俺は『シマーノ』の自分の部屋でじっくりとギルとノン、クモマルとワインを酌み交わしていた。
所謂男飲みだ。
女子会ならぬ男子会とも言う。
どうしてそんな事をしているのかというと、何となくそんな気分になったからだ。
ゴンとエル、レケは僻むんだろうな。
まあ今度付き合ってやるから勘弁してくれよな。

今日の気分はワインだ。
渋みの奥に芳醇な葡萄の甘みを感じる一品だ。
所謂当たりのワインである。
珍しくノンも真面に飲んでいる。

俺はギルに問いかけた。
「なあギル、お前将来どうしたいんだ?」
前にも聞いたがもう何年も経ってる。
変わっていても不思議ではない。

「え!そんなの変わらないよ、僕はパパの背中を追っかけるよ」
ギルは事も無げに言う。
どうやら変わっていないみたいだ。
俺はちょっと嬉しかった。

ギルは今ではワインを毎晩嗜んでいる。
時折リザードマン達に窘められるのだが、気にしなくなっていた。
こいつも大人になったという事だ。
晩酌が欠かせなくなっていた。
たまにサウナ島でテリーやフィリップ達と飲んでいるのを見かける。
こいつらも今では大人の仲間入りだ。
子供成長は早い。

「変わらないねえ」
ノンが嬉しそうにギルを眺めていた。

「ギル兄さんは、我が主に成りたいということですか?」
クモマルは意外と言いたげな顔をしている。

「お!遂にクモマルがギルの事を兄さん扱いし出したよ」
ノンが冷やかす。

「ノン兄さん、止めてください。私ももはや島野一家の一員ですから」

「クモマルも言う様になったね。でも兄さんは堅くない?テリー達みたいに兄貴でもいいんだよ?」
ギルはクモマルに兄さんと言われて嬉しかったのだろう、顔が綻んでいる。

「兄さん、止めてください。テリー達のことは知ってますが、その言い方は真似したくはありません。私は島野一家ですから、それにいい加減私も弄られ過ぎて自覚できましたよ」
おお!クモマルが砕けている!
何だか楽しくなってきてしまった。

「クモマル、それでいいんだよ。それぐらい自然体であって欲しいな俺は」

「は!我が主、ありがたき幸せ!」
三人でずっこけそうになっていた。
駄目だこりゃ。
緩急が独特過ぎる。
まあいいや・・・

「それで、ノン!お前はどうなんだ?」

「え!なにを?」
ノンは惚けようとする。

「はあ?お前自分だけ逃げれると思うなよ?結局お前は何がしたいんだよ?!」
ある意味一番の謎である。
大体想像は付いてはいるが。

「うーん、何って・・・僕は主とこの先もずっと一緒に居るし、面白可笑しく、ふざけていたいだけかな?」
だと思ったよ・・・まあそれがノンだよな。

「ノン兄・・・ふざける必要ある?」
ギルは肩眉を上げていた。

「有るよ!だって面白いんだもん!」

「はあー・・・」
ギルはため息をついていた。
呆れた顔をノンを見ていた。

「ノン兄ってさ、ふざけなければ格好いいのにさ・・・もう慣れたけど・・・」
言いたいことはよく分かる。

「まあそう言うなよギル、何だかんだ言ってもこいつは頼りになるんだからさ」

「だよねー」
ノンは速攻で答える。
自画自賛するんじゃないよ。

「それがムカつく!」

「そうですよ!兄さん!」
二人はノンに噛みつくがノンは一向に相手にしない。
にしても、クモマルの緩急が分からん。

「で、クモマルはどうなんだよ?」

「私で御座いますか?」

「そうだよ」

「私はまだまだ若輩の身、勉強させて頂く所存です」

「はあ?」

「つまらん・・・」

「だと思った・・・」
この反応に狼狽えるクモマル。
まだまだこいつの気真面目さと言うか、几帳面さは治らんみたいだ。
要所要所では力を抜けれる様になったみたいだけどね。

「して、我が主。この楽しい飲み会の趣旨は何なので御座いましょうか?」
あーあ、言っちゃった。
もうちょい引っ張りたかったんだけどな・・・
男飲みをもう少し楽しみたかったな。
しょうがない、そろそろ話そうか。

