例の如くと言うのか何と言うのか。
スーパー銭湯の食堂でエリカ達と食事を摂っていると、何処で聞き付けたのか神様ズが集まってきた。
案の定である。
やっぱりかと俺は思っていた。
こうなるだろうとは予想出来ている。
毎度毎度のことだからね。
もはや慣れっこです。
でも今回は前回の反省を生かして、宴会は行わないつもりだ。
まあつもりだけどね・・・
もし宴会に成ったらそれはその時だな。
俺の正面では嬉しそうにオズが生ビールを飲んでいる。
その隣ではガードナーがラーメンを啜っていた。
二人共俺に会えた事が嬉しいらしい、俺の前は譲らないと当たり前の様に陣取っていた。
オズは最近はこういうことがあったと、熱心に話してくれるがあまり耳には届いて無かった。
ごめんよオズ、今はエリカの事が優先なんだよ、今度じっくりと話は聞いてやるからな。
飲むことを約束したエクスは、俺の隣で既に出来上がっている。
既に真っ赤な顔をしていた。
ゴンガスの親父さんにたらふく飲まされて、眠そうにしていた。
エクスは今にも寝そうであった。
コクリコクリと船を漕いでいる。
親父さんは一段落ついたのか、挨拶も程々にサウナに向かっていた。
飲酒後のサウナは止めろっての!
何度言っても聞いちゃくれない。
酔いが回るだけだっての、もしかしてそれが目的か?
ほぼ全員の神様ズが集まっていた。
まあここはエリカを紹介する手間が省けたと前向きに捕えよう。
居ないのはファメラとカインさんぐらいか?
エリカはちょっと面食らっているみたいだ。
南半球の神様ズの事は前もって聞いてはいたみたいだが、いざ会ってみると違うものなのだろう。
まあ直に慣れるよ・・・頑張れ!エリカ!
そして何故かゼノンまでいた。
タイルを首に巻いて風呂上り感が半端ない。
「守よ、世話になっておるぞ」
「ああ、好きにしてくれ」
ゼノンはにこやかにしている。
エリカはなんでここにエンシェントドラゴンが居るのかと、最早諦めの境地でゼノンを眺めていた。
どうやらゼノンは新作映画の打ち合わせに来ているみたいで、その流れでスーパー銭湯に立ち寄ったみたいだ。
マリアさんと喧々諤々と新作映画について話し合っている。
随分と熱を帯びていたが大丈夫なんだろうか?
ゼノンは映画監督業を謳歌していた。
生きがいが出来たと喜んでいる。
エンシェントドラゴンが映画監督って・・・笑える。
エリカをマリアさんに紹介したところ、
「あなたいいわね、綺麗な顔とスタイルをしているわ、あなた女優に成りなさいよ。あなたなら絶対に売れるわ!」
女優に勧誘していた。
おいおい止めてくれよ。
エリカも満更でもない表情をしていたが、
「私には島野様から与えられた仕事がありますので、辞退させていただきます。申し訳ございません」
謙虚に断っていた。
ふう、よかったよかった。
ここで転職されたら、マークが泣くぞ。
そのマークだが、俺の近くで借りてきた猫の様に静まり返っている。
一人チビチビと、珍しく日本酒を飲んでいた。
否、側にいるエリカに緊張しているのだろう。
こんな事で仕事になるのかこいつ?
まあこればっかりはしょうがない。
恋の病ってやつなんだろう。
当分の間マークは仕事が手に付かないだろうな。
マークの純情に幸あれだ。
俺は応援も否定もしない。
職場恋愛?
好きにすればいいじゃないか。
俺はそれを認めないとは一度も言ってはいないからね。
大いに結構!
楽しんでくれよ!
後日談になるのだが、やはりマークは使い物にはならなかったみたいだ。
慣れるまでに一ヶ月近く掛かった様である。
マークの純粋さがよく分かる。
エリカもエリカでマークの純情を受け止めたいが、今はサウナ島や南半球に慣れることで精一杯の為、それ処ではなかったみたいだ。
そりゃあそうでしょうね。
エリカの性格からして、そうなるに決まっている。
俺の睨んだ通りエリカはかなり優秀だったみたいだ。
俺としては鼻が高い。
マークの秘書業だけではなく、ある意味俺の代役としても活躍していた様だ。
至るところで異世界の知識を用いていたみたいだ。
例えば保養所の建設だ。
これは女性ならではの視点なのかもしれない。
俺はここには辿り着けなかった。
サウナ島の現状を理解したエリカは、保養所が必要と提言した。
子育てに疲れた母親や、父親の力を抜いてあげる必要があるとの想いだったみたいだ。
そして彼女は保養所を造り上げ、そして運営を完璧に行った。
そうしたことによって、利用者の満足度が格段に上がっていたのだった。
後日それを聞いた俺も舌を巻いたぐらいだ。
それと共にエリカに任せてよかったと心から思った。
実は俺はエリカにそれなりの権限を与えていた。
当初その事にエリカは尻込みしていたのだが、本気になったエリカはこれを最大限活用したのだった。
どの地位かと問われれば答えに窮してしまうのだが、提言したい事やアドバイス、そしてそれを叶える実行力を俺はエリカに与えていたのだ。
もしかしたらそれは社長と変わらない地位になるのかもしれないが、そんなことはどうでもいい。
エリカがこれをしたい、これをすべきだと思ったことを形に出来る様に俺は許可を与えていたのだ。
まあ、仕事に成らないマークの事を慮ったことは言わないでおこう。
それをマークが知ったら・・・これ以上は止めておこう。
ただ保険を掛けていただけのことなのだが・・・プライドは傷つくよね?
