ドラゴムに『エアーズロック』に向かうメンバーが集結していた。
島野一家全員だ、今回はレケも同行している。
因みにエクスはお留守番。
入島受付を空ける訳にはいかない。
エクスには今度何か奢ってやろうと思う。
何でも欲し物を言ってくれ、俺に出来ることなら何でもしてやろう。
すまんなエクス、許してくれよ。
まあ、そもそもエクスはあまり旅には興味は無いみたいだ。
今は親父さんと酒を飲むことに喜びを感じてるみたいだしね。
初めての旅の同行にレケは何時になく気合が入っている。
本当はこいつも旅に同行したかったみたいだ。
テンション高く旅を楽しんでいる。
そしてゼノンとオリビアさんだ。
オリビアさんは既に泣きそうだ。
「オリビアさん・・・早すぎますって・・・」
思わず声を掛けてしまった。
だって何が待っているのかは行ってみないと分からないでしょ?
オリビアさんは勝手にエリスとの感動の再会を描いているみたいだが、実際に行ってみないと、エリスがどういう状況にあるのかは分からない。
俺はいつも以上に気を引き締めていた。
だってこういう時程事件はあるものでしょうよ。
ある意味フラグが立っているのだから。
俺とオリビアさんはゼノンの背中に乗っている。
というより、オリビアさんは俺の背中に捕まっており、ゼノンの背に乗るというより俺に捕まっているだけだった。
危ないので止めて下さい。
ちゃんとゼノンに捕まってください。
オリビアさんは何度言ってもいう事を聞いてくれなかったので、しょうがないので俺は『念動』でオリビアさんを俺背中に張り付けておいた。
でもなぜかオリビアさんは嬉しそうだ。
レケとクモマルはギルの背に乗っており、ゴンはエルに跨っている。
ノンはソロで飛んでいた。
旅の先導はゼノンが行っていた。
空の旅は快調だった。
『エアーズロック』への道順はゼノンから聞いてはいたが、先導してくれるのなら、それはそれで助かる。
それにしてもエンシェントドラゴンの背中はデカい。
そして安定感が半端ない。
ギルの背中も大概デカいが、ゼノンのそれは全然違う。
エンシェントドラゴンの背中は雄大だ。
ノンではないが、昼寝が出来そうだ。
「守よ、儂の背はどうじゃ?」
「ああ、大きな背中だな、安心していられるぞ。なんなら昼寝が出来そうだ」
俺に褒められてゼノンは喜んでいた。
現にオリビアさんは俺の背中で昼寝している。
「そうか、ナハハハ!」
「ゼノン、どれぐらい掛かりそうなんだ?」
「そうじゃな、半日も掛からんとは思うがのう?」
「そうか、途中で休憩を挟むか?」
「では後一時間も飛んだら休憩としようかのう、期待してもよいのか?」
「はあ?飯を作れっていうことか?」
「それ以外に何がある?」
やっぱりか、だと思ったよ。
「そうか・・・じゃあせっかくだからあそこの川で魚でも捕まえてみるか?」
目の前に雄大な河川が広がっていた。
一級河川ぐらい川幅が広い。
「それは面白そうじゃな」
「だろ?」
「では早速向かうとしよう」
ゼノンは降下して河川を目指した。
他の者達も後に続く。
川の水はとても澄んでいた。
日本ではこうはいかない。
川底まで見透せるほどの透明度だ。
俺は浮遊し、上から川の中を眺めて見た。
いるいる、これはいいねー。
川魚が優雅に泳いでいるのが見て取れた。
これは楽勝ですね。
「皆、ちょっと下がってくれるか?」
「ん?なんだ?」
レケは訳が分からず戸惑っていた。
「いいから下がれレケ、怪我するぞ!」
「お!おう!」
何かを察したのか、レケは川から一目散に離れる。
「ノン、加減を間違えるなよ」
「分かったー!」
ノンが一人前に出てくると、雷魔法を放った。
ドドドドーーーーンンン‼‼‼‼‼
一拍置いて川面に川魚が浮かんできた。
それを俺は『念動』で集める。
昔、海でこれをやった時には感電したからね。
二度も同じ間違いはしませんよ。
レケとオリビアさんが唖然としていた。
そしてゼノンには大うけしていた。
「ナハハハ!これは愉快!」
腹を抱えて笑っていた。
「ちょっとボス!なんちゅう漁をしてんだよ!こんなの見たこともねえよ!ノンもやり過ぎじゃねえか!」
「守さん・・・驚きましたわ・・・・」
他の一家は平然としている。
まあこんなもんでしょと言いたげだ。
こいつらにとってはいつもの光景だ。
何か問題でも?
