オリビアさんはエリスと旧交を深めていた。
オリビアさんは涙を流しながら話をしている。
エリスも涙目だ。
嬉しくなったオリビアさんが歌い出した。
案の定である。
オリビアさんの歌に天使と悪魔が躍り出す。
皆なノリノリだ。
エリスも踊り出した。
ギルも一緒になって踊っている。
ノンは相変わらず変てこダンスだ。
クモマルの踊りは・・・盆踊りか?
妙にぎこちない。
楽しい一時にエアーズロックは大いに盛り上がっていた。

アルコールと踊りに当てられた天使と悪魔の半数近くが倒れていた。
酔ってしまったのだろう。
慣れないアルコールに振り回されてしまったのか?
しかしその表情を見る限り幸せそうである。
地面に伏しつつも笑顔であった。
オリビアさんのライブが終わり、踊りつかれたエリスとギルが俺の隣にやってきた。
オリビアさんも駆け寄ってくる。
例の如くオリビアさんは俺の隣を死守していた。
既に俺の右腕はオリビアさんに占領されている。
それにしても改めて見て見ると、やはりギルにはエリスの面影がある。

「ギルはエリスに似ているな」

「そう?嬉しいな。えへへ、ママに似てるってさ。ママ」
ギルは喜んでいる。

「守さん、教えて欲しい事が山ほどあるのだけどいいかい?」
エリスは表情を改めていた。

「だろうな?何から聞きたい?答えていい事なら何でも答えてやるぞ」
エリスは俺の正面に腰かけて、ギルのワインを再び飲みだした。

「そうだな、まずはどうして守さんは坊やのパパになってくれたんだ?それにしても坊やのワイン旨っま!」
エリスはギルのワインが相当お気に入りみたいだ。
口を付ける度に旨いと騒いでいる。
それも我が子を喜ばせようとしているのではなく、本気でそう言っているのが分かる。

「どうしてって言われてもなあ、成るべくして成ったとしか言いようがない
な、こんな答えでいいか?」

「言いたいことは充分に伝わるよ、本当にありがとう。それに坊やも立派なドラゴンに育ったみたいだね。ワインまで作れるなんて、最高だよ!」

「へへ!」
今日のギルはよく照れている。

「それにさっきの坊やとレケのやり取りを見て思ったよ、坊やへの教育は最高のものだったんだなと、もし私が坊やを一から育てていたら、こうは成っていなかったかもしれないと思ったよ」

「否、エリス。それはそれで素晴らしいものになったと俺は思うぞ、母親の愛は絶大だからな。それにサウナ島にギルを置いて行くことになった経緯も俺達はオズから聞いている。それよりもこの百年よく耐え抜いたな。エリス、ギルに会えなくて辛かっただろう?」
エリスの視線が揺れる。
涙を我慢しているのが手に取る様に分かる。

「そんな・・・気遣ってくれてありがとう・・・てか、守さん。サウナ島って何?それにオズって誰?」
俺はずっこけそうになっていた。
ギルもオリビアさんも同様だった。

「サウナ島は僕達が暮らしていた島のことで、卵の僕を預けた中級神がオズさんだよ」

「そうか、そうだった。親父からそう聞いていたんだった」
聞いてたんかい!
俺達は更にずっこけそうになっていた。
エリスってもしかしてやらかし体質か?
可能性は高いな。
おっちょこちょいとも言う。
俺のおっちょこちょいとは質が違うけどね。

「そうだった、あの中級神にもお礼を言わないといけないねえ、それにそのサウナ島には一度行かないといけないねえ」
ん?何でだ?
まあいいか。

「お礼を言うならオズよりもゴンだな、百年に渡って卵のギルを守り続けたのはゴンだからな」

「そうだったのか、これは知らなかった。ゴンは何処にいる?」
ゴンは後片付けを行っていた。
綺麗好きなゴンは、ゴミを出さない様に常に気を回している。
今も食べ残し等を集めていた。
流石は生徒会長兼風紀委員長だな。

