エリカは焦れていた。
『シマーノ』で守を待つと決めてから既に一週間が経っていた。
ゴブオクンから得た情報では数日中に守は『シマーノ』に帰って来るとの話しだった。
だが守は現れなかった。

憔悴したエリカは考える。
(ドラゴムに向かうべきだろうか?否、すれ違いは不味い。それに島野守、否、島野様は転移の能力がある。動くべきではないわ、ここは辛抱するのよ)
実はこの決断が正解だった。
もし業を煮やしてドラゴムにエリカが向かっていたら、守とすれ違うことになってしまっていたからだ。

でもその決断の本心には別の思惑があった。
エリカは漫画喫茶にもっと通い詰めたかったのだ。
エリカの知らない新たな作品の漫画の数々をまだまだ読みたいと思っていたからだ。
まだ読めていない作品は多い。
残念ながらエリカの本性は欲望に忠実だったのだ。
彼女の漫画熱は鉄を溶かすほどに熱い。

既に護衛の二人もエリカの決断に賛同していた。
信仰宗教国家『イヤーズ』に帰らずに、この魔物同盟国に亡命すると。
二人も魔物同盟国『シマーノ』にド嵌りしていた。
否、心酔していた。
今ではどうしたら魔物同盟国『シマーノ』の一員に成れるのかを夢想する日々だった。
そんな彼らを責めてはいけない。
なぜならば、幼少期からのエリカを知る彼らにしてみれば、信仰宗教国家『イヤーズ』の教義に対して疑念を持っていたからだ。

信仰宗教国家『イヤーズ』には娯楽が少ない。
その理由は簡単だ。
そんな暇があったら、あの人に祈りを捧げなさいということだ。
あの人を崇拝し、その力を蓄えさせなさいと・・・
彼らは崇拝を搾取されている気分になっていたのだ。
もうそんな国には帰りたくないと・・・
そう思っていたのだった。

エリカは自分の考えを悟られない様に努めてきたが、長年連れ添っていればその考えは浸透してしまうものだ。
そうとは知らずにいるエリカだったが、実はそれなりに影響力をエリカは持っていた。
それほど護衛の二人はエリカを信頼していた。

そんなエリカの決断を後押ししたいという想いと共に、二人にとってもどうしても行きたい街があった。
それは『サウナ島』だった。
これまでたくさんの魔物達からその存在を教えられてきた。
聞く限りその村は娯楽の宝庫であり、流行の最先端の街。
そして神々が集う街『サウナ島』
魔物達に言わせると『サウナ島』に行く為に、日々の仕事を頑張っているということだった。
魅惑の街『サウナ島』死ぬまでに一度は行かなければ後悔する、と考える程までになっていたのだった。
それぐらいに『サウナ島』の価値は高い。

同様にエリカも『サウナ島』に何としても行かなければと考えていた。
二人の動機とはちょっと違うのだが、その想いは一緒だった。
その為まずは島野様に会わなければと夢想する一同である。
そしてエリカはこれまでの自分をかなぐり捨てて、積極的に行動に出ることにした。
これまで守りに徹してきたエリカにとってはあり得ないことであった。

真っ先に行ったのは現状分析と聞き込みだった。
これまで封印してきた異世界の知識もフル活用し、どうすれば魔物同盟国『シマーノ』に受け入れて貰えるのかを真剣に考え始めた。
エリカにとっては、今の家族達にそれほどの思い入れはない。
多少の躊躇いはあるのだが、亡命することに迷いはないのだ。

だが心配なのは五人の老師の動向だった。
裏切ったと知られると、命の危険すらある。
まず間違いなく暗殺を企てられるだろう。
それぐらいエリカは信仰宗教国家『イヤーズ』の裏側を知り過ぎていた。
そしてそれは『イヤーズ』の国営だけに留まらず、あの人に関してもだ。
その性格や癖までも。
エリカ以外の老師達はあの人に心酔している。
それも盲目的に。
もしあの人に死ねと言われたら、躊躇いなくその命を投げ出すのではなかろうかと思えるほどだ。
ここに危機感を感じるのは当然のことだった。