俺は適当に木の枝から串を何本も作っていく。
それをギルとエルに手渡し、獲れた魚を串に刺していく。
腸を採って、火を焚いて、焼き魚を作っていく。
獲れた魚はニジマス、アユ、イワナ、鮭そして嬉しい事に鰻もいた。
鰻に関しては、後日別で調理して食べようと皆に説明した。
「それは期待してよいという事じゃな?」
「ああ、絶品料理を食わせてやるよ」
ニヤリと笑うゼノン。
こいつはほんとに食いしん坊だな。
そしてエリスにお土産になるかもと、大量に川魚を『収納』に保管した。
ギルとエルが焼き魚をせっせと焼いている。
俺は川魚の姿揚げを作っていく。
魚の骨が苦手なノンも、これならば丸ごと食べられるからいいだろう。
まったく、贅沢な奴だ。
他にもいろいろと作ろうかとも考えたが、手の込んだ料理は出来そうもない。
今日はこれで勘弁して貰おう。
でもゼノンはご機嫌だった。
「川魚がこんなに上手いとはのう、やはりこの塩が良い仕事をしておるのじゃな?」
サウナ島産の藻塩をふんだんに使っているから味に深みが出ている。
大食いで、今では食通のゼノンも唸る出来栄えだったようだ。
「ボス!旨えな!川魚を俺は見なおしたぜ!」
レケは川での漁はほとんど経験がないからか、川にも興味を抱いたみたいだ。
「なあボス、川魚も養殖は出来るのか?」
やはりそっちに興味が沸いたか。
「ああ、出来るぞ。ニジマスや鮭なんかは可能なはずだ。何ならトライしてみるか?」
「本当か?やったぜ!今度は川魚か、親方に自慢してやるぜ!」
レケの養殖愛は本物だ。
小躍りして喜んでいる。
ギルがこっそりと耳打ちしてきた。
「パパ、レケってさあ、地味に凄いよね」
地味にって・・・まあな・・・
「そうだな、やりたい事がある奴が一番輝いているからな」
これを聞こえてしまったレケがギルに食いつく、
「おい!ギル!聞こえたぞ!地味にって何だよ?」
「いや、レケってさ、豪快なようで繊細っていうの?そういうとこあるじゃない?」
「はん!ギル、お姉さんを舐めてんじゃねえよ!」
レケがギルに食って掛かる。
「はあ?誰が姉さんだよ!僕の方が一家では先輩なんだけど?」
ギルは癪に障ったみたいだ。
「止めて下さい!ギル兄さん、レケ姉さん!それを言うなら多分私が一番長生きしていますよ!」
「「はあ?‼」」
クモマルの制止に勢いを無くすギルとレケ。
「クモマル・・・お前いくつなんだよ?・・・」
「クモマル・・・答えてよ?・・・」
胸を張ってクモマルが答える。
何故かドヤ顔だ。
「私は今年で百五十歳になります!」
「「「「「はあ?‼」」」」」
全員が驚いていた。
ていうか俺よりも年上じゃん。
それを言うならゴンもか・・・
俺にとってはどうでもいいことかな。
年齢なんて関係ない。
こいつらは全員、俺の可愛い息子と娘だ。
「ちょっと待った!クモマルは絶対に僕の弟に決まっているよ!」
ギルは譲らない。
「はあ?ギル兄さんそれはないでしょう?さっきも言いましたが、年齢的には私が一番年上な訳で」
兄さんって呼んでるじゃない、その時点で弟確定でしょ?
「駄目!クモマルは一番下!」
「だな」
「そうですの」
「間違いない!」
全員に却下されるクモマル。
クモマルは項垂れていた。
「そんなー」
やはり弄られ役のクモマルは一番下に決定のようだ。
「この際だからはっきり言うけど、僕が一番上だからね!」
ノンが宣言した。
それは気に入らないとゴンが立ち上がる。
「はあ?ふざけるなノン!一番上は私でしょ!」
ゴンがツッコミを入れていた。
「何でさ?僕が一番主と一緒に居るんだから僕だよ!」
「でも私の方が聖獣として長いんですけど?」
ゴンも譲らない。
にしてもどうでもいい喧嘩だな。
やれやれだ。
「だから?そんな事は知らないよ」
一笑に付すノン。
「私もはっきり言わせて貰うわよ、私の方がこの世界では先輩なんだからね。主と一緒の期間はノンの方が長いけど、異世界のノンは犬だったって話じゃない?そんなのノーカウントよ!」
「でもこの世界に来てから僕は聖獣に成ってたし、聖獣に成ってから主と一緒に居る時間が長いのは僕なんだからね!」
確かにそうだ。
これはノンに軍配が上がったか?
