今『タイロン』王国の城壁の外いる。
国内に入場できるのを今か今かと待っている。

結構な数の行列ができていた、これは並ぶしかないようだ。
同じ様に並んでいる人達を見てみると。
荷馬車を牽いている商人風の人が多く、ハンターや旅人の様な方達もちらほら。
随分待たされているが、入国には厳重な検査でも行っているのだろうか?

やっと順番が回ってきた。
門番に話し掛けられる。
「入国の目的はなんだ?」
随分威圧的な態度だな。

「行商をおこなっておりまして、立ち寄らせて頂きました」
じろじろと上から下まで見られている。

「荷物がないようだが?」

「俺は『収納』持ちなものでして」
といって『収納』から野菜を取り出して見せてみた。
さらに何度も上から下まで見られた。

「いいだろう、行ってよし」
それにしても終始高圧的な態度だな。
事件か何かがあって、警備が厳重ということなのか?

街の中に入ると、すごい賑わいだった。
道行く人の多さ、街の喧騒、これまで見て来た街とは比べものにならない。
道行く人は圧倒的に人間が多い、よく見ると街のいろいろな所に、鎧を着た兵士を見かける。
警備が行き届いているということなのだろう。
この光景をみるだけで、この国の治安レベルが高いと認識できる。

それにしても、まったくこれまでに情報が入らなかったが、この国にも神様がいるのだろうか?
訪ねてみたいが、通行人に聞くこうにも、これだけ警備が厳重な状況で、下手な聞き込みは憚られる。

俺達は歩を進めた。
とりあえず食事にしようと、適当に選んだお店に入った。
「いらっしゃいませ、こちらにどうぞ」
可愛らしいおさげの女性店員さんに席へと誘導された。

着席する間に聞いてみた。
「この店のお勧めはなんですか?」

「チキン料理です」
即答された。
うんいいね。テンポが気持ちいい。

「じゃあそれを五人分」

「かしこまりました」
こじんまりした店だが、店員の接客は良いようだ。
店内を見回してみたが、残念ながら他に客はいないようだ。
噂話でも聞きたかったが、ここは店員さんに聞いてみよう。

「すいません」
返事と共に先ほどの店員さんが駆けつけてくれた。

「ちょとお尋ねしたいんですけど、よろしいでしょうか?」

「はい、何でしょう?」

「実は俺達初めてこちらの国に訪れたんですけど。こちらの国に神様はいらっしゃるんでしょうか?」

「神様はいらっしゃいますよ、たしか三人ほど、ただ、王宮にいますので、私はお会いしたことは無いですね」
三人もいるのか、国であって街ではないから当然なのかもしれないな。

「そうですか」
何の神様なんだろうか?

「ちなみに何の神様か分かりますか?」
定員さんが腕を組んで考えている。

「たしか法律の神様と、警護の神様と、経済の神様だったかと思います」
法律に警護に経済か、国家運営には欠かせない役どころだね。
ということは、ここの神様達も現役バリバリで働いてらっしゃるんでしょうね。
恐れいります。
興味はあるけど、響きからして簡単に会えそうな神様達ではなさそうなので、ご挨拶は無しという方向で行きましょう。

「ありがとうございます」
お礼にチップを渡しておいた。
そういった文化が無いのか、ちょっと驚ろかれた。
決して怪しい者ではありませんよ。

「あと行商をおこなっているんですが、商人組合はどちらにありますか?」
丁寧に道順を教えてもらった。
後で行ってみようと思う。

しばらくすると料理が運ばれてきた。チキンのソテーだった。
味はまあまあ、強いて言うならば、スパイスがもの足りないな。
この世界の食事はこれまでもそうだったが、少々物足りない。
やはり日本人の食に対する拘りが、素晴らしいということなんだと思う。
そう思うと日本の料理が恋しくなる。
まぁいつでも帰れるんだけどね。

店をあとにし、商人組合に向かった。
コロンの街の商人組合とは、比べものにならないぐらいの、人と職員の数だった。

職員さんを捕まえて、要件を伝えた。
会員証を見せてくれとのことだったので、会員証を手渡すと。

「わかりました、屋台での販売ですね」
と会員証を返され、販売場所の指定を受けた。

一応念の為、その他のことも確認してみた。
その他の内容はコロンの街とまったく同じだった。
世界共通ということなのだろうか?

今回の屋台販売も、前回の時と同じ様に試食販売を行った。
反応は前回と同じで、始めは遠巻きに見ていた人達が、試食を始めた途端に長蛇の列が生れた。
今回は前回の反省も踏まえて、前回の倍の量の野菜を準備していたが、それでも全て売れてしまった。
島の野菜恐るべし。

あと販売中に一瞬だが、頭にチクッとした感覚があったが、あれは一体何だったんだろう。
よく分からない、たまに意味も無く体のどこかが一瞬痛くなる、あれなんだろうか?まさかの成長痛?