それを知ったとしても、それを飲み込める器量がマークには有ると俺は知っているから、可笑しなことにはならないだろう。
たぶん・・・
そのエリカの活躍にマークは眼を醒ましたとのことだった。
もはやマークは要らないのでは?とロンメルが冗談で言っていた。
マークにとっては笑えない冗談である。
まあ俺は社長の立場をマークに託したんだから、そこは変えるつもりは全くないけどね。
あいつに任せておけば、このサウナ島は安泰に違いない。
エリカの紹介は続いた。
今度は五郎さんである。
「ほう、こりゃあすげえ別嬪さんじゃねえか?えっ!島野!」
「ですね、五郎さん。エリカは俺達と同じ地球からの転生者ですよ」
「何だって?本当か?」
五郎さんは前のめりになる。
興味深々といったところか?
「エリカ、おめえどこの国出身でえ?」
「私は英国です」
「英国か!そりゃあ良い。同盟国じゃねえか。ええ!」
五郎さんは手を叩いて喜んでいる。
「五郎さん、残念ながら年代が五郎さんとは違うんですよ。エリカは俺と同じ時間軸になります」
「そうか、でもそんなことはどうでもいいじゃねえか。ええ!島野!同郷者ってのは嬉しいもんだな」
「全くです」
「そう言って貰えると私も嬉しいです」
エリカは頭を下げていた。
「そうかエリカよ、今度儂の温泉街に遊びにこねえか?」
「いいんですか?」
エリカは口を押えて喜んでいる。
オーバーアクションは隠し様がない。
エリカもどんどんと地が出始めている、いい傾向だ。
「あたりめえよ!なあ!島野!」
五郎さんは何時になく上機嫌だ。
「五郎さん、エリカは日本が大好きなんですよ」
五郎さんが目を見開いた。
「何だって?そりゃあ嬉しいじゃねえか、エリカ!今の日本の事は儂はあまり詳しくはねえが、昔の日本なら儂が教えてやる。まずは温泉だ!温泉に浸かりに来い!」
「はい!ありがとうございます!」
エリカも相当嬉しいみたいだ。
ほんとにエリカは日本が好きなんだなと思う。
その後も五郎さんとエリカは同郷者の誼の親交を深めていた。
まだまだエリカの紹介は続く。
やっぱりやらかしたのはランドールさんだった。
何を思ったのかというより、案の定エリカを口説こうとしだしたのだった。
鼻の下を伸ばした下卑た顔は、相変わらずの残念加減だった。
そこで男気を見せたのはマークだ。
いきなり覚醒し出すと、相手が神でも俺は引かないとバチバチとやり合っていた。
当のエリカはなんのことかと二人に見向きもしていなかった。
私は関係ないと、オズとガードナーと漫画について話し合っていた。
マーク・・・残念!
ていうかエロの神は健在だね。
その後ランドールさんはマリアさんにきついお仕置きを受けていた。
そりゃあそうだろう。
久しぶりにマリアさんに追い回されるランドールさんを見たよ。
ちょっと安心してしまった。
レイモンド様は相変わらずだ。
だが珍しくレイモンド様から、
「なんでー僕には様付きなのー」
と苦言を呈されてしまった。
少々意外なクレームだった。
以降レイモンドさんと呼ぶことにした。
レイモンドさんは大層喜んでいた。
こうなるとドラン様もドランさんと言わざるを得ない。
実際そう呼んでみたところ、ドランさんは普通に受け止めていた。
やっとかという顔をされたのには申し訳ないと思ってしまったぐらいだ。
結局の所、俺はある意味本当に神様に成ってしまった様である。
これまでは敬ってきた存在だが、肩を並べたとすら言える。
ただの誇称でしかないのだが、俺の知る全ての神様がそうなってしまったのだ。
何だかなと受け止める俺であった。
面倒なのが女神一同だった。
特にめんどうだったのはオリビアさんだ。
エリカが俺の隣に座っていたのが気に入らないのか、
「守さんの隣は私なの!」
俺とエリカの間にグイグイと割り込んできた。
なんでそうなるのかな?
俺にはよく分からん。
エリカも引いていた。
オリビアさんにエリカを紹介すると、少し和んだのか。
「私の主演映画は観てくれた?見て無いなら絶対観てね!」
何故か主演映画の宣伝をしていた。
にしてもオリビアさんの圧が凄い。
ちょっと近すぎるんですけど・・・顔が引っ付きそう・・・
まあ嫌じゃないけどさ。
オリビアさんは俺の隣から離れようとしない。
すると今度はエンゾさんだ。
「オリビア・・・あんたは本当に島野君が好きなのね」
とんでも無い事を言い出した。
「そうよ!悪い?」
おいおい!勘弁してくれよ。
「別にいいけど・・・」
エンゾさんは引いていた。
オリビアさんの勢いに負けている節すらある。
エンゾさんが気負けするなんて・・・
俺もちょっと複雑な心境だった。
嬉しくはあるのだが、何かちょっと違う気がしていたのだ。
うーん、表現に困る。
それを察してか、オリビアさんが俺に絡んでくる。
「ちょっと守さん、私が嫌いなの?」
この人まだ飲んで無いよね?
どういうことだ?
俺は何か間違ったのか?
