案の定晩飯時に神様ズは勢揃いした。
俺の予想通りである。
困った事に最後にやってきたファメラは、子供達を引きつれていた。
これは思ってもみなかった。

こうなってくると出来ることは限られてくる。
格式ばった食事とはいかない。
恐らくオクタは腕によりをかけて、至極のコース料理でも準備していたと思う。
というのも、俺はオクタに相談されて、コース料理を伝授していたのだった。
オクタに無理を強いるしか無くなってしまった。
まさか子供達に帰れとは言えない。
俺はそこまで無慈悲にはなれないのだ。

「オクタ!急な変更ですまないが、バーベキューに変更は可能か?」

オクタは逡巡した後、
「島野様、問題ありません」
と心強く返事をしていた。

オクタ・・・頼りになる奴だ。
もはやこいつに出来ないおもてなしは無いのかもしれない。

「少々お時間をください」
オクタは一礼し、準備の為に部屋を出て行った。
無理を言ってすまんなオクタ。
何とかしてくれ、頼む。



ものの三十分後にオクタからの、
「準備整いました」
との返事を貰った。

オクタは頑張ってくれたみたいだ。
どうやらスタッフを総動員して、セッティングを完成させたみたいだ。
スタッフ達は急な変更にも動じることなく、職務を全うしてくれたみたいだ。
なんて頼りになるんだこいつら。

「皆さん、晩御飯はバーベキューです、場外にきてください」

その掛け声に、
「バーベキューか、いいのう」

「やった!」

「食べ放題だな」

「たくさん食べるぞ!」
と好きに言っている。
どうせ好きに飲み食いする気満々だったんでしょ?
今さら何をいってんだか・・・

記念館を出ると、ちょっとしたバーベキュー場が出来上がっていた。
これは凄いな。
オクタの采配に俺は感動すら覚えた。
オクタ・・・仕事が出来る奴だ。
なんとも心強い。
こいつにはサウナ島で働いて欲しいぐらいだ。
引き抜くか?
そうはいかないよな。

「じゃあ好きにやってください」
待ってましたと言わんばかりに、神様ズは肉や野菜を焼きだした。
ここぞとばかりにダイコクは、お酌をしながら神様ズを周り出した。
挨拶周りなんだろう。
これはちょっとした接待だな。

ダイコクは名刺こそ渡してはいないが、順番に挨拶をおこなっていた。
ダイコクは仕事をそつなくこなしている。
商売の神は伊達じゃない。
早くも馴染み出していた。
始めは警戒していた、あのマリアさんもにこやかにしていた。
マリアさんを籠絡するとは・・・やるじゃないか。
どうやら南半球との交流は順調に進んでいるみたいだ。
俺の隣にギルがやってきた。

「パパ、ダイコクさんは凄いね。もう馴染んでるよ」

「そうだな、あれは本物だな」

「だね、距離の詰め方がえげつないよ」
えげつないって・・・どこでそんな言葉を覚えたんだか。

「まぁ、商売の神ともなればこれぐらいはお手の物なんだろうな」
ギルは頷いていた。

「どうやら、彼は信用していいようですね」
何時の間にか近寄ってきたオズが、会話に交じってきた。

「私もそう思いますよ」
ガードナーも同意見のようだ。
お眼鏡にも叶ったらしい。

「でもそもそも神が信用できなくなったら世も末だよな?」
二人は笑っていた。

「確かに」

「ですね」
ダイコクはエンゾさんと話し込んでいた。
これは長くなりそうだ。
この交流は何を生み出すんだろうか。
混ぜるな危険ではなかろうか?
エンゾさんの真剣な表情に俺は少々引きそうだった。
かなり込み入った話をしているみたいだ。
俺はこれには混じりたく無い。
いや、ご遠慮願いたい。

その後、俺はこの二人を極力見ない様にした。
なぜかって?巻き込まれたくないんだよね。
どうせ経済の話をしているに決まっている。
飲んでいる時にしたい話ではない。

天晴というのか、外の神様ズも概ねダイコクを認めていた。
ダイコクは既に神様ズの心を掴んだのかもしれない。
あとはこの後、どのようにして交流を深めていくかになる。
まずはサウナ島に招待すべきなんだろうな。
それもスターシップ一同も。

でも俺としては愛着のある魔物達に、まずはサウナ島を体験させてやりたい。
正直ダイコク達を真っ先にとは考えられないのだ。
五郎さん達はどう考えているのだろうか?
たぶん何も考えていないんだろうな。
俺に一任すると言いかねない。

等と考えていると、首領陣とスターシップ一同が会議を終えて、バーベキューに交じり出した。
ライルが俺を見つけると近寄ってきた。

「島野さん、お疲れっす!」
憎めない奴だな。
小者感が半端ない。

「ライル、会議はどうだったんだ?」
一応尋ねてみた。勿論まともな回答は期待していない。

「どうっすかね?俺は護衛なんでよく分からないっす」
相変わらずのお調子者っぷりを発揮している。
普通は自分の国が新たに国交を結ぼうとする場に立ち会っていたら、気になるだろうに。
やれやれだ。

