ゼノンの聞いたことがない注文の仕方に、俺は顎が外れそうになっていのだが。
ギルはその手があったかという顔をしていた。
そんな事が出来るのはお前達だけだよ全く。
良い子は絶対に真似しないでね。
寿司屋でお任せでと言うぐらい勇気がいるぞ。

「じゃあ僕は左から順に!」
おい!ギル君。ノリノリじゃないかい?
いくら君でも無理じゃ無いのかい?
メニュー制覇はあり得ないのでは?
何品あると思っているのかな?

「ジイジには負けないよ!」
気合の入れ処を間違ってますがな。
食事量を張り合う必要があるのかい?

「そうかギルよ、儂に挑むか」
おいゼノン!
大人気ないぞ!
煽るんじゃない!
と言いたいところだが、俺は興味を覚えてしまったので言わずにおいた。
だってどちらが沢山食えるかなんてフードファイトバトルは、この世界では禁忌だからね。
これがサウナ島でなければ避難轟々だろう。
今では転移扉のお陰で南半球の経済が発展してきているが、少し前までは食べるのもやっとという人達が多かったぐらいだからな。
それにゼノンではないが、ギルの本気を見てみたい気もする。
だから俺はこの場は止めないことにした。
そこに間が良いのか、五郎さんがやってきた。

「ギル坊、なんでえこの騒ぎは?」

「あ、五郎さん。今から僕の本気を見せるよ!」
ギルは五郎さんにガッツポーズを決めていた。

「はあ?何のこってえ?」
五郎さんは訳も分からず困っている。

「これからジイジとどちらが沢山食べれるかバトルをするんだよ」
ギルが事も無げに言った。

「ジイジって・・・もしかしてあんたがエンシェントドラゴンかい?」
五郎さんがゼノンに向き直る。

「そうじゃ、儂がエンシェントドラゴンのゼノンじゃ、温泉街の神、山野五郎じゃな。知っておるよ」

「そうかい、話が早えな。儂は五郎だ。よろしくなゼノン」
五郎さんは右手を差し出した。
ゼノンは握り返す。
何か通じ合うものがあるのだろうか?お互いが頷きあっている。
ていうか五郎さん、名前を知られていることはツッコまないの?

「それにしても島野よ、何だってこんなことになってるんでえ?」
真面な疑問だよね、それ。

「いやー、それが気が付いたらどちらが沢山食えるのかってなっちゃいまして。というよりゼノンが右から順になんて注文するからだろ!」
俺はゼノンを睨んでやった。
どこ吹く風とゼノンは真面に取り合わない。
駄目だこりゃ。
もういいや、好きにしてくれ。

食事が並びだすと共にファイト開始のゴングが鳴っていた。
メニュー表の右側は定食系だ。
ゼノンはとんかつ定食を頬張っている。
方やメニュー表の左側はラーメンから始まっている。

因みにメニュー表は二枚ある。
食事メインの物と、飲み物とスイーツと軽食中心の物だ。但しアイスクリームだけは食事メインのメニュー表に記載されている。
若干のちぐはぐ感はあるが、誰にも突っ込まれたことが無いので、新メニューのデビュー以外では、メニュー表の改定はこれまで行われていない。
今回は食事メインのメニュー表に乗っている食事を、右からと左から順に提供されるということだ。
本当は裏メニュー表なるものもあるのだが、此処は秘密にしておこうと思う。
裏メニュー表には、アースラ様が愛して止まないざる蕎麦なんかが乗せられている。
他にも担々麵なんかがあるのだが、説明はまたの機会にさせて貰おう。

早速ギルは醤油ラーメンを豪快に啜っている。
ゼノンはとんかつ定食だ。
何かを感じ取ったのか、次第にお客達が集まりだしていた。
面白い気配を察知したのだろう。
遠巻きにギルとゼノンを囲んでいる。
五郎さんがギルを応援していた。

「ギル坊、目に物見せてやれ!」
それを機にリザードマン達も応援を始めた。

「ゼノン様!ファイトです!」

「ギル様、行けますよ!」

「ラーメンは汁まで飲むのか?」

「そりゃそうだろう」
応援ともつかない声援も混じっている。
ギルは早くも二杯目の味噌ラーメンを啜り出した。
それに負けじとゼノンはチキンカツ定食を食べだした。
ラーメンの汁ではないが、ちゃんと添え付けの野菜と味噌汁もゼノンは飲んでいる。
ほんとに大したもんです。
俺ならもうお腹いっぱいですよ。
そしてゼノンが配膳を行ってるスタッフに声を掛ける。