「ゴン!こっちに来てくれ、それにエル!レケ!ノン!クモマルお前達も来い!」
俺は一家を全員集めた。
エリスとの交流を深めさせたいと思ったからだ。

「はい!今行きます!」

「お待ちくださいですの!」

「おうよ!」

「伺います!」

「はいはーい」
一家が全員勢ぞろいした。

「皆、エリスに自己紹介は済んでいるな?」

「はい!」

「ですの!」

「終わってるよー」

「済んでおります!」

「終わってるぜ」
皆が回答する。

「せっかくだ、お前達も会話に加われよ。多分エリスはギルがどうやって育ったのか聞きたいんだと思うぞ」
エリスは膝を叩いた。

「かあー!守さんは分かってるねえ!まずはゴン。百年に渡って卵の坊やを守ってくれていたんだって?本当にありがとう。恩に着るよ!」
エリスはゴンに頭を下げていた。

「いえいえ、止めてください。私は訳も分からず役目を与えられて、それを全うしたに過ぎません」
ゴンらしい優等生発言だな。

「そう謙遜するなよゴン、実際お前は長きにわたってギルを見守ってきたことに変わりは無いんだ。ある意味お前が一番ギルと一緒にいたんだからな」

「それはそうですが・・・・」
ゴンは狼狽えている。

「そうだよ、僕はずっとゴン姉に守られていたんだよ。ゴン姉は僕にとっては一番頼りになる姉ちゃんなんだよ、ママ!」

「ギル・・・」
ゴンは涙目だ。

「ゴンや、良くやってくれた。儂も千里眼で時折見ておったから知っておるのじゃが。労いの言葉をかけねばと思っておったところじゃよ」
ゼノンが会話に交じってきた。
こいつはほんとに良い所を持っていこうとするな。
映画監督業をやって更に磨きが掛かってないか?
こいつは映画の原作も書けるのでは?
片手には当然の如くレケの日本酒が握られている。
ゴンは急に褒められて戸惑っていた。

「あ、いや、ありがとうございます!」
ゴンらしい反応だった。

「でもねママ、ゴン姉もそうだけど、ノン兄はヘラヘラしてるけど、無茶苦茶強いんだよ!まだ僕は一度も勝てて無いけど、僕はいつかノン兄を超えてみせるよ!」

「へえ?僕を超えるって?どうだかね?いつになることやら?」
ノンのマイペースは変わらない。

「へっ!ノン兄のその余裕がムカつくんだよ!」

「はいはい」
ノンは譲らない。
ギルのノン越えは何時になるのだろうか?
まあこればかりは何とも言えないな。

「そうなんだね、ノンはギルの壁になってくれているんだね。にしてもなんでフェンリルがいるんだい?もう滅んだ種族だって思っていたよ」
はあ?
ちょっと聞きづてならないな。

「エリス、それはどういうことなんだ?」

「守よ、それは儂から後日話をさせて貰おう」

「そうなのか?・・・」
ノンも珍しく動揺の表情を浮かべていた。

「すまぬな、ノン。お主にもちゃんと話はしようぞ」

「分かった・・・」
空気感が変わりそうになったが、浮かれたギルが続ける。

「でね、ママ。エル姉は僕が卵から孵ってからずっと一緒にいてくれたんだよ。エル姉は優しいんだよ。僕はエル姉が大好きなんだ!」
エルは照れていた。
ていうか大好きだを勘違いしていそうな雰囲気があった。
うーん、見なかったことにしよう。
うん、そうしよう。
血は繋がってないけど兄弟だよ?
複雑な気分。
なんで他人の恋愛模様は分かるのに、自分の恋愛模様は分からないのだろうか?
これは人生最大の謎だな。
俺は結局誰と結ばれるのだろうか?
まあ考えるだけ無駄だな。
分ろう筈もないしね。
いや方法はあるか、まあいいや。

「次は俺だな!」
満を持してレケが前に出てくる。

「レケはねえ、やっと僕の妹になったよ。ほんとしつこいんだから・・・」
おい!心の声が漏れてるぞギル!

