ラファエルは旅に出ることにした。
その理由はまだこの世界を分かっていないという実感があったことと、神に成ることに強烈な興味を覚えたからだった。
そしてラファエルは大きな決断をする。
それは何としても神に成るというものだった。
ラファエルにとっての神とはこの世の絶対者である。
この世界の最高者であるということだ。
神になれば何でも自分の思うが儘に出来ると考えたのだ。
ラファエルが神に成る理由は一つしかない。
それはザックおじさんを蘇生させることだった。
ザックおじさんを今一度この世に蘇らせる。
神になればそれは叶うだろうとラファエルは疑わない。
神とはそんな存在であると疑わなかった。
実際はそれを出来るのは、唯一創造神でしかないのだが、それをラファエルは知らない。
そしてラファエルは一つの奇跡を叶えることになった。
その強烈な想いに答えて世界がラファエルの請願に答えたのだ。
ラファエルは人間から仙人に進化していたのである。
それは恐らく自身の中に眠る進化の魂に触れたのではなく。
この世界に来てからのその暮らしぶりや、ザックおじさんとの関係に、一定の修業的な要素があったのかもしれない。
本当の所は創造神のみぞ知るである。
実にラファエルはその強烈な情念で進化してしまったのだ。
こうなると寿命の問題はある意味解決出来ていた。
残された時間を気にすること無くその人生を全うできるのだから。
何としても神に成り、ザックおじさんに再び会う事、ラファエルにはそれが全てになっていた。
その想いは強い、生まれてこの方、始めて覚える程の強い衝動だった。
こうなるとラファエルは止まらない。
何をもってしてもその願いを叶えると、邁進するのである。
目指す国は武装国家『ドミニオン』
これまでに北半球にいる神様の情報は集めれるだけ集めた。
織物の神、細工の神、陶芸の神、そしてエンシェントドラゴンが居るということを知った。
それ以外にも神はいるということであったが、集まった情報はこれぐらいである。
なんと言っても北半球は広いのだ。
全ての神の情報を集められる訳がない。
現在の日本の様にインターネットなど存在しないのだから。
因みにこの時まだダイコクは商売の神に成ってはいない。
商売人として切磋琢磨している段階であった。
そしてこの世界の絶対者が想像神であることをラファエルは知る。
神にもランクがあり、その最高位に居るのが創造神であると。
自分が目指すのはそこであると、腹を決めたのだった。
ラファエルはまずは陶芸の神ポタリーに会うことにした。
ポタリーは今ではその居を武装国家『ドミニオン』に移していた。
ポタリーに会うことを決心した理由は特に無い。
強いて言うならば一番早く会える位置にいたからだ。
これまでの情報を精査すると、エンシェントドラゴンは奥深い山岳地帯におり、とても簡単に辿り着ける場所に居ないということ。
さらに織物の神は北極にある極寒の街に住んでおり、またそこに行くには陸路では半年近くかかるかもしれないということらしく、細工の神は流浪の神で、どこに居るのかよく分からなかったのだ。
そうなってくると陶磁器の神ポタリーしか居なかった。
ポタリーは勝気な女神ということだったが、そんなことはどうでもよかった。
ラファエルはどうやって神に成るのかを知りたかったのだ。
ザックおじさんからは実績を積むという事を教わったが、なんともふわっとしていてピンと来ていなかった。
それに思慮深いラファエルはそれだけでは無いと勘づいていたのだ。
実績を積むとは何なのかよく分からない。
何をもって実績なのか?
エンシェントドラゴンは別として、何々の神とそう評される様に、一芸に特化したものであるとは予想がついているのだが、本当にそうなんだろうか?と頭を悩ませていた。
もしそうであった場合、ラファエルには何があるだろうか?
特化した技術となるとラファエルには催眠ということになる。
催眠の神?本当にそんなジャンルがあるのだろうか?
そもそもラファエルはそんなことには拘っていない。
ラファエルの目的からは離れてしまう気がしていたのだ。
詰まる処、ラファエルの目指す神は創造神なのだ。
どうしたら創造神に成れるのか?
