゼノンの権能について明かしていたが、ほとんどの者達は気づいていないだろう。
俺は気づいてしまったがここは黙っておこう。
そんなエリスは大雑把とも言う。
否、何も考えていないのだろう。
エリスは何でも口にしてしまう・・・素直過ぎると大らかに受け止めよう。

「そんなことだろうと思ったよ、いいかエリス。直接的では無いが、お前の大事な翼を奪ったのはラファエルだ。戦争を引き起こしたのはラファエルだからな」
この俺の発言にゼノンが加わる。

「ホホホ!流石は守じゃな。お見通しじゃな」
そんな事は分かっている。

「だが詳細までは俺は掴んではいないぞ?」

「じゃろうな、儂が話してもよい範疇で話してやろう」
何時になく前のめりなゼノンだ。
それにしても千里眼と地獄耳は万能だな。
この場に居ても各国の情勢が分かるしね。

「まずラファエルはイヤーズに転移してきた転移者じゃ」

「それは俺達も聞いています」
マークが口を挟む、エリカから聞いたのだろう。
こいつらも現状を把握しようと努めている。

「そのラファエルじゃが、特殊な固有魔法を持っておってのう」

「固有魔法ですか?」
マークは興味があるみたいだ。
かなり喰い付いている。

「そうじゃ、催眠魔法じゃよ。精神力の低い者は簡単に洗脳に掛かってしまう。それに集団催眠魔法も使えるのじゃ」

「そんな魔法があるのですね」
ランドは不思議そうな顔をしていた。

「そしてその催眠魔法を駆使して、ラファエルはオーフェルン国とサファリス国の間柄を悪化させ、戦争に導いたのじゃ」
この発言に一同は戸惑っていた。
そもそも洗脳を知らないのだろう。
教えておかなければならないな。

「お前達、教えておくが洗脳は強力だ。おそらくお前達ならレジスト出来ると思うが、ゴブオクンあたりなら簡単に洗脳に掛かってしまうと思うぞ。洗脳とは簡単に言うと精神支配だからな」

「そんな事が可能なんですか?」

「無茶苦茶怖えじゃねえか」

「嘘でしょ?」
島野商事のメンバーにはインパクトが絶大みたいだ。
でも事実だからしょうがない。
エリカは分かっているのだろう。
ウンウンと頷いていた。
それにお前達は掛からないと思うよ。
お前達はそれなりに乗り越えて来て精神力は強いからね。
でも知らない事には脅威を感じるのだろう。
それは分からなくも無い。

「分からないのはその動機だ。これだろうなという心当たりはあるのだが・・・」
俺は外れたら恥ずかしいので今は言わないけどね。
外したらゼノンから指を指して笑われそうだ。

「ふっ、まあそこまでは言えんのじゃがな」
意味深な眼でゼノンが俺を見ていた。
言えんのかい!

「だと思ったよ、どうせあれだろ?創造神のじいさんから、守が解決するから放っておけ、これもあ奴にとっては修業じゃ。とでも言われたんだろう?」

「ホホホ!大正解じゃ!一言一句間違ってはおらんよ」
やっぱりか、それ以外理由はないからな。
ゼノンもドラゴンだ。
人の争いを止めることは出来る。
自分で行わなくとも、情報を与えることで、人を使って解決に向かわせることもできるのだから。
そうなると理由は一つだ。
俺に解決させる、要は俺に得を積ませようということだ。
実に分かり易い。
別にゼノンがやってくれてもいいのだよ?
俺は面倒臭がりだしね。
はあ・・・

「まあそういう事で、戦争の仕掛け人はイヤーズのラファエルという事なんだ、動機は不明ではあるが、その後イヤーズにてラファエルは宗教を広めた、そしてイヤーズの中心人物として長年に渡って暗躍しているということだ、更にラファエルはあろうことか、ポタリーさんを拉致して、ダイコクさんも拉致しようとしているんだ」