「まさか?なんでそうなるの?」
これ以上の返しを俺は知らない。
それ以上があるのなら是非ご教授ください!
俺は創造神の爺さんのどや顔が頭に浮かんでいた。
勘弁してくれよ・・・全く。
俺の窮地に現れたのはアンジェリっちだ。
「守っち、オリビアに捕まったの?」
「・・・」
俺は無言で助けを求めた。
未だにオリビアさんは俺の腕を掴んで離さない。
「ちょっとオリビア!あんた守っちが困ってるじゃない。早くお風呂に行くわよ!」
アンジェリっちが命令口調でオリビアさんを叱っている。
「えー!もうちょっと守さんと居たいー!」
「あのねーあんた、守っちはあんたが独占出来る男じゃないって、こないだ話したわよね?ちゃんと聞いてたの?」
はあ?なんだそれ?
それはちょっと寂しい・・・
俺も人並みに恋愛がしたいんですけど・・・
なんでそうなるのかな?
俺を別格扱いしないでよ・・・
「良いじゃない、ねえ?守さん?」
「・・・」
もう何も言えなくなってしまった。
無償に寂しくなった。
正直言ってアンジェリっちからそう思われていることに、俺は大きなショックを受けていた。
なんだこの感情は・・・違うって!・・・俺はそんなんじゃないっての!
駄目だ・・・今は考えてはいけない・・・
マークじゃないが、ドツボに嵌る危険性がある。
今はそういう時ではないよな。
理性が先に立った。
此処は一旦脇に置かなければ。
よかった、マークの様を見ていなければ俺は取り乱していたかもしれない。
すまんなマーク。
俺はしれっと複式呼吸で心を静めることにした。
取り合えずこれでいいよね?・・・今は・・・
「オリビア!いいから行くのよ‼」
アンジェリっちはオリビアさんの耳を引っ張って女風呂に向かっていった。
マジか・・・昭和かよ・・・
横から不意に声がした。
「島野様はオモテになるのですね」
「いや・・・何かが違う気がする・・・」
ほんとにそう思う。
何だかな・・・
「でも、このサウナ島に来て島野様の偉大さがよく分かりました。北半球ではこんな光景はありえません。神様達が手を取り合い、南半球の平和が保たれている。そしてその中心には島野様が居る。それがよく分かりました。感動が止まりません。島野様が皆から愛されているのがよく分かりました」
「そうか?照れるじゃないか、止めてくれよ」
なんか背中が痒くなってきた。
エリカには悪いがいい気分転換になったよ。
「実際に『シマーノ』でそれを実感しました。ここサウナ島に来てさらにそれ以上であると分かりました、私は幸せです!」
「そうか、このサウナ島をよろしく頼むよ」
「はい!命一杯務めさせていただきます」
エリカの笑顔が眩しかった。
その後案の定上級神達が絡んできた。
「島野!何か辛い物を奢ってくれ!」
フレイズが騒いでいる。
何だが無性にイラっとしたので、俺は時間を停止して、フレイズの頭を問答無用で叩いてやった。
パシッ!といい音が停止空間で流れている。
フレイズが何が起こったのかと呆けていた。
流石の上級神でも時間停止には対応が出来ないみたいだ。
ちょっとすっきりした。
フレイズごめんな、タイミングが悪かったのだよ、許せよ。
ちょっと八つ当たりしたい気分だったんでね。
「島野・・・お前・・・何した?」
「教えねえよ!てか何も奢らねえからな!」
「おっ!おう」
機先を制されてフレイズは勢いを無くしていた。
もはやフレイズに振り回される俺ではないのだ。
標的を変えたフレイズは、メルルに激辛カレーを作れと無茶を言っていた。
俺はそんなフレイズを無視して外っておいた。
アースラさんは完全にサウナ島に馴染んでいた。
農業部の社員を引き連れて賑やかにしている。
「島野や、久しいのう」
「ご無沙汰です、今日も皆でお風呂ですか?」
「そうじゃ、嬉しいのう。皆がよう懐いてくれておる」
「その様ですね、今後も農業部を頼みますよ」
「ほほほ!ありがたいことよのう」
「お母様行きましょう」
アイリスさんも楽し気だ。
アースラさんとアイリスさん後を、農業部のスタッフ達が付いて行っていた。
皆な笑顔だ。
最近はアースラさんの花魁姿はあまり見なくなったなと思ったが、そこはツッコまないことにした。
次はウィンドミルさんとアクアマリンさんだ。
「あー島野だー」
「ほんとだー」
相変わらずの抜け感である。
どうやらバイト帰りの様だ。
「神界で会って以来だね」
「そうですね、お元気そうでなによりです」
「まあねー、島野ー。そろそろ此処に住んでもいい?」
あれ?まだ住んで無かったっけ?
とっくにここに住んでいるものと思っていたよ。
「いいですよ、手配しておきますね。エリカ早速仕事だ、明日にでも二人が住めるように部屋を手配してくれ」
「畏まりました」
エリカは何処から持ち出したのか、メモを取っていた。
良く出来る秘書だな。
大変助かる。
「よろしくねー」
「またねー」
二人は風呂に向かっていた。
相変わらずクールな対応だ。
安定の上級神だ。
何処かのアホと違って落ち着いている。
ちらっと周りを見渡すとプルゴブとメタンが話し込んでいた。
ここは俺は絶対に近づいちゃいけない。
俺にはデンジャラスゾーンだ。
信仰心の厚いツートップの会談だ。
混ぜるな危険である。
現に何故か神気が二人を中心に濛々と発生していた。
遅ればせながらにカインさんがやってきた。
もういい加減帰ろうと思っていたのに・・・。
カインさんは今日はもう来ないのかと思っていたが、二十二時のアウフグースに向けて来店したみたいだ。
カインさんは相変わらずカレーを愛して止まない神様だ。
今ではダンジョンの運営はそこそこに、カレーの新たな味の開発に余念が無いらしい。
俺を見つけると一目散に駆け寄ってきて、カレーのレシピの相談を受けてしまった。
おいおい、勘弁してくれよ。
今それをやるかね?