途方もない話ではあるのだが、ラファエルは決して諦めない。
もしそんなことを口にしようものなら、その行為を止めない者はいないだろう。
またはこいつはイカレているとでも言われるに違いない。
それぐらいの遥か遠き道であった。
だがラファエルはそれを知ってもなお、その志を改める気は無い。
何が何でも自分の想いを叶えると疑わないのだ。
そしてラファエルは資金力を有しており、寿命も仙人になったことによってあまり時間を気にしなくてもよくなった。
時間は果てしなく掛かるだろう、でも可能性はゼロでは無かろうと諦める気にはなれなかった。
ラファエルの決心は堅い。
もはや何を持ってもそれは砕くことはできないだろう。
どうしても必ずその想いを叶えると、ラファエルはザックおじさんに誓ったのだ。
その誓いは尊い。
ザックおじさんのお店は今ではラファエルの所有物になっていた。
本当は国がザックおじさんのお店を接収し、その財産は『イヤーズ』の物となっていたのだが、ラファエルは恫喝するかの如くそれを阻止し、我物にしていた。
ラファエルにとってはそんなことは容易い。
これも夢の為だった。
ラファエルはもう一度ザックおじさんと、愛して止まないあの小さなお店の二階でワインを飲み、語りあいたかったのだ。
それ以外のことはもはやどうでもよかった。
ラファエルは憑りついているかの如く、神に成ることを目指した。
ラファエルの神に至る旅がここに始まったのである。
ポタリーに会う為の旅は過酷な旅になった。
なによりその移動距離が長いのだ。
馬車での移動は思いの外体力を奪う。
仙人になったと言っても、体力が大幅に増えた訳ではない。
それにラファエルはそもそも身体を鍛え上げているのではないのだ。
守との大きな違いはここに有った。
守は何のかんのといっては身体を使うことをしてきていたのだ、農業に従事したり、大工作業を行ったり、狩りを行ったりと、そして能力の開発に力を入れていたのだ。
これまでのラファエルは金銭を稼ぐことに注力していきていた。
結果として今のステータスは以下の通りである。
『鑑定』
名前:ラファエル・バーンズ
種族:仙人
職業:商人Lv8
神気:0
体力:645
魔力:657
能力:土魔法Lv2 火魔法LV2 鑑定魔法LV4 催眠魔法LV1 契約魔法Lv5 照明魔法LV1 浄化魔法LV1
旅の工程はおよそ三ヶ月の予定だった。
だが今のペースではその倍は掛かりそうである。
体力を奪う馬車の旅にラファエルは辟易していた。
ラファエルはここで見直しを行うことにした。
今は護衛に守られて命の安全は保障されている。
何といってもSランクのハンター達を数名従えているのだ。
よほどの事が無い限り魔獣に遭遇しても命の危険は無いのだ。
何時までも今の儘とはいかない。
そこでラファエルはハンター達と共に狩りを行い、時間を見つけては魔法のレベル上げを行うことにした。
時間はたっぷりとある。
何も焦る必要は無い。
馬車の中で揺られるだけではなく、積極的に身体を動かすことにしたのだ。
ラファエルは時間を見つけては、狩りに同行することにした。
最初は狩りの邪魔になると護衛達は嫌がったのだが、雇い主の言う事を聞かない訳にはいかない。
ただでさえ破格の金額を貰っているのだ。
ラファエルの我儘にも付き合うしかなかった。
それに護衛の期間が長くなることもありがたい事でもあった。
契約の内容としては、一日いくらという日雇いの物であったのだから。
ハンター達はラファエルに付き合うことにした。
それにラファエルは飲み込みが早い、教えがいもあったのだ。
旅を終える頃にはラファエルは、それなりの強者に仕上がっていた。
ハンターランクとしてはBランクに相当するほどの力を得ていた。
魔法のレベルも挙がってきている。
ステータスは以下の通りである。
『鑑定』
名前:ラファエル・バーンズ
種族:仙人
職業:商人Lv15
神気:0
体力:1467
魔力:1653
能力:土魔法Lv5 火魔法LV5 鑑定魔法LV4 催眠魔法LV1 契約魔法Lv5 照明魔法LV3 浄化魔法LV3
魔獣化したジャイアントボアぐらいなら一人でも仕留められるレベルに成っていた。
次の街では武器を買おうと考えていたぐらいだ。
魔法だけでは物足りず、剣技も鍛えようと考えていた。
ラファエルは元々人間としては力が強かった方なのだ、鍛えればすぐにでも強くなれることだろう。