「すまんが、日本酒を貰えるかのう?」
その発言をギルは見逃さない。

「ちょっとジイジ、僕を舐め過ぎじゃないかな?」
ギルがゼノンを睨んでいた。
舐めんなとご立腹な様子。

「ギルよ。これぐらいでちょうど良いのじゃ、長く生きておる者には後進に力を示さねばならんからのう、ハンデじゃよハンデ」
ゼノンは余裕の表情を崩さない。
流石のギルもアルコールは注文しなかった。
アルコールを飲んでしまっては、フードファイトは継続出来なくなるからね。
ギルは悔しさが表情に滲み出ていた。
そこにゴンガスの親父さんがやってきた。

「お前さん、これは何の騒ぎだ?どうなっておるのだ?」

「フードファイトですよ、ギルとゼノンのね」
ゼノンはそれを聞いてこちらを見た。

「お主が鍛冶神のゴンガスじゃな、儂はエンシェントドラゴンのゼノンじゃ、よろしくのう」

「お前さんがゼノンか?よろしくの。して何でフードファイトなんだ?」
それは俺も聞きたい。
俺は両手の平を上に向けるしか無かった。

「まあ何にしても面白い物が見られそうじゃのう、ガハハハ!」
親父さんはトウモロコシ酒を注文し、俺の隣に腰かけるのだった。

次々に食事が運び込まれていた。
ギルは既にラーメン最後の豚骨ラーメンを制覇しそうだった。
まだまだ余力はあると、力瘤でアピールしている。
すると観客が沸く。
ギルのやつ千両役者の能力を使ってないか?
少々疑わしい。
なんでこんなに観客が沸くんだ?
フードファイトって結構盛り上がるものなんだな。
知らなかったよ。
ゼノンも余裕を崩さない。
日本酒のお替りまで注文している。
ていうかゼノンの奴、金貨十枚で足りるのか?
まあこうなってくると、どうせ俺の奢りになるのは眼に見えている。
なんだかな・・・
ここで今度はタイロンの三柱の登場だ。

「島野君これは一体なんなの?久しぶりに顔を見たと思ったら、何の騒ぎなの?また何かやったの?」

「島野さん、久しぶりって、どうなっているんだ?」

「ギル君!凄い勢いで食べているけど、どうしてなんだい?」
三人とも眼を丸くしていた。
特にオズはギルの食いっぷりに腰を抜かしそうだった。
エンゾさんは俺がまた何かやらかしたと疑っているらしい。
俺ってそんなに信用無いかね?

「オズさん、これは真剣勝負なんだよ、僕とジイジのね!」
汁を飛ばしながらギルが答えている。
ギルは気合の入った視線でオズにアピールしていた。

「真剣勝負って、島野さん一体何が?」
その疑問は当然です。

「オズ、ギルとゼノンのフードファイトだよ」

「フードファイト?」
ゼノンは悠然と食べ物を口に運んでいる。

「ほう、これはタイロンの三柱では無いか、儂はエンシェントドラゴンのゼノンじゃ、よろしくのう」
これにエンゾさんが驚きを隠すことなく突っ込んだ。

「はあ?エンシェントドラゴンが何でギル君とフードファイトをしている訳?」

「ハハハ、経済の神エンゾよ、これは大事な戦いなのだよ。先人としては力を示さねばなるまいて」
何の力だよ。
アホか?
沢山食えることが力があるアピールになるとでも?
ドラゴンの風習か何かか?

「そうは思わんか?警護の神ガードナー、法律の神オズワルドよ」

「私には何がなんだかさっぱり」
だよね、ガードナーそれでいいと思うよ。

「よく分からないがバトルと言うからには、私は友達のギル君を応援させてもらうよ、ギル君頑張れ!君なら出来る!」
その言葉にギルは親指を立てていた。
なんじゃそれ?
いろいろ間違っているような気がするのだが?
それでいいのか?オズ。
結局三人は俺の近くで食事とアルコールを楽しみだした。
これはフードファイトを肴にしているな。
三人は観戦モードに突入していた。
この様子を楽しんでいるみたいだ。

ギルはうどんシリーズに入っていた。
もの凄い勢いでうどんを啜っている。
口の中が火傷しないか心配になるぐらいだ。
一方ゼノンは全ての定食を食べ終え、おつまみシリーズに突入していた。
枝豆を可愛らしく食べていた。
そして日本酒をまたお替りしている。
大食いな上に酒豪って・・・無敵じゃないか。
流石はエンシェントドラゴン。
この世界を消滅できる存在である。
って俺もおかしくなってきてないか?
熱に当てられた?
やれやれだ。