商人組合に手数料を支払ったところ、職員さんに初めてでこんなに売れたんですか?
とすごく驚かれてしまった。
まあコロンの街で免疫はつきましたから、その反応は気にしない。
多分在庫があったら、もっと売れてましたよ、とは言わずにおいた。
変な注目を集めるのは憚れる、あたり触らず過ごしたい。



ひとまず島に帰島した。
結局まだ一度も宿に泊まったことはない・・・やっぱり我が家がいいんです。

最近恒例になりつつある、帰宅後のアイリスさんとの、まったり一本飲みましょうの時間。
こういう時間って必要ですよね?同意を得られたなら光栄です。

「タイロン王国はどうでした?」
両手でグラスを抱えるアイリスさん、可愛らしいですね。そういうの嫌いじゃないですよ。

「そうですね、国の強さを感じました。警備兵の数、街の人々の活気、どれをとっても王国が盤石なのだと思いました。ただ、何かが引っかかるんですよね」
そう、まだはっきりしないのだが、俺は何かに違和感を感じている。

「引っかかるですか?」

「うん、言葉にするのは難しんですけど、なんか違和感を感じるんです。何なんでしょうかね?・・・」

「分かるといいですわね」
まぁいつか気づくでしょう。

「そういえば、畑を拡張しましたけど、本当に大丈夫なんですか?」
そう、いくら何でも一人でできるのかと、拡張後に思ったんだよな。

「守さん、私を誰だと思っているんですか?いい加減分かって欲しいですわ」
アイリスさんの視線が痛い。そんなに怒らないでくださいな。

「すいません分かってますよ。アイリスさんは植物のプロですもんね。いやー、どうしても無理をさせたくないと思ってしまいまして・・・」
アイリスさんは微笑みを返してくれた。

「あら、お優しいのですね」
これでも紳士のつもりですので。
そういえばアイリスさんの野菜の栽培は、正にプロそのもので、彼女のお陰で島の野菜の味が更にレベルアップしていた。
水やりから、肥料の選別まで指示が的確で。
彼女曰く野菜の声が聞こえるらしい。
なんとも凄い能力である。



翌日、まずは透明化した俺が、転移にて王国内に移動。
誰もいないか、誰かに見られてないかを確認してから皆を転移した。

移動開始、もう売る物が無くなってしまっている為、本日は野菜の販売は行わない、街を見学しつつ先へと急ぐ。
やっぱり足での移動は遅すぎる、空での移動に早く切り替えたい。

警備兵に空の移動は出来るのかを訪ねてみたところ、ハンター協会に聞いてみてくれとのことだった。
空の移動は王国の警備に関わることだから、王国警備隊の管轄では?という疑問が生じたが。
ひとまず他人様の都合なので、そこはツッコまないことにした。

ハンター協会に来てみた。
ここもかなりの人がいた。
随分待たされたが、やっと出番が回ってきた。

「あの、空の移動をしたいのですが、可能でしょうか?」
受付の犬の獣人女性に聞いてみた。

「はぁ?空の移動ですか・・・少々お待ちください・・・上の者に確認してまいります」
何のことやらといった感じの受付嬢が、いそいそとこの場を立ち去って行った。

んーん、かなり待たされている。
これは放置プレイか?などと、どうでもいいことを考えていたところ、ドタドタと音を立てながら、先ほどの受付嬢を伴って、壮年の男性が俺達の前に現れた。

「おい!お前らよく聞け!緊急依頼だ!この中で空中戦が出来る奴らはいるか?これは緊急依頼だから、ハンター会員に拒否権はないぞ!」
先ほどの受付嬢がギンギンに俺の方を見ている。

嫌だー、今出たら絶対に目立つに決まっている。
あー、嫌だ。本当に嫌だ。勘弁して欲しい。
でも・・・まだこちらをガン見してんだよね・・・はあ・・・間が悪すぎるっての!

「あのー、空中戦出来ますが・・・」
壮年の男がホっとした表情でこちらを見た。

「よし良いかよく聞いてくれ、今この国に向けて、魔獣化したジャイアントイーグルが十匹飛行中だ!」
周りのどよめきが凄い。

「やべえよ、逃げなきゃ」

「俺の寿命もここまでか」

「そんなん勝てっこねえよ!」

ジャイアントイーグル?デッカイ鷹ってこと?そりゃあ空中戦でしょうね。
やりますよ、やるしかないんでしょ。
拒否権無しだからね。

「そこで、飛行できる者達に討伐を依頼する、いいか、俺は今から国軍に討伐を依頼するから、時間を稼いでくれればいい。もし可能なら討伐してくれてもいい、だが無理はするな、今すぐ出てくれ。分かったな!」

あーあ、いきなり会員の義務が発生してるじゃん。
ハンター登録ってはずれだったのか?
しょうがないから行くか。行かないとこの国に被害がありそうな話しみたいだし。
目立ちたくないなー、あーヤダヤダ。
早く温泉街に行きたいのに、もう!

ひとまず俺はエルに乗り込み、ギルにゴンとノンを乗せるいつもの飛行スタイル。
ジャイアントイーグルが向かってくるという、方角に飛んだ。

振り替えって確認してみたが、飛び出したのは俺達だけっぽい。
見られなくていいのなら、それはそれで都合がいい。
戦闘するなら被害がでないように、王国からは距離をとるようにと、飛行役の二人に指示を出した。
ギルとエルが速度を上げる。