でもどうにかなるのではとも思ってしまうエリカであった。
というのも、この国にいれば暗殺なんて出来ないのでは?と考えてしまうのだ。
この国の魔物達は連帯感が半端ない。
決して厳重な警備を布いている訳ではないが、簡単に暗殺者を通してしまう様な愚は犯さないのではないかと。
それにもしサウナ島に行けたなら・・・
追っ手は間違いなく撒くことができる。
転移扉の運用は厳密なのだ。
紛れ込むなんてできるはずがない。

一度転移扉が開かれるところを見たことがあるのだが、扉を潜った先にも受付が見えた。
もし透明化魔法を駆使してもサウナ島に入り込むのは難しいのでは?と思えるのだ。

それにエリカには隠蔽の魔法がある、それを駆使すれば暗殺者から逃げ遂せることは可能だ。
だが護衛の二人にはそんな魔法の能力は無い。
護衛のファビオとカミラには仲間意識がある。
この二人を蔑ろには出来ない。
そして二人はエリカに着いて行くと決めており、エリカにもそれを公言している。
エリカは二人の安全も確保しなければと考えているのだ。
これは安易では無い。
エリカにとってもファビオとカミラは家族以上の付き合いなのだ。
愛着が無いなんてことはあり得ないのだ。

更にエリカは気づいていた。
魔物達は人族より、格段に強いと。
その身体能力は高い。
それに魔物達は知力が高い上に、思慮深い者達が多い。
仲間になれば、魔物達が守ってくれるのではないかと思ってしまうのだ。

でもどうすれば受け入れて貰えるのか?
そもそもその判断を島野様に求めていいのだろうか?
エリカは考えを巡らせる。
この『シマーノ』は守が造った街であることはエリカも熟知している。
だが、その運営に関しては魔物達が行っており。
守が行っていないことも分かっていた。
ここは島野様では無く、魔物達に信用されるのが先では?
エリカの考えは纏まりつつあった。
どうやって魔物達の信用を勝ち取ろうか?
エリカの考察は続く。



武装国家ドミニオンは俺の後押しもあり、永世中立国ルイベントと同盟を結ぶことになった。
とても喜ばしいことだ。
そうなったことには、実はそうして欲しいと、スターシップとダイコクさんから暗に頼まれていたことでもあった。
ダイコクさんとしてはルイベントを中心とした同盟国を増やし、北半球の脅威に対する橋頭保を築こうと考えていたのだ。
俺としてもその考えには同意できる。
国家間で協力体制を築くことによって、北半球での趨勢を得てしまおうということだ。
それにスターシップならばその旗印としては適任であると思える。
あの者ならばそれぐらいの器量を持っているだろうと、容易に想像できた。

当然そのバックには魔物同盟国『シマーノ』がいる。
軍事力という点においては、おそらく『シマーノ』に敵う国は無いだろう。
『シマーノ』には軍はないが、そもそも魔物達の身体能力は高く、また魔法適正の高い者達が多い。
それに今では知力も高い。
いざとなったら人族では敵うはずがないのである。

でも本音は争いごとの嫌いな魔物達には、そんな荒事には巻き込まれて欲しくないと俺は思っている。
俺にとっては愛すべき者達なのである。
怪我をして欲しく無いし、ましてや命を懸けることにすら抵抗があった。
あいつらに争いごとは似合わない。
そうならないことを俺は切に願うばかりだ。
あいつらには楽しく自由に人生を謳歌して欲しい。
でも俺に何かある様であれば、あいつらは絶対に黙ってはいないだろう。
それほどに魔物達の信仰は厚い。

俺はまずは両国のトップ会談が必要であろうと、急遽ではあるが、首脳会談を行う手筈を整えた。
面倒な手続きとかは一切皆無だ。
そんなことに時間を割くわけにはいかない。
俺は勝手に動くことにした。

早速転移でダイコクさんを伴って、ベルメルトを紹介した。
ダイコクさんもドミニオンではそれなりに有名な神様だったようで、ベルメルトもダイコクさんには何度か会ったことがあるみたいだった。
挨拶の加減でそれぐらいは分かる。
今は少し前とは違って、ベルメルトの頭を悩ませる腐敗した貴族共はいない。
アラクネ達の活躍で悪事を企む者達は一掃されつつあるのだ。
クモマルの本気は凄かった。
あいつは本当に優秀だ。
ネットワークを駆使して、蜘蛛達からありとあらゆる情報と証拠を集めて、悪事を企む者達を検挙しまくっていたのだ。
その大活躍ぶりにドミニオンの大臣達は舌を巻いていた。

