魔物同盟国『シマーノ』は既に国として国内外から認められる国となっていた。
当初の目標は既に達成した。
喜ばしいことである。
今では北半球で最新文化の発信国となっている。

というのも、魔物達は南半球の娯楽を『シマーノ』に落ち帰り、独自の文化へと発展させていたのだった。
サウナ島のみに関わらず、外の街や国からも娯楽を学んでいる。
南半球から様々な娯楽を持ち込んでいた。
それに娯楽のみならず、裁縫、大工、鍛冶、漁等の技術も習得していた。
今は北半球一の技術を持つ国となっていたのだ。
その有り様に魔物達も誇らしくしていた。

だが南半球との行き来に関しては、未だに一方通行である。
これを俺は解除することは今のところない。
この方針を今は変えないことにしている。

南半球からの渡航者は一握りの者達に限定されている。
俺が許しているのは、神様ズと島野商事の従業員の一部だ。
外の者達に関しては、随時相談だ。
俺としては許せるのはリチャードさんとカベルさんぐらいだな。
それも決めるのは俺ではなくマークとロンメルに決めさせている。

サウナ島に関しては、今は島野一家はほとんど関与していない。
それでも給料は入って来るのでありがたいのだが、いい加減引退しなければならない。
不労働収入が発生している状況なのである。
まあ権利収入と言えなくはないのだが・・・

それを察知してか、マークとランドからは、
「まだ、引退しないでくださいね」
と釘を刺されている。

どうしたものか・・・
因みに北半球からの渡航者は魔物のみに限定している。
毎日決まった時間にエクスが転移扉を開けることになっている。

ダイコクさんには悪いが、今は南半球に行くことは禁じている。
これは実はエンゾさんとダイコクさんとの間での取り決めでもあるので、ダイコクも了承はしている。
その理由の一つとしては北半球と南半球での金貨の違いによる処が大きい。
まだ相場が定めることが出来ないからである。
金貨であれば金の含有量が南半球の金貨の方が高い。
だがそれだけでは無く、物価を今は決めかねているのも事実なのだ。
後は正直なところでは、北半球から南半球に仕入れたい物が、ほとんど見当たらないことも原因となっている。
リザードマンの鱗とアラクネの糸以外では、何も見当たらなかったからだ。
ルイベントに訪れていろいろ探してみたのだが、琴線に触れる物が何も見当たらなかったのだ。
それだけモエラの大森林の環境が良いということだろう。
森あり、川あり、海あり、鉱山ありだからな。

これは今後の課題として、エンゾさんとダイコクさんで話し合いを設けることになっている。
その後どうするのかが決定された後に、俺に報告される手筈になっている。
転移扉は俺の物なので、勝手に運用を決めさせることはない。
その点は二人も理解している。
それにダイコクさんが転移扉で南半球に移動できることは、イコールルイベントの国民が南半球に訪れることができるということだ。
これを認める程俺は甘くない。
まだ北半球への警戒は解いていないのだ。
だが魔物達は別だ、魔物達が俺に仇なすことはあり得ないからだ。



島野一家が北半球に降り立ってから二年、いよいよ島野一家は旅立ちの時を迎えていた。
もはや俺達が『シマーノ』で出来ることはたいして無い。
そこで俺は本来の目的を再開することにしたのだ。

次に目指すは『ドラゴンを祭る村』である。
既に俺達はルイベントを何度も訪れている。
魔物達に商売を教える為に同行したのだ。
今では商売に関してはソバルを中心に商業部門が設立され、運用を行っている。
窓口はダイコクさんとパイプの太いソバル以外には考えられなかった。
ソバルは商売に関してダイコクさんからも指導を仰いでおり、みっちりと扱かれている。
今では一端の商売人だ。
魔物達の中では最も知能が高い為、計算もお手の物である。

ルイベントの町並みはタイロンに似ていた。
石造りの頑丈な家が多く、また城下町を取り囲む城壁も高い。
永世中立国を謳ってはいるものの、その警備は厳重だった。
実際国軍もあるぐらいだ。
そこら中で兵士を見かける。

