神様ズご一行が魔物の国に訪れる日がやってきた。
前回の会議からちょうど一週間後だ。
魔物の国にある島野一家のロッジに繋がる転移扉の前で、神様ズは纏まることなく賑やかにしている。

俺は遠足の引率をする教員の様な気分になっていた。
一列に並んでください。
無駄口は利かないでください。
静かにしてください。
とアナウンスしたくなる。
どうせ聞いてはくれないことは分かっているので、いちいち言わないのだが・・・
もう好きにしてくれ。
やれやれだ。

俺は転移扉を開いて、先に魔物の国に移動した。
その後続々と神様ズが続く。
ロッジの扉を開いて、俺達は、魔物の国に降り立った。

「「「「「いらっしゃいませ!!!」」」」」
俺達は魔物達の歓迎を受けることになった。
なかなか見物だった。

魔物達が綺麗に整列し、列を成していた。
一糸乱れぬとはこのことだろう。
等間隔で整列している。
そして全員が片膝を付いていた。
荘厳な風景だった。
思わず背筋が伸びる。



俺は前もって首領陣に話をした。
南半球の神様の一団がこの魔物の国にやってくると。
プルゴブ始め、ソバル達首領陣はこれに大興奮していた。

「遂にこの国が認められる時が来たのですね!」

「人族よりも先に神々がこの地に訪れて頂けるとは!」

「これは最大限のおもてなしをしなくては!」

「お出迎えの練習をしよう!兄弟達よ!」
と鼻息は荒い。

そしてそれが魔物達全員に話が及ぶと、
「我々はもはや魔物と蔑まれる時代は終わるのですね!」

「島野様!愛してます!」

「こうしてはいられん!今直ぐ準備をしなければ!」

「どうやっておもてなししよう?」
と大騒ぎだ。
いいから落ち着けと言う俺の言葉も耳に入らない。
全員が浮足立っていた。
こいつら大丈夫だろうか?
ゴブオクンに至っては、だべーだべーと騒ぎながら右往左往としていた。
言葉になってないし、何で動き周るんだ?・・・

そしてダイコクは緊張しているみたいだった。
いつものひょうきんな表情は抜け落ち、顔が引き攣っている。
それはそうだろう、神様の一団がやってくると聞かされれば、身構えない訳にはいかない。
いくら同僚といえど、知らない者達であり、それも十人以上の神様が一斉に訪れるのだ。

ダイコクに教えた時には、何の冗談やねんと言っていたぐらいだ。
それが冗談では無く事実と分かると、彼は一度ルイベントに帰って準備してくる、とライルを連れて一次帰国した。

念の為、クロマルとシロマルを警護に付けておいた。
こいつらがいれば、ほとんどの魔獣を寄せ付けないだろう。
向かってきたとしてもあっさり狩ってしまうに違いない。
ダイコクは喜んで受け入れていた。
ジャイアントベアーから襲われたことが、相当堪えたみたいだ。
それにしても何を準備することがあるのだろうか?
よくわからんが、好きにしてくれ。



跪く魔物達の様子に、
「壮観だなー」

「おお!」

「これはこれは、ハハハ!」

「へえー」

「これは見物だね」
と神様ズは好きに感想を述べていた。

「お前さん、躾が成っておるのう」
髭を触りながらゴンガスの親父さんが感心していた。

「躾って・・・俺は何にもしてないですよ」

「そうか島野、でもこの様はそんじょそこらでは見ることは敵わんぞ」
ゴンズ様まで惚れ惚れしている。
これは早く止めさせないと。
この人達に照れは無いのか?
俺は照れてしょうがないのだが。

「お前ら、顔を上げて跪くのを止めるんだ!」

「「「「「は!!!」」」」」
一糸乱れることなく、まるで軍隊の様に全員が立ち上がり、一斉に右拳を心臓の前に掲げた。
おいそれも止めろ!