綺麗さっぱりとしたドミニオンは同盟国に値すると、ダイコクさんも認める国となっていた。
というよりは、これはある意味ダイコクさんの意図に俺は乗っかった結果でしかない。
ダイコクさんは俺がドミニオンでどう動くかを知っており。
その働きに期待を寄せていたのだ。
それにダイコクさんは俺達の能力の高さをよく知っている。
時に手を貸して欲しいと強請られるぐらいなのだ。
まあ手を貸したことは一度もないけどね。
毎回やんわりと断っている。
だってこちらには得がないんだもの。
俺はただのお人好しではないのだからね。
それにこう言ってはなんだが、俺の家族や魔物達は俺の為にしか動かないんだよな。
すまないが、ダイコクさんやスターシップの為には動いてくれないんだよ。
俺が頼めば話は別だが、そうする理由も無いしね。
唯一言う事を聞くのはソバルぐらいだろう。

そんなこんなで、同盟の話は当事者で纏める様に俺は任せた。
些事には付き合ってはいられない。
ダイコクさんとある程度の話を重ね終わった後に、俺はダイコクさんから連絡を受けて、今度はスターシップを転移でドミニオンに送った。
今後も何度もタクシー替わりに使われるのも癪だから、転移扉をルイベントとドミニオンの王城に設置して、運営をダイコクさんに任せることにした。
後は若い二人に任せますってね。
今後はダイコクさんが有意義に転移扉を利用することになるだろう。
これを基に両国の関係も一気に近づくに違いない。
まあ好きにしてくれということだ。
こうして一先ずは肩の荷が降りた俺達島野一家は、次の目的地魔道国『エスペランザ』に向かうことにした。



エリカは必死だった。
まず行ったのは鑑定魔法を駆使することだった。
その意図としてはこの国の有力者や首脳陣は誰かを探ることだった。
決して褒められることでは無いのは理解していたのだが、そんな事には構ってはいられ無かった。
ほぼ全ての魔物達に鑑定魔法を行い、その特性や職業などを把握していった。
エリカは魔物達の個人情報を網羅しまくっていったのだった。

そしてエリカは二人の候補者に辿り着いた。
それはソバルとプルゴブだった。
亡命の話を持ち込むにはこの二人しか考えられなかった。
そしてエリカは決断する。
ここはプルゴブに話をするべきだろうと。
その決断は正解だった。

もしその話をソバルに持ち込んだら、ソバルは疑うだけではなく、逆に警戒を高めていたことだろう。
ソバルはまずは疑えとダイコクに教え込まれていたのだから、そうなるに決まっていたからだ。
だがプルゴブは違う、プルゴブは温厚な上に聞き上手だ。
まずはじっくりと話を聞こうという姿勢を崩さない。
それにプルゴブはソバルよりも人族に抵抗が無い。
更にプルゴブが認めればソバルは認めることになる。
それぐらいソバルはプルゴブに全幅の信頼を置いている。
この兄弟は実にバランスの良い兄弟だったのだ。

プルゴブは誰ともつかない旅人の話を聞く事になった。
その根源には守の何気ない一言が影響を与えていた。
無論守はそんなことは気づかずにいる。

「プルゴブよ、真のリーダーは仲間の話をよく聞く者だと俺は思う、不平や不満、どうでもいい事や、嬉しいことまで、なんでも聞いてやるんだ。そうするとその者の本質が見えてくる。いいか?その本質を見極めて適材適所に役割を与えてやることができる者が、真のリーダーなんだよ」
守はいい加減酔っぱらって、何気無く話したことでしかない。
現に守はそんな話をしたことを覚えてなんかいない。
なんとも無責任な話である。
でもプルゴブにはこの言葉は金言として心に刺さっていた。
プルゴブは守に対して過剰なほどに信仰心を持っている。
魔物の中でも隋一とも言える程の守信者なのだ。
その信仰心はメタンに匹敵する。
プルゴブの聖者の祈りはメタンと同様に神気が濛々と登り立つのだ。
プルゴブにとっては、守の冗談すらも金言に聞こえてしまう。
実に純粋無垢なゴブリンなのである。

