その村はとても原始的な雰囲気だった。
村を囲う柵等は一切なく。
他者の侵入等お構いなしといった体だった。
長閑な田舎の村であった。
そして俺達の到着を知っていたかの如く。
リザードマン達からの歓迎を受けることになった。
入口で綺麗に二列に整列しており、全員が頭を下げていた。
なんで知っていたんだ?
もしかして・・・

首領であろう一人のリザードマンが、列の先頭に控えており。
「島野様御一行ですね、お待ち申し上げておりました」
声を掛けてきた。

後で聞いたのだが、この首領が唯一の名前持ちだった。
名前はアリザ、流暢に話が出来るのはこいつだけだった。
アリザは屈強な戦士風の出で立ちで、リザオよりも一回り大きい体躯をしていた。
外のリザードマン達よりも明らかに大きかった。

俺はギルと顔を見合わせた。
歓待を受けたことに、ギルは驚きで目を大きくさせている。
エルとゴンも同様だった。
ノンだけがマイペースにヘラヘラしている。

「そうか、それでエンシェントドラゴン様はいるのか?」

「はい、奥でお待ちしております。お連れするように承っております」

「分かった」
俺達は誘われるが儘に、付いて行くことになった。
村を眺めると、住処はとてもじゃないが家とは呼べない物だった。
掘っ立て小屋というよりは木造のテントだった。
全く文化的な要素を感じない。
畑は見受けられるが、サウナ島にあるような立派なものでは無く、貧相な畑だった。
こう言っては何だが、少々臭いし汚い。
トイレらしき物は見受けられたが、あれは肥溜めだな。
ゴンに後で浄化魔法をして貰おう。
この匂いに俺は耐えられそうもない。
これまで見てきた中でも断トツに文化的な要素の欠片も無い村だった。
まるで昔小学生の時に習った、縄文時代のような有様だった。
どこかに古墳でもありそうだ。

進んで行くと、村の奥には大きな広場があり、エンシェントドラゴンから歓待を受けることになった。

デカい!ひたすらデカい!
今ではギルも獣スタイルでは大概デカいが、それを遥かに超えている。
ギルの三倍近くはありそうだ。
俺達は漏れなく見上げることになっていた。
全員唖然としている。

「思いの外遅かったのう」
これがエンシェントドラゴンの第一声だった。
腹に響くとても低い声だった。
その声だけでも威厳を感じる。

「どうも始めまして。俺は島野ですって、どうやら俺達のことを知っているみたいですね?」
だからあの歓待だったんだろ?

「ああ、見させて貰っておったぞ。そしてギルよ、儂はこの日を待ち詫びておったぞ」
エンシェントドラゴンは優しい眼差しでギルを見つめている。

「うん」
ギルは羨望の眼差しでエンシェントドラゴンを見上げていた。

「ほれ、ギルよ、もっと近くに来るのじゃ。もっと近くでその姿を見せておくれ」
ギルは頷くと、エンシェントドラゴンに近寄っていった。
するとエンシェントドラゴンが突如人化した。

俺はド肝を抜かれそうになった。
その姿は創造神様にそっくりだったのだ。
流石のノンも驚いているみたいだ、珍しいこともあるものだ。
ゴンとエルも同様に驚いている。
ギルは創造神様を知らないが、お地蔵さんを知っている。
見た目がそっくりなことに驚くかと思ったが、今はそれよりもエンシェントドラゴンの呼びかけに心を持ってかれているみたいだ。
エンシェントドラゴンは近寄ってきたギルを抱きしめていた。
そして頭を撫でている。

「ギルよ、儂はこの時を待っておったぞ」
エンシェントドラゴンはしみじみと言った。
まるで好々爺の様に穏やかな顔をしていた。
久しぶりに会う孫を抱擁しているみたいだ。
ギルは静かに泣いていた。
肩を震わせながら、声も挙げずに。
俺は居ても経っても居られなくなり、俺も側に寄って思わずギルの肩に手を置いていた。
エンシェントドラゴンと目を合わせて、不思議な一体感を感じていた。
とても幸せな時間だった。