「グヌヌヌ!」
「何だゴン?やる気か!」
おいおいおい!流石にこれは止めないとな。
ていうか、なんでこんなにもヒートアップしてんだこいつら?
「ちょっと待った‼」
俺の制止にビクリッ!と背を正す一同。
「お前達‼いい加減にしろ‼」
ここは一喝しないとね。
「・・・」
押し黙る一同。
俺の一喝にたじろいでいる。
「あのなあ?そんなに拘る必要があるのか?お前達は家族だろうが?仲良くやってくれよな!」
「でも・・・」
まだ拘るノン。
「でもってなんだ?ノン!お前の言いたいことは分かる。そしてゴン!お前の言いたいことも分かる」
「「うん!」」
「だからこうしよう!長男はノン、長女はゴン。次男はギル、次女はエル。三男はクモマルで、三女はレケだ」
一切喧嘩の本質には踏み込んでいない。
「「「「「おおー‼‼‼」」」」」
何がおおーだよ!
いい加減にせい!
てかこんな事で誤魔化せれるんだ。
こいつら大丈夫か?
「やっぱそうだよね?それが正解だよ!」
「だね、それが良いと思う」
「ですの、それが良いですの」
「ほら!クモマルは僕の弟なんだよ」
「下剋上失敗!」
「俺って三女なの?・・・」
各自思う処はあるみたいだが、いい加減不毛な兄弟喧嘩は終わってください。
その様子を万遍の笑みでゼノンが眺めていた。
この野郎・・・楽しんでやがるな?くそう!巻き込み様がない。
否、祖父という体で・・・それは無理があるな・・・
オリビアさんは無視して川魚に夢中になっていた。
相当口にあったみたいだ。
一心不乱に食べていた。
にしても何だったんだ一体・・・
久しぶりにこいつらの兄弟喧嘩を見たな。
そんなに拘ることかね?
その割には簡単に纏まったよね。
ていうか俺に騙された?
「お前達もう食べないのか?」
「駄目、まだ食べる!」
「僕も!」
やれやれだな。
その後も川魚料理は続いた。
思いの外好評だった。
空の旅を再開した。
納得がいかないのか、未だにレケがブツブツ言っている。
「もう!レケしつこい!」
ギルが相手をしている。
しなくていいのに。
「納得できっこないだろ?」
レケは俺に誤魔化されたのは分かっているが、物言いをつけられないみたいだ。
「でもどう考えてもレケはエル姉やゴン姉よりも妹だよ」
それはそうだろうな、ゴンとエルには相当面倒を見て貰った過去があるからな。
特にゴンには毎朝迷惑をかけていたからね。
今では起きれる様になったみたいだが、たまにやらかすらしいし。
深酒をするからでしょうね。
レケは変わらんな。
「まあ・・・それはそうか・・・でもギルよりはお姉ちゃんだろ?」
なんでそう思うんだろう?
分からなくは無いのだが・・・
正直どっちでもいいよ。
「もう、蒸し返さないでよ、いい加減パパに怒られるよ?」
「・・・分かった」
レケはギルの背で剥れている。
どうやら俺に怒られるがキラーワードみたいだ。
確かにレケは俺には何が有っても逆らわない。
どうしてそう思うのか俺には分からないのだが・・・
もしかしたら、ゴンズさんに何か言われたのか?
どうでもいいか。
畏まっている訳では無いからね。
まあ俺がストッパーになっているということなんだろう。
「守よ、こやつらは仲が良いのか悪いのか?理解に苦しむのう」
ゼノンは呆れていた。
「ほんとだな、でもこいつらが揉めることなんてよっぽど無いんだけどな」
俺には兄弟が居ないからよく分からんが、兄弟なんてこんなもんかもしれないな。
どうでもいい事でしょっちゅう喧嘩するみたいな?
俺の知らないところで喧嘩している気配はあるしね。
「そうか・・・喧嘩するほど何とやらか?」
「どうだろな?」
言葉の意味がちょっと違う様な・・・
「そう言えば『エアーズロック』じゃがな、前にも述べたが空に浮いておる島なのじゃがのう」
「そうだったな」
「その時の風向きで多少場所が変わる時があるのじゃよ」
「なんだそれ?」
島が風で流されるってことなのか?