結局『ドミニオン』に到着するには半年の期間を有した。
寿命の事をあまり考えなくていいラファエルにとっては、時間はさほど問題ではないのだ。
とは言っても寿命が無くなった訳ではない。
三千年もすればその寿命は尽きる。
ただラファエルは焦らない。
ラファエルにとっては『イヤーズ』以外の国に訪れるのは初めてであった。途中魔道国『エスペランザ』に寄ることもできたのだが、彼は立ち寄らなかった。
時間に余裕はあるとはいっても、悠長にしている訳ではないからだ。
武装国家『ドミニオン』に着くと、ラファエルはポタリーの所在を尋ねて周った。
所謂聞き込みを行ったのだ。
ポタリーの所在は直ぐに明らかになった。
ポタリーは『ドミニオン』に工房を持っており、その作品を販売するお店も併設されているとのことだった。
まずはそのお店にラファエルは立ち寄った。
お店の中に入るとたくさんの陶磁器が所狭しと並んでいた。
ラファエルは関心していた。
どの品も一級品と呼べる品物だらけである。
否、一級品ではない。最高級品を言ってもいいだろう。
陶磁器に関して詳しくないラファエルだが、素人目にも芸術品であると思えた。
それぐらい素晴らしい品々だったのである。
(これが神が造る陶磁器か・・・まさかここまでとは・・・)
ラファエルの心に感動が押し寄せてくる。
一芸を極めた者が造る作品は感動を生むものなのだ。
そこには見る者を魅了する何かがある。
もはや作品を手に取ることすら憚られる。
その芸術品に囲まれて、感嘆のため息すらも零れそうであった。
すると店員がラファエルに近寄ってきた。
店員がさりげなく声を掛けてくる。
「何か気になった商品はありましたか?」
「ああ、全ての作品が気になったよ。ここまでくると商品なんて表現は失礼だ。これはれっきとした作品だよ。否、芸術品だ!」
「あはは!皆さんよくその様に言われますよ、ポタリー様は作品に魂を込めますからね。確かに芸術品ですね」
「そうだろう、素晴らしいよ!」
ラファエルは素直に褒めた。
否、褒めざるを得ないといったところか。
「ありがとうございます。では何かありましたらお声がけください」
店員の接客も付かず離れずの距離感で心地いい。
実に好感が持てる。
「実はポタリー様にお会いしたいのだが、可能だろうか?」
店員は少々残念な表情を浮かべた。
「そうですか、申し訳ないのですが、今は工房に籠ってますので無理ですね、ポタリー様は工房に籠り出すとなかなか出てこないので、特に火入れの作業となると数日は出てこないですね」
「そうなのか、それは数日間飲まず食わずということなのか?」
「いいえ、流石に水分は採ります、でも食べることはなさりません」
ラファエルは首を振っていた。
「凄いな・・・それでよく生きていられるな・・・」
「神様ですからね、ある意味永遠の命を持っていますので」
当たり前の事と店員が答える。
「そうか・・・そうだったな。神様だったな、死なないのか・・・」
「ポタリー様曰く、神力が無くなると人間と変わらないとは仰ってましたけどね」
「神力?」
「ええ、私達人間は魔力を持っているでしょ?神様は神力を持っているのですよ」
「ほう?それは興味深いな」
「そうですか、でもこれぐらいの事しか私は存じ上げません」
「いや、ありがとう。良い事を聞いた、助かる」
「はあ・・・」
店員は首を傾げている。
「それでポタリー様はどれぐらいで工房から出て来られるのだろうか?」
「そうですね、おそらく三日以上は出て来られないでしょうね」
「そうか、ではまたそれぐらいに顔を出させて貰うとしよう」
「どういったご用件でしたか?」
「いや、本人に直接話させて貰う事にするよ」
少し店員は訝しんだ。
「そうですか・・・」
「ではいくつか芸術品を購入させて貰うとしよう」
「ありがとうございます!」
店員の表情が華やかになる。
ラファエルは気に入った陶磁器を数点購入してお店を去ることにした。
それなりの散財をしていた。
彼は意図的に高額な作品を中心に買い漁っていた。
それからの数日間は『ドミニオン』を見て周った。
ラファエルの印象としては『イヤーズ』とさほど変わらないなという程度だったが、水道などのインフラは無い為、多少は田舎に見えた。
ラファエルは主に買い物などを行い、今後に備えることにした。
武器屋に寄って、武器や、防具も買いそろえた。