「お前なあ、自分の国の行く末が気にならないのか?」

「そうっすね・・・特には・・・あっ!そう言えば魔物同盟国の国名が決まったみたいっすよ」

「はあ?どういうことなんだ?」
国名って・・・

「俺にはよく分からないっす」
でしょうね。
これは首領陣に聞くしかないな。
俺は親交を深めているソバルとプルゴブ、スターシップのところに交じることにした。

「お前達、魔物同盟国の国名が決まったと聞いたがどういうことなんだ?」
ソバルが姿勢を正す。

「は!島野様、実は会談の中で、スターシップ殿より、国名は?と尋ねられまして、そういえば無かったなということになり、その場で国名を首領陣で決めることになったのでございます」
ソバルが説明した。
何だそれ?
神様ズが集まってきた。
どうせ面白そうな空気感を嗅ぎ取ったに違いない。
なんだ、なんだと騒がしい。

プルゴブが説明を加える。
「儂らはどうしようかとなり、満場一致で魔物同盟国シマノにすることになりました。大恩ある島野様の名前を冠することができ光栄に存じます」
何故だかプルゴブは自慢げな表情をしていた。
いや、俺としては嬉しくないんだがな・・・
そもそも認めてませんよ。
よりによって俺の苗字かよ。
勘弁してくれよ。

「アッハッハッ!魔物同盟国シマノだって?おめえ面白れえじゃねえか。こりゃあ笑えるぜ!」

「ハハハ!魔物同盟国シマノだって?良いじゃんね」

「おいおい、まんまじゃないか!」

「お前さん、遂に国名になったか!」
と神様ズは大騒ぎしている。
いい加減にしてくれよ!あんた達!
騒ぐなよ!

「ちょっと待てお前達、そんな国名で本当にいいのか?」

「はい、これが良いのです!」

「これ以外ありえません!」

「そうです!」
な!・・・
めっちゃ恥ずかしいんですけど・・・
でも語呂が悪くないか?
俺はそう思うのだが・・・

「なあ、語呂が悪くないか?シマノじゃなくてせめてシッマーノとか、シマーノとかの方が良くないか?それに俺に全く関係の無い国名でもいいんだぞ?」

「確かにその方が響きがいいかも」
俺の窮地を察したのかオズが助け船を出してきた。

「私もそう思うな」
ガードナーも追随する。
お前達、ありがとうな。
心強い援軍が現れた。
そして収集するように、クモマルから提案された。

「ではこうしましょう、明日魔物達全員で多数決を取りましょう、シマノがいいか、シッマーノがいいか、はたまたシマーノがいいかを」
この提案に他の首領陣が全員頷いていた。
ちょっと待て、その他は無いのか・・・

「では、明日多数決を行うことで、決定でいいですね?」
マーヤが話を纏めた。
なんでお前が纏めてるんだ?
まあいいか。

「おう!」

「そうしよう!」

「承知!」
明日に国名を決める多数決が行われることが決定してしまった。
この様をダイコクとスターシップはほのぼのと眺めていた。
あんた達にとってはどうでもいいことですもんね。
せめて面白がってくださいな。
やれやれだ。

結局その後、宴会は盛り上がり。
調子にのったオリビアさんが歌い出し、狂ったようにマリアさんがランドールさんを伴って躍りだした。
ノンは何処で覚えたのかヘッドバンキングをしていた。
これに魔物達とルイベントからの使者達が大興奮。
ちょっとしたフェスが始まってしまった。

こうなるんだろうなという気はしていた。
というのも、オリビアさんが自己紹介以外は、珍しくここまで大人しくしていたからだ。
この人が騒がない訳がない。
もしかしたらこの時を狙っていた可能性すらある。
あの人は案外したたかだからね。
はあ、やれやれだ。
もう好きにやってくれよ。
俺は遠巻きに突如始まったフェスを眺めることにした。



国名を決める選挙が始まろうとしていた。
多数決が何故か選挙へと早変わりしていた。
シマノ推進派オクボス。
シッマーノ推進派コルボス。
シマーノ推進派リザオ。
その他は残念ながらいなかった。
やっぱりか・・・
俺としてはその他がいいのだが・・・
この三名が各名前の党首となり、投票所の前で演説を行っていた。
各自好きに演説を行っている。
その様子を投票前の魔物達が耳を傾けている。

「この国の立役者である島野様の名前を冠すること以外、なにがあるというのか?同士達よ、良く聞いて欲しい。魔物同盟国の名前はシマノ一択である!」

「先日島野様は仰れらた、語呂が悪く無いかと。あの島野様がそう言われたのだ、これはシマノ以外にした方がいいのではないかとのご意見に他ならない、であればシマノから一番離れたシッマーノにするべきではないのだろうか!?」