エンシェントドラゴンは慈悲深い眼をしていた。
俺はやっとギルに肉親を会わせることが出来た。
思わず胸が熱くなった。
抱かれるギルの幸せそうな笑顔に、俺は達成感すら感じていた。
ここに俺の目標が一つ達成されたのであった。



喜びの余韻を感じつつも、まずは話を重ねなければならない。
聞きたいことが山ほどある。
それはギルも同じことだろう。
俺達は勧められるが儘に、地面に座ることにした。
直に地面に座ることに一瞬躊躇いを感じたが、無視することにした。
エンシェントドラゴンが真っすぐに俺を見る。

「守よ、ギルが生れてから儂はずっと見させて貰っておった。ギルをここまで育ててくれてありがとう、まずは礼を言わせて欲しい」
エンシェントドラゴンは躊躇うことなく俺に頭を下げた。
その様にリザードマン達がどよめく。

「俺は自分に出来ることをしたまでです、頭を上げてください」
エンシェントドラゴンは俺の言葉に頷いていた。

「そうか・・・ギルよ、立派になったのう」
優しい眼でギルを見つめている。

「うん」
ギルは照れているようだ。
でもギルは同時に胸を張っていた。
ここまで大きくなったんだよと言いた気に。

「エンシェントドラゴン様、聞きたい事が山ほどあります」
頷くとエンシェントドラゴンは威厳のある声で言った。

「守よ、儂に様は要らぬよ、儂にはゼノンという名がある、これは創造神様から与えられた誉れ高き名じゃ、儂の事はゼノンと読んでくれ、決してさんとかは付けるなよ。特にお主はな」
特に俺はとはどういう事だ?

「それはどういうことですか?」
単刀直入に聞いてみた。

「守よ、儂は創造神様から聞いておるのだよ、お主は創造神様の後任候補なんじゃろ?」
この発言に周りがどよめいた。
クモマルは眼をひん剥いている。
リザオはワナワナしていた。
ちょっとした挙動不審者だ。
その他のリザードマンは絶句していた。
島野一家は当たり前と頷いている。
というよりどや顔をしていた。
そんな外野をお構いなしにゼノンは話しを続ける。

「それは云わば儂の未来の相棒ということになるのじゃよ、そんな相手に遠慮はいらぬし、傅く必要は無かろうて。違うか?それにギルや、儂の事はジイジと読んでおくれ」

「うん」
それは創造神様とゼノンが相棒と呼べる間柄ということになる。
まぁそうなるか、エンシェントドラゴンには世界を滅ぼす力があるとダイコクさんは語っていた。
それはエンシェントドラゴンを造った創造神様が、何かしらの意図があってその様な存在を造ったということに他ならない。
創造と破壊。
相反する様で両立する現象。
破壊があって、想像があるともいえるし、想像があって破壊があるともいえる。
相棒とはそういった側面を含んでいるのだろう。
そうなれば、決して傅く相手ではない。
謙遜は要らないということになる。
まぁ敬う気持ちは捨てようが無いのだが、親近感から俺はゼノンと呼ばせて貰うことにするよ。
ゼノンがそう望んでいるのだから。

「分かったよ、ゼノン。聞きたいことが山ほどある、まずはドラゴンのエリスについて教えて欲しい」
なによりまずはこれが聞きたい。
ギルの表情が変わった。
緊張感が滲み出ている。
ウンウンと頷くゼノン。

「エリスじゃな、ちゃんと生きておるよ。安心せい。この村には今はおらんが、エリスは天空の街エアーロックで休養しておるよ」
天空の街エアーロック?
それって・・・空に街が浮かんでるってことなのか?
ファンタジー来ちゃったよ。
なんで街が空に浮かぶんだ?
今はいいか・・・
でも空なら俺とギルは何時でも行けそうだ。
エリスに会えるのもあと僅かか?