今ではマジックバックもいくつか携帯している為、収納先には困らない。
そうこうしていると三日は簡単に過ぎていた。
そろそろ居るだろうと、ラファエルはポタリーのお店に行くことにした。
お店に着くと前回接客をしてくれた店員が近寄ってきた。
「先日はお買い上げありがとうございました。居ますよ」
前回高額な作品を購入したことが功を奏したのか、店員は上機嫌だった。
「そうか、それはありがたい」
しめしめとラファエルはほくそ笑む。
高額な陶磁器を敢えて買い漁ったのはこの為だった。
VIPだと思われれば、ポタリーには簡単に紹介して貰えると考えたからだ。
神にはそんなことは通じないかもしれないが、店員は人間だ。
損得勘定は芽生えて当然ということだ。
「ではここでお待ちください」
そう言うと店員はバックルームに入っていった。
数分後、ポタリーと思わしき女性と店員は共に現れた。
その女性は髪をバッサリと刈り上げたボーイッシュな髪形をしていた。
大きな眼が特徴的で、勝気な性格がその眼に現れていた。
とてもカッコいい女神であった。
他者を圧倒する程の威喝感も有している。
実に引き締まった身体をしていた。
「あたいに何か用かい?」
ポタリーは事も無げに語りかける。
「はい」
「何でもあたいの作品を随分と買ってくれたみたいだね。恩にきるよ」
ポタリーは手を挙げて謝意を表した。
「いえ、どれも購入に値する作品でした。大事に使わせていただきます」
「そうかい、で?あたいに要件は何だい?」
どうにもポタリーはせっかちな性格の様である。
早く言えとせっついている。
「実は・・・神様について教えて欲しいのです」
「はあ?何だってそんなことを知りたいんだい?」
「それは・・・俺は神に成りたいからです・・・否、成らなければならないからです!」
ラファエルは嘘偽りなく答えた。
その声や表情には悲壮感すら浮かんでいる。
ポタリーの質問にさらりと躱すことも出来たが、相手は神だ。
どんな能力を持っているのか分からない。
それに小手先では通用しないとラファエルは考えた。
「成らなければならないって・・・どういうことだい?」
ポタリーは遠慮気味に聞いていた。
「それは・・・出来れば話したくは無いです・・・」
これも偽らない言葉だった。
ザックおじさんの事を思い出すと今でも涙が溢れてくるからだ。
それ程にザックおじさんのことをラファエルは想っているのだ。
「そうかい・・・まあ無理やりには聞くまいよ・・・それにしても・・・神の何を知りたいってんだい?あたいは大して詳しくはないよ」
実際にポタリーはあまり神について詳しくはない。
「何でもいいです、知る限りの全てを教えて欲しいのです。お願いします!」
ラファエルは謙虚に頭を下げていた。
その様に護衛達は驚いていた。
あの傲慢なラファエルが頭を下げるとは・・・
「・・・なんだかねえ・・・あたいで良ければ答えてやるよ・・・」
ポタリーはしょうがないなと苦い顔をしている。
よし!とラファエルは心の中で叫んでいた。
思い通りだと、その心を躍らせた。
「それで神の何を知りたいんだい?」
「まずはどうやったら神に成れるのかですね」
ラファエルは単刀直入に切り込んだ。
「そうかい、あたいは気が付いたら成っちまってたってところが本当の所さ」
「それはどういうことですか?」
「いやさ、見ての通りあたいは生粋の職人肌でね。親父が陶芸家だったのさ、その意思を継いであたいも陶芸家になったのさ」
「なるほど」
ラファエルは頷く。
「来る日も来る日も陶芸と向き合って過ごしてきたよ、集中すると止められない性格でね、何度か気が付いたら倒れてたなんてこともあったさ」
「それは・・・凄いですね・・・」
「まあ、そう言った性分なんでね。突き詰めたいのさ、あたいはさ。そうしないと気が済まない性格なんだよ」
「はあ・・・」
「最高の陶磁器を造ろうと釜に向き合い続けていたら、気が付いたら世界の声がしてね」
「世界の声ですか?」
ラファエルはなにが何だか分からない。
「ああ、いつものレベルアップの時と同じ声だったよ、その声が言ったんだ『神になる技量と実績を満たしました、神に成ることを了承しますか?』ってね」
「技量と実績ですか・・・」
ラファエルはいまいちピンと来ていなかった。
「確かそうだったと思う、たぶん・・・何せ三百年以上も前の事だからね。勘弁しておくれよ」
「いえ、ありがとうございます」