「でもパパ、ダイコクさんの拉致は失敗に終わったんだよね?」
クモマルから聞いていたのだろう、ギルは現状を分かっているみたいだ。

「そうだ、クロマルとシロマルに寄ってダイコクさんの拉致は阻止された、それも二度に渡ってだ」

「二回もって・・・しつこい野郎だ!それに神を拉致するなんて、何考えてんだ、そいつは?」
ロンメルが吐き捨てた。

「どうやらラファエルは神に成りたいみたいだ、まあ成れないだろうがな」

「そんな奴が神に成れる訳が無いよ!畜生!今直ぐイヤーズに行って、ぶん殴ってやりたいよ!」
ギルは憤っている。

「ギル、まあそう言うな、実はな、数ヶ月後にはそんな機会があるかもしれないぞ」

「え!どういう事?」
ギルは気色ばる。
実に鼻息が荒い。

「前回の襲撃から三ヶ月が経っている、おそらく後三ヶ月後にはラファエルの神殿は復興するだろう」

「復興するの?そんな・・・」
ギルは前回の襲撃は何だったのか?と項垂れそうになっていた。

「一度は復興に向けて動き出すはずだ、現にクモマルからそう報告を受けている。そこで、復興する寸前でもう一度襲撃するんだ。ギル、エリスの仇打ちをしてこい!」
ギルは一気に眼を輝かせる。

「やった!また暴れてやるよ!」
ギルは獰猛な笑みを浮かべていた。

「守さん、それはこういう事かい?守さん達は既に一度ラファエルの神殿に襲撃を行っていて神殿を破壊した、今は神殿の復興中で完成まじかにまた襲撃して神殿を壊してしまおうという事かい?」
エリスは恐る恐る尋ねていた。

「そうだ、それだけで終わるつもりは俺には無い、次回はラファエルの居城も襲撃するつもりだし、イヤーズの主要施設も破壊するつもりだ、これをする理由は何だと思う?お前達?」
全員が首を傾げている。

「それはな、ラファエルの心をバキバキに折ることだよ」
俺は不気味な顔をしていたのだろう。
ゼノン以外全員が引いていた。

「旦那、怖えよ」

「俺は島野さんには絶対に逆らわないと誓うよ」

「島野様はえげつないです」
え?やりすぎたか?

「いやいや、これぐらいは優しいお仕置きだろう、だってラファエルは神に喧嘩を売ったんだぞ?殴る蹴るで終わらせるなんて生易しい事では物足りないだろう?心をバキバキに折って、二度と逆らわないと魂に刻み込まないといけないだろう?これでも俺は手を抜いているつもりなんだがな?それにイヤーズのお偉いさん達にはいい加減気づけとヒントを与えないとな、武力でどうにかするのではないのだと・・・」
全員がそうなのか?と表情を改める。

「まあそう言われれば、納得ですが・・・これで手抜きなんですか?」

「やっぱり旦那だけは怒らしちゃあいけねえぜ、あのレケが本気でビビる訳だぜ」

「どうしたらそんな発想が出来るんだよ?」
おいおい、島野商事の一同よ。
俺を何だと思っているんだい?
人畜無害な半神ですよ?
人を悪者みたいに言わないでくれるかな?

「そう言うなお前達よ、娘を傷つけられた儂としては、守に手抜きなどしてくれるなと言いたいところじゃよ、じゃがこれで北半球の趨勢が決まるだろうて、まあ戦争とラファエルの話はこれぐらいでよかろう?もう飽きたわい、そろそろ本題に入ろうぞ」
ゼノンが話を修正する。
もうこの話をしたくない気持ちはよく分かる。

「だな、ラファエルの宗教の終焉はもはや決定事項だ、もう覆すことは出来ないだろう、次に移ろう」
全員を眺めると、皆が気持ちを入れ替えようと気持ちを新たにしていた。
顔を振ってリセットしようとする者もいた。