「おいギル、俺には何か無いのかよ?頭が良いとか、カッコいいとかさ」

「はあ?カッコいいは未だしも頭が良いはあり得ないでしょ?」

「何だって?ギル!ちょっとは褒めてくれよ!」
これは絡み酒か?
レケは出来上がりつつあった。

「分かったよレケ、レケはさ、自由奔放であって、実のところ繊細な部分があるんだよ。それになにより魚の養殖と日本酒造りは凄い、実はさ僕のワイン造りはレケの影響なんだよ」

「そうなのか?」
レケは意外そうな表情を浮かべていた。

「へへ、こういう事を言うとレケが調子に乗るから言いたくは無かったけど、レケが本気で日本酒造りと向き合っているのを見て、僕もワインと向き合いたいと思ったんだ」

「そうだったのかよ、ギル・・・否、ギルの兄貴!見直したぜ!」

「調子の良い事で・・・」
俺は思わず声が漏れていた。

「まあそんな僕の妹だよ」
うんうんとエリスは頷いていた。
レケは嬉しいのだろう、ニコニコとしていた。

「次は私ですね、ギル兄さん」
クモマルが頷いていた。
なぜかクモマルは緊張の趣きだった。

「クモマルは見ての通り、糞真面目で几帳面で、面白みの無い弟さ」

「ええー!それは無いでしょう兄さん!」

「アハハ!正解!」

「ですの!」

「だね!」

「そんな姉さん達まで・・・」
クモマルは項垂れていた。

「冗談だってクモマル!」

「ガハハハ!」

「面白い!」

「クモマルはさ、まだ家族に成ってから間もないけど、紛れも無く島野一家の一員だよ。最近では一番活躍しているし、頼れる弟だよ。」

「兄さん・・・」
クモマルは泣きそうな顔をしていた。

「クモマル、泣くなよ!」
早速ノンにツッコまれていた。

「泣きませんよ!ノン兄さん!」
クモマルも返していた。

「エリス、こんな島野一家にギルは育てられたということだな」

「ああ・・・みんなありがとう。坊やは幸せな環境で育ったんだね」
エリスは再び涙を流していた。
今日は本当に涙の一日だ。
まだ終わりそうな気はしないけどさ。

エリスとの会話は続く。
まだまだ長い一日になりそうだ。

「結局の所、守さんは何者なんだい?そもそも坊やを卵から孵化させた時には人間だったんだろ?違うのかい?」
エリスは当然の疑問を口にしていた。

「そう、それは私も前から不思議だったのよ」
オリビアさんも追随する。
答えに困るな・・・答えていいのだろうか?
完全に俺の個人情報なのだが?

「守はのう、転移者なんじゃよ」
あっさりとゼノンが答える。

「それは知っているわよ」

「否、オリビア。守は只の転移者では無いのじゃよ」
なんでゼノンが答えてるんだ?
俺のことだよねえ?
まあいいか、楽だし。
ゼノン、解説は任せた!

「どういうことだい親父?」

「守はのう、創造神様の後継者としてこの世界に転移してきたのじゃよ」
あーあ、言っちゃった。

「ブフウ!」
オリビアさんがワインを噴き出していた。
てか、この発言のツケは俺に周って来るのでは?
やっぱ楽をするのはいけないのかな?

「おいおいゼノン、そもそも話していいのか?」

「構わぬと儂は思うのじゃがのう、もうそれを隠す段階では無かろうて」

「そうなのか?」

「じゃと儂は思うがのう?」
確かに俺の神様修業も大詰めに差し掛かっているとは感じている。
あまり素性を晒すのは控えたいのが本音だが、そうとはいかない段階に差し掛かっているのだろう。

「まあ、お前がそう言うのならそうなんだろうな」
ちょっと投げやりな気分だった。
どうとでもなるか?

「元々守は膨大な神力を持ってこの世界に転移してきたのじゃ、それにこやつの想像力は半端なく高い、あの創造神様が認めた想像力じゃからのう」
はあ?創造神の爺さんとどれだけ俺の事を共有してるんだ?
そんな初期の事すらもこいつは知っているのか?
聞いて無いんだけど?
ちゃんと教えておけよな爺さん!

「そうだったのね・・・」

「なるほどね」
二人が俺を見る目が変わった様に感じた。
ちょっと複雑な気分だった。

「私の想像を上回っていたわ、流石は守さん・・・」

「坊やのパパがねえ・・・そんな気がしたよ」
考え込むオリビアさんと眼が輝きだしたエリス。
エリスは何かを決心したかの様に感じたが、どうだろうか?

「ゼノン、どうやら俺には個人情報保護法は適用されないみたいだな?」

「なんじゃそれは?異世界の常識など対象外に決まっておろう」
簡単に言ってくれる。

「で、結局守さんはどういう存在なの?」
オリビアさんはここぞとばかりに追求する。
もう俺のことはよくないか?