と言いたかったが、あまりの熱心さにそうとは言えなかった。
丁度タイミングよく五郎さんの所の大将が現れたので、しれっと矛先を大将に向けて俺は逃げることにした。
これが正解だったみたいだ。
二人は連れ立ってサウナに向かっていった。
何だかな・・・
ファメラは今日は来なかったが、後日ちゃんとエリカとの顔合わせは出来たみたいだ。
意外だったのはこの二人は相性が良かったのか、無茶苦茶仲良くなっていた。
数か月後には親友と呼び合う仲になるとは思いもよらなかった。
どこにそんな要素があるのか全く分からなかった。
エリカも子供好きだと後日知ったのだが、それだけでは済まされないほど仲が良かった。
ちょっとした謎である。
こうしてエリカの紹介は済んで、南半球とサウナ島での暮らしの下地は整ったのだが、先にも述べた通り、彼女の活躍は眼を見張るものになった。
もしかしたら俺が彼女に述べた一言が効いたのかもしれない。
それは、
「エリカ、君はこれまで自分を抑えて陰に紛れようと演じてきたのかもしれない。でもこれからは自分をさらけ出して大いに人生を楽しんで欲しい。君は転生者だ、これは何かしらの意味があってのことだと思う。俺は今一度人生を楽しんでくれという事だと思うんだ。遠慮は要らない、本気で人生を本気で遊ぼうじゃないか!それにエリカとファビオ、カミラの身の安全は完全に保証されたと考えていい、心置きなく楽しもうじゃないか!」
いい加減酔っぱらって喋った言葉だった。
珍しくそれを俺は覚えていた。
それは眼を見開いたエリカが無言で涙を流していたからだった。
俺はこの表情を見て嬉しくなったのだ。
そしてカミラもファビオも数年後には『サウナ島』には無くてはならない存在になっていた。
ファビオは数年後には熱波師として人気を博すことになる。
ファンも出来る程の一端の熱波師に育っていたのだ。
俺もその熱波を受けたのだが、いい熱波だったと太鼓判を押した。
まだまだノンには適わなかったが、充分上級サウナーのお墨付きを頂ける腕前であった。
それをファビオに伝えたところ、
「打倒ノン様です!」
そう力強く語っていた。
問題のカミラだが、気が付くと副料理長にまで昇格していた。
お腹周りも昇格していたのが残念である。
メルルに言わせると、
「あのしれっとつまみ食いする癖さえなければ、後を任せれるんですがね・・・」
困ったものだ。
あれだけ皆の前で釘を指したのに・・・いろいろな意味で太い奴だ。
実はこの頃にはメルルは第二の人生を歩もうと結婚を考えだしていた。
その相手はなんとジョシュアだった。
意外なカップルと思われた。
メルルからは結婚する際には俺からの祝いを期待すると、無理難題を押し付けられてしまった。
これは本当に困った。
この世界には結婚式はない。
結婚式があるのならスピーチを適当にやり過ごして、その責務から解放されるのだが、そうとはいかなかった。
そこで俺はいっそのこと、この世界初の結婚式をしてみたらと考えたのだ。
勿論細かい事は俺は関与しない。
此処はエリカに全て丸投げした。
俺の丸投げに眼を回していたエリカだが、数時間後には気持ちを切り替えたのか。
「実にやりがいがあります、任してください!」
鼻息が荒くなっていた。
俺はそれをしめしめと眺めていたのだが、決して口にはしなかった。
メルルには、いい加減厨房は誰かに任せて自分の幸せを優先してくれと説得し、メルルは無事めでたくこの世界初の結婚式を挙げたのだった。
それはとても幸せな空間だった。
俺も気が付いたらメルルとの出会いを思い出していた。
始めて会った彼女は、今にもその命を引き取ろうとしていたのだと。
余りに懐かしい出来事であった。
そして俺達の家族となった後の彼女の活躍と、そのバイタリティーをスピーチで語った。
島野一家とマークとランド、そしてロンメルは涙に暮れていた。
メタンはと言うと・・・大号泣していた。
だと思ったよ、全く。
こうしてこの世界初の結婚式は、幸せに包まれて幕を下ろしたのだった。
その数年後には、俺は生れてくる子供の名づけに本気で困っていた。
だってこれまで名づけ捲ってきたからね。
これまでにない良い名前をお願いしますと、ジョシュアから言われた時には逃げ出したくなったぐらいだ。
そして何とか捻りだした名前は、
『ホノカ』だった。
日本語にすると『穂香』となる。
人生が実って香るほどの幸せな人生を歩んで欲しいとの思いを込めた名前だ。
これを二人は喜んでくれた。
久しぶりに名づけに真剣になってしまった俺だった。
でもこれまでが適当にしてきた訳では無いからね・・・
否・・・適当だったな・・・たぶん・・・。
反省!