「ジイジ、天空の街って、空に浮かぶ街ってことなの?」
ギルはあっさりとジイジ呼ばわりすることを受け入れていた。
となると、五郎さんが父方の爺さんで、ゼノンが母方の爺さんということか?
どうでもいいか。

「そうじゃ、後で行き方を教えてやろう」

「うん!」
よかった、これでエリスに会うことができる。
やっとだ、遂にここまで来れた。
ギルは俺の方を見ると親指を立てていた。
俺は笑顔で返す。

「エリスは健在なんだな、それは良かった。それと俺達を見ていたということだけど、どういうことなんだ?」
これは何となく答えは分かっているが敢えて聞いてみた。

「それはな、儂には千里眼と地獄耳という能力があるのじゃ、千里眼とはその名の通り、千里先までも見通す能力なんじゃ、そして地獄耳も遠くの音を聞く事が出来る能力なんじゃ、それに儂はドラゴンの存在を感じることが出来るのじゃ、儂はギルが誕生したことを感じ取り、お主達を時々千里眼で見ておったのじゃ、ほんとは四六時中見たかったんじゃが神気が薄いからのう、困ったものじゃ・・・」
はやりか、そういう能力を持っていると思ったよ。
にしても、ここでも神気減少問題が浮上していきたか。
ほんと根強い問題だな。
いい加減どうにかしたい。
それについても尋ねなければならない。

「その神気減少問題なんだが、心当たりはあるのか?」
ゼノンは眼を瞑り、上を向ていた。
これは心当たりありだな。
さて、話してくれるかな?

「そうなるはのう、これは心苦しいのじゃが、儂からは話せんのじゃ、実は上級神は全員が原因を知ってはおるのじゃ、しかしな、創造神様から手出し無用とのきついお達しがあってのう、儂からは話せんのじゃ」
やはりそうか。
千里眼と地獄耳を持っているのなら、世界中の情報が集められる。
百年前の戦争についても、その黒幕が誰かを知っているに違いない。
世界に平和をもたらす存在のドラゴンが、その動向を追わない訳がない。
きっと全ての背後関係すらも手中に収めているだろう。
千里眼と地獄耳はそれほどまでに優秀な能力と考えられる。
俺も習得すべきなんだろうな。

あとで大いにパクらせて貰うとしよう。
でも創造神様からのお達しにより、動けないどころか、手を出す事すら封じられているということか。
その表情からも歯がゆさが読み取れる。
それにしても何で創造神様は上級神達を止めているのだろうか?
その意図が俺には読み取れない。
見守るという神の大原則に忠実であるということなんだろうか?
あの爺さんに限ってそんな理由とは思いづらいのだが。
何か深い理由がありそうだ。

「ということは、ゼノンは上級神なんだな?」

「そうじゃ、儂も上級神の一柱であるのじゃ、何だ?アースラ達から聞いてはおらなんだのか?」
聞いてませんよそんなこと、そもそもあなたの事すら聞いておりませんよ。
そうか千里眼も地獄耳も時々しか使えないから、現状を細かくは分かって無いということか。
俺達のことをどこまで知っているのだろうか?

「聞いてないね、まぁ俺もそんな質問をしなかったしね・・・」

「そうか」

「それにしても創造神様に似てるな、それは相棒だからか?」

「いや、ふざけてみただけじゃ」
と言うと、ゼノンは変身した。
その姿はまるで違っていた。
背筋がピン伸びた老齢の紳士だった。
バトラー風の衣装を纏っており、風格が滲み出ていた。
口髭がとても似合っている。
所謂いけオジである。
はあ?何だそれ?

「ウケるかと思ってのう?どうじゃウケたか?」

「ウケねえよ!」
俺は全力で突っ込んでいた。
なんだこの爺い、ズレてやがる。
やばい、癖者だ。
ギルも呆気に取られていた。
空いた口が塞がっていない。
ノンは一人ゲラゲラと笑っていた。

「ゼノンの爺ちゃんオモロ!」
腹を抱えて笑っている。
ゴンもエルも呆気に取られていた。
俺はちょっとムカついてきた。
この爺い、どうしてやろうか?
駄目だ、笑いの趣味が噛み合わなすぎる。
初対面の者にする悪戯じゃないでしょうが。
ノンだけウケたのはよく分からんが。
ノンの反応を見てゼノンは喜んでいる。
何で神様はまともな者が居ないのだろうか?
俺もまともじゃないんだろうけどさ。