万が一他国から攻め込まれても侵略はさせないだけの、練度の高い兵士が揃っているとダイコクさんが前に説明してくれていた。
北半球では戦争がある為、これは必要な処置だと考えられる。
自衛の手段は持っていなければならないということだ。
私の国は永世中立国だから誰も攻めてこないでください、と言っても無視して攻め込まれたら一貫の終わりである。
自衛の手段は取って当たり前ということだ。
攻め込ませないほどの力を得て、平和を享受できるということだ。
この国に手を出してはいけないと思わせることも一つの手なのである。

ダイコクさん曰く、ルイベントは北半球の中でも経済的にも安定しており、犯罪率も低い国であるとのことだった。
他国との大きな違いはスターシップの存在だった。
彼はあまりに優秀だった。
その存在無くしてはこの国の発展は無いと思われる程だ。

こうなってくると彼の後継者に注目が高まる。
スターシップは未婚だ。
その先をどう考えるのかは彼に全てが掛かっている。
そしてそれをサポートするダイコクもいる。
ある意味ルイベントの国営は盤石であった。
スターシップの婚活は引手あまたの状態だ。
まあ優秀な上にイケメンだ。
そうなるに決まっている。

どうするのかは俺にはどうでもいい事だった。
こういっては何だが、ルイベントにはそんなに思い入れはない。
それに俺がどうにかしなくとも、スターシップは上手く立ち回るだろう。
ダイコクさんも付いているだから、俺に出る幕などは無い。

俺達が旅立つことを決意したことを感じ取ったのか、魔物達が最近やたらとどうでもいい相談事を寄せてくる。
俺達の旅立ちを分かって、少しでも一緒にいたいのだろう。
寂しさが滲み出ている。
それに魔物達は一切口には出さないが、思い留まって欲しいとの思いが見受けられる。

その気持ちを無下には出来ないのだが、そうとも言ってはいられない。
まだこの世界を脅かしている難問に、辿り着いてすらいないのだから。
いい加減神気減少問題の本質に迫らなければならない。
まだまだ道半ばなのである。
幸い魔物達のお陰で『シマーノ』の神気が濃くなってきている。
この信仰心が俺に向けられていることに未だ馴染めてはいなのだが・・・
でも多少とはいえ、神気減少問題に歯止めが掛かっていることに間違いは無い。
現にダイコクさんは事あるごとに『シマーノ』に滞在したがった。
ダイコクさんにはお地蔵さんを十体渡してあるが、あまり効果が出ていないようだった。
ルイベントでは信仰心の高い者達は少ないみたいだ。

ダイコクさんを南半球には未だ連れていってはいないのは先にも述べたが。
何度か要請はされたのだが、俺は認めなかった。
彼を信用していない訳では無いのだが、商売の神という性質上、一気に販路を拡げられても困るのである。
それにエンゾさんとの取り決めもある。
視察でいいから連れて行ってくれと言われたが、そうはいかなかった。

彼の本音は神気を取り込みたいと思っているのはよく分かっている。
神気贈呈をすることは出来るが、その気にはなれなかった。
それに俺は正直なところ、魔物達の肩を持っている。
ダイコクさんに商機を与える理由は無いのである。

旅を再開するとして『ドラゴンを祭る村』に行くことで、神気減少問題が一気に片付くとは考えてないが、何かしらの進展はあるかもしれないし、何よりエリスのその後を知ることが出来るのではないかと、俺もギルも気が気ではないのだ。
俺としては早くエリスと合流し、ギルの心配事を無くしてあげたい。
父親としてギルの幸せを願うばかりだ。

だが、俺は本能的に感じていることがあった。
エリスは『ドラゴンを祭る村』にはいないのではないかと。
でも少なからずヒントはあると思う。
だってエンシェントドラゴンがいるのだから。
早く行かなければと、焦燥感が沸き立っていた。
それはギルも同様のようだった。
ことある事にいつ行くの?と聞かれている始末だ。
その気持ちはよく分かる。
俺も気になって仕方がないのだ。

俺は首脳陣を集めることにした。
全員雰囲気を感じ取ったのか元気が無い。
でもこれに構ってはいられないのだ。
後ろ髪を引かれるが、俺達はここで立ち止まる訳にはいかないのだから。

「お前達、島野一家は旅を再開することにする」
この俺の発言に、やっぱりかと数名は項垂れていた。
特にプルゴブは打ちひしがれていた。
一番付き合いが長いと言えるこいつは、相当に寂しいのだろう。
今にも泣き出しそうだ。
現に肩を振わせている。
すまんなプルゴブ、分かってくれるよな、お前なら。