スーパー銭湯の食堂でエリカ達と食事を摂っていると、何処で聞き付けたのか神様ズが集まってきた。
案の定である。
やっぱりかと俺は思っていた。
こうなるだろうとは予想出来ている。
毎度毎度のことだからね。
もはや慣れっこです。
でも今回は前回の反省を生かして、宴会は行わないつもりだ。
まあつもりだけどね・・・
もし宴会に成ったらそれはその時だな。
俺の正面では嬉しそうにオズが生ビールを飲んでいる。
その隣ではガードナーがラーメンを啜っていた。
二人共俺に会えた事が嬉しいらしい、俺の前は譲らないと当たり前の様に陣取っていた。
オズは最近はこういうことがあったと、熱心に話してくれるがあまり耳には届いて無かった。
ごめんよオズ、今はエリカの事が優先なんだよ、今度じっくりと話は聞いてやるからな。
飲むことを約束したエクスは、俺の隣で既に出来上がっている。
既に真っ赤な顔をしていた。
ゴンガスの親父さんにたらふく飲まされて、眠そうにしていた。
エクスは今にも寝そうであった。
コクリコクリと船を漕いでいる。
親父さんは一段落ついたのか、挨拶も程々にサウナに向かっていた。
飲酒後のサウナは止めろっての!
何度言っても聞いちゃくれない。
酔いが回るだけだっての、もしかしてそれが目的か?
ほぼ全員の神様ズが集まっていた。
まあここはエリカを紹介する手間が省けたと前向きに捕えよう。
居ないのはファメラとカインさんぐらいか?
エリカはちょっと面食らっているみたいだ。
南半球の神様ズの事は前もって聞いてはいたみたいだが、いざ会ってみると違うものなのだろう。
まあ直に慣れるよ・・・頑張れ!エリカ!
そして何故かゼノンまでいた。
タイルを首に巻いて風呂上り感が半端ない。
「守よ、世話になっておるぞ」
「ああ、好きにしてくれ」
ゼノンはにこやかにしている。
エリカはなんでここにエンシェントドラゴンが居るのかと、最早諦めの境地でゼノンを眺めていた。
どうやらゼノンは新作映画の打ち合わせに来ているみたいで、その流れでスーパー銭湯に立ち寄ったみたいだ。
マリアさんと喧々諤々と新作映画について話し合っている。
随分と熱を帯びていたが大丈夫なんだろうか?
ゼノンは映画監督業を謳歌していた。
生きがいが出来たと喜んでいる。
エンシェントドラゴンが映画監督って・・・笑える。
エリカをマリアさんに紹介したところ、
「あなたいいわね、綺麗な顔とスタイルをしているわ、あなた女優に成りなさいよ。あなたなら絶対に売れるわ!」
女優に勧誘していた。
おいおい止めてくれよ。
エリカも満更でもない表情をしていたが、
「私には島野様から与えられた仕事がありますので、辞退させていただきます。申し訳ございません」
謙虚に断っていた。
ふう、よかったよかった。
ここで転職されたら、マークが泣くぞ。
そのマークだが、俺の近くで借りてきた猫の様に静まり返っている。
一人チビチビと、珍しく日本酒を飲んでいた。
否、側にいるエリカに緊張しているのだろう。
こんな事で仕事になるのかこいつ?
まあこればっかりはしょうがない。
恋の病ってやつなんだろう。
当分の間マークは仕事が手に付かないだろうな。
マークの純情に幸あれだ。
俺は応援も否定もしない。
職場恋愛?
好きにすればいいじゃないか。
俺はそれを認めないとは一度も言ってはいないからね。
大いに結構!
楽しんでくれよ!
後日談になるのだが、やはりマークは使い物にはならなかったみたいだ。
慣れるまでに一ヶ月近く掛かった様である。
マークの純粋さがよく分かる。
エリカもエリカでマークの純情を受け止めたいが、今はサウナ島や南半球に慣れることで精一杯の為、それ処ではなかったみたいだ。
そりゃあそうでしょうね。
エリカの性格からして、そうなるに決まっている。
俺の睨んだ通りエリカはかなり優秀だったみたいだ。
俺としては鼻が高い。
マークの秘書業だけではなく、ある意味俺の代役としても活躍していた様だ。
至るところで異世界の知識を用いていたみたいだ。
例えば保養所の建設だ。
これは女性ならではの視点なのかもしれない。
俺はここには辿り着けなかった。
サウナ島の現状を理解したエリカは、保養所が必要と提言した。
子育てに疲れた母親や、父親の力を抜いてあげる必要があるとの想いだったみたいだ。
そして彼女は保養所を造り上げ、そして運営を完璧に行った。
そうしたことによって、利用者の満足度が格段に上がっていたのだった。
後日それを聞いた俺も舌を巻いたぐらいだ。
それと共にエリカに任せてよかったと心から思った。
実は俺はエリカにそれなりの権限を与えていた。
当初その事にエリカは尻込みしていたのだが、本気になったエリカはこれを最大限活用したのだった。
どの地位かと問われれば答えに窮してしまうのだが、提言したい事やアドバイス、そしてそれを叶える実行力を俺はエリカに与えていたのだ。
もしかしたらそれは社長と変わらない地位になるのかもしれないが、そんなことはどうでもいい。
エリカがこれをしたい、これをすべきだと思ったことを形に出来る様に俺は許可を与えていたのだ。
まあ、仕事に成らないマークの事を慮ったことは言わないでおこう。
それをマークが知ったら・・・これ以上は止めておこう。
ただ保険を掛けていただけのことなのだが・・・プライドは傷つくよね?