そんなに軽いのか?
「とは言っても大きくはその場所は変わらぬが、季節風が強いと数キロは位置を変えるのじゃ、その島の地盤は浮遊石と呼ばれる石で出来ておるのじゃ、質量は極めて軽く、フワフワと浮かんでおるのじゃよ」
「そんな石があるんだな、まるでファンタジーだな」
「ファンタジーとな?」
「いや、いい。気にしないでくれ、それで?」
ファンタジーの説明はめんどくさい。
する気はありませんよ。
面倒臭いのでね。
「あの戦争で傷ついたエリスをアースラが儂の元に転移で運んでくれたのじゃがな、守も知ってのとおり、リザードマン達は儂らドラゴンに従順で甲斐甲斐しく世話を焼いてはくれるのじゃが、今とは違って知能が低くてのう、とても怪我の治療を施せる状況では無かったのじゃよ、それで儂がエリスを『エアーズロック』に運んだのじゃよ」
「そうだったのか」
ゼノンは頷く。
「『エアーズロック』は天使と悪魔が住んでおる島でのう、天使も悪魔もよく世話を焼いてくれる奴らでのう、治療にはここしかないと思ったのじゃよ」
「悪魔?」
どうして悪魔?
悪い奴等なのか?
「そうじゃ、悪魔族じゃよ、知らんのか?」
「知らないなあ、てか知る訳ねえだろ!」
「そうか・・・南半球にはおらなんだか」
千里眼で見て無いのかよ?
ちゃんと見てて下さいな!
「いないなあ」
「あ奴らは天使族と一緒で小さい奴らでのう、快い性格の奴らじゃ、たまに悪戯をするのが頂けんがのう」
悪い奴等では無さそうだ。
「天使と悪魔って、天敵じゃないのか?」
俺にはそう感じるのですが?
「ん?仲良くやっておる様に儂には見えるのじゃが?」
「そうなのか・・・」
天使と悪魔が仲良くしてるって・・・想像がつかないな。
固定概念はよくない、改めよう。
にしても悪魔って・・・
まあいいや。
「こ奴らは、リザードマンよりは知能が高いでのう、少しは益しな治療が出来るじゃろうと思っておったのじゃが・・・」
「おい!その間は何なんだよ?」
「駄目じゃった・・・」
はあ?何だそれ?
「駄目ってどういうことなんだ?」
「傷は確かに癒えた・・・しかしのう・・・大事な部分の治療は出来なんだのじゃ・・・」
「大事な部分ってなんだよ?」
「それは・・・着けば分るじゃろうて・・・」
何で歯切れが悪いんだ?
「今は教えられないって事なのか?」
「そうでは無いが、見て貰った方が早いと思ってのう・・・」
「そうか・・・」
今はこれ以上の追求は野暮みたいだ。
見れば分るのなら見ればいいのだろう。
「それと『エアーズロック』は下界とは距離をとっておる島なんじゃよ」
「ん?それは空に浮かんでいるからか?」
距離的な問題か?
「それもあるが、あそこの天使と悪魔はあまり人間が好きでは無いのじゃよ」
「過去に何かあったということか?」
だとしたらちょっと鬱陶しいことになるかも・・・
「その通りじゃよ・・・儚いのう」
何が儚いのうだよ、そういう話はもっと前に教えておけよ。
何かあるのが見え見えなんだけどな。
どうせひと騒動あるに決まっている。
これも会えば分るってことなんだろ?
そろそろ半日になる、いい加減着いてもおかしくはないだろう。
現に目の前に考えられない事に、空中に浮かぶ島が視界に入ってきていた。
これは異世界ならではだな。
壮観な景色だ。
「パパ!見て!見えてきたよ!」
ギルが興奮している。
「ああ!見えてるぞ!遂に来たな!」
「うん!」
そう返事をするとギルは堪えきれなかったのか、一目散に『エアーズロック』に飛び立っていった。
「おい!ギル!ちょっと待て!」
どうやら俺の声も届いていないみたいだ。
「守よ、飛ばすぞ!」
「そうしてくれ!」
ゼノンが全速力でギルを追いかけた。
放されては不味いと、ノンとエルも速度を上げた。
遂に『エアーズロック』が目の前に迫ってきていた。
やっとたどり着いた。
念願の『エアーズロック』だ
興奮するギルを責められる訳がない。
俺も興奮してきているのが分かる。
顔が綻んでしょうがない。
エリス・・・遂に会えるな。
この時を俺は待っていたぞ‼
島野一家全員だ、今回はレケも同行している。
因みにエクスはお留守番。
入島受付を空ける訳にはいかない。
エクスには今度何か奢ってやろうと思う。
何でも欲し物を言ってくれ、俺に出来ることなら何でもしてやろう。
すまんなエクス、許してくれよ。
まあ、そもそもエクスはあまり旅には興味は無いみたいだ。
今は親父さんと酒を飲むことに喜びを感じてるみたいだしね。
初めての旅の同行にレケは何時になく気合が入っている。
本当はこいつも旅に同行したかったみたいだ。
テンション高く旅を楽しんでいる。
そしてゼノンとオリビアさんだ。
オリビアさんは既に泣きそうだ。
「オリビアさん・・・早すぎますって・・・」
思わず声を掛けてしまった。
だって何が待っているのかは行ってみないと分からないでしょ?