「オリビア・・・お主分かっておろう?次の創造神様じゃよ」

「やっぱり・・・」

「そういうことか・・・」

「おい、ゼノン。まだ確定してないんだけど?」
俺にはこういうのが精一杯だった。
あくまで候補でしょうよ。
だよね?

「守よ、よく言うなお主、出鱈目な能力をどれだけ持っておると思っておるのじゃ、それに自分の周りをよく見て見よ、聖獣がこれだけ集まっておるし、中には魔物から聖獣に進化した者までおるのじゃぞ、そんな話は儂でも聞いたことがないぞ、お主はこの世界ではどれだけ奇想天外な者じゃと自覚はないのか?」

「奇想天外?・・・俺がそうなのか?」

「そうよ・・・」
オリビアさんに分かってないのねという顔をされてしまった。

「というより、パパは規格外なんだよね!」
ギルが意見を述べた。
なぜかギルは嬉しそうだった。
規格外って・・・そう言われてみればちょっとは自覚はあるのかな?
どうだろうか?
でも自分の事はよく分からないな。

「それに実際お主は南半球の全ての神を纏めておるし、北半球で出会った神達は既にお主の傘下みたいなものじゃろうが?」

「いやいやいや、傘下って・・・言い過ぎじゃねえか?」
ダイコクさんとポタリーさんを従えた覚えはありませんが?

「ダイコクにしても、ポタリーにしてもお主に一目置いておるし、ポタリーに関しては命を救われたと、お主の言う事は何でも聞くと言っておったのじゃが?」

「はあ?なんだそれ、俺はポタリーさんを救ったとは思ってねえよ!当たり前の事をしたまでだろうが?」

「そこじゃよ!そこ!あれほどの状況をあっさりと解決しておいて、それを当たり前と感じてしまう。それがギルの言う規格外じゃろうが!」
それはまあ・・・そうなんだが、俺一人でやった訳では無いし・・・
一家が居てこその事件解決なんだけどな・・・
特別な事ではないんだがな。

「まあ何れにしても、お主は次期創造神として充分な力を携えておる。後は・・・」

「それ以上は言わないでくれ!俺も流石に分かっている」

「ならいいのじゃが・・・」
ゼノンはしょうがないと諦めた表情をしていた。
俺には後、何が必要かなんてよく分かっている。
正直に言ってしまえば、敢えて踏み込んでいないだけなんだから。
本当に俺は創造神に成るべきか、自分の中で結論が出ていないのだ。
おそらくゼノンはそれを感じているからこそ、俺の背中を押そうとしたのだろう。
でもそれは俺にとってはありがた迷惑で、自分がこの先どうなるのかは自分で決めたい。
それにまだまだサウナ満喫生活は譲れない。
止める気はさらさら無いのだ。
まだまだ日本にも帰りたいし、おでんの湯にも通いたい。
サウナフレンズとの他愛もない会話もしたいし、全国のサウナ巡りもしてみたい。
まだまだ人としてやりたいことが沢山ある。

俺の勝手な想像かもしれないが、本当の神に成ってしまったら、それはそれで出来ることに制限があるのだと思う。
実際神様のルールがあるしね。
その先は自分の事は優先できなくなるのではないかと考えているからだ。
詰まる所俺は自分本位なのかもしれない。
自分や家族の楽しみを優先したいと思ってしまうのだ。
こればかりは変えられない。
いくら最高神に成ったとしても、性格を変えることは無理なのだから・・・
それに今が余りに幸せなんだ。
この幸せを手放したくは無い。

「坊やはとんでもない人に育てて貰ったんだね、私は嬉しいよ‼」
エリスが大声で騒ぎだした。

「エリス!煩い!」
オリビアさんが反応する。

「いいじゃないオリビア!こんな嬉しい事ないじゃないか?だって次期創造神様が坊やの育ての親なんだよ!最高神だよ!」

「まあ気持ちは分かるわよ、ギル君は実際良い子だしね。それに映画の主演を張れるだけの演技力を持っているしね」
そこなんだ・・・
もっとギルの性格とか品性とかを褒めてくださいよ。

「映画って何なんだい?」

「今度見せてあげる、いいでしょ?守さん」

「お好きにどうぞ、転移扉は置いて行くつもりだったから別にいいけど、どこに繋げるのかは決めておかないとな、ドラゴムでいいのか?ゼノン」
これが妥当だと俺は思っているが。