それを知ったとしても、それを飲み込める器量がマークには有ると俺は知っているから、可笑しなことにはならないだろう。
たぶん・・・
そのエリカの活躍にマークは眼を醒ましたとのことだった。
もはやマークは要らないのでは?とロンメルが冗談で言っていた。
マークにとっては笑えない冗談である。
まあ俺は社長の立場をマークに託したんだから、そこは変えるつもりは全くないけどね。
あいつに任せておけば、このサウナ島は安泰に違いない。
エリカの紹介は続いた。
今度は五郎さんである。
「ほう、こりゃあすげえ別嬪さんじゃねえか?えっ!島野!」
「ですね、五郎さん。エリカは俺達と同じ地球からの転生者ですよ」
「何だって?本当か?」
五郎さんは前のめりになる。
興味深々といったところか?
「エリカ、おめえどこの国出身でえ?」
「私は英国です」
「英国か!そりゃあ良い。同盟国じゃねえか。ええ!」
五郎さんは手を叩いて喜んでいる。
「五郎さん、残念ながら年代が五郎さんとは違うんですよ。エリカは俺と同じ時間軸になります」
「そうか、でもそんなことはどうでもいいじゃねえか。ええ!島野!同郷者ってのは嬉しいもんだな」
「全くです」
「そう言って貰えると私も嬉しいです」
エリカは頭を下げていた。
「そうかエリカよ、今度儂の温泉街に遊びにこねえか?」
「いいんですか?」
エリカは口を押えて喜んでいる。
オーバーアクションは隠し様がない。
エリカもどんどんと地が出始めている、いい傾向だ。
「あたりめえよ!なあ!島野!」
五郎さんは何時になく上機嫌だ。
「五郎さん、エリカは日本が大好きなんですよ」
五郎さんが目を見開いた。
「何だって?そりゃあ嬉しいじゃねえか、エリカ!今の日本の事は儂はあまり詳しくはねえが、昔の日本なら儂が教えてやる。まずは温泉だ!温泉に浸かりに来い!」
「はい!ありがとうございます!」
エリカも相当嬉しいみたいだ。
ほんとにエリカは日本が好きなんだなと思う。
その後も五郎さんとエリカは同郷者の誼の親交を深めていた。
まだまだエリカの紹介は続く。
やっぱりやらかしたのはランドールさんだった。
何を思ったのかというより、案の定エリカを口説こうとしだしたのだった。
鼻の下を伸ばした下卑た顔は、相変わらずの残念加減だった。
そこで男気を見せたのはマークだ。
いきなり覚醒し出すと、相手が神でも俺は引かないとバチバチとやり合っていた。
当のエリカはなんのことかと二人に見向きもしていなかった。
私は関係ないと、オズとガードナーと漫画について話し合っていた。
マーク・・・残念!
ていうかエロの神は健在だね。
その後ランドールさんはマリアさんにきついお仕置きを受けていた。
そりゃあそうだろう。
久しぶりにマリアさんに追い回されるランドールさんを見たよ。
ちょっと安心してしまった。
レイモンド様は相変わらずだ。
だが珍しくレイモンド様から、
「なんでー僕には様付きなのー」
と苦言を呈されてしまった。
少々意外なクレームだった。
以降レイモンドさんと呼ぶことにした。
レイモンドさんは大層喜んでいた。
こうなるとドラン様もドランさんと言わざるを得ない。
実際そう呼んでみたところ、ドランさんは普通に受け止めていた。
やっとかという顔をされたのには申し訳ないと思ってしまったぐらいだ。
結局の所、俺はある意味本当に神様に成ってしまった様である。
これまでは敬ってきた存在だが、肩を並べたとすら言える。
ただの誇称でしかないのだが、俺の知る全ての神様がそうなってしまったのだ。
何だかなと受け止める俺であった。
面倒なのが女神一同だった。
特にめんどうだったのはオリビアさんだ。
エリカが俺の隣に座っていたのが気に入らないのか、
「守さんの隣は私なの!」
俺とエリカの間にグイグイと割り込んできた。
なんでそうなるのかな?
俺にはよく分からん。
エリカも引いていた。
オリビアさんにエリカを紹介すると、少し和んだのか。
「私の主演映画は観てくれた?見て無いなら絶対観てね!」
何故か主演映画の宣伝をしていた。
にしてもオリビアさんの圧が凄い。
ちょっと近すぎるんですけど・・・顔が引っ付きそう・・・
まあ嫌じゃないけどさ。
オリビアさんは俺の隣から離れようとしない。
すると今度はエンゾさんだ。
「オリビア・・・あんたは本当に島野君が好きなのね」
とんでも無い事を言い出した。
「そうよ!悪い?」
おいおい!勘弁してくれよ。
「別にいいけど・・・」
エンゾさんは引いていた。
オリビアさんの勢いに負けている節すらある。
エンゾさんが気負けするなんて・・・
俺もちょっと複雑な心境だった。
嬉しくはあるのだが、何かちょっと違う気がしていたのだ。
うーん、表現に困る。
それを察してか、オリビアさんが俺に絡んでくる。
「ちょっと守さん、私が嫌いなの?」
この人まだ飲んで無いよね?
どういうことだ?
俺は何か間違ったのか?