「こんなことでいいのかい?」
「もっと聞きたいことがあります」
「どうやらそんな感じだね、ふう、場所を変えるかい?」
「助かります」
ラファエルはポタリーに誘われるが儘に、後を付いて行った。
此処からは長い一日となった。
その理由はまだこの世界を分かっていないという実感があったことと、神に成ることに強烈な興味を覚えたからだった。
そしてラファエルは大きな決断をする。
それは何としても神に成るというものだった。
ラファエルにとっての神とはこの世の絶対者である。
この世界の最高者であるということだ。
神になれば何でも自分の思うが儘に出来ると考えたのだ。
ラファエルが神に成る理由は一つしかない。
それはザックおじさんを蘇生させることだった。
ザックおじさんを今一度この世に蘇らせる。
神になればそれは叶うだろうとラファエルは疑わない。
神とはそんな存在であると疑わなかった。
実際はそれを出来るのは、唯一創造神でしかないのだが、それをラファエルは知らない。
そしてラファエルは一つの奇跡を叶えることになった。
その強烈な想いに答えて世界がラファエルの請願に答えたのだ。
ラファエルは人間から仙人に進化していたのである。
それは恐らく自身の中に眠る進化の魂に触れたのではなく。
この世界に来てからのその暮らしぶりや、ザックおじさんとの関係に、一定の修業的な要素があったのかもしれない。
本当の所は創造神のみぞ知るである。
実にラファエルはその強烈な情念で進化してしまったのだ。
こうなると寿命の問題はある意味解決出来ていた。
残された時間を気にすること無くその人生を全うできるのだから。
何としても神に成り、ザックおじさんに再び会う事、ラファエルにはそれが全てになっていた。
その想いは強い、生まれてこの方、始めて覚える程の強い衝動だった。
こうなるとラファエルは止まらない。
何をもってしてもその願いを叶えると、邁進するのである。
目指す国は武装国家『ドミニオン』
これまでに北半球にいる神様の情報は集めれるだけ集めた。
織物の神、細工の神、陶芸の神、そしてエンシェントドラゴンが居るということを知った。
それ以外にも神はいるということであったが、集まった情報はこれぐらいである。
なんと言っても北半球は広いのだ。
全ての神の情報を集められる訳がない。
現在の日本の様にインターネットなど存在しないのだから。
因みにこの時まだダイコクは商売の神に成ってはいない。
商売人として切磋琢磨している段階であった。
そしてこの世界の絶対者が想像神であることをラファエルは知る。
神にもランクがあり、その最高位に居るのが創造神であると。
自分が目指すのはそこであると、腹を決めたのだった。
ラファエルはまずは陶芸の神ポタリーに会うことにした。
ポタリーは今ではその居を武装国家『ドミニオン』に移していた。
ポタリーに会うことを決心した理由は特に無い。
強いて言うならば一番早く会える位置にいたからだ。
これまでの情報を精査すると、エンシェントドラゴンは奥深い山岳地帯におり、とても簡単に辿り着ける場所に居ないということ。
さらに織物の神は北極にある極寒の街に住んでおり、またそこに行くには陸路では半年近くかかるかもしれないということらしく、細工の神は流浪の神で、どこに居るのかよく分からなかったのだ。
そうなってくると陶磁器の神ポタリーしか居なかった。
ポタリーは勝気な女神ということだったが、そんなことはどうでもよかった。
ラファエルはどうやって神に成るのかを知りたかったのだ。
ザックおじさんからは実績を積むという事を教わったが、なんともふわっとしていてピンと来ていなかった。
それに思慮深いラファエルはそれだけでは無いと勘づいていたのだ。
実績を積むとは何なのかよく分からない。
何をもって実績なのか?
エンシェントドラゴンは別として、何々の神とそう評される様に、一芸に特化したものであるとは予想がついているのだが、本当にそうなんだろうか?と頭を悩ませていた。
もしそうであった場合、ラファエルには何があるだろうか?
特化した技術となるとラファエルには催眠ということになる。
催眠の神?本当にそんなジャンルがあるのだろうか?
そもそもラファエルはそんなことには拘っていない。
ラファエルの目的からは離れてしまう気がしていたのだ。
詰まる処、ラファエルの目指す神は創造神なのだ。
どうしたら創造神に成れるのか?