オリビアさんは勝手にエリスとの感動の再会を描いているみたいだが、実際に行ってみないと、エリスがどういう状況にあるのかは分からない。
俺はいつも以上に気を引き締めていた。
だってこういう時程事件はあるものでしょうよ。
ある意味フラグが立っているのだから。
俺とオリビアさんはゼノンの背中に乗っている。
というより、オリビアさんは俺の背中に捕まっており、ゼノンの背に乗るというより俺に捕まっているだけだった。
危ないので止めて下さい。
ちゃんとゼノンに捕まってください。
オリビアさんは何度言ってもいう事を聞いてくれなかったので、しょうがないので俺は『念動』でオリビアさんを俺背中に張り付けておいた。
でもなぜかオリビアさんは嬉しそうだ。
レケとクモマルはギルの背に乗っており、ゴンはエルに跨っている。
ノンはソロで飛んでいた。
旅の先導はゼノンが行っていた。
空の旅は快調だった。
『エアーズロック』への道順はゼノンから聞いてはいたが、先導してくれるのなら、それはそれで助かる。
それにしてもエンシェントドラゴンの背中はデカい。
そして安定感が半端ない。
ギルの背中も大概デカいが、ゼノンのそれは全然違う。
エンシェントドラゴンの背中は雄大だ。
ノンではないが、昼寝が出来そうだ。
「守よ、儂の背はどうじゃ?」
「ああ、大きな背中だな、安心していられるぞ。なんなら昼寝が出来そうだ」
俺に褒められてゼノンは喜んでいた。
現にオリビアさんは俺の背中で昼寝している。
「そうか、ナハハハ!」
「ゼノン、どれぐらい掛かりそうなんだ?」
「そうじゃな、半日も掛からんとは思うがのう?」
「そうか、途中で休憩を挟むか?」
「では後一時間も飛んだら休憩としようかのう、期待してもよいのか?」
「はあ?飯を作れっていうことか?」
「それ以外に何がある?」
やっぱりか、だと思ったよ。
「そうか・・・じゃあせっかくだからあそこの川で魚でも捕まえてみるか?」
目の前に雄大な河川が広がっていた。
一級河川ぐらい川幅が広い。
「それは面白そうじゃな」
「だろ?」
「では早速向かうとしよう」
ゼノンは降下して河川を目指した。
他の者達も後に続く。
川の水はとても澄んでいた。
日本ではこうはいかない。
川底まで見透せるほどの透明度だ。
俺は浮遊し、上から川の中を眺めて見た。
いるいる、これはいいねー。
川魚が優雅に泳いでいるのが見て取れた。
これは楽勝ですね。
「皆、ちょっと下がってくれるか?」
「ん?なんだ?」
レケは訳が分からず戸惑っていた。
「いいから下がれレケ、怪我するぞ!」
「お!おう!」
何かを察したのか、レケは川から一目散に離れる。
「ノン、加減を間違えるなよ」
「分かったー!」
ノンが一人前に出てくると、雷魔法を放った。
ドドドドーーーーンンン‼‼‼‼‼
一拍置いて川面に川魚が浮かんできた。
それを俺は『念動』で集める。
昔、海でこれをやった時には感電したからね。
二度も同じ間違いはしませんよ。
レケとオリビアさんが唖然としていた。
そしてゼノンには大うけしていた。
「ナハハハ!これは愉快!」
腹を抱えて笑っていた。
「ちょっとボス!なんちゅう漁をしてんだよ!こんなの見たこともねえよ!ノンもやり過ぎじゃねえか!」
「守さん・・・驚きましたわ・・・・」
他の一家は平然としている。
まあこんなもんでしょと言いたげだ。
こいつらにとってはいつもの光景だ。
何か問題でも?
