報酬の日を迎えていた。
サウナ島の事務所の会議室で、毎月の報酬の授与が行われている。
今日は俺がいるので、俺から神様ズに報酬を手渡すことにした。
全員喜んで受け取ってくれた。
お礼も言ってくれている。
ありがたいのはこちらだっての。
いつもありがとうございます。
今後もサウナ島をよろしくお願いします。

本来であれば、この後宴会へと突入するのだが、今日はそうはいかない。
北半球についての話をしなければならない。
神様ズには既にそう伝えてある。

メンバーは俺の外にギルとゴン、マーク、ロンメル、ランドが同席している。
恐らく俺とギル以外の者が発言をすることはないだろう。
身を弁えているということだ。

神様ズに加えて、アースラ様も同席していた。
アースラ様は戦争のその後が気になるのだろう。
外の上級神達は居なかった。
多分、スーパー銭湯でゆっくりしているのだろう。
アースラ様はとても面倒見がいい。
大変ありがたい。

「皆さん、いつもありがとうございます。大変助かってます。今後ともよろしくお願い致します」
自然と拍手が起こった。

「さて、今日は皆さんに報告と相談があります」
全員息を飲んで俺の次の言葉を待っている。

俺がここ半年、北半球で暮らしていたことは、皆な知っている。
遂に北半球の状況が分かるとの緊張感があるのだろう。
いつもならこうはいかない。
全員好き勝手に騒いでいるからね。
纏まった試しがないよな。
あー、珍し。

「北半球に足を踏み入れてから約半年が経ちました。これまでの報告と皆さんの意見を聞きたい事柄があります」
全員が頷いた。

「島野、やっと聞かせてくれるってえことかい?」
五郎さんが場を和ませるようにお道化て見せていた。
大変ありがたい。
これで要らない緊張感が解れる。
数名の神様は顔を綻ばせていた。

「そうです、まずは報告させて貰います」
俺は北半球に降り立ってからの出来事を、詳らかに話した。
時折、ゴンズ様や、ゴンガスの親父さん、ファメラからの質問もあったが、スムーズに話をすることができた。
全員が集中して話を聞いている。
ふざけたことをする者もいない。
フレイズが居なくてよかった。
あいつがいたら場をぶち壊しかねない。
自分勝手に変な事言ったり、欠伸をかいて、寝だすに決まっている。

「ということで、俺達は魔物同盟国を建国しました。魔物達は国として認められようと必死に頑張っています」
ここまで結構な時間を有してしまっていた。
途中でギルとゴンも加わって話を重ねていた。
俺一人で話すより、こいつ等にも話して貰ったほうが、真実味があるだろう。

「守さん・・・戦争についてはどうなの?」
オリビアさんが手を挙げて言った。

「オリビアさん、それは後で話します。気になっているのは分かってますが、まずは順序という物がありますので」

「そうよね・・・ごめんね・・・」
いつになく真剣な表情のオリビアさんだ。
気持ちは分かるが、そう焦らないで欲しい。
ちゃんと話しますからね。

「島野、その魔物なんだがな、お前が加護を与えて進化した、そして知性を得たのは分かった。そうなると、人族と何が違うってんだ?食う物もほとんど同じなんだろう?俺には違いが分からねえ」
ゴンズ様のストレートな意見だ。

「儂も同意見だの、ただの種族差としか思えんのう」
ゴンガスの親父さんも同意のようだ。

「島野、一度その魔物達をサウナ島に連れてくるってのはどうでえ?その方が話がはええんじゃねえのか?」
五郎さんらしい発想だ。

「守ちゃんちょっと待って、私は少し及び腰よ。魔物はそもそも北半球にしかいないのよね?それにあの戦争には関わっているのかしら?」
マリアさんは随分と戦争が尾を引いているみたいだ。
それを否定はしないのだが。