「まさか?なんでそうなるの?」
これ以上の返しを俺は知らない。
それ以上があるのなら是非ご教授ください!
俺は創造神の爺さんのどや顔が頭に浮かんでいた。
勘弁してくれよ・・・全く。
俺の窮地に現れたのはアンジェリっちだ。
「守っち、オリビアに捕まったの?」
「・・・」
俺は無言で助けを求めた。
未だにオリビアさんは俺の腕を掴んで離さない。
「ちょっとオリビア!あんた守っちが困ってるじゃない。早くお風呂に行くわよ!」
アンジェリっちが命令口調でオリビアさんを叱っている。
「えー!もうちょっと守さんと居たいー!」
「あのねーあんた、守っちはあんたが独占出来る男じゃないって、こないだ話したわよね?ちゃんと聞いてたの?」
はあ?なんだそれ?
それはちょっと寂しい・・・
俺も人並みに恋愛がしたいんですけど・・・
なんでそうなるのかな?
俺を別格扱いしないでよ・・・
「良いじゃない、ねえ?守さん?」
「・・・」
もう何も言えなくなってしまった。
無償に寂しくなった。
正直言ってアンジェリっちからそう思われていることに、俺は大きなショックを受けていた。
なんだこの感情は・・・違うって!・・・俺はそんなんじゃないっての!
駄目だ・・・今は考えてはいけない・・・
マークじゃないが、ドツボに嵌る危険性がある。
今はそういう時ではないよな。
理性が先に立った。
此処は一旦脇に置かなければ。
よかった、マークの様を見ていなければ俺は取り乱していたかもしれない。
すまんなマーク。
俺はしれっと複式呼吸で心を静めることにした。
取り合えずこれでいいよね?・・・今は・・・
「オリビア!いいから行くのよ‼」
アンジェリっちはオリビアさんの耳を引っ張って女風呂に向かっていった。
マジか・・・昭和かよ・・・
横から不意に声がした。
「島野様はオモテになるのですね」
「いや・・・何かが違う気がする・・・」
ほんとにそう思う。
何だかな・・・
「でも、このサウナ島に来て島野様の偉大さがよく分かりました。北半球ではこんな光景はありえません。神様達が手を取り合い、南半球の平和が保たれている。そしてその中心には島野様が居る。それがよく分かりました。感動が止まりません。島野様が皆から愛されているのがよく分かりました」
「そうか?照れるじゃないか、止めてくれよ」
なんか背中が痒くなってきた。
エリカには悪いがいい気分転換になったよ。
「実際に『シマーノ』でそれを実感しました。ここサウナ島に来てさらにそれ以上であると分かりました、私は幸せです!」
「そうか、このサウナ島をよろしく頼むよ」
「はい!命一杯務めさせていただきます」
エリカの笑顔が眩しかった。
その後案の定上級神達が絡んできた。
「島野!何か辛い物を奢ってくれ!」
フレイズが騒いでいる。
何だが無性にイラっとしたので、俺は時間を停止して、フレイズの頭を問答無用で叩いてやった。
パシッ!といい音が停止空間で流れている。
フレイズが何が起こったのかと呆けていた。
流石の上級神でも時間停止には対応が出来ないみたいだ。
ちょっとすっきりした。
フレイズごめんな、タイミングが悪かったのだよ、許せよ。
ちょっと八つ当たりしたい気分だったんでね。
「島野・・・お前・・・何した?」
「教えねえよ!てか何も奢らねえからな!」
「おっ!おう」
機先を制されてフレイズは勢いを無くしていた。
もはやフレイズに振り回される俺ではないのだ。
標的を変えたフレイズは、メルルに激辛カレーを作れと無茶を言っていた。
俺はそんなフレイズを無視して外っておいた。
アースラさんは完全にサウナ島に馴染んでいた。
農業部の社員を引き連れて賑やかにしている。
「島野や、久しいのう」
「ご無沙汰です、今日も皆でお風呂ですか?」
「そうじゃ、嬉しいのう。皆がよう懐いてくれておる」
「その様ですね、今後も農業部を頼みますよ」
「ほほほ!ありがたいことよのう」
「お母様行きましょう」
アイリスさんも楽し気だ。
アースラさんとアイリスさん後を、農業部のスタッフ達が付いて行っていた。
皆な笑顔だ。
最近はアースラさんの花魁姿はあまり見なくなったなと思ったが、そこはツッコまないことにした。
次はウィンドミルさんとアクアマリンさんだ。
「あー島野だー」
「ほんとだー」
相変わらずの抜け感である。
どうやらバイト帰りの様だ。
「神界で会って以来だね」
「そうですね、お元気そうでなによりです」
「まあねー、島野ー。そろそろ此処に住んでもいい?」
あれ?まだ住んで無かったっけ?
とっくにここに住んでいるものと思っていたよ。
「いいですよ、手配しておきますね。エリカ早速仕事だ、明日にでも二人が住めるように部屋を手配してくれ」
「畏まりました」
エリカは何処から持ち出したのか、メモを取っていた。
良く出来る秘書だな。
大変助かる。
「よろしくねー」
「またねー」
二人は風呂に向かっていた。
相変わらずクールな対応だ。
安定の上級神だ。
何処かのアホと違って落ち着いている。
ちらっと周りを見渡すとプルゴブとメタンが話し込んでいた。
ここは俺は絶対に近づいちゃいけない。
俺にはデンジャラスゾーンだ。
信仰心の厚いツートップの会談だ。
混ぜるな危険である。
現に何故か神気が二人を中心に濛々と発生していた。
遅ればせながらにカインさんがやってきた。
もういい加減帰ろうと思っていたのに・・・。
カインさんは今日はもう来ないのかと思っていたが、二十二時のアウフグースに向けて来店したみたいだ。
カインさんは相変わらずカレーを愛して止まない神様だ。
今ではダンジョンの運営はそこそこに、カレーの新たな味の開発に余念が無いらしい。
俺を見つけると一目散に駆け寄ってきて、カレーのレシピの相談を受けてしまった。
おいおい、勘弁してくれよ。
今それをやるかね?