そんなプルゴブがじっくりと話しを聞かない訳がない。
そしてエリカはここぞとばかりに全てをぶちまけた。
自分が転生者であること、おそらく守と同じ時代に地球で暮らしていたこと。
更には今の立場や、自分の想い、そして信仰宗教国家『イヤーズ』の内政に至るまで。
実に六時間以上に及ぶ会談となってしまっていた。

最初はよくある旅人の、商店を開きたいとの相談であろうと高を括っていたプルゴブだったが、そうはいかなかった。
特に信仰宗教国家『イヤーズ』に関しては聞き逃せなかった。
毎日の定時連絡によって、この信仰宗教国家『イヤーズ』は最重要案件であることをプルゴブは把握していたのだから。
プルゴブは血相を変えて話を聞いていた。
途中でメモを取りに行く等、真面目なプルゴブらしい様子も見られた。
今の直ぐに島野様に話をしなくてはと、顔色も変えていた。
そしてエリカにとっては最高の返事がプルゴブからもたらされたのだった。

「ふう、もはや儂ではどうにも判断がつきませぬ。島野様にお会いして頂きくしかありませんのう」
エリカは見えない様に、机の下で拳を固めていた。
心の中ではよっしゃー‼と叫んでいた。
はやりこのゴブリンに話をして正解だったと、自分の良く利く鼻を褒めてやりたかったぐらいだ。
遂に島野様に会えると、エリカの興奮はマックス状態に陥っていた。
しかし、それを悟られない様にポーカーフェイスは崩さない。

エリカの目の前で、通信用の魔道具を取り出したプルゴブはまずはソバルに連絡をしていた。
今では直ぐに連絡が取れる様に、首領陣には通信用の魔道具が手配されている。
連絡を密にという守の教えを忠実に守っていた。
そしてソバルはクモマル以外の首領陣を記念館の会議室に集める事にした。

「エリカ殿、場所を変えましょう。まずは『シマーノ』の首領陣にお会い頂くこととしましょう」

「畏まりました」
プルゴブとエリカ一同は連れ立って移動することにした。
移動中も打ち解けたエリカとプルゴブは世間話に花を咲かせていた。
その様子を驚きと共に二人の護衛達は眺めていた。
ファビオは思う。
(まさかエリカ様は転生者であったとは・・・でも考えてみれば頷ける。その雰囲気はこれまでにも思い当たるところはあった。この方に着いて来てどうやら正解だったみたいだ。よかった・・・)
カミラもエリカの変貌ぶりに驚いていた。
(エリカ様がこんなに行動的で思慮深かったとは・・・この人は何かが違うと思っていたが、付いて来て正解だったようですね)
二人にとっても光明が射した気分だった。



エリカとプルゴブが会議室に着くと、既にソバルとオクボス、そしてマーヤは集合していた。
オクボスに関しては走って来たのか、肩で息をしていた。
コルボスは漁に出ている為、戻るのには一時間は掛かるということだった。
プルゴブはソバルとオクボス、マーヤにエリカを紹介した。

「エリカ・エスメラルダと申します。よろしくお願いします。そしてこの二人は私の護衛のファビオとカミラです」
エリカはお辞儀をした。
それに倣って三人の首領達も頭を下げた。

「儂はソバルじゃ、オーガの首領をしておる」

「俺はオクボスだ、オークの首領だ」

「私はマーヤよ、ジャイアントキラービーの首領をしているわ」
朗らかな笑顔でプルゴブが話し出す。

「兄弟達よ、今日は朗報だ。詳細はコルボスの兄弟が来てから話をするが、エリカ殿は儂らの新たな兄弟と成りうる存在じゃ。否、もしかしたら兄弟と呼ぶのは憚られるかもしれぬな、なんといっても島野様のいた世界に居た人物じゃからのう」