途方もない話ではあるのだが、ラファエルは決して諦めない。
もしそんなことを口にしようものなら、その行為を止めない者はいないだろう。
またはこいつはイカレているとでも言われるに違いない。
それぐらいの遥か遠き道であった。
だがラファエルはそれを知ってもなお、その志を改める気は無い。
何が何でも自分の想いを叶えると疑わないのだ。
そしてラファエルは資金力を有しており、寿命も仙人になったことによってあまり時間を気にしなくてもよくなった。
時間は果てしなく掛かるだろう、でも可能性はゼロでは無かろうと諦める気にはなれなかった。
ラファエルの決心は堅い。
もはや何を持ってもそれは砕くことはできないだろう。
どうしても必ずその想いを叶えると、ラファエルはザックおじさんに誓ったのだ。
その誓いは尊い。
ザックおじさんのお店は今ではラファエルの所有物になっていた。
本当は国がザックおじさんのお店を接収し、その財産は『イヤーズ』の物となっていたのだが、ラファエルは恫喝するかの如くそれを阻止し、我物にしていた。
ラファエルにとってはそんなことは容易い。
これも夢の為だった。
ラファエルはもう一度ザックおじさんと、愛して止まないあの小さなお店の二階でワインを飲み、語りあいたかったのだ。
それ以外のことはもはやどうでもよかった。
ラファエルは憑りついているかの如く、神に成ることを目指した。
ラファエルの神に至る旅がここに始まったのである。
ポタリーに会う為の旅は過酷な旅になった。
なによりその移動距離が長いのだ。
馬車での移動は思いの外体力を奪う。
仙人になったと言っても、体力が大幅に増えた訳ではない。
それにラファエルはそもそも身体を鍛え上げているのではないのだ。
守との大きな違いはここに有った。
守は何のかんのといっては身体を使うことをしてきていたのだ、農業に従事したり、大工作業を行ったり、狩りを行ったりと、そして能力の開発に力を入れていたのだ。
これまでのラファエルは金銭を稼ぐことに注力していきていた。
結果として今のステータスは以下の通りである。
『鑑定』
名前:ラファエル・バーンズ
種族:仙人
職業:商人Lv8
神気:0
体力:645
魔力:657
能力:土魔法Lv2 火魔法LV2 鑑定魔法LV4 催眠魔法LV1 契約魔法Lv5 照明魔法LV1 浄化魔法LV1
旅の工程はおよそ三ヶ月の予定だった。
だが今のペースではその倍は掛かりそうである。
体力を奪う馬車の旅にラファエルは辟易していた。
ラファエルはここで見直しを行うことにした。
今は護衛に守られて命の安全は保障されている。
何といってもSランクのハンター達を数名従えているのだ。
よほどの事が無い限り魔獣に遭遇しても命の危険は無いのだ。
何時までも今の儘とはいかない。
そこでラファエルはハンター達と共に狩りを行い、時間を見つけては魔法のレベル上げを行うことにした。
時間はたっぷりとある。
何も焦る必要は無い。
馬車の中で揺られるだけではなく、積極的に身体を動かすことにしたのだ。
ラファエルは時間を見つけては、狩りに同行することにした。
最初は狩りの邪魔になると護衛達は嫌がったのだが、雇い主の言う事を聞かない訳にはいかない。
ただでさえ破格の金額を貰っているのだ。
ラファエルの我儘にも付き合うしかなかった。
それに護衛の期間が長くなることもありがたい事でもあった。
契約の内容としては、一日いくらという日雇いの物であったのだから。
ハンター達はラファエルに付き合うことにした。
それにラファエルは飲み込みが早い、教えがいもあったのだ。
旅を終える頃にはラファエルは、それなりの強者に仕上がっていた。
ハンターランクとしてはBランクに相当するほどの力を得ていた。
魔法のレベルも挙がってきている。
ステータスは以下の通りである。
『鑑定』
名前:ラファエル・バーンズ
種族:仙人
職業:商人Lv15
神気:0
体力:1467
魔力:1653
能力:土魔法Lv5 火魔法LV5 鑑定魔法LV4 催眠魔法LV1 契約魔法Lv5 照明魔法LV3 浄化魔法LV3
魔獣化したジャイアントボアぐらいなら一人でも仕留められるレベルに成っていた。
次の街では武器を買おうと考えていたぐらいだ。
魔法だけでは物足りず、剣技も鍛えようと考えていた。
ラファエルは元々人間としては力が強かった方なのだ、鍛えればすぐにでも強くなれることだろう。
結局『ドミニオン』に到着するには半年の期間を有した。