視界にそれらしき影が見えて来た。
どうやらあれが、ジャイアントイーグルのようだ。
特に編隊を組むことも無く、こちらに向かっている。

『鑑定』

ジャイアントイーグル(魔) まず出会うことが無い 奥深い山間部に住む獣 食用可

まず出会うことが無いって、普通に出会ってますけど・・・
まぁいいや、さっさと片づけましょうかね。

「とりあえず一人二匹な、どうだ?」

「楽勝」
ノンが嬉しそうに笑っている。

「パパ、三匹はやらせてよ」
欲張るねー、ギル君。

「それは駄目だろ、五人いるんだからさ」
ノンがツッコんだ。

「そうだね、皆一緒がいいね」
ゴンが纏めた。

「だろー」
などと話していたところ、戦闘が始まった。

まず、俺は最初に飛び出すと共に、
「俺飛ぶから、ノン、スイッチな」
とノンに指示を出し、攻撃してくる前に無駄な雄たけびを挙げている、ジャイアントイーグルが見えたので。
その隙に後ろに回り込んで首を折った。

続けてそれを見てびっくりしている、もう一匹も同じ方法で仕留めた。
戦闘前に余計なことをするからだよ。
楽勝ですな。
雄叫び挙げる暇があったらとっととかかってきなさいよ。

ノンはというと、エルの背に乗ったと思いきや、人型のままジャイアントイーグルに飛び掛かった。

ぶち当たる直前に指をくいっと動かし、風魔法でジャイアントイーグルの顎を挙げ、そこに拳を一撃。
ゴリッという音と共に、もう一匹にも同じ攻撃で、仕留めていた。
魔法も織り交ぜるとは、何とも逞しくなりましたね。

ギルはブレスを吐いて二匹同時に丸焦げにしていた。
ブレス攻撃って酷いよね。
これは毛皮の買取りは無いな。

ギルの背に乗ったゴンは、試すように持てる様々な魔法を放ち、結局最後は尻尾でぶん殴って仕留めていた。
うん、何でも試そう、良い試みです。
さすがゴン、優等生です。

エルは何故だか急に変な子モードに突入していた。
「私の見せ場はないのか!オラ!」
と叫ぶと、既に逃走をはかろうとしていた。一匹の背中を角で串刺し。
邪魔だといわんばかりに、ジャイアントイーグルをぶん投げ、最後の一匹に追いつくと、蹴り飛ばして仕留めていた。
何故に変な子モードになったの?

案外あっけらかんとした空中戦となった。
速攻で終わりましたとさ。
とっとと帰ろう。
ていうか早く温泉街に行きましょう。
というか行かせてください。

ジャイアントイーグルの死骸を一か所に纏めて、国軍の到着を待った。
結構待った。一時間ぐらい?
暇になったノンとギルは獣型でふざけ合っていた。

どうにも腹が減ったので、皆でお弁当を食べた。
やはり青空の下で食べるお弁当は格別ですな。
我ながら弁当は美味しかったと思う。
『収納』って本当に便利だと、改めて思う。
温かい食事が直ぐ食べれるって、本当に最高だと言える。
だって電子レンジのないこの世界では、これ無しでは物足りない食事になっているはずだ。

食後のお茶を嗜んでいると、ここに向かってくる一団が見えて来た。
やっとご到着のようだ。
遠目に国軍が百名ほどの集団でこちらに向かって来ているのが見えた。
始めはスピードが出ていたが、近づくにつれスピードが落ちている。
最後には恐る恐るこちらを見つめていた。

「ノン、ギルもうやめろ」
こいつらが暴れているのが良くないのかな?
何で恐る恐るになってるの?

国軍の一番前にいた男性が、背筋を伸ばし、それでいて恐縮しながら話し掛けて来た。
「あのー、もしかして倒してしまいましたか?」

「ええ、そうですよ。駄目でした?」
と答えて、ジャイアントイーグルの死骸を指さした。

すると国軍の後方から、
「やったぁ!死なずにすんだ!」

「すげえ、すげえよ!」

「おお、これはまさに神のご加護」
などと口々に興奮の声が上がった。

そんなに脅威だったのかな?もしかして俺達ってやり過ぎなのかな?などと考えていたところ。

話しかけて来た男性が、我に返った感じで話しだした。
「すいません、魔獣化したジャイアントイーグルが十匹ともなると、国軍百名がかりで、半分以上は死にますので・・・・あっ、失礼しました。私はタイロン王国軍第四団隊の隊長をやっております、ガルフと申します」
うーん、いまいち要領を得ない発言だが、何となく言いたいことは分かった。
っていうか、ジャイアントイーグルって、そんなに強いの・・・これはやっちまったかな?

「こちらこそ始めまして島野と申します。それでこの後はどうすればよろしいでしょうか?」
さっさと、話を進めたほうがいいでしょ。
しれっと終わらせたいのだが・・・たぶん無理だな。

それに答えてガルフさんが、
「ハンター協会にお戻り頂き、報告を行ってください」
とのことだった。

「分かりました、ではさっそく行かせて頂きます」
はいはい、行きますよ、さっさと片づけましょうね。

俺はジャイアントイーグルの死骸を回収し、エルに乗ってハンター協会に向かおうとした。
そんな俺達に隊長は何かを言いたそうにしていたが、しらんと言った感じで飛ぶ準備に入った。
行きは飛んで行かされて、帰りは駄目とは言わないでしょうね?
ここまでしてそんなこと言われたら俺は暴れるぞ。

「ではお先に」
と声を掛けて俺達は飛び出した。

早く温泉街に行きたいなー!
まだかなー!