俺は適当に木の枝から串を何本も作っていく。
それをギルとエルに手渡し、獲れた魚を串に刺していく。
腸を採って、火を焚いて、焼き魚を作っていく。
獲れた魚はニジマス、アユ、イワナ、鮭そして嬉しい事に鰻もいた。
鰻に関しては、後日別で調理して食べようと皆に説明した。
「それは期待してよいという事じゃな?」
「ああ、絶品料理を食わせてやるよ」
ニヤリと笑うゼノン。
こいつはほんとに食いしん坊だな。
そしてエリスにお土産になるかもと、大量に川魚を『収納』に保管した。
ギルとエルが焼き魚をせっせと焼いている。
俺は川魚の姿揚げを作っていく。
魚の骨が苦手なノンも、これならば丸ごと食べられるからいいだろう。
まったく、贅沢な奴だ。
他にもいろいろと作ろうかとも考えたが、手の込んだ料理は出来そうもない。
今日はこれで勘弁して貰おう。
でもゼノンはご機嫌だった。
「川魚がこんなに上手いとはのう、やはりこの塩が良い仕事をしておるのじゃな?」
サウナ島産の藻塩をふんだんに使っているから味に深みが出ている。
大食いで、今では食通のゼノンも唸る出来栄えだったようだ。
「ボス!旨えな!川魚を俺は見なおしたぜ!」
レケは川での漁はほとんど経験がないからか、川にも興味を抱いたみたいだ。
「なあボス、川魚も養殖は出来るのか?」
やはりそっちに興味が沸いたか。
「ああ、出来るぞ。ニジマスや鮭なんかは可能なはずだ。何ならトライしてみるか?」
「本当か?やったぜ!今度は川魚か、親方に自慢してやるぜ!」
レケの養殖愛は本物だ。
小躍りして喜んでいる。
ギルがこっそりと耳打ちしてきた。
「パパ、レケってさあ、地味に凄いよね」
地味にって・・・まあな・・・
「そうだな、やりたい事がある奴が一番輝いているからな」
これを聞こえてしまったレケがギルに食いつく、
「おい!ギル!聞こえたぞ!地味にって何だよ?」
「いや、レケってさ、豪快なようで繊細っていうの?そういうとこあるじゃない?」
「はん!ギル、お姉さんを舐めてんじゃねえよ!」
レケがギルに食って掛かる。
「はあ?誰が姉さんだよ!僕の方が一家では先輩なんだけど?」
ギルは癪に障ったみたいだ。
「止めて下さい!ギル兄さん、レケ姉さん!それを言うなら多分私が一番長生きしていますよ!」
「「はあ?‼」」
クモマルの制止に勢いを無くすギルとレケ。
「クモマル・・・お前いくつなんだよ?・・・」
「クモマル・・・答えてよ?・・・」
胸を張ってクモマルが答える。
何故かドヤ顔だ。
「私は今年で百五十歳になります!」
「「「「「はあ?‼」」」」」
全員が驚いていた。
ていうか俺よりも年上じゃん。
それを言うならゴンもか・・・
俺にとってはどうでもいいことかな。
年齢なんて関係ない。
こいつらは全員、俺の可愛い息子と娘だ。
「ちょっと待った!クモマルは絶対に僕の弟に決まっているよ!」
ギルは譲らない。
「はあ?ギル兄さんそれはないでしょう?さっきも言いましたが、年齢的には私が一番年上な訳で」
兄さんって呼んでるじゃない、その時点で弟確定でしょ?
「駄目!クモマルは一番下!」
「だな」
「そうですの」
「間違いない!」
全員に却下されるクモマル。
クモマルは項垂れていた。
「そんなー」
やはり弄られ役のクモマルは一番下に決定のようだ。
「この際だからはっきり言うけど、僕が一番上だからね!」
ノンが宣言した。
それは気に入らないとゴンが立ち上がる。
「はあ?ふざけるなノン!一番上は私でしょ!」
ゴンがツッコミを入れていた。
「何でさ?僕が一番主と一緒に居るんだから僕だよ!」
「でも私の方が聖獣として長いんですけど?」
ゴンも譲らない。
にしてもどうでもいい喧嘩だな。
やれやれだ。
「だから?そんな事は知らないよ」
一笑に付すノン。
「私もはっきり言わせて貰うわよ、私の方がこの世界では先輩なんだからね。主と一緒の期間はノンの方が長いけど、異世界のノンは犬だったって話じゃない?そんなのノーカウントよ!」
「でもこの世界に来てから僕は聖獣に成ってたし、聖獣に成ってから主と一緒に居る時間が長いのは僕なんだからね!」
確かにそうだ。
これはノンに軍配が上がったか?