「これまで世話になったな、楽しかったぞ、お前達!」
この俺の発言に堰を切ったかの如く首領陣が泣きだしてしまった。

「島野様!」

「お達者でー!」

「行かないでください!」

「お供させてください」
おいおい、大丈夫なのかこいつら。
気持ちはありがたいが・・・
でも、俺も寂しいな。
ありがとうな・・・
案の定、俺以外の一家は泣きだしそうだ。
感極まったのかノンは嗚咽を漏らしている。

「お前達、もう泣くな!転移でいつでも帰って来れるんだ。しょっちゅう帰ってきてやるから、心配するな」

「本当でございますか?」

「約束ですよ!」

「信じてます!」

「待ってます!」
全員が席を立ち上がっていた。

「主は魔物達に本当に好かれてますね」
ゴンがしみじみと言った。

「ほんとにそうですの」
エルも後押しする。

ソバルが手を挙げた。
「島野様‼本日は送別会を行いましょう!国を挙げて盛大に行いますぞ!」

「兄弟!良いアイデアだ!」

「早速準備をしなければ!」

「今直ぐ行おう‼」
俺達を置いて首領陣は部屋を飛び出していった。
そんな中、ひとりクモマルは何かを決心した眼をしていたのを俺は見逃さなかった。
それにしてもなんとも慌ただしい。

「なんだかな・・・」
俺の呟きにノンが答えた。

「しょうがないよ主、気持ちは分かるよ、僕は」
ノンが呟く。

「そうだよ、気持ちをありがたく受け取っておこうよ」
ギルが追随する。

「そうだな、でもとんでも無い事になりそうだな・・・」

「これは付き合うしかありませんね」
ゴンは大人の意見を述べている。

「はあ・・・やれやれだな」
皆な笑っていた。



案の定お祭り騒ぎとなっていた。
想像をはるかに超えるどんちゃん騒ぎとなっている。
全ての魔物が集まり、街の至る所で飲み食いを始めていた。
仰天するほどの大騒ぎだ。
ルイベントからの渡航者達にも飲食物が振るわれている。
彼らは巻き込まれているのだが、表情は楽しげだ。
お祭り騒ぎを楽しんでいるみたいだ。

広場で俺達島野一家は魔物達に囲まれて、一歩も動くことができなかった。
完全に魔物達に囲まれていた。
逃げ場は一切ない。
地面に座り込み、魔物達に強引にジョッキを渡されて、並々とアルコールが注がれていく。
ペースも減ったくれも、あったもんじゃない。
次々に魔物達が我先にとアルコールを持って向かってくる。

これは危険だ。
俺の中のアラームが点滅した。
肝臓が破壊されるのが目に見えている。
このペースでは一時間と持たないだろう。
どうやって躱そうか?
そうだ!この手しかない。
俺は閃いていた。
これは無慈悲だがやるしかない。
俺の肝臓の為に働いてくれ!

「ゴブオクンはいるか!」

「はいはい!ここだべー!」
ゴブオクンが長蛇の列の後方から手を上げた。
意気揚々としている。

「こっちに来てくれ!」

「島野様、今行くだべー!」
ゴブオクンは民衆を掻き分けてこちらに向かってきた。
やる気満々だ。

「島野様!飲んでくれだべ!」
ゴブオクンは既にいっぱいのジョッキにビールを注ごうとしていた。

「待て!」
俺はビールを一口舐めた。

「もっと飲んでくれだべー!オラの酌は飲めないだべか?」

「無理だ」

「そんなー」

「じゃあお前が俺の代わりに飲んでくれよ」
待ってましたとばかりにゴブオクンの眼が光る。

「いいだべか?」
釣れた!
しめしめだ・・・

「よし!ここからは俺の代わりにゴブオクンが飲んでくれるぞ!俺への酌と思ってくれ!いいな!お前達‼」
少々不満げな者達も一部いたが、俺には逆らう気はないみたいだ。
ゴブコに至っては俺の体調の心配をしてくれているみたいだ。
心配そうな視線を俺に向けている。
ありがとうな。
魔物達は次々に俺達に挨拶を行い。
ゴブオクンのジョッキにビールを注いでいた。

ここで大事な事は俺達に挨拶を行うということだ。
こいつらはそれをしたいだけなのだ。
だが宴会となれば、お酌をしないといけないと考えてしまう。
決してそんな必要はないのだが・・・