「そうだな、クモマルは知らないだろうが、俺達がこの北半球に来た理由の一つに、ある人と出会うという事があるんだよ」

「そのある人とは?」
結論を急ぎたいクモマルは問いかける。
俺は三人を見渡した。

「・・・ドラゴンのエリスだ」

「う!」
ノンが珍しく反応していた。

「パパ・・・行けるの?・・・」
ギルの表情は揺れていた。
もはや泣き出しそうである。

「ああ・・・ギル・・・本当に待たせたな・・・行くぞ!」

「行けるんだ・・・」
ギルは皺くちゃな顔をして泣いていた。
すまんなギル・・・随分待たせたよな・・・

「ギル・・・、良かったね」
ノンがギルに優しく声を掛ける。
ギルの頭を優しく撫でていた。

「兄さん・・・おめでとうございます!」
クモマルは涙は見せないと上を向いていた。
こいつ本当に分かってるのか?

「ギル、まあいいから飲もうや!」
俺は誤魔化すようにギルにワインを勧めた。
その理由は明らかだ、俺は涙を流しそうになっていたからだ。
この世界に来てもう何年だろうか。
これまでに何度も感動することや、心を奪われることは経験してきたのだが、涙を流すことは一度も無かった。
でも今回だけは俺は堪えれそうも無かった。
これまで使命だとか、優先順位だとか、ギルの気持ちを分かってはいたが、後回しにしてきたことに俺は罪悪感を覚えていた。
ギルならば分かってくれると、心の中で何度言い訳を言ってきたことか・・・
俺は此処に苦悶していたのだ。
でもやっと言える、声を大にして。

「エリスに会いに行くぞ‼」

「やったー‼」

「嬉しい‼」

「私もです‼」
全員で浮かれてしまっていた。
良いじゃないか、本当に嬉しいのだから。
俺達の北半球に訪れた理由の一つが、俺達の夢が叶えられ様としているのだから。
男連中で騒いでしまっていた。

その後はいい加減楽しくなって大騒ぎしてしまった所に、魔物達が混じって来て、大宴会が繰り広げられてしまった。
その原因は言わずもがなのゴブオクンである。
あいつの嗅覚は異常だ。
俺達が『シマーノ』に来ると必ず嗅ぎつけるのだ。
もう定番と言ってもいい。

決まって、
「島野様、会いたかっただべー!」
と言って駆けつけてくる。
今回に関してはバレて当然かな。
大はしゃぎしていたからね。

特にギル以上にノンが騒ぎ出したことに俺は嬉しくなってしまった。
この野郎・・・愛してるぞ!
ノン・・・お前はギルの兄ちゃんとして充分にその役割を果たしてくれていたからな。
流石は俺のソウルメイトだ。
この先もずっと一緒に居ような!



そんな浮かれた宴会を尻目にゴンとエルは案の定剥れていた。
否、憤慨していた。
なんで呼んでくれなかったのかと。

「主・・・何で呼んでくれなかったのですか?」

「そうですの!寂しいですの!」
まあそう言われるとは思っていたけどね・・・

「何となくそうしたかったんだ・・・許してくれよな・・・」
俺は二日酔いもそこそこに言い訳を考えることになってしまっていた。
なんでこんなことになった?
俺が悪いのか?
何だか責められている様な・・・
そりゃあそうだよね。

「何となく男子会をしたくなったのさ、今度は女子会に付き合ってやるからさ。勘弁してくれよ」

「ほんとうですか?」

「約束ですの!」
この発言がまずかった。
安易にいう事では無かったと反省するのは事が済んでからであった。

この発言にウキウキのゴンとエルは、なぜだかエリカに幹事を任せて『サウナ島』の俺達の家で女子会プラス俺という何ともしがたい会が行われることになったのであった。
まあオリビアさんに話があったから、ちょうど良いタイミングではあるのだが。

勿論飲み食い代は全部俺持ち、更には誰が参加するのかすらも俺は聞かされていなかった。
というか教えて貰えなかった。
お楽しみですの!
歯茎剥き出しのエルにそう言われてしまった。
何が楽しみなんだろうか?
よく分からん・・・