「グヌヌヌ!」
「何だゴン?やる気か!」
おいおいおい!流石にこれは止めないとな。
ていうか、なんでこんなにもヒートアップしてんだこいつら?
「ちょっと待った‼」
俺の制止にビクリッ!と背を正す一同。
「お前達‼いい加減にしろ‼」
ここは一喝しないとね。
「・・・」
押し黙る一同。
俺の一喝にたじろいでいる。
「あのなあ?そんなに拘る必要があるのか?お前達は家族だろうが?仲良くやってくれよな!」
「でも・・・」
まだ拘るノン。
「でもってなんだ?ノン!お前の言いたいことは分かる。そしてゴン!お前の言いたいことも分かる」
「「うん!」」
「だからこうしよう!長男はノン、長女はゴン。次男はギル、次女はエル。三男はクモマルで、三女はレケだ」
一切喧嘩の本質には踏み込んでいない。
「「「「「おおー‼‼‼」」」」」
何がおおーだよ!
いい加減にせい!
てかこんな事で誤魔化せれるんだ。
こいつら大丈夫か?
「やっぱそうだよね?それが正解だよ!」
「だね、それが良いと思う」
「ですの、それが良いですの」
「ほら!クモマルは僕の弟なんだよ」
「下剋上失敗!」
「俺って三女なの?・・・」
各自思う処はあるみたいだが、いい加減不毛な兄弟喧嘩は終わってください。
その様子を万遍の笑みでゼノンが眺めていた。
この野郎・・・楽しんでやがるな?くそう!巻き込み様がない。
否、祖父という体で・・・それは無理があるな・・・
オリビアさんは無視して川魚に夢中になっていた。
相当口にあったみたいだ。
一心不乱に食べていた。
にしても何だったんだ一体・・・
久しぶりにこいつらの兄弟喧嘩を見たな。
そんなに拘ることかね?
その割には簡単に纏まったよね。
ていうか俺に騙された?
「お前達もう食べないのか?」
「駄目、まだ食べる!」
「僕も!」
やれやれだな。
その後も川魚料理は続いた。
思いの外好評だった。
空の旅を再開した。
納得がいかないのか、未だにレケがブツブツ言っている。
「もう!レケしつこい!」
ギルが相手をしている。
しなくていいのに。
「納得できっこないだろ?」
レケは俺に誤魔化されたのは分かっているが、物言いをつけられないみたいだ。
「でもどう考えてもレケはエル姉やゴン姉よりも妹だよ」
それはそうだろうな、ゴンとエルには相当面倒を見て貰った過去があるからな。
特にゴンには毎朝迷惑をかけていたからね。
今では起きれる様になったみたいだが、たまにやらかすらしいし。
深酒をするからでしょうね。
レケは変わらんな。
「まあ・・・それはそうか・・・でもギルよりはお姉ちゃんだろ?」
なんでそう思うんだろう?
分からなくは無いのだが・・・
正直どっちでもいいよ。
「もう、蒸し返さないでよ、いい加減パパに怒られるよ?」
「・・・分かった」
レケはギルの背で剥れている。
どうやら俺に怒られるがキラーワードみたいだ。
確かにレケは俺には何が有っても逆らわない。
どうしてそう思うのか俺には分からないのだが・・・
もしかしたら、ゴンズさんに何か言われたのか?
どうでもいいか。
畏まっている訳では無いからね。
まあ俺がストッパーになっているということなんだろう。
「守よ、こやつらは仲が良いのか悪いのか?理解に苦しむのう」
ゼノンは呆れていた。
「ほんとだな、でもこいつらが揉めることなんてよっぽど無いんだけどな」
俺には兄弟が居ないからよく分からんが、兄弟なんてこんなもんかもしれないな。
どうでもいい事でしょっちゅう喧嘩するみたいな?
俺の知らないところで喧嘩している気配はあるしね。
「そうか・・・喧嘩するほど何とやらか?」
「どうだろな?」
言葉の意味がちょっと違う様な・・・
「そう言えば『エアーズロック』じゃがな、前にも述べたが空に浮いておる島なのじゃがのう」
「そうだったな」
「その時の風向きで多少場所が変わる時があるのじゃよ」
「なんだそれ?」
島が風で流されるってことなのか?