「ゼノン・・・面白くねえよ」

「そうだよ、ジイジ。やり過ぎだって!」
ギルも面白く無かったみたいだ。

「そうかすまんすまん、上級神の間では鉄板のネタなんじゃがな」
確かに物真似は鉄板のお笑いネタではあるが、状況を考えてみてくれよ。
どうせ創造神様のいないところで、物真似してウケてたんだろうね。
学校の放課時間に担任の先生の物真似をしてウケてた同級生がいたな。
あいつは人気者だったな。
元気にしてるだろうか?
今はどうでもいいか。

「ゼノン、話を進めていいか?」

「そうじゃな、すまんのう」

「ゼノンは神力が足りてないということなのか?」
これまでの話を総称するそうなるが。

「慢性的に足りておらんのじゃ、幸いリザードマン達が祈りを捧げてくれておるから、尽きることはないのじゃがな」

「なるほど、俺の神力を分けようか?」

「そうじゃな、分けてくれるか?」

「ああ、いいぞ」
俺はゼノンの肩に手を置いて『神力贈呈』を発動した。
俺の中からゼノンに神力が送られる。

「おお‼おおお‼これは‼」
ゼノンは興奮していた。

「守よ!やはりお主は出鱈目じゃな!これは期待が持てるというものじゃな!ナハハハ‼」
俺から存分に神力を吸って上機嫌になったみたいだ。
肌の色艶すら良くなっている。
少し若返って見えたくらいだ。

「これは気分が良い!百年ぶりに神力に溢れておるぞ!」
どうやらこの百年近くは苦労したみたいだな。

「守よ!儂は力に満ちておるぞ!」
この爺い、調子に乗るなよ?

「じゃあ、お地蔵さんは要らないよな?」

「ああ、此処には不要じゃな」
俺は『収納』から俺の神力の込めてある神石を取り出した。
ゼノンに手渡す。

「念のため一つあげるよ」

「そうか、すまぬな」
ゼノンはニコニコしながら神石を受け取る。

「守よ、お主は慈悲深いのう。慈愛に満ちておる、やはり神の資質ありじゃな!」
よく言うよ、もうこれ以上あげる物はありませんからね。
あ!お土産セットがあったか。
しょうがないな。
『収納』からお土産を取り出し、こちらも手渡した。
ゼノンは野菜を繁々と眺めている。

「これは素晴らしい野菜じゃな」
ウンウンと頷いている。

「なんと、これはワインじゃな?儂は飲むことが大好きなんじゃ、堪らんな!」
やはりな、酒嫌いの神様なんてこれまで知らないしね。
あのデカいプーさんですら生ビールをガバガバ飲んでいるからね。
早速、ワインを飲みだしているゼノン。
おいおい!お構いなしかよ。
もういいや、食事にしよう。

「ギル食事にしようか?」

「そうだね、あれにする?」

「ああ、そうだな」
俺は『収納』からワイルドパンサーを二頭取り出し、サクッと解体を終わらせた。
その様子を眺めていたリザードマン達から歓声が挙がった。
後はギルとエルに任せることにした。
リザオたちが調理のセッティングにあたふたと動き出した。
そして案の定宴会が始まった。

ドラゴンを祭る村は大いに賑わっていた。
俺はこっそりとゴンとクモマルに浄化魔法を村全体に行う様に指示した。
我が意を得たりとゴンとクモマルは食事もほどほどに頑張ってくれた。
大変助かる。
だって、食事中に嫌な臭いはねえ?
ゼノンとリザードマン達は食事と酒を楽しんでくれたみたいだった。
そしてリザードマン達は新たな主君を得たりと、ギルから離れなかった。
それをギルは鬱陶しく感じつつも、少し誇らしげにしていたのだった。
その様にして、ドラゴンを祭る村での初日は更けていった。