「そうじゃな、それが無難な判断じゃろうて」

「転移扉ってなんだい?もしかして転移出来る扉ってことなのかい?」
エリスは察しがいい様だ。

「そうだよママ、パパが作ってくれたんだ。この転移扉で南半球はどの街や国とも繋がってて一瞬で移動が可能なんだよ」

「かあー!守さん最高!やっとこの街から離れられるってことかい?」
この発言に天使と悪魔達が狼狽えた。
中には悲し気な顔をしている者もいた。
しまったとエリスが我に返る。
エリスは不味ったと狼狽えるが後の祭りだ。

「お!お前達勘違いしないでくれ!何もこの街が嫌いになった訳じゃあないんだ!この先もこの街にはしょっちゅう居るから安心してくれよ!」
何とか勘違いを正そうとエリスは必死になっていた。

「そうじゃお前達、安心せい!エリスは翼を取り戻したのじゃ、自由の身になったとは言っても、これまでの恩を忘れてなどおらんよ!」
ゼノンも堪らずフォローする。
ゼノンの一言に天使と悪魔達は安堵の表情を浮かべていた。

「勘違いさせる様なことを言ってすまなかったな、お前達・・・」
エリスは反省していた。
これはしょうがないだろうな。
だってエリスは百年に渡ってこのエアーズロックに監禁状態になっていた訳だからね。
偏に翼を失った事が原因であるのだが、北半球の現状では止むを終えなかったのだろう。
ダイコクさんでは無いのだが、神殺しなどという噂もあったのだから。
いくら人化したとはいえ、エリスは明らかに人とは思えない存在感と特徴を有している。
おそらくそういった事も踏まえてゼノンは、エリスをエアーズロックに住まわせたのだろう。
ゼノンにしてみれば、これ以上我が娘を傷つけられたくなかったに違いない。
気持ちはよく分かる。

「天使と悪魔の諸君!これからは君達もいつでもどこにでも行けるようになるんだ、それにこの世界にはたくさんの娯楽がある、大いに楽しんでくれ!」
俺は大見えを切ってみた。
ちょっと大げさだったかな?
俺なりのフォローなんだが・・・

「そうじゃぞ、お前達も一瞬にして南半球に行くことも可能になるのじゃぞ!」
ゼノンが補足する。

「嘘でしょ?」

「そんな・・・まさか・・・」

「あり得ない・・・」
天使と悪魔達は驚きを隠そうともしなかった。

「それにサウナ島にも行くことも出来るんだよ!」
ギルは誇らしげだ。

「サウナ島にはスーパー銭湯や、サウナビレッジなんかもあるし、漫画喫茶やレストランもあるんだよ、キャンプ場もあるよ、楽しいよ!」

「スーパー銭湯ってなんだ?」

「漫画喫茶とは?」

「サウナビレッジって?」
天使と悪魔達の頭の上に?が並んでいる。
でしょうね。

「ギルよ、いきなりそんな事を言われても分からんじゃろうが、まあ良い、明日にでも行かせて貰うとしようかのう、良いじゃろう?守よ」
ゼノンよ、何を勝手な事を言ってくれてるんだい?
先に俺に一言あってからでしょうよ、ここは。

「はあ・・・分かったよ。でもタダでは行けないぞ、こいつ等だけ特別とはいかないぞ」

「分かっておる、そこは儂とお主の折半でどうじゃ?」
おいおいゼノン、随分と大きく出たな。
確かに映画の収入と、先日また剥がれた鱗をゼノンは売っていたから懐は温かいのだろう。
いくらで買い取ったのかゴンガスの親父さんは俺に教えてくれなかった。
多分相当な値段を払ったのだろう。
それぐらい親父さんも喉から手が出る程ドラゴンの鱗が欲しかったみたいだ。
あのお金に執着している親父さんが大枚を叩くなんてな。
まあいいか。

「しょうがないなあ、今回だけだぞ」

「やったね!皆!明日はサウナ島に旅行だよ!」
ギルがいつになく浮かれている。

「そんな旅行だなんて・・・」

「幸せの予感」

「これは一大事だ」
何故か寝ていた天使と悪魔達も起き出して興奮していた。
何だこれ?
どんなセンサーしてんだこいつら?
どうやら小旅行決定の様だ。
やれやれだ。