ハンター協会に付いて報告をすると、先ほどの国軍と同じ反応だった。
「一命を取り留めた」

「やったー!」

「凄いぞ、なんてこった!」
等と、なんとも騒がしい。

皆ほぼ一撃だったけどな・・・そんなに強いのかジャイアントイーグルって・・・結構間抜けな相手だったけどな。

会長を見つけたので、
「ジャイアントイーグルの死骸はどちらに置けばいいですか?」
と尋ねた。

「そうだな、ここではなんだから裏の倉庫に回ってくれるか?」
ということだったので、裏の倉庫に移動。

大きなテーブルを見つけたので、次々にジャイアントイーグルを出していった。
ジャイアントイーグルの山を見て職員の一人が、
「ジャイアントイーグルなんて初めてみたぞ、それも十匹なんて、前代未聞だな、はは」
と声を漏らしていた。

「素材や、肉などはどうすればいい?」
と会長に尋ねられた。

「じゃあ、せっかくなので一匹分の肉と、一番大きな魔石は回収させてください。他は全部買取でお願いします」
会長が満面の笑顔で喜んでいた。

なぜにそんなに嬉しいの?
何がそんなに嬉しいのか、俺にはよく分からなかった。
清算にどれだけ日数がかかるかを聞いたところ、これほどの大物になると、三日は欲しいと言われた。
はぁ、早く温泉に行きたいのに。いいかげんにして欲しいね。
まったく!

預かってもらって、温泉帰りに引き取ろうかとも考えたが諦めた。
それになんだか騒ぎになっている雰囲気があるので、早々に立ち去りたいし、日を改めたほうがよさそうだ。

ちなみに空の移動は了承されたが、王宮から離れて飛んで欲しいとのことだった。
とりあえず島に帰りましょうかねってことで、倉庫の裏口から移転した。

なんだか疲れました。
温泉街が遠く感じる。
温泉街よ、俺から離れないでくれ!



俺はランページ、ハンターだ。
今日は『タイロン』王国の外にある。森の調査をソロで行っている。
つい先日まで、パーティーで狩りに出ており、そこそこ稼ぐことができた。

パーティーの他のメンバーは、骨安めにと温泉街『ゴロウ』へと向かっていった。
本当であれば、俺もそこに合流する予定だったのだが、せっかく狩りで稼いだ金を、博打で掏ってしまった。
残念ながら温泉は次の機会にしよう。
くそう!

何もしないでいるもの暇なので、ハンター協会に行ったところ、森の調査依頼があったので、ソロで調査を行っている。
俺は斥候役のハンターだから、森の調査はお手の物。
ただ、それでも決して気は抜かない。

この森には慣れている、これまで何度も調査に入っている。
何かあった時の連絡小屋の場所や獣道は、ほとんど頭に入っている。
周辺に意識を向けながら、獣や魔獣の気配が無いかを確認しながら、森の中を調査していた。
そろそろ森の開けたところに出る。

開けた場所は休憩場所として適しているので、着いたら軽く昼飯を食べようと思う。
マジックバックから干し肉を取り出して、口に放り込んだ。
しょっぱくて硬い肉。
まぁハンターの仕事中の飯といえば、これが定番だ。
何だかやり切れねえな、くそう。

すると、突然大きな気配を感じた。それも複数。
これはまずいと開けた場所から森に移り身を隠した。
森の開けたところの上空に、俺はとんでもない物を見てしまった。
ありえねー。

魔獣化したジャイアントイーグルが十匹、タイロン王国に向かって飛翔していた。

俺はすぐさま手にしていた干し肉を放り投げ、全速力で連絡小屋に向かった。
連絡小屋に入ると、連絡用の魔道具が置いてある。
魔道具に魔力を流しこみ相手の返事を待つ、

「こちらハンター協会本部、どうした?」
男の声が返答する。

「おい!大変だ!魔獣化したジャイアントイーグルが十匹そちらに向かっている!聞こえるか!おい!」
少し間をおいてから返答があった。

「それは本当か?」

「何言ってやがる!本当に決まっている!俺はランページだ!森の調査依頼で森に入っている、嘘なんかじゃない!確認してみろ!」

「分かった、確認する」
少し経ってから返答があった。

「確認がとれた、ありがとう。魔獣化したジャイアントイーグルが十匹だな、軍に派遣を要請する。無理はするなよ」

「了解!」
どうしたものか、とんでもない大物だ。
あんなのに暴れられたら、タイロン国はどうなっちまうんだ。
くそう!戻るしかないじゃないか。

俺は何度も躓きながらも、全速力でタイロン国を目指した。
森を抜け、草原地帯へと足を踏み入れた時、俺は我が目を疑った。

あれは、人間か?
人らしき者がジャイアントイーグルの背後におり、首を折っていた。
その後はなぜか人間が空中に浮いている。
神様か?

他の戦闘の気配を感じ、目を移すと大きな男がジャイアントイーグルの首をぶん殴っていた。
なんじゃそら・・・えっ、ドラゴンがブレスでジャイアントイーグルを丸焦げにしている。
あれは九尾か?
ユニコーン?いやペガサスだ・・・
とんでもない光景を見てしまった。



はっ!
俺は立ったまま気を失っていたようだ。

ジャイアントイーグルの死骸の傍で、先ほどの者達がいた。
随分と暇そうにしている。
だめだ、絶対に近寄っちゃだめだ。
俺は踵を返して、森の中に入っていった。
ああ、今日は森の中で野宿だな。
ちくしょう、温泉に入りたい。
博打なんか二度とやるもんか!
ちくしょう!