家のダイニングルームのテーブルには、パーティーでも行うかの如く、豪華な食事が並んでいる。
飲み物はビールやワイン、そして最近開発した、スパークリングワインも並んでいた。
そして所狭しと椅子が並べられている。
おいおい、何人来るんだよ・・・
一家の三人だけじゃないのかよ・・・
まあエリカに幹事を任せた時点で大事になっているとは思ったのだがね・・・
にしてもさあ、女子会って少人数でやるものじゃないのか?
よく知らんが・・・



俺は今、何故かホノカを抱っこしている。
台所ではエルと、メルルが大忙しで食事の準備を行っているからだ。
余談になるのだが、ホノカは俺が名付けたことで人間では無くなっていた。
俺の加護が付いてしまい、人間の上位種のハイヒューマンになっている。
これは不味いと、メルルとジョシュアには箝口令を敷いたのだが、致し方あるまい。
これを誰かに知られたら最後、我が子にも名付けてくれと大行列が立ち並ぶことは間違いないのだ。
そんな事はしていられない。
そこまで俺は暇ではない。

ホノカだが、何故か俺には直ぐに懐いた。
名づけ親だからか?
ホノカは俺の胸に抱かれて気持ちよさそうに寝ている。
可愛い奴だ。
思わずおでこにキスしてしまった。
赤ちゃんの良い匂いがする。
メルル曰く、ホノカは男性に抱っこされることを極端に嫌がるらしく、増してや寝てしまうなんて快挙らしい。
ジョシュアにちょっと申し訳が無いと俺は思ってしまった。
アグネスに知られたら、今度は赤ん坊たらしと言われそうだ。
昔からそうだ、俺は動物と子供には妙に懐かれてしまう。
どうでもいい事なのだがね。

そうこうしていると、いきなりレケが家に飛び込んできた。
「ボス!聞いてくれよ!新米から新たな味の日本酒が出来たんだ!最高に旨え!飲んでくれよ!」
静かに!ホノカが起きるでしょうが!
俺が眼で訴えかけるが、一升瓶片手にレケは既に出来上がりつつあったレケは空気を読まず話だす。

しょうがないから俺はメルルにホノカを返した。
少し寂しい、もう少し抱っこしてたかったな。

「いいけどお前、もう飲んでるのか?」

「あ?いいだろ?久しぶりにボスが一緒に飲んでくれるって聞いたからな、嬉しくなって前祝いしてんだよ!」

「お前なあ・・・」
まあいいか、レケだし。

「いいから飲んでくれよ!」
お猪口を押し付けられてしまった。

「しょうがないなあ、一口だけだぞ!」

「おう!最高に旨えから覚悟しろよ、ボス!」
レケは自信満々だ。
どれどれ・・・
一口飲んでみた。
これは旨い!辛口ではあるが、奥にフルーティーな甘さを感じる。
米の甘みを最大限に引き出している。
これは褒めざるを得ないな。

「レケ、旨いぞ!」

「だろ?」

「ああ、最高に美味しいぞ!」

「へへ!苦労したんだぜ、アイリスさんとアースラ様にも手伝って貰ったんだぜ!」

「へえー、そうなんだ」
意外だな。
でもあの二人なら日本酒のアドバイスは出来て当然かな。

「あの二人のアドバイスは凄えぞ、アイリスさんの凄さは元々知っていたが、アースラ様はその上をいってやがるぜ!」
おいおい、上級神を舐めてたのか?

「お前がそんなこと言うなんて珍しいな?」

「まあな!」
そんなアイリスさんとアースラさんが家に入ってきた。
二人共何故かニコニコだ。

「島野よ、本日は女子会とな?お主は男子であろうが?」

「分かってますよ、そんなこと」

「ホホホ、まあよい。お主はホストであるしのう」

「そうですわ、守さんはいいのですわ」
何が良いのだろう?
俺は早々に退散したいのが本音です。
もう帰りたいです。
あ!俺の家だった。

その後も続々と女性陣が現れた。
ていうか、勢揃いじゃないか!
女神一同にエリカとリンちゃん、更に珍しくアグネスもいた。
どうやらエリカはアグネスとも仲が良いらしい。
ゴン曰く、エリカはアグネスを手懐けたらしく、アグネスはエリカの手下の様になっているということだった。
エリカは怖い子!
ここに来て本領発揮である。