「なんと!プルゴブの兄弟がそれほどと申すか?もしかして五郎様とも通じるものがあるのか?」
実は五郎は魔物達からの人気が高い。
というもの、守が五郎の事を尊敬する大先輩だと公言していたからだった。
それを受けて密かに五郎を信仰する魔物達もいるぐらいだった。
それにその大胆不敵なキャラクターが魔物達には受けており、五郎をある意味守以上に信仰する魔物もいるぐらいだ。
そうとは知らない五郎は魔物同盟国『シマーノ』の大歓迎を、そういうものだと勘違いしていた。
こいつらは情に厚い奴らだと五郎は思っていたのだ。
五郎も守と一緒でどっかズレているところがある。

「いえ、私なんぞそんな大層な者ではございません。兄弟と読んでいただけるのならこれほど嬉しいことはありません」
エリカは謙遜している。
だが腹の中ではよかったと胸を撫で降ろしていた。
ここで魔物達を仲間に出来ればこれほど心強いことはないと。
この者達の義兄弟となれば、安全は担保されたと考えられる。
そして五郎とは何者かと訝しんでいた。
そんな必要は全くないのに。
その様にファビオは感心していた。
これでエリカ様は大手を振って街を歩けると。

「ハハハ、ご謙遜をエリカ殿、してコルボスの兄弟をただ待つのもなんだし、出前を頼もうではないか?」
その言葉にエリカは首を傾げる。

「出前ですか?それは何でしょうか?」
その発言をオクボスが受け取る。

「出前とは島野様が教授してくれたサービスの事で、食事を運んでくれるサービスのことだ。何でもデリバリーとか言うらしいんだが、この街では出前で通っているんだ。出前できるのは麺類や、丼物、ピザなんかに限られるけど。どうしても出歩きたくない時や、今みたいにこの場を離れられないけど、食事をしたい時なんかは重宝するのさ。デリバリー料金はかかるけど微々たるものさ。島野様のお陰でこの国には自転車がある、それで運んでくれるのさ、これは何でも岡持ちスタイルと言うらしい」
その言葉にカミラの眼が輝く。
エリカは驚愕していた。
ピザのデリバリーまであるとは、更に守への関心を高めていた。
なんて懐かしい世界観なのだと・・・
ピザのデリバリーは彼女にとっては特別であった。
それは月に一度ある、家族でのご褒美の食事だったのだった。
エリカにとっては思い出深い食事であったのだ。
それをこの世界で味わえるなんて・・・
エリカは涙を堪えるのに必死だ。
涙を堪える程に守への想いを募らせていくのだった。

「それは素晴らしいサービスですね。では私はピザを頼ませていただきましょうか。懐かしいです・・・」
こうなるとエリカは一択だった。
他も気になるメニューはあったがここはピザを頼むしかあり得なかった。

「ほう、エリカ殿はお目が高いようじゃな。出前の人気の断トツの一位がピザじゃからな。島野様直伝のマルゲリータは絶品ですぞ。儂もピザを頼もうかのう?」
ソバルは今にも舌舐めずりしそうな雰囲気であった。
マルゲリータですって?とエリカは興奮を堪えるのに必死になった。

「マルゲリータでお願いします」

「では儂もマルゲリータピザを」

「儂もマルゲリータじゃな」

「俺はかつ丼だな」

「私はザル蕎麦を」
ファビオは遠慮気味に手を挙げた。

「カツカレーは出前できますか?」
申し訳なさそうに尋ねていた。

「勿論です。カツカレーも美味しいですからのう」
ソバルは笑っていた。
一人真剣に悩んでいたカミラは、ここぞとばかりに注文をしていた。

「私はマルゲリータピザとカツカレーとかつ丼をお願いします!」

「「「えっ‼」」」
カミラはこれでも気を使っていた。
同じ注文ならお店側に負担を掛けないだろうと。
でもそこでは無いと一同は驚いていた。
(どんだけ食う気なんだお前‼)
エリカとファビオは頭を抱えていた。
そんな中、一人プルゴブは笑っていた。

「カミラ殿はどうやら大食いのご様子、ギル様のようで嬉しくなりますな」
何処までも島野一家を大好きなプルゴブであった。