「魔物達が戦争の話を口にしているのは見かけたことがありません、それに後で詳しく話しますが、俺は北半球で一人の神様に出会いました。その神様から当時の戦争の話を聞く事ができましたが、魔物達が戦争に関わっていたとは聞いていません」
ダイコクさんからの話ではそうなっていた。
魔物達は戦争には加担していない、そもそも知性の低い魔物が戦争に混ざることは考えづらい。
それに基本的にあいつらは温厚だ。
奴隷にでもされない限り、戦争に加わるとは想像できない。
自らの意思で戦争に関わる訳がない。

「そうなの・・・で、その神って誰なの?」
ファメラからの質問だ。

「ダイコクという神様で、商売の神様だよ」

「商売ですか?」
ランドールさんには以外みたいだ。

「そうです」

「島野さん、北半球は神気がかなり薄いという話でしたよね、それで商売を行っているとなると、その神は神力が足りているのですか?」
なるほど、商売の性質を考えてのことだったんだな、そう考えるのは理解できる。
だが聞く限りでは上手くやっているんだよな、あの神は。

「ダイコクさんが特に神力が多いとは思えませんね、商売に関しては随分上手く立ち回っているみたいです、自分では直接行わず、上手く人を使っている、そんな印象ですね」

「ほう、随分頭のきれる奴みたいだな」
ゴンズ様は関心そうに首を縦に振っている。

「島野・・・商売の神様でダイコクっていやあ・・・おめえ・・・」
五郎さんには心当たりがあるのだろう。
同じ日本人だしね、そりゃあ考えてしまうよね。

「そうです、七福神のあのダイコク様です。そっくりですよ」
あり得ないぐらい似てますよ、笑えるぐらいに。
ノンは関西弁に大うけしてしてたしね。

「ほんとうか?・・・なんでえそりゃあ?・・・」
五郎さんは頭を抱えていた。

「エンゾよ、主としては気になるところじゃないのかえ?」
アースラ様は真っすぐにエンゾさんを見つめていた。

「そうですね、類似性がありそうですね」

「島野さん、外には神はいませんでしたか?」
オズからの質問だ。

「今のところダイコクさんしか会ってないよ、でも可能性がありそうなのは、ドラゴンを祭る村があるみたいなんだ、そこではリザードマン達が住んでいて、エンシェントドラゴンも住んでいるということなんだ」

「え?嘘でしょ?エンシェントドラゴン?まさか・・・実在したんですか?」
ガードナーは眼を見開いていた。

「ギル君、もしかしてその村にエリスが居るのではないのか?」
オズは期待の眼差しをギルに向けていた。
こいつらも仲良くなったものだ。
年齢差はあるが、友人関係は継続中みたいだ。

「オズさん、それは分からないよ。でもエリスは生きている、それは間違いない。必ず僕はエリスに出会ってみせるよ、それにエンシェントドラゴンにも会ってみたいんだ。僕のどれだけ前の親戚なのか分からないけどね」
ギルは心強く宣言した。

「そうか、ギル君は相変わらず強いな」
オズは何度も頷いていた。
そんなギルの姿にオズは誇らしげにしている。

「儂もそのエンシェントドラゴンってのに会ってみてえな、ギル坊よ」
五郎さんとしては、孫と変わらないギルの親類には会ってみたいのだろう。
その発言にギルも喜んでいる。

「私も会ってみたいよ」
カインさんまで言い出した。

「守っち、ちょっと話が捕っ散らかってるわよ、まずは魔物達の取り扱いについて決めないといけないんじゃなくて?」
アンジェリッちが起動修正してくれた。
助かる。
危ない、危ない。
神達ズの勝手を許すところだった。
神様ズは気を付けないとペースを持ってかれるからね。

「そうだった、ありがとう。俺としては一度サウナ島に魔物の首領陣を連れて来てみたいと思うのと、数名の魔物を親父さんとランドールさんに弟子入りさせたいと、考えているんですよ