そして一人おっさんが紛れ込んでいる。
マリアさんである。
俺はジト目で見てやろうかと思ったが、止めておいた。
どうせ心は乙女なんだからいいでしょ!と言われるに決まっている。
でもちょっとはおっさんであることを自覚して欲しいものだ。
だって男風呂に入っているんだよ!このおっさん!
まあいいけどさ。

女子会ならぬ、立食式のパーティーが始まっていた。
何故か椅子があるのに誰も座ろうとしない。
だったら椅子を片付けて欲しい。

女子だけのパワーに俺は辟易していた。
飛び交う会話も俺の創造以上に女子である。
あのアースラさんが、好みの男性はこうであるとか言い出したのだ。
全員そんな話に花を咲かせていた。
オリビアさんならまだしも、アースラさんだよ?
なんなんだ一体。

俺は巻き込まれない様に、ひっそりとしていたが、見逃しては貰えなかった。
エンゾさんに首根っこを掴まれて、部屋の真ん中に連行されてしまったのだ。

「島野君、逃がさないわよ」
周りは女性だらけなのが影響しているのか、エンゾさんは何時にも増して強気である。
上から女神がここに来て健在だった。

「いや・・・勘弁して下さいよ・・・」

「駄目よ、今日は女性陣にとことん付き合って貰うわよ!島野君。勘弁なさい!」

「はあ・・・」

「島野はさ、どんな女の子が好みなの?」
おいおい、ファメラまでこんな事を言い出したぞ。
どうなってやがる?

「いやいや、俺の事はいいじゃない?ねえ?」
俺は媚びる様にしていた。
お願いだから見逃してくださいな。

「駄目!答えてよ」

「そんなこと聞いても面白くもなんともないだろ?」
こんなおっさんの女性タイプなんて聞いて何が面白いんだ?

「そんなことないよ、充分面白いよ」

「そんなもんかねえ?」

「島野や、男らしく無いのう、さっさと答えよ!」
アースラさん・・・焚きつけられてもねえ?
男らしくない?
答えるしかなさそうだ。

「そうだな・・・強いて言うなら愛嬌のある人かな?」

「「「おおー‼‼‼」」」

「そうなのか・・・」

「愛嬌ね・・・」

「盲点じゃな」
まさかの好反応。
何だこれ?

「じゃあさ、じゃあさ。この中で一番愛嬌のある人って誰?」
オリビアさんからのキラーパスだ。
これは答えちゃいけない。
絶対に危険だ!

「いやいやいや、それは答えられないですよ!」
全員が興味深々にこちらを向いている。

「島野よ、ここまで来て答えられぬとはどういった料簡じゃ?」
アースラさんの圧が凄い。
もう帰りたいよ・・・帰らしてください。
それも日本に。

「守ちゃん、答えなさいよ!」

「島野、答えてよ!」

「私よね?守さん!」
見かねたアンジェリっちが助け舟を出してくれる。
何とも心強い。

「もう、それぐらいにしてあげよう?ね?皆?」
流石はアンジェリっちだ。

「駄目よお姉ちゃん!お姉ちゃんだって気になるでしょ?」

「オリビア!・・・それはまあ・・・ねえ?・・・」
おいおいおい!
アンジェリっち!もっと粘ってくれよ!
てか・・・あんたも気になるのね・・・

「島野や、観念せい!」
何でアースラさんはここまで・・・
俺を弄って楽しんでやがるな?
まあこの中で俺を弄れるのはアースラさんぐらいだもんな。
ある意味で空気を読んでいるのか?
どうやら逃げ道は無いようだ・・・
腹を決めるしかないみたいだ。

俺は全員を見回した。
数名が期待の眼差しでこちらを見ている。
アグネスすらも期待の眼差しでこちらを見ていた。
お前は無いって。
何なんだこの状況・・・
マリアさんで逃げようかな?
否、白けさせるな。
ゴン辺りで話を終わらせるか?
否、追及が始まったらゴンに悪いよな。
一番期待の眼差しを向けているオリビアさんでいいかな?
要らない勘違いをされかねないな・・・
それは不味いかも・・・