あれからの二日間、俺達は島でのんびりと暮らした。
そろそろアイリスさんの手伝いも必要そうだし。
畑の世話、家畜の世話を行い、昼過ぎにはサウナに入った。
晩飯はピザを焼くと皆に伝えたところ、皆のテンションが上がっていた。

テンションが上がって変な子モードになったエルが
「神飯!神飯!」
と騒ぎ出し、皆で爆笑してしまった。

はやりこの島の生活は楽しいと改めて思う。
始めは何かと大変だったが、今では大変さより楽しみが勝っている。
なによりサウナ満喫生活ができていることが、この充実感をより際立たせているのかもしれない。
創造神様に感謝だ。

そういえば、最近お供え物をしていないことに気づいた。
アイリスさんに聞いてみたところ。アイリスさんが代わりにやってくれているようだった。
まぁ、でも久しぶりにやってみようと思い。ワインを五本供えてみた。
五本のワインが一瞬にして消えた。
飲み過ぎるなよ、爺さん。

さて、今後について少し考えてみる。
明日は『タイロン』のハンター組合に行って清算金を受け取る。
前回の騒ぎで注目されているだろうから、その後は直ぐに飛んで温泉街へ向かうとしよう。
しかし『ゴロウ』って絶対日本人だよな。
先輩にはちゃんと挨拶はしないといけない。
お土産は多めに持っていこう。

温泉街があるということは、旅館もあるだろう、これは初のお泊り決定だな。
日本人の転移者が造った旅館ならば、料理も期待できるだろう。
今から楽しみだ。

後はサウナだな、最近では温泉にはサウナが付き物だから、どんなサウナがあるのか楽しみだ。
期待大!
そろそろ晩飯の準備でもしましょうかね。
うーん、温泉とサウナ楽しみ!



タイロンの街にいる。
ハンター協会に、転移では直接近づけないほどの人だかりだった為、少しハンター協会から離れたところに転移した。
人込みをかき分けて、なんとかハンター協会に入っていった。

しかし、すごい反応だった。
俺達を見て拝む人、歓声を上げる人、何やら話し掛けてくる人、正直迷惑です。
お出迎えは会長だった。
どうぞ、どうぞと奥へと誘われた。

「すごい歓声だな、タイロン国の救世主様だって、恐ろしい人気だなあんた」

「ああ、いい迷惑だよ」
会長は笑っていた。

「えーと、まずはこれが今回のジャイアントイーグルの一匹分の肉と、一番大きな魔石だ。受け取ってくれ」
受け取ると即座に『収納』に入れた。

「そして、まずは今回の緊急依頼の報酬の金貨百枚、続けて素材の買い取りだが、まず毛皮が八匹分で金貨二十四枚、爪が十匹分で金貨七十枚、肉が九匹で金貨九十枚、魔石が九個で金貨二百四十枚、全部で五百二十四枚だ、今回は緊急の依頼だったから解体費用はこちらで持たせてもらう、数えてくれ」
というと、皮袋ごと渡してきた。
それなりに重たい。

皆で手分けして金貨の枚数を数えた。
うん問題ない、それにしても一気にお金が手に入ってしまったな。
これはこれでどうなんだろうか・・・まぁ温泉街でたくさん使わせていただきましょうかね。
へへへ。

「骨はこちらで廃棄でいいか?」

「いや回収させてもらう」

「骨なんて何に使うんだ」

「ちょとね」
めんどくさいので誤魔化すことにした。

「じゃあついてきてくれ」
解体現場に連れてこられた。

ここでも好奇の目で迎えられた。

「これだ」
指さした先には積み上げられたジャイアントイーグルの骨があった。
さっそく『収納』に入れていく。

「じゃあ、悪いけど先を急ぐから、行かせてもらうよ」
と言うと、

会長が慌てて、
「ちょ、ちょっと待ってくれ、あんたにはお礼がしたいと、いろんなところから問い合わせが来ててな。ちょと付き合って欲しいんだが」

俺は振り返って言った。
「やだ!絶対にやだ!」
すごんでしまっていた。

「えっと・・・駄目かい?」
明らかに会長はビビッている。

「駄目!絶対駄目!急いでますので!じゃあ!」
勝手に裏口から外に出て、エルの背に跨った。

「近いうちに必ず寄ってくれよな」
と会長が、すがるような眼で言っていた。

「気が向いたらな」
こんなに騒がれるなら二度と来るもんか!
さぁ、行きましょうかね。
やっと温泉に入れるぞ!
イエーイ!

上空から見るタイロンの町並みは立派なものだった。
人口数の多さ、建物の数、城壁の高さ、そのすべてが国力の高さを物語っていた。
特に王宮は立派で、大きくて頑丈そうな城だった。

よく見ると王宮からペガサスに乗った一団が、こちらに向けて近寄ってくる気配があったので、全速力で撒かせてもらった。
もういい加減諦めてくれよ・・・
俺の温泉とサウナを邪魔する者は、何人たりとも許さんぞ!



タイロンを経ってから半日、途中全速力で飛んだのが良かったのか、結構早く着いた気がする。
温泉街「ゴロウ」の町並みが見えてきた。

終盤にはエルが少々息切れ気味だったので、俺は下から見えないように、エルの背中に隠れるように飛んでいた。
ギルはよほど空の旅が楽しいのか、終始ご機嫌の様子、まだまだ飛べるよ!と張り切っていた。

ふと、鼻を衝く独特の香りがした。
これは硫黄だ!