「諸君!いいか?俺達は島野様に大恩がある、その島野様の名前を冠して、かつその名前から離れ過ぎないのがシマーノだ。これ以外何があるというのか?」
と演説をしていた。
魔物達は頷いたり、声を挙げたりしている。
俺は頭を抱えそうになっていた。
正直もうどうでもよくなってきてしまっていた。
もう好きにしてくれ。
俺は何でもいいよ・・・
どうせその他は無いんだしさ。

その後も演説と投票は続いた。
俺が思う以上に投票は熱気を帯びていた。
魔物達は本気で頭を悩ませて考えていた。
そこまで大事なことなんだろうか?
俺には到底分からない。
でもこいつらの真剣な眼差しを見る限り、俺もふざけることは出来ない。

投票は佳境を迎えていた。
急遽会場となっている記念館の前に設置されたボードに、投票結果がオンタイムで書き加えられていく。
それを一喜一憂しながら魔物達は眺めていた。
かなりの接戦となっていた。
三つとも僅差である。

「シッマーノ、いけー!」

「いやここはシマーノだろう!」

「なにを言う、シマノに決まってる!それ以外あり得ん!」
応援に熱が入り、魔物達は興奮している。
俺としては名前を連呼されているようで、気分が悪い。
だが水を差す訳にはいかない。

この様を神様ズはにやけながら眺めていた。
五郎さんとゴンガスの親父さん、オリビアさんは腹を抱えて笑っている。
俺の表情が面白いのだろう。
自分でもどんな表情をしているのか、もう分からない。

いよいよあと十票で投票は終了する。
会場のボルテージも最高潮に達していた。
熱に当てられたのか、にやけていた神様ズもノリノリになっている。
皆な、身体を乗り出している。

「いけー!」

「よっしゃー!シマノきたー!」

「まだシッマーノにも可能性があるぞ!」

「いや、ここはシマーノが逃げ切るぞ!」
投票所から最後の集計が挙がってきた。

全員息を飲んで結果を待っている。
ボードに最終結果が記入されていく。
シマノ六百七十四票。
シマーノ六百七十五票。
シッマーノ六百七十二票。

魔物同盟国の名前が決定した。
魔物同盟国『シマーノ』
大喝采が起こっていた。

「シマーノ!」

「魔物同盟国シマーノ!」

「遂に決まった!」
と大興奮だ。

「シマーノ‼」

「シマーノ‼」

「シマーノ‼」
とチャントが始まった。
これにノリノリのオリビアさんとマリアさん、ノンが躍り出した。
それに釣られて他の神様ズも踊りに参加しだした。
なにやってんだか・・・
だがここで終わる訳がない。
ここに魔物達も追随した。

もはや俺以外の全員が、
「「「「「シマーノ‼‼‼」」」」」
のシュプレキコールで踊り出す始末となっていた。
駄目だこりゃ・・・
もう収集がつかんな・・・
俺は茫然とこの光景を眺めていた。
結局俺の意思や考えは反映されないことが切実に感じられた。
国興しとはこういうものなんだろうか?
もはや何も考えたくは無かった。

そして、魔物同盟国『シマーノ』は、ルイベントとの友好条約結ばれることが正式に決定した。
両国間で「友好条約」が締結され、今後両国間で様々な交易がおこなわれることが約束された。
主に「シマーノ」からは食料品の提供、武具の提供。そして娯楽と建設技術の提供と共に、更に衣服の提供等様々だ。

特に魔石は重要視された。
魔石は何かと使えるからね。
ルイベントからはその技術を学ぼうと人的供給がなされることになった。
それもその数がかなり多い。
人財不足の『シマーノ』にとっては喉から手が出る程にありがたかった。

スターシップは随分と頭の柔らかい人物のようだ。
自ら頭を下げて魔同盟国に歩み寄っていた。
プライドを捨てていると言ってもいいのかもしれない。
通常ならば考えられないことだ。
ルイベントは魔物達を知能が低いと考える者達と、共存を望む者達と二分している状態だからだ。
それを真っ先に共存を望み、かつそんな魔物達から教えを請おうしたのだ。
英断とも言えるがそれは俺の立場だから言えることだった。
この青年とは俺はもっと交流を持つべきだと思い知らされた。
英雄というより、勇者と言えるほど、その決断力は測り知れないほどに凄い。
それほどまでに彼の決断は大きい。

この采配にはルイベントが分断されても可笑しくは無い側面がある。
それをものの数時間で決断してしまったのだ。
英雄と誉れ高いスターシップならではの決断に他ならない。
当の本人はこの決断に決して迷いはない。
彼が魔物達の何を信用したのかは分からないが、その瞳に迷いは全くなかった。
もしかしたらダイコクの入知恵かもしれないが、それでもこの決断は多くの意味を含んでいる。
魔物同盟国『シマーノ』と永世中立国『ルイベント』は大きな転換点を迎えていた。
そしてこの交流が今後北半球を大きく変貌させようとは誰も気づいてはいなかった。