寿命の事をあまり考えなくていいラファエルにとっては、時間はさほど問題ではないのだ。
とは言っても寿命が無くなった訳ではない。
三千年もすればその寿命は尽きる。
ただラファエルは焦らない。
ラファエルにとっては『イヤーズ』以外の国に訪れるのは初めてであった。途中魔道国『エスペランザ』に寄ることもできたのだが、彼は立ち寄らなかった。
時間に余裕はあるとはいっても、悠長にしている訳ではないからだ。
武装国家『ドミニオン』に着くと、ラファエルはポタリーの所在を尋ねて周った。
所謂聞き込みを行ったのだ。
ポタリーの所在は直ぐに明らかになった。
ポタリーは『ドミニオン』に工房を持っており、その作品を販売するお店も併設されているとのことだった。
まずはそのお店にラファエルは立ち寄った。
お店の中に入るとたくさんの陶磁器が所狭しと並んでいた。
ラファエルは関心していた。
どの品も一級品と呼べる品物だらけである。
否、一級品ではない。最高級品を言ってもいいだろう。
陶磁器に関して詳しくないラファエルだが、素人目にも芸術品であると思えた。
それぐらい素晴らしい品々だったのである。
(これが神が造る陶磁器か・・・まさかここまでとは・・・)
ラファエルの心に感動が押し寄せてくる。
一芸を極めた者が造る作品は感動を生むものなのだ。
そこには見る者を魅了する何かがある。
もはや作品を手に取ることすら憚られる。
その芸術品に囲まれて、感嘆のため息すらも零れそうであった。
すると店員がラファエルに近寄ってきた。
店員がさりげなく声を掛けてくる。
「何か気になった商品はありましたか?」
「ああ、全ての作品が気になったよ。ここまでくると商品なんて表現は失礼だ。これはれっきとした作品だよ。否、芸術品だ!」
「あはは!皆さんよくその様に言われますよ、ポタリー様は作品に魂を込めますからね。確かに芸術品ですね」
「そうだろう、素晴らしいよ!」
ラファエルは素直に褒めた。
否、褒めざるを得ないといったところか。
「ありがとうございます。では何かありましたらお声がけください」
店員の接客も付かず離れずの距離感で心地いい。
実に好感が持てる。
「実はポタリー様にお会いしたいのだが、可能だろうか?」
店員は少々残念な表情を浮かべた。
「そうですか、申し訳ないのですが、今は工房に籠ってますので無理ですね、ポタリー様は工房に籠り出すとなかなか出てこないので、特に火入れの作業となると数日は出てこないですね」
「そうなのか、それは数日間飲まず食わずということなのか?」
「いいえ、流石に水分は採ります、でも食べることはなさりません」
ラファエルは首を振っていた。
「凄いな・・・それでよく生きていられるな・・・」
「神様ですからね、ある意味永遠の命を持っていますので」
当たり前の事と店員が答える。
「そうか・・・そうだったな。神様だったな、死なないのか・・・」
「ポタリー様曰く、神力が無くなると人間と変わらないとは仰ってましたけどね」
「神力?」
「ええ、私達人間は魔力を持っているでしょ?神様は神力を持っているのですよ」
「ほう?それは興味深いな」
「そうですか、でもこれぐらいの事しか私は存じ上げません」
「いや、ありがとう。良い事を聞いた、助かる」
「はあ・・・」
店員は首を傾げている。
「それでポタリー様はどれぐらいで工房から出て来られるのだろうか?」
「そうですね、おそらく三日以上は出て来られないでしょうね」
「そうか、ではまたそれぐらいに顔を出させて貰うとしよう」
「どういったご用件でしたか?」
「いや、本人に直接話させて貰う事にするよ」
少し店員は訝しんだ。
「そうですか・・・」
「ではいくつか芸術品を購入させて貰うとしよう」
「ありがとうございます!」
店員の表情が華やかになる。
ラファエルは気に入った陶磁器を数点購入してお店を去ることにした。
それなりの散財をしていた。
彼は意図的に高額な作品を中心に買い漁っていた。
それからの数日間は『ドミニオン』を見て周った。
ラファエルの印象としては『イヤーズ』とさほど変わらないなという程度だったが、水道などのインフラは無い為、多少は田舎に見えた。
ラファエルは主に買い物などを行い、今後に備えることにした。
武器屋に寄って、武器や、防具も買いそろえた。
今ではマジックバックもいくつか携帯している為、収納先には困らない。
そうこうしていると三日は簡単に過ぎていた。
そろそろ居るだろうと、ラファエルはポタリーのお店に行くことにした。