「休め!」
ここでやっと魔物達がふっと緊張感を解いた。

「おおー!」

「これは素晴らしい!」

「凄いじゃない」

「へえー」
神様ズは拍手をしていた。
その拍手に魔物達は頭を下げる者、照れる者、真摯に受け止める者などがいた。
どうやら練習の成果があったみたいだ。
プルゴブとソバルのどや顔が酷い。

「それで島野?どうするんでえ?」
五郎さんが先を即してきた。

「まずは記念館にいきましょう、そこに会議室がありますので、首領陣と挨拶をしましょう」

「そうかい」
俺は呼びかけた。

「首領陣、記念館に集合だ!」

「「「「「は!」」」」」

「神様の皆さん、記念館に行きますのでついて来てください」
ここからは引率の始まりだ。
神様ズは解散した魔物達に囲まれて、まるで芸能人のようだった。
特にアンジェリっちとオリビアさん、エンゾさんとランドールさんに魔物達が群がっている。

どうやら魔物達はイケメンと美女に弱いみたいだ。
久しぶりに黄色い声援を送られるランドールさんを見た。
どうせ数時間後には鼻の下が伸びまくっているのだろう。
既に一瞬ゴブコを見て、鼻の下を伸ばしていた。
ちゃんと見てたぞ俺は!
後でマリアさんにこってりと叱られてください。

ほとんどの神様達が魔物達に囲まれて、質問責めにあっている。
これは時間が掛かりそうだ。
でも止める訳にはいかないな。
魔物達にとってはそれほどまでに嬉しい事なのだ。
それに神様ズも満更でもなさそうだ。
いつになく魔物達は遠慮がないな。
俺は微笑ましくもその光景を眺めていた。
神様ズとの交流を楽しんでくれ。



どうにか記念館に入ることができた。
移動に一時間以上もかかってしまった。
記念館の会議室に神様ズと首領陣が勢ぞろいしている。
皆な笑顔だ。

「では会議を始めます、まず首領陣は挨拶をしてくれ」

「は!儂はソバルと申します。オーガの首領をしております。以後よろしくお願いいたします」
ソバルは立ち上がると恭しくお辞儀をしていた。
結構様になっている。
次にプルゴブが立ち上がった。

「ゴブリンの首領のプルゴブでございます。神様方、よろしくお願いいたします。会議後、食事の後に魔物同盟国のアテンドさせていただきます」
どうやらプルゴブがアテンドを行うみたいだ。
適任だな。
俺は前持ってアテンドする様に指示していたのだ。
詳細は任せるとしていたが予想通りの配役だ。
次にクモマルが立ち上がった。

「私はクモマルです、アラクネの代表を務めさせていただいております。私達の糸が大いに求められていると島野様から伺っています。アラクネ一同感激しております。どうぞお役立てくださいませ」
マリアさんが眼を輝かせていた。
それに鼻息も荒い。
これはどういう・・・俺には分からんな。

「お前さんがクモマルか、聞いておるぞ。アラクネの糸、あれは良いのう。是非儂の所に仕入れさせていただこう」
ゴンガスの親父さんが頷いていた。

「俺はオクボスです、オークの首領です。不躾者ですが、よろしくお願いいたします」
オクボスは立ち上がって右手を胸に当てていた。

「俺はコルボスです、神様達に会えて光栄に存じます」
コルボスは立ち上がるとゴンズ様を見つめていた。
海の男として感じ入るものがあるのだろう。

ゴンズ様は、
「良い顔をしてるじゃないか?お前海の男だな?」
とオクボスを正面から真っすぐに見ていた。

「は!ゴンズ様に会えるのを心よりお待ち申し上げておりました」
オクボスは頭を下げていた。
ゴンズ様はにやけている。
早くも師弟関係が成立しそうだ。
次にマーヤだ。

「私はマーヤです、ジャイアントキラービーの女王です」
と言うと、椅子の上に登って頭を下げていた。
マーヤは小さいから立ち上がっても顔が見えない。
本当は椅子の上に登るのは行儀が悪いのだが、大目に見ておこう。
レイモンド様が今まで見たこともない表情をしていた。
これは・・・興奮しているのか?
デカいプーさんがこんな顔をするとは・・・
正直見てられないな。
最後にリザオだ。

「リザードマンの首領のリザオです。よろしくお願いいたします」
リザオも立ち上がって頭を下げていた。

「以上が魔物同盟国の首領陣です、よろしくお願いします」
俺は神様ズに頭を下げた。
それに倣って首領陣達も頭を下げる。

今度は神様ズのターンだ。
全員自己紹介を始めた。

何を勘違いしたのか、オズが演説の様に語り出したので途中で割って入った。
いい加減にせい。
お前にTPOは無いのか?