「皆、温泉の匂いがするぞ!」

「これが温泉の匂いですか?なんとも言えない匂いですね」
とゴンが答えた。

「これは硫黄といってな、温泉の成分なんだ、慣れるまではちょっと臭いかもしれないが、これが慣れるとなんともいい匂いに変わってくるんだよな」

「本当に?普通に臭いよ」
ノンが眉間に皺を寄せている。

「まぁすぐ慣れるさ」

やっと着きました、温泉街「ゴロウ」!
入場門のすぐ前に降り立った。
数名の旅行者らしき人々が、上空から現れた俺達にビックリしていた。
俺達はというと、そんなことには構わず我先に入場の列に並んだ。

入場はスムーズに行われた。
さすが温泉地、待たせないように警備兵の数が、タイロンの入口の警備兵の数よりも多い、旅行者を待たせない気遣いが感じられる。

入口を入って直ぐに、風情ある町並みが出迎えてくれた。
建物はまさに日本建築、瓦の屋根の木造建築、随所に自然と街になじむように石や岩が設置されている。
これぞまさしくといった温泉街の町並みだ。

街の関係者っぽい人に声を掛けてみた。
「すいません、この街の神様はどちらにおい出ででしょうか?」
法被を着た狸の獣人さんだ。

「そうですね、五郎さんならここから真っすぐ行ったところにある、松風旅館にいると思いますよ。松風旅館はこの街で一番大きい旅館だから、直ぐに分かると思います」
と丁寧に教えてくれた。
今直ぐに伺いましょう!

松風旅館の前にいる。
凄い!
これぞ一流旅館といった佇まい。
遠くに鹿威しの音が聞こえる、入口の両側には松の木が植えられていた。
開けっ放しの重厚な両開きの扉。
良い!すごく良い!
両側にならぶ、法被を着た従業員達のお出迎え。
万歳旅気分!

受付に伺う。
素晴らしい笑顔の従業員達に迎えられた。

「五名の宿泊でお願いしたいんですが」
受付も従業員が五名いて、お客様を待たせない心配りを感じる。

「晩御飯と翌日の朝食はいかがなさいますか?」
気持ちの良いテンポでの会話、これぞまさしくプロの受付といった仕事ぶりだ。

「込みでお願いします」

「少々お待ちください」
てきぱきと従業員さんが働いている。その姿すら感動的に見える。
あー、温泉宿に来たって感じが凄くする。
それにしても、日本の温泉宿でもこのレベルのクオリティーは無いのでは?と思ってしまうほど完成度が高い。

「ええと、お部屋が結構埋まっておりまして、少々お高くなりそうですが、如何いたしましょうか?」
ん?
ああそうか、俺達の格好は普通の一般人だからな、そこまで気を使ってくれるんだ。
素晴らしい!

「どれぐらい掛かるんでしょうか?」

「えっと、お一人様金貨五枚となります」
おおー、日本円としては一人五万円ですね、そりゃあ聞きますよね。

「それでお願いします」
懐は温かいので即決した。
受付嬢が軽くお辞儀をした。

「前払い清算となりますが、よろしいでしょうか?」

「もちろん、お願いします」
先ほどハンター協会から貰った袋を『収納』から出して、金貨二十五枚を支払った。

「あっ、ちょっと待ってください。お部屋の数はいくつですか?」
ゴンたちと一緒に寝るのは気が引けるのだが。

「二部屋ご用意しております」
お気遣いありがとうございます。

「そうですか、ありがとうございます」

「では、こちらがお部屋の鍵になります。お部屋までご案内いたしますので、少々お待ちください」
パーフェクトな接客でございます!
いいよ!いいよ!
異世界での温泉旅行、最高です!

部屋は畳敷の和室だ、畳の匂いが鼻をくすぐる。
外が見える窓もあり、街の景色がよく見える。
四台の座椅子に木目のテーブル、中央には茶菓子が置いてあった。
これぞ温泉旅館といった部屋。

そして中居さんの対応も素晴らしかった。
晩飯の時間、翌日の朝食の時間、当日の風呂の使用時間から、翌朝の風呂の使用時間まで、気持ちのよいアナウンスをし、浴衣の場所までそつなくお伝えしてくれた。
まずはどうぞと、おしぼりとお茶まで入れてくれるホスピタリティー。
私し感動でございます!

この素晴らしい対応にチップで銀貨二十枚を渡したら、無茶苦茶驚かれてしまった。
もしかしてこの世界ではチップ文化は無いのか?
チップの意味が分からなかったのか?
金額が多すぎたのか?
チップは少しやり過ぎたかもしれない。
俺も少々浮かれてしまっているのだろう。
いけないいけない、否!こんな時ぐらいいいじゃないか!

中居さんに神様は現在どこにいるのか尋ねてみたところ、この時間であれば、露天風呂にいるだろうとのことだったので、さっそく皆を誘って露天風呂へと向かった。

男女別々になっていることに驚いたゴンとエルに、本来そういうもんだからと話した時には、島での彼女らの風呂での扱いに、少し反省した。
島では水着で一緒に入っていたからね。
まあ海外ではそういうもんらしいけど・・・

当然ここでは水着は着用してはならないことを伝えると、彼女達は顔を真っ赤に染めていた。
女性同士なのに何を照れることがあるのだろうか?
男性の私には分かりません。

ちなみにノンとギルは
「へぇー、そうなんだー」
で解決した。

脱衣所には、木の棚がいくつかあり、大きめの籠が用意されていた。
その籠の中に、脱いだ浴衣を入れていく、部屋の鍵を入れておくロッカーを探したが、さすがに無かった。

タオルを取り出したら、いざ温泉にゴー!
脱衣所から中に入ると。浴場の中心に二つの大きな風呂があった。
そして壁に沿ってL字型に洗面台が並んでいる。

俺は気づいてしまった・・・ない・・・ない・・・サウナが無い・・・
残念!