そこにランドールさんと、これまた珍しくドラン様が連れ立って現れた。
何とも不思議なコンビである。

「島野さん、なんの騒ぎです?」

「島野君、久しぶりだね。君の周りは常に騒がしいね。ガハハハ!」
またこの反応か、説明が面倒臭くなってきた。
まだまだ余裕のゼノンが自己紹介を勝手に始めた。
正直助かる。

「畜産の神ドラン、エロの神ランドール、もとい!大工の神ランドール・・・儂はエンシェントドラゴンのゼノンじゃ、よろしくのう」
エロの神って・・・まんまじゃん。
ゼノン・・・ちゃんと見ているじゃないか。
正解です。
ランドールさんはいきなり撃沈していた。
自己紹介の初手で心を折られてしまっていた。
膝から崩れる人を俺は久しぶりに見たよ。

「ゼノン様・・・エロの神って・・・」
既にランドールさんは青色吐息だ。

「おお!あなたがエンシェントドラゴン・・・」
何故かドラン様も言葉になっていない。
いきなり名を言い当てられたことに驚いているのだろうか?
否、そうではなさそうだ、ランドールさんにつられているだけみたいだ。
にしてもランドールさんはちょっと可哀そうだった。
ゼノン、始めましてでそれは無いんじゃないか?
先制のパンチがいきなり顎に入っているぞ。
脳を揺らしてるじゃないか。

「ランドールよ、儂はお主のことを好いておるよ、その欲望に忠実な姿勢は見ていて楽しいからのう」

「ハハ・・・」
ランドールさんは無表情になっていた。
力なく俺の隣に腰かけていた。
ドラン様も訳も分からずこの騒動に巻き込まれていた。
でもちゃっかり食事を注文している。
ドラン様はお気に入りのとんかつ定食を注文していた。

バトルは続く。
ギルはうどんシリーズを食べ終えて、今度は蕎麦シリーズのターンだ。
一方ゼノンはおつまみシリーズをさらっと終えて、アイスクリームも制覇目前だった。
ゼノンはアイスクリームを頭を抱えながら食べている。
頭がキーンとなっているのだろう。
こればかりはどうしようも無い。
ゼノンは苦悶の表情を浮かべていた。
ここが勝負どころとギルも奮起するが、蕎麦が熱かったのか。悶絶していた。
これは痛み分けか?

「ギル君、ここは気合だ!」
オズがらしくない声援を送っていた。
こいつも熱に当てられたみたいだ。
そこに今度は子供を引き連れたファメラが現れた。

「あれ?ゼノンだ。何やってんの?」

「おお、ファメラか、久しいのう」
どうやら知り合いの様だ。

「こんなに人を引き連れて何やってんのさ?」

「これはのう、大事な勝負なんじゃ。先人の力を示さねばなるまいて」

「へえー、僕には分からないな」

「いつかファメラにも分かる時が来ようということじゃな」

「そうなんだ」
ファメラには興味がないみたいだ。
適当に流していた。
ファメラは子供達と適当に席を選んで食事を楽しんでいた。
ファメラは実にあっさりとしているな。
それでいいと思うよ。

バトルは折り返し地点に差し掛かっている、ギルは心なしか苦しそうだ。
ゲップを繰り返している。
それを横目にゼノンはまだまだいけると、遂にカツカレーに手を伸ばしていた。
遅れてギルもカレーシリーズに手を伸ばしだした。
ギルはチキン煮込みチーズカツカレーを頬張っているが、少々苦しそうだ。
余裕の表情を浮かべるゼノンと、必死に食らいつくギル。
これは勝負あったか?

でもここからのギルが凄かった。
カレーは飲み物と言うが如く。
飲み込むようにカレーをバクバク食い散らかしていた。
怒涛の勢いとは正にこのことだ。
ギルの快進撃は止まらない。
ゼノンが不意に呟く、

「ギルよ、そろそろギブアップしても良いのだぞ、お前はよくやった。褒めてやるぞ」

この発言が気に入らなかったのか、ギルは更に加速した。
カレーゾーンを終えて、アイスクリームゾーンに取り掛かっていた。

「おいギル!大丈夫か?」
俺は思わず声を掛けてしまった。
真剣勝負に水を差す気は一切ないのだが、少々心配になってきた。
エルは手を重ねて祈っているぐらいだ。
そんなことはお構いなしとノリノリなノンはお祭り騒ぎだ。
観衆を煽ってウェーブを発生させていた。
ノン、いい加減にせい!
お前はいい加減空気を読めよ!
いや、読んでいるからふざけているのか。
なんかムカつく。
観客も熱に当てられて歓声が煩い。