「さて、まずは俺からの提案だが、エアーズロックは引っ越してみないか?」
エリスとマルとコロが固まっている。
あんたは何を言ってるんだい?という表情をしていた。

「守さん・・・それはエアーズロックを見放せということなのかい?」
すまん、簡単に言い過ぎたね。

「エリス、そうではないよ。エアーズロック自体を引っ越ししてみないかということだよ」

「はい?」

「すいません、島野様、よく分かりません」

「引っ越すって・・・どうやって・・・」
エアーズロック組は訳が分からない様だ。

「俺の転移能力で島ごと南半球に引っ越さないかということだよ」

「「「「「ええーーー!!!」」」」」
ゼノンまで驚いていた。
あれ?そんなに可笑しなこと言ったか?
普通に出来ることなんだが?
それに北半球の趨勢は決したかに思えるが、イヤーズの残党が居るかもしれないからね。
エリスもこのまま北半球には居たくはないだろうし。
それにゼノンもそうしたくは無いだろう。
だったらいっその事、南半球に来ればいい。
という安直な考えから端を発しているだが。

「守よ・・・そんな事が可能なのか?」

「ああ、問題無いと思うが?」

「守さん・・・あんた出鱈目過ぎるだろうが!」
エリスが叫んでいた。

「パパ・・・あり得ないよ」
ギルまでそんな事を言い出した。

「ちょっと待ってくれ、全然可能だと思うぞ。それに俺はエアーズロックを使ってやりたいことが山程あるんだ」
島野商事一同は頭を抱えていた。
マルとコロは未だ固まっている。

「守よ・・・儂でもそんな事はこれまで聞いたことも見たこともないのじゃが?」

「そうなのか?」
だって創造神の爺さんはこの世界を造ったんだし、次期創造神に成るのなら、空に浮かぶ島の一つぐらいお引っ越しできなくてどうするのよ。
間違ってますかね?

「因みになんですが、島野さん・・・何処に引っ越しするつもりですか?」
マークが恐る恐る聞いてきた。

「ああ、それはこのサウナ島にだよ」

「「「「「ええーーー!!!」」」」」
どうにも話が進みづらいな。
そんなにおかしなこと言ってるか?
俺も常識が無くなってしまったということか?
まあいいだろう。
話を進めよう。

「いいかお前達。心して聞いて欲しい。俺の構想はこうだ、まずは俺の転移でエアーズロックをサウナ島上空に持ってくる。そして転移扉で繋いで行き来を可能にする。そしてエアーズロックにはレストランを造る。天使と悪魔達は料理と調理法に強い興味を持っていたからな、それも数店舗なんてケチなことはしない、レストラン街を造るんだ。言うならば天空のレストラン街だ。それだけでは無い。新たな娯楽としてスカイダイビングを始め、パラグライダーを造ることも考えたい。そしてこれが俺にとっての一番大事な部分なのだが、スーパー銭湯の別館を造るんだ。それも言うならば天空の温浴施設、天空のサウナだ!」

「「「「「おおおーーー!!!」」」」」

「凄い!天空のサウナ!」

「スカイダイビングってなんだ?」

「パラグライダーとは?」

「天空のレストラン?見て見たい」
各自思い思いの儘を口にしていた。

「凄い・・・」
議事録係のエリカまで声を漏らしていた。

俺は自慢げに全員の顔を見回す。
全員が興奮の表情を浮かべていた。
エリスに関しては興奮を通り越して涙を流しそうだった。

「どうかな諸君?」
俺は自慢げに全員を見渡した。

「パパ、最高!」
ギルは親指を立てていた。

「守さん・・・私には到底思いつかないよ」
エリスは今度は唖然としていた。

「守よ、見て見たいものじゃな」
ゼノンも興奮を隠していない。

「では満場一致と言う事でいいのかな?」

「「「「「はい!!!」」」」」
雪崩式になってしまった様だが、全員の一致を得られたようだ。
こうしてエアーズロックの未来に向けた草案は纏まった。
さてさて楽しくなって参りましたよ。
天空のサウナ。
絶対にやり遂げてみせる!
俺はワクワクが止まらなかった。