まぁ温泉があるのだからと、早合点したのは俺なんだが・・・
やはりショックだ!

項垂れる俺にノンが
「主どうしたの?」
と問いかけてきた。

「サウナが無いんだよ」

「えっ無いの?」
ノンもショックだったらしい。

気を取り直して、まずは体を洗う。
全身入念に洗う、やはりこの世界にはまだ石鹸しかないようだ。
自分のシャンプーを取り出そうかと悩んだが、止めておいた。
へたに目立つのは得策では無い。

まずは、室内の内風呂から入る。
一つは温度が高め、もう一つは低めの温度設定になっていた。
俺は低めの温泉から入ることにした。

そういえばと周りを見渡したが、神様らしき人物は見当たらなかった。
となると露天風呂にでもいるのだろう。
はしゃぐギルを窘めて、ゆっくり温泉を味わった。
素晴らしい泉質だと思う。肌にふれる水の感触が柔らかい。
匂いはするが、気にならない程度、なにより水が綺麗だ。
温泉の管理者の拘りを感じる。
はぁー、最高の気分だ。
とのんびりしていたら。

通りすがりのおっさんに呼び止められた。
「お!おめえ、もしかして日本人か?」
見た目の印象としては五十代の男性、引き締まった肉体に、白髪交じりの髪の毛、明らかに日本人の顔立ち。

おお!
温泉街の神様か?

「はい!そうです、日本人です。もしかして、温泉街の神様ですか?」

「おー!そうだ、そうだ、いやー!こっちの世界で同郷者に会えるとは思わなかったぞ!てことはあれかい、おめえも転移者かい?」

「はい、そうです」
俺は、右手を差し出した。
温泉街の神様ががっちりと握り返してくれた。

「俺は島野守と言います、よろしくお願いします、神様」
温泉街の神様がニンマリと笑った。

「儂は山野五郎だ、よろしく頼む。あと儂のことは神様とは言わねえでくれ。五郎で頼む。どうにも神様って呼ばれることが嫌でな。体がくすぐったくなっちまう。ちと用事があるから先に行かせて貰うが、後で落ち着いたら部屋に寄らせてもらうが、いいか?」

「もちろんです!」
と答えて、部屋番号を伝えた。
五郎さん、いぶし銀の温泉旅館の番頭さんといった感じだ。
これは良い出会いをしたと思う、出会う予感はしていたが。
いろいろ話が聞きたいし、いろいろと話がしたい。

ん?頭にチクりとした感触があった。
何だ?またか?まぁいいや。

では、露天風呂に入りましょうかね。
あー、露天風呂も最高!



晩御飯は部屋で五人で頂いた。
これまた最高の料理だった。
温泉卵に釜めし、ほうれん草と胡麻のお浸し、茶わん蒸し、澄まし汁、そしてメインは石焼きのボア肉。
赤身の状態から自分の好みで、熱々に焼かれた石につけて、好みの焼き具合で召し上がる石焼き料理。
絶品だった。

そして、なんと日本酒があった。
せっかくなので冷酒にして、味を吟味させて貰ったが、透き通る感じのなんとも味わい深い日本酒だった。
四人も満足そうにしている。

「どうだ温泉旅館は?いいもんだろ?」

「「「「はい」」」」

「明日の朝も温泉に入ろうな?」

「もちろんです」
とボア肉を頬狩りながら、ゴンが答えた。

「朝も入るの?やったー!」
と喜ぶノン。

「そういえば、お湯の肌触りがいつものお風呂と違いましたの、温泉とはそういうものなのでしょうか?」
エルが肉を石焼きしながら尋ねてきた。

「ああそういうもんだよ、それはそれでなかなかいいもんだろ?」
エルはこくりと頷く。

「温泉はその泉質によって、効果効能が違っていて、中には美容や健康にもいいなんて温泉もあるんだぞ」
エルとゴンが顔を見合わせて、目を輝かせていた。

「あの、具体的には・・・」

「悪いが俺は温泉については一般的なことしか知らないんだ。それに温泉施設には、お湯の効能を解説している看板なんかがあるものだから、施設内をよく見てみるといい」

「「はい」」
二人が嬉しそうに声を揃えて返事をした。
美容に良いが気になっているのだろう。

それにしても、最高の料理だった。
晩御飯を終え、しみじみと一人晩酌をしていた。

朝風呂は五時から使用可能らしい、朝風呂も気持ちいいんだろうなあ。
明日の朝飯はなんだろうか?
などと考えていたところに客人が現れた。

五郎さんだ。

「おー島野、温泉はどうだった?最高だっただろう?」
その手には一升瓶を持っている。

「ええ最高でした!おかげさまで疲れが取れました」
俺は五郎さんに向き直った。

「どれ、一杯どうでい?」
一升瓶を差し出してくる。

「ありがとうございます、いただきます」
お猪口を手にすると、五郎さんが注いでくれた。
五郎さんから一升瓶を受け取り、今度はお返しにこちらが注がせてもらう。
お互い目を合わせ、お猪口で乾杯した。