「ギル!お前ならもっと食えるぞ!」

「飲み込んじゃえ!」

「ドラゴン対決凄げー‼」

「俺もたくさん食うぞ!」
そして歓声を受けてギルが立ち上がる。
トントントンとジャンプをしている。
フードファイトでよく見かける光景だが、これに効果はあるのか?
そんなギルをゼノンは不敵な視線で見つめている。

「ギルよ、そんなことでは儂には勝てんぞ」

「フン!まだまだだよジイジ!僕の本気はこれからさ‼」
ギルは薄っすらと金色に輝いていた。
おい!こんなところで千両役者を使うんじゃない。
これに観客が反応する。

「ギル‼」

「よっ!待ってました!」

「私にも一口くれ‼」

「俺にカレーを食わせろ‼」
明らかに変な効果が表れていた。
千両役者ってギルの体調によって変化するものなのか?
まあ、どうでもいいか。

いつの間にかいたレイモンド様は、
「何をー、やっているのー」
呑気に近寄ってきた。

「養蜂の神レイモンドじゃな?」

「そうだよー」
相変わらず間延びしている。

「儂はエンシェントドラゴンのゼノンじゃ、よろしくのう、お主の作る蜂蜜が食べてみたいのう」

「いいよー、そこで売っているよー」

「そうか、後で買っておこうとするかのう」
二人は緊張感の無い会話をしていた。

「僕はー、生ビールー」
レイモンド様は通常運転で注文をしていた。
この人はこれでいいと思う。
マイペースの代名詞的な人だしね。
沢山生ビールを飲んでくださいな。
けど子供達にはあんまりその姿を見せないでね。
子供達の夢を壊しかねない。
プーさんが生ビールって・・・

ギルはアイスクリームシリーズを終えようとしていた。
アイスクリームをバクバクと食べている。
ギルには頭キーンは無いみたいだ。
これは年齢差か?
飲み込むようにアイスクリームを食べていた。
ゼノンは蕎麦を食べつつも日本酒を堪能していた。

「かぁー!旨い‼」
日本酒に舌鼓を打っている。
まだまだゼノンの余裕は消えない。
こいつの胃袋は穴が空いているのかと思ってしまう。

「すまんが七味唐辛子を貰えるかのう?」
調味料まで注文していた。
ゼノン凄えな。
まだまだかかってこいってか?

そこにカインさんが楽し気な顔で現れた。

「島野さん、この騒ぎは何だい?」

「フードファイトですよ」

「へえー、凄い事になっているね」
ゼノンがこちらを振り返る。

「ほう、ダンジョンの神カインじゃな、儂はエンシェントドラゴンのゼノンじゃ、よろしくのう」
カインさんは身体をビクッとさせて固まっていた。

「なんと・・・なぜ私の名を・・・」
やっとまともな返しを聞けたな。
この反応が正解です。
いきなり名前を言われたらこうならなきゃ駄目でしょ?

「ああ、それはゼノンは千里眼と地獄耳の能力を持っているからですね」

「なるほど・・・あ!カインです。よろしくお願いします!」
これが普通の反応だよね。
ちょっと安心した俺だった。

会場のボルテージは上がり撒っている。
ノンがふざけて観客を煽りまくっているからだ。
そこら中でウェーブが発生している。
とんでも無いお祭り騒ぎだ。
エクスが心配そうにギルを見ている。

「エクスよ、そんなに心配せんでもよい。ギルにはきっちりと格の違いを分からせてやるからのう」
この発言にギルが吠える。

「ジイジ!僕を舐めるな‼ゲェエ‼」
ギルは本気で叫んでいた。
だが同時に大きなゲップをしていた。
その様に大爆笑が起こっていた。

「良い音聞きました!」

「カレーの匂いがする」

「幸せのハーモニーやー!」
ギルはイラっとしつつも、不利な状況を察しているみたいだ。
箸の進むスピードが落ちてきている。
ギルを応援してやりたいが、このままではまず負けるだろうな。
ゼノンは余裕こそ無くなっているが、まだまだ食べれそうなのだ。

そこにアンジェリっちとオリビアさん、そしてマリアさんが加わってきた。

「ほほう、これは麗しき三人の女神じゃな」
え?マジで?
一人おじさんが混じっていますけど?