お店に着くと前回接客をしてくれた店員が近寄ってきた。
「先日はお買い上げありがとうございました。居ますよ」
前回高額な作品を購入したことが功を奏したのか、店員は上機嫌だった。
「そうか、それはありがたい」
しめしめとラファエルはほくそ笑む。
高額な陶磁器を敢えて買い漁ったのはこの為だった。
VIPだと思われれば、ポタリーには簡単に紹介して貰えると考えたからだ。
神にはそんなことは通じないかもしれないが、店員は人間だ。
損得勘定は芽生えて当然ということだ。
「ではここでお待ちください」
そう言うと店員はバックルームに入っていった。
数分後、ポタリーと思わしき女性と店員は共に現れた。
その女性は髪をバッサリと刈り上げたボーイッシュな髪形をしていた。
大きな眼が特徴的で、勝気な性格がその眼に現れていた。
とてもカッコいい女神であった。
他者を圧倒する程の威喝感も有している。
実に引き締まった身体をしていた。
「あたいに何か用かい?」
ポタリーは事も無げに語りかける。
「はい」
「何でもあたいの作品を随分と買ってくれたみたいだね。恩にきるよ」
ポタリーは手を挙げて謝意を表した。
「いえ、どれも購入に値する作品でした。大事に使わせていただきます」
「そうかい、で?あたいに要件は何だい?」
どうにもポタリーはせっかちな性格の様である。
早く言えとせっついている。
「実は・・・神様について教えて欲しいのです」
「はあ?何だってそんなことを知りたいんだい?」
「それは・・・俺は神に成りたいからです・・・否、成らなければならないからです!」
ラファエルは嘘偽りなく答えた。
その声や表情には悲壮感すら浮かんでいる。
ポタリーの質問にさらりと躱すことも出来たが、相手は神だ。
どんな能力を持っているのか分からない。
それに小手先では通用しないとラファエルは考えた。
「成らなければならないって・・・どういうことだい?」
ポタリーは遠慮気味に聞いていた。
「それは・・・出来れば話したくは無いです・・・」
これも偽らない言葉だった。
ザックおじさんの事を思い出すと今でも涙が溢れてくるからだ。
それ程にザックおじさんのことをラファエルは想っているのだ。
「そうかい・・・まあ無理やりには聞くまいよ・・・それにしても・・・神の何を知りたいってんだい?あたいは大して詳しくはないよ」
実際にポタリーはあまり神について詳しくはない。
「何でもいいです、知る限りの全てを教えて欲しいのです。お願いします!」
ラファエルは謙虚に頭を下げていた。
その様に護衛達は驚いていた。
あの傲慢なラファエルが頭を下げるとは・・・
「・・・なんだかねえ・・・あたいで良ければ答えてやるよ・・・」
ポタリーはしょうがないなと苦い顔をしている。
よし!とラファエルは心の中で叫んでいた。
思い通りだと、その心を躍らせた。
「それで神の何を知りたいんだい?」
「まずはどうやったら神に成れるのかですね」
ラファエルは単刀直入に切り込んだ。
「そうかい、あたいは気が付いたら成っちまってたってところが本当の所さ」
「それはどういうことですか?」
「いやさ、見ての通りあたいは生粋の職人肌でね。親父が陶芸家だったのさ、その意思を継いであたいも陶芸家になったのさ」
「なるほど」
ラファエルは頷く。
「来る日も来る日も陶芸と向き合って過ごしてきたよ、集中すると止められない性格でね、何度か気が付いたら倒れてたなんてこともあったさ」
「それは・・・凄いですね・・・」
「まあ、そう言った性分なんでね。突き詰めたいのさ、あたいはさ。そうしないと気が済まない性格なんだよ」
「はあ・・・」
「最高の陶磁器を造ろうと釜に向き合い続けていたら、気が付いたら世界の声がしてね」
「世界の声ですか?」
ラファエルはなにが何だか分からない。
「ああ、いつものレベルアップの時と同じ声だったよ、その声が言ったんだ『神になる技量と実績を満たしました、神に成ることを了承しますか?』ってね」
「技量と実績ですか・・・」
ラファエルはいまいちピンと来ていなかった。
「確かそうだったと思う、たぶん・・・何せ三百年以上も前の事だからね。勘弁しておくれよ」
「いえ、ありがとうございます」
「こんなことでいいのかい?」
「もっと聞きたいことがあります」
「どうやらそんな感じだね、ふう、場所を変えるかい?」
「助かります」
ラファエルはポタリーに誘われるが儘に、後を付いて行った。
此処からは長い一日となった。