そんなに軽いのか?
「とは言っても大きくはその場所は変わらぬが、季節風が強いと数キロは位置を変えるのじゃ、その島の地盤は浮遊石と呼ばれる石で出来ておるのじゃ、質量は極めて軽く、フワフワと浮かんでおるのじゃよ」
「そんな石があるんだな、まるでファンタジーだな」
「ファンタジーとな?」
「いや、いい。気にしないでくれ、それで?」
ファンタジーの説明はめんどくさい。
する気はありませんよ。
面倒臭いのでね。
「あの戦争で傷ついたエリスをアースラが儂の元に転移で運んでくれたのじゃがな、守も知ってのとおり、リザードマン達は儂らドラゴンに従順で甲斐甲斐しく世話を焼いてはくれるのじゃが、今とは違って知能が低くてのう、とても怪我の治療を施せる状況では無かったのじゃよ、それで儂がエリスを『エアーズロック』に運んだのじゃよ」
「そうだったのか」
ゼノンは頷く。
「『エアーズロック』は天使と悪魔が住んでおる島でのう、天使も悪魔もよく世話を焼いてくれる奴らでのう、治療にはここしかないと思ったのじゃよ」
「悪魔?」
どうして悪魔?
悪い奴等なのか?
「そうじゃ、悪魔族じゃよ、知らんのか?」
「知らないなあ、てか知る訳ねえだろ!」
「そうか・・・南半球にはおらなんだか」
千里眼で見て無いのかよ?
ちゃんと見てて下さいな!
「いないなあ」
「あ奴らは天使族と一緒で小さい奴らでのう、快い性格の奴らじゃ、たまに悪戯をするのが頂けんがのう」
悪い奴等では無さそうだ。
「天使と悪魔って、天敵じゃないのか?」
俺にはそう感じるのですが?
「ん?仲良くやっておる様に儂には見えるのじゃが?」
「そうなのか・・・」
天使と悪魔が仲良くしてるって・・・想像がつかないな。
固定概念はよくない、改めよう。
にしても悪魔って・・・
まあいいや。
「こ奴らは、リザードマンよりは知能が高いでのう、少しは益しな治療が出来るじゃろうと思っておったのじゃが・・・」
「おい!その間は何なんだよ?」
「駄目じゃった・・・」
はあ?何だそれ?
「駄目ってどういうことなんだ?」
「傷は確かに癒えた・・・しかしのう・・・大事な部分の治療は出来なんだのじゃ・・・」
「大事な部分ってなんだよ?」
「それは・・・着けば分るじゃろうて・・・」
何で歯切れが悪いんだ?
「今は教えられないって事なのか?」
「そうでは無いが、見て貰った方が早いと思ってのう・・・」
「そうか・・・」
今はこれ以上の追求は野暮みたいだ。
見れば分るのなら見ればいいのだろう。
「それと『エアーズロック』は下界とは距離をとっておる島なんじゃよ」
「ん?それは空に浮かんでいるからか?」
距離的な問題か?
「それもあるが、あそこの天使と悪魔はあまり人間が好きでは無いのじゃよ」
「過去に何かあったということか?」
だとしたらちょっと鬱陶しいことになるかも・・・
「その通りじゃよ・・・儚いのう」
何が儚いのうだよ、そういう話はもっと前に教えておけよ。
何かあるのが見え見えなんだけどな。
どうせひと騒動あるに決まっている。
これも会えば分るってことなんだろ?
そろそろ半日になる、いい加減着いてもおかしくはないだろう。
現に目の前に考えられない事に、空中に浮かぶ島が視界に入ってきていた。
これは異世界ならではだな。
壮観な景色だ。
「パパ!見て!見えてきたよ!」
ギルが興奮している。
「ああ!見えてるぞ!遂に来たな!」
「うん!」
そう返事をするとギルは堪えきれなかったのか、一目散に『エアーズロック』に飛び立っていった。
「おい!ギル!ちょっと待て!」
どうやら俺の声も届いていないみたいだ。
「守よ、飛ばすぞ!」
「そうしてくれ!」
ゼノンが全速力でギルを追いかけた。
放されては不味いと、ノンとエルも速度を上げた。
遂に『エアーズロック』が目の前に迫ってきていた。
やっとたどり着いた。
念願の『エアーズロック』だ
興奮するギルを責められる訳がない。
俺も興奮してきているのが分かる。
顔が綻んでしょうがない。
エリス・・・遂に会えるな。
この時を俺は待っていたぞ‼