調子に乗ってゴブオクンがガバガバとビールを飲んでいる。
これで当分の間は凌げるぞ。
という俺の期待は、ものの三十分もせずに打ち砕かれてしまった。
酔いつぶれたゴブオクンは酩酊状態で、もはや半失神状態になっていた。
身体をピクピク振わせている。
最後までこいつは俺の期待を超えることは出来なかったな。
でも憎めない奴だ。
沢山話笑わせて貰ったよ。
よく考えてみたら、ゴブオクンは始めてこの北半球で出会った人物だからな。
いい出会いだったよ。
ありがとうな。

さて、新たな壁が必要だな。
こいつらを巻き込むしかないだろう。
ここで最大の壁を用意しよう。

「首領陣、集合だ!」

「「「は‼」」」
続々と首領陣が集まってきた。
群衆を掻き分けて集ってくる。

「お前達分かってるな!」
俺は意味深な視線を送った。
全員がそれを察していた。

「任せてください!」

「承知!」

「お任せあれ!」

「お助け致します!」
首領陣もテンションが上がっている。
マーヤまでやる気だ。
こいつは飲ませて大丈夫なのか?
見た目が少女だから判断に迷う。
まあいいだろう。
これでも女王だからな。

実は酒豪なクモマルに期待だ。
こいつはゴンガスの親父さんに張り合えるんじゃないか?というぐらい飲める。
一度一緒に飲んだ時には驚かされた。
高アルコールのとうもろこし酒をグビグビと飲んでいた。
俺にこの真似は出来ない。
正直感心した。

横を見ると既にゴンとエルが顔を真っ赤に染めていた。
魔物の応酬を躱しきれなかったみたいだ。
ノンは乗らりくらりと躱している。
ノンはコツを掴んだみたいだ。
こいつも手慣れたものだな、上手く対応している。
ギルはリザオに諭されてアルコールは控えていた。
本人は飲みたいみたいだが。
ギルは実はワインを飲めるようになっていた。
でもまだまだお子様のギルは直ぐに酔ってしまうのだ。
それを分かっているリザオがギルをガードしていた。
そのガードは鉄壁だ、主の無様な姿を決して見せてはいけないと決意を感じるぐらいだ。

それにしてもリザオはギルに従順だ。
もしギルが腹を切れと言ったら本当に切ってしまうぐらい、ギルに陶酔している。
それぐらいリザードマンにとっては、ドラゴンが信仰の対象になっているということみたいだ。
リザードマン達は必要以上にギルを構いたがっていた。
現に旅に同行すると、こちらの言い分に聞き耳を持っていなかった。
正直言って足手まといになるのだが、そんなことは全く耳に入っていない。
リザオ含め五名のリザードマンが勝手に旅に同行することになっていた。
俺は認めていないのだが・・・

面倒臭いのでリザードマンのことはギルに一任することにした。
ギルは何かとギルを構おうとするリザードマン達に辟易しているみたいだが、俺は関与することはせず、ギルに対応させることにした。
ギルからは反発はあったが、これは種族的な事案と捉えた俺は、取り合わないことにした。
リザードマンをどうするかはギルが決めればいい。
俺は巻き込まれなくはないというのが本音だったのだが・・・
間違ってもそれは口にはしないことにした。

その後もお酌攻撃は手を緩めてはくれなかった。
次々と壁役の首領陣が酩酊させられていた。
バッタバッタと倒れていく。

だが最後の砦のクモマルは未だ健在。
どっしりと構えて、グビグビと飲んでいる。
これは頼もしい。
クモマルの快進撃は続く。
この体のどこにこれだけのビールが入るのだろうか?
既に一樽以上は飲んでいる。
するとクモマルが突如宣言した。

「誰か、これぐらいでは私は倒れませんよ!いっそのこと樽ごと持ってきてください‼」
この発言にどよめきが走った。
俺も心配になってしまった。
やり過ぎじゃないか?
クモマル大丈夫なのか?