「アンジェリっちかな?」
思わず本音を答えてしまっていた。

「「「おおーーー‼」」」

「お姉ちゃんなの?‼」

「守ちゃん、ムフ!」

「遂に言いよったぞ!」
アンジェリっちは照れて下を向いていた。
俺も下を向きたいよ・・・

「主はアンジェリ様がタイプという事ですね?」
ゴンが要らない纏めを行っていた。

「ちょっと、ゴン・・・まあ・・・そうなるのか?」
俺は誘導尋問に引っかかったのか?
真面に答えた俺が悪いのか?
どうしたらこの流れを変えられる?
何か手はないのか?
そうだ!これならば逃げられそうだ。
それしか無いな。

「皆さん!そんなことはいいとして、レケが新作の日本酒を持参してます、飲んでみませんか?アイリスさんとアースラさんも手を貸したんですよね?ね?そうですよね?」
なんでこんなに必死になっているんだ俺は?
てか女子会は怖い!
二度とごめんだ!

「そうじゃった!島野の言う通りじゃ!良い味になっておる。皆も味わっておくれ!」
やっとアースラさんが逃がしてくれたみたいだ。
自分も携わっていたからそうなるよね。
しめしめだ。
女子会はレケの日本酒の品評会に変わっていた。
レケも嬉しそうにしている。
でもこれは一時的なものだろう。
皆が日本酒の感想を述べていた。
この終わりにあれを発表するしかないな。
絶対に流れを変えてやる!

頃合いを見て俺は注目を受ける様に促した。
「えー!皆さん!真面目な話があります!よろしいでしょうか?」

「えー、真面目な話なの?ダレるー」

「今それ居るの?」

「守、空気読みなよ?」
煩い奴らだ。
特にアグネス!お前に空気読めと言われるとはな!

「すまないが、これは話さない訳にはいかない。特にオリビアさんとアースラさんにはね」
直ぐに察したアースラさんが表情を改める。
さっきの俺の女性のタイプの話を引きずっているオリビアさんだが、こちらも察してくれたらしい。
ちょっと失望の混じった視線で俺を見ていた。

「俺達島野一家は『エアーズロック』に向かいます!」

「嘘でしょ?」

「遂にかえ?・・・」
一部事情を知らない者もいたが、俺は構う事無く話を進めた。

「ドラゴンのエリスに会いに行きます!」

「守さん・・・」

「やはり・・・」
お祭り気分を捨てて、オリビアさんとアースラさんは俺を見つめていた。

「オリビアさん、アースラさん、同行しますよね?」

「いいの?」

「・・・」
アースラさんは無言だ。

「良いに決まっています、行きますよね?島野一家全員とゼノンも行きます。レケ!お前も行くんだぞ!」

「いいのか?ボス?」

「当たり前だ!ていうかお前もいい加減旅に付き合え!」

「・・・分かった!」
レケは嬉しそうにしていた。

「守さん・・・遂になのね・・・」

「はい、お待たせして申し訳ありませんでした」
俺は純粋に頭を下げた。
オリビアさんにも随分と待たせてしまったよな。
申し訳ない。

「そんな・・・いいのよ・・・」
オリビアさんは泣いていた。

「島野や・・・すまんな・・・余は行けぬ・・・まだ親父殿の許可がでておらぬのじゃ・・・でも近々許可を出すと親父殿も言うておった・・・余は後日向かうとする・・・エリスにはよろしく伝えておくれ・・・」
アースラさんは悔しそうにしていた。

「畏まりました」
涙顔のオリビアさんが俺の胸に飛び込んできた。
これは受け止めてあげなければいけない。
俺は強くオリビアさんの肩を抱きしめていた。
アースラさんも涙目でにこやかにしていた。
こうして俺達は遂に『エアーズロック』に向かう事になったのであった。
やっとかと俺も肩の荷が降りた気分になっていた。
でもそうは問屋が卸さない。
色々と呼び込む体質の俺達ならではの事件が、そこには待っていたのである。