マリアさんは獲物を前にした獣の眼になっていた。
その視線の先にはクモマルが居た。
クモマル・・・残念。
何かを感じ取ったクモマルはビクッと震えていた。

オリビアさんは一曲歌うと言い出し、止める間もなく、コンサートが始まってしまった。
これに魔物達は大喜び、ノリノリで踊りだしていた。
マーヤのヘッドバンキングはちょっと笑えた。
こんな所で権能を発揮しないでくれよな。

レイモンド様は相変わらず間延びする話方をしていた。

何故か緊張したカインさんは噛んでいた。
何をやってんだか・・・

五郎さんは少し照れていた。
五郎さんらしいな。

ドラン様は会い変わらずガハガハ笑っていた。
正直煩い。

アンジェリっちとエンゾさんと、ファメラは無難に済ませていた。

ランドールさんはイケメンオーラが全開だった。
誰にアピールしているのかは全く分からない。

ガードナーは堅苦しかった。
お前はもっと肩の力を抜け。

神様ズの自己紹介が終わると既に、昼飯時になっていた。
時間掛かり過ぎだっての、全く。
自己主張強すぎだっての!

本日の昼御飯は豪勢だった。
魔物達が頑張ってくれたのだろう。
まるで特上弁当だ。

満足しない訳がない弁当だった。
肉あり、魚介あり、野菜もふんだんに使われている。
温かい汁物まで準備されていた。
肉は豪勢にボア肉のヒレステーキだ。
魚介に関してはまさかの伊勢海老だった。
蒸し焼きにして半身が提供されている。
味付けも島野一家直伝のマヨソースが使われている。
表面が絶妙に炙られている。
神様ズは大満足だ。
全員弁当をがっついている。

「旨いなー」

「美味しい」

「やるな!」
と連呼している。
最近料理長に任命された、オクタはめきめきと腕を上げている。
その成果が現れたようだ。
オクタは神様ズの反応に、静かに涙を流して喜んでいた。
オクタ!グッジョブだ!

ひとしきり昼飯を堪能して、ティータイムとなっていた。
今では珈琲やお茶、紅茶、ジュース各種取り揃えている。
神様ズは好きな飲み物を頼んでいた。

「島野、ここは既に立派な国じゃねえか、儂は認めてやるぞ」
五郎さんがいきなり宣言した。
それに答えてソバルが立ち上がる。

「ありがとうごいます!」
ソバルが頭を下げていた。
それに倣って首領陣が立ち上がり、頭を下げる。

「嬉しいです!」

「よかった~!」

「念願が叶った!」

「遂に!」
と首領陣は大興奮。
プルゴブに至っては大号泣していた。
よほど嬉しかったみたいだ。
魔物同盟国を国として認められることを目標にしてきたのだ。
これまでの努力が認められたということだ。
それも神様に認められたのだ。
嬉しくない訳がない。

つられてソバルも号泣しだした。
仲のいい兄弟分だ。
神様ズは微笑ましくこの光景を眺めていた。

「俺も認めるぞ!」

「私もよ」

「もちろんよ」

「やったな!」
外の神様ズも健闘を讃えている。

「まさか神様達に国として認めて頂けるとは・・・儂は・・・儂は・・・」
ソバルは言葉になっていない。

「兄弟・・・やったな・・・やったんだな・・・」
プルゴブも感極まっている。
さて、興奮冷めやらぬところではあるが、先に進まなければいけない。

「ソバル、ダイコクさんはまだ来てないのか?」
涙を拭いながらソバルが答える。

「まだでございます、そろそろ来てもおかしくは無いのですが」

「そうか、さあそろそろ見学の時間だ、プルゴブ泣いてないで、始めろよ」

「は!申し訳ございません。では神様方、国の施設の見学を行いたいと存じます。よろしいでしょうか?」
それに答えて神様ズが立ち上がった。
さて、アテンドの始まりだ。
俺も同行することにした。