「クモマル殿、本当に宜しいので?」

「なんと豪胆な!」

「アラクネの首領は一味違うな!」
賛辞が続く。
クモマルが俺に向き直った。

「島野様、あと一樽飲み切ったら、私も旅に同行させて頂けませんでしょうか?」
その眼は決心した眼をしていた。
俺はこれを受け止めなければならない。
だから敢えて言う。

「はあ?お前何言ってんだ?」

「アラクネに進化してからというもの、この国の立ち上げに尽力し、もはや当初の目標は達成致しました。だからこそ私は世界を知りたいのです。新しい景色を見たいのです!よろしくお願いします‼」
クモマルは深く頭を下げていた。
そうか、世界を知りたいか・・・
クモマルはずっとモエラの大森林から出ることが出来ず、寂しい思いをしてきたからな。
アラクネに進化してから言葉を得て、やっと魔物達の仲間入りができた。
そりゃあ知りたいし、観たいよな世界を。
サウナ島に行った時にはこいつは涙を流していたからな。
それは清々しい涙だった。
サウナ島を知ったからこそ、そう思うんだろう。
それにこいつの実力は折紙付きだ。
きっと役に立ってくれるだろう。

でも本当は『シマーノ』を守護する者として残って欲しかったのだが・・・
でもソバル達オーガがいるし、クロマルやシロマル達もいる。
大丈夫だな。
叶えてやろうか、その想い。
俺は心を決めた。

「分かった、一滴残らず飲むんだぞ!そうしたら連れていってやる‼」

「は!お任せください!」
クモマルは樽ごと受け取ると、一気に煽る様に飲みだした。
外野がざわつく。

「クモマル様!ファイト!」

「一気に行け!」

「飲める!飲めるぞ‼」
応援が始まった。
そしてチャントが始まる。

「クッモマル‼」

「クッモマル‼」

「クッモマル‼」
大歓声だ。
それに応えクモマルが更に加速する。
そして遂にクモマルが空になった樽を空に掲げた。
どよめきが響き渡る。

「おおー‼」

「やったぞ‼」

「クモマル殿‼」
と大騒ぎだ。
やりやがったな、クモマル。
いいだろう、連れて行ってやるよ。
まあ飲めなくても連れていってやろうと思ってたけどね。
俺はクモマルの健闘を讃えようとクモマルの肩に手をおいた。
するとクモマルは崩れ落ちる様に倒れ込んでしまった。
急性アルコール中毒か?
あれまあ。
こんな無理をしなくとも、連れて行ってやったのに。
やれやれだ。

その後、ゆっくりなペースを取り戻した送別会は、楽しい宴会へと様変わりしていた。
皆で和気あいあいと飲み食いを楽しんだ。
ほとんどの魔物達が俺達に感謝を述べ、旅路の安全を祈ってくれていた。
その祈りに神気が発生していたぐらいだ。
祈りって凄いね。

寂しがる者が後を絶たなかった。
泣き出す者も多い。
子供達から感謝の似顔絵を貰った時には、俺以外の一家全員が涙をこぼしていた。
記念に持っていってくれといろいろな物を貰った。
中には使い道に困る物もあったが、俺は笑顔で受け取った。
そしてオークから驚く事に、魔水晶と呼ばれる水晶を貰った。
これは何なのだろう?
くれたオーク自身も何なのか分かっていなかった。
だが、これは何か俺のセンサーに引っ掛かる物だった。
今度じっくりと検証してみたい。

にしても、始めからこうしてくれよな。
楽しい宴会が出来るじゃないか。
壁役の者達に申し訳が立たない。
まあ好きに飲んで酩酊になっていることが楽しいならそれでいいのだが。



ゴブオクンと首領陣は各自のロッジに運び込まれていた。
お疲れさんだな。
よくやってくれたぞ。
クモマルは大事を取って、俺の横で鼾をかいて寝ている。
身体が冷えたらまずいサインだ。
急性アルコール中毒を舐めてはいけない。
その時は遠慮なく世界樹の葉の出番だ。
明日には毒消しを壁役になった者達に与えてやらなければいけないな。

それにしてもクモマルは頑張ったな。
鬼気迫るものがあった。
クモマルにしてみれば、それだけ真剣になることだったのだろう。
その気持ちは分かる。
でも飲まなくてもよかったのに・・・
まぁこいつの気合の表れと受け取っておこう。
ああ、俺も少し寂しくなってきたな。
遂にこの国ともお別れなんだ・・・
いつでも転移出来るからいいか?
ここまで魔物達に思い入れが募るとは・・・
想ってもみなかったな。
ありがとうな・・・
お前達。
最高に楽しかったよ‼