一口付けると五郎さんが話し出した。
「しかし、何でえ!この世界で同郷者に会えるとは思ってもみなかったぞ。ええ!」
嬉しそうにみえる。
よかった、よかった。

「ええ、俺も考えていませんでしたが、この街のことを聞いた時に、街の名前を聞いて絶対に日本人だ、会いに行こうと思いましたよ」

「そうか、まぁ五郎なんて名前を聞いちゃあ、日本人はピンとくるわな。それに日本人には温泉と聞いちゃあ行かない訳にはいかねえよな、分かるぜ」
日本酒をくいっと煽る。

「しかし、お前えあれだな。どうにも変わった仲間内の様だな。ええ!」
やっぱり『鑑定』されてたか、あの頭にチクっとしたのは妨害したよの合図だったのね。
なるほど、ではタイロンでもどこかの誰かに『鑑定』されてたってことね、こんな感じだから、違和感があるんだよな。
あの国には・・・

「ペガサスはまだしも、フェンリルに九尾の狐、しまいにゃあドラゴンときたもんだ、お前えさん国でも興そうってか?」
さすがに国興しなんて考えてないですよ。

「いえいえ・・・そんなそんな・・・」

「とんでもねえ戦力じゃねえか、小国ならあっちゅう間に滅ぼせるぞ、ハッハッハッ!」
豪快に笑ってますね、俺達の戦力ってやっぱりそんなに凄かったのか、何となくそう思ってたけど・・・

「すまねえが『鑑定』させて貰ったぞ。こちとら客につまらねえ者が混じってやしないか、確かめる義務があるからな。お行儀が悪いってえことは分かっちゃいるが、我慢してくれや」
なるほど、それはしょうがないか。
職務上当然の対応なんだろう。

「それはしょうがないですね。でもこれで身の潔白は証明されたということですね」

「しかしおめえなんでえ鑑定不能って。こんなの初めてだぞ、何やったらそうなるんでえ」
鑑定不能って出るんだ、鑑定妨害は上手く働いているようだ。

「まぁそこは、触れないで頂けると助かります」
五郎さんに頭を下げた。

「そんなこったろうと思ったぞ、儂にもわからあ、訳ありなんだろどうせ?儂も転生者だ、つまらねえ詮索はしねぇよ」
話が分かる人で良かった。

「そうしてもらえると助かります」
俺達の話を四人は黙って聞いていた。

「五郎さん、うちの家族を紹介させてください」

「おう!」

「まずフェンリルのノン、九尾の狐のゴン、ペガサスのエル、最後にドラゴンのギル。よろしくお願いします!」

「「「「よろしくお願いします!」」」」
全員が頭を下げた。

「おう!よろしくな。しかしドラゴンかー、始めてみるが、人化している分には普通の子供にみえるな、鑑定した時はびっくりしたぞ、ええ!」

「ドラゴンはそんなに珍しいんですか?」
予想はしていたが、やはりドラゴンは珍しいようだ。

「ああ、儂もこちらの世界に来て百年近く経つが始めてみるな。竜種ってのは、神獣の中でも数が特に少ねえって話だ。詳しくは知らねぇがな」
ギルが興味深々に聞いている。

「まぁ、そもそも神獣自体が珍しいんだけどな」

「五郎さん聞いていいですか?」
ギルが五郎さんに問いかけた。

「何でえ?」

「神獣ってのは、何をする神様なんですか?」
単刀直入な質問だった。
だがギルとしては当然の疑問でもある。

「ああ、すまねぇなギル坊。儂はあんまり神様のことは知らねぇんだ。神様をやってはいるけどよ。ただ神獣ってのは、この世界を守る役目を負っている、みたいなことは聞いたことがあるぞ。それも本当かどうかなんてわかっちゃいねえながな」

「そうですか、ありがとうございます」
ギルが何かしら考えこんでいる様子。

五郎さんが、お酌をしてくれながら言った。
「そういやあ島野、日本は戦争に勝ったのかい?」
戦争?もしかして・・・
五郎さんって戦時中からこの世界に来たのか?

「五郎さん、それは何の戦争でしょうか?」

「何のってお前え・・・米軍とに決まってるだろうが」
第二次世界大戦か・・・時間軸がどうなっている?
五郎さんはかれこれ百年はこちらにいるとのことだったが、たしか第二次世界大戦が始まったのは八十五年前のはず。
計算が合わない・・・どういう事だ?
とりあえず今は置いておこう。

「五郎さん、日本は負けました。アメリカに敗北しました。そして戦争は終結しました。俺がこの世界に来る八十年近く前に」
五郎さんは目を見開いたあとに、天井を見上げた。そして少し寂し気な顔をした。
俺には五郎さんの心を慮ることは出来そうも無かった。

「そうか、やっぱり負けたか・・・そうだろうな・・・それで戦争が終わったんなら、いいじゃあねぇか。戦争なんていらねぇもんな」
ぼそりと五郎さんが呟く。
そう戦争なんていらない、あってはならない。
戦争を体験した五郎さんの言葉は、とても重く圧し掛かってきた。
だがこの世界にも戦争はあるということだ、まだ今はその影も見えてはこないのだが。

「戦争なんていらないですよね」

「ああ、いらねえな」
俺達は朝日が昇るまで語り合うこととなった。
そして、俺は五郎さんの壮絶な人生を知ることになった。