「ムフ!分かっているじゃない、このナイスミドルは。ねえ守ちゃん?」
知らんがな。
マリアさんは嬉しそうにしている。

「ちょっとマリアさん、あなたは女神じゃないでしょ?」
ギルが思わず突っ込む。

「なによギルちゃん!聞きづてならないわね。心が乙女なんだからいいでしょそれで?違う?」
マリアさんがギルに噛みつく。

「そうじゃ、それでいいのじゃよギルよ。マリアの言う通りじゃて。要は心の有り様なのじゃからな」
まあそう言われるとそうなんだが・・・
多様性の時代ともとれるが、そうじゃなく単純にマリアさんを女神と呼びたくはない。
何故かちょっと俺は抵抗がある。
俺はギルに一票を投じたい気分だ。
だって青髭を蓄えた女神なんて・・・俺は知らないからね。

「もしかしてエンシェントドラゴンなの?」
オリビアさんがゼノンに話し掛けていた。

「そうじゃ音楽の神オリビアよ、儂がエンシェントドラゴンのゼノンじゃ。それに美容の神アンジェリ、芸術の神マリアよ。よろしくのう」

「こちらこそ」

「あらまあ」

「ゼノンじゃん」
三者三様の反応をしていた。
この人達も名前を知られていることに反応しない。
何故だ?
結局そこを突っ込んだのはカインさんだけじゃないか。
緊張感が薄れてないか?この人達・・・

フードファイトは佳境を迎えつつあった。
ギルは完全にペースダウンしている。
だが決して箸は止まってないのが凄い。
ギルの本気は伊達じゃないのだ。
俺はギルが負けても純粋に褒めてやりたいと思う。
ギルはおつまみをポリポリと食べていた。
そしてゼノンは遂に最終のラーメンシリーズに突入していた。

ここに真打登場と、上級神達が珍しく連れ立って現れた。
こいつらタイミングを計っていたな。
じゃないとこれはあり得ない。

「よう島野、ゼノン!やってんな!」

「はて、何の催しかのう?」

「食え食えー!」

「僕に何か食べさせろー!」
各自適当な事を言っている。
面倒臭いから来ないでくれよ。
結局神様全員集合じゃないか。
やってられるか。
この神様大集合に観客達は沸きに沸きまくった。
今では立ち見も散見されている。

それにしてもゼノンは凄いな。
バトルをしながらも南半球の神様ズ全員と挨拶を交わしていた。
これはなかなか出来ることじゃない。
もしかしてこれも作戦なのか?
注目を集めればお祭り騒ぎの好きな神様ズなら集まってくるはずだ。
それを見越してフードファイトを仕掛けたと・・・
だとしたら末恐ろしいな。
先を見通す能力を持っているのかもしれないな。
まだまだゼノンの権能は未知数だ。
本当は鑑定すればいいのだが、それは憚れるしね。
徐々に鱗を剥がしていくしかないだろう・・・ドラゴンなだけに・・・
うーん、減点五。
少々手厳しいか?

そして遂にフードファイトは終了を迎えた。
ゼノンが最後の醤油ラーメンの汁を飲み干したのだった。

何故か途中から実況を始めていたオリビアさんが。
「勝負あり!勝者、エンシェントドラゴンのゼノン‼」
と絶叫していた。

「おお‼」

「ゼノン様‼」

「ほんとに全メニュー制覇しちゃったぞ!」

「ギルも凄かったぞ!」

「ギル、胸を張れ‼」
歓声と拍手が鳴りやまない。
そう、ギルも凄かったのだ。
今回は相手が悪かっただけだ。
ギルは悔しそうにしているが、ギルが弱かった訳ではない。
よく考えてみれば、獣スタイルで三倍の大きさを誇るゼノンが負ける訳はないのだ。
それでも挑んだギルは立派だ。
大健闘で間違いは無いのだ。

「ギル‼よくやった‼」
俺は最大限の賛辞をギルに送りたい。
ん?でもちょっと待てよ・・・
この支払はいくらになるんだ?
俺持ちになるんだよな?・・・多分・・・
案の定、俺の肩にゼノンの手が置かれた。

「守よ、全ての料理が美味しかった。ご馳走様です」
ゼノンは俺に向かって手を合わせていた。
それに倣い、観客と全員の神様達が俺に手を合わせていた。
・・・何だこれ?
やられたな・・・
この雰囲気をぶち壊すことは俺には出来ない。
一本取られてしまった・・・ちっ!
俺が甘かったか?
まあでも楽しかったから有りだよな?

「分かった!・・・今日は俺の奢りだ‼食いたいだけ食って、飲みたいだけ飲んでくれ‼全部俺の奢りだ‼」
ええい!こうなったらやけくそだ‼
どんちゃん騒いでくれ!
とは言いつつも、前回のステータスチェックの時に俺の預金残高が一億円近くあったことを俺は思い出していた。
まあ、何とかなるでしょう・・・多分・・・
はあ、やれやれだ。
でも楽しかったー‼