と言いたかったが、あまりの熱心さにそうとは言えなかった。
丁度タイミングよく五郎さんの所の大将が現れたので、しれっと矛先を大将に向けて俺は逃げることにした。
これが正解だったみたいだ。
二人は連れ立ってサウナに向かっていった。
何だかな・・・
ファメラは今日は来なかったが、後日ちゃんとエリカとの顔合わせは出来たみたいだ。
意外だったのはこの二人は相性が良かったのか、無茶苦茶仲良くなっていた。
数か月後には親友と呼び合う仲になるとは思いもよらなかった。
どこにそんな要素があるのか全く分からなかった。
エリカも子供好きだと後日知ったのだが、それだけでは済まされないほど仲が良かった。
ちょっとした謎である。
こうしてエリカの紹介は済んで、南半球とサウナ島での暮らしの下地は整ったのだが、先にも述べた通り、彼女の活躍は眼を見張るものになった。
もしかしたら俺が彼女に述べた一言が効いたのかもしれない。
それは、
「エリカ、君はこれまで自分を抑えて陰に紛れようと演じてきたのかもしれない。でもこれからは自分をさらけ出して大いに人生を楽しんで欲しい。君は転生者だ、これは何かしらの意味があってのことだと思う。俺は今一度人生を楽しんでくれという事だと思うんだ。遠慮は要らない、本気で人生を本気で遊ぼうじゃないか!それにエリカとファビオ、カミラの身の安全は完全に保証されたと考えていい、心置きなく楽しもうじゃないか!」
いい加減酔っぱらって喋った言葉だった。
珍しくそれを俺は覚えていた。
それは眼を見開いたエリカが無言で涙を流していたからだった。
俺はこの表情を見て嬉しくなったのだ。
そしてカミラもファビオも数年後には『サウナ島』には無くてはならない存在になっていた。
ファビオは数年後には熱波師として人気を博すことになる。
ファンも出来る程の一端の熱波師に育っていたのだ。
俺もその熱波を受けたのだが、いい熱波だったと太鼓判を押した。
まだまだノンには適わなかったが、充分上級サウナーのお墨付きを頂ける腕前であった。
それをファビオに伝えたところ、
「打倒ノン様です!」
そう力強く語っていた。
問題のカミラだが、気が付くと副料理長にまで昇格していた。
お腹周りも昇格していたのが残念である。
メルルに言わせると、
「あのしれっとつまみ食いする癖さえなければ、後を任せれるんですがね・・・」
困ったものだ。
あれだけ皆の前で釘を指したのに・・・いろいろな意味で太い奴だ。
実はこの頃にはメルルは第二の人生を歩もうと結婚を考えだしていた。
その相手はなんとジョシュアだった。
意外なカップルと思われた。
メルルからは結婚する際には俺からの祝いを期待すると、無理難題を押し付けられてしまった。
これは本当に困った。
この世界には結婚式はない。
結婚式があるのならスピーチを適当にやり過ごして、その責務から解放されるのだが、そうとはいかなかった。
そこで俺はいっそのこと、この世界初の結婚式をしてみたらと考えたのだ。
勿論細かい事は俺は関与しない。
此処はエリカに全て丸投げした。
俺の丸投げに眼を回していたエリカだが、数時間後には気持ちを切り替えたのか。
「実にやりがいがあります、任してください!」
鼻息が荒くなっていた。
俺はそれをしめしめと眺めていたのだが、決して口にはしなかった。
メルルには、いい加減厨房は誰かに任せて自分の幸せを優先してくれと説得し、メルルは無事めでたくこの世界初の結婚式を挙げたのだった。
それはとても幸せな空間だった。
俺も気が付いたらメルルとの出会いを思い出していた。
始めて会った彼女は、今にもその命を引き取ろうとしていたのだと。
余りに懐かしい出来事であった。
そして俺達の家族となった後の彼女の活躍と、そのバイタリティーをスピーチで語った。
島野一家とマークとランド、そしてロンメルは涙に暮れていた。
メタンはと言うと・・・大号泣していた。
だと思ったよ、全く。
こうしてこの世界初の結婚式は、幸せに包まれて幕を下ろしたのだった。
その数年後には、俺は生れてくる子供の名づけに本気で困っていた。
だってこれまで名づけ捲ってきたからね。
これまでにない良い名前をお願いしますと、ジョシュアから言われた時には逃げ出したくなったぐらいだ。
そして何とか捻りだした名前は、
『ホノカ』だった。
日本語にすると『穂香』となる。
人生が実って香るほどの幸せな人生を歩んで欲しいとの思いを込めた名前だ。
これを二人は喜んでくれた。
久しぶりに名づけに真剣になってしまった俺だった。
でもこれまでが適当にしてきた訳では無いからね・・・
否・・・適当だったな・・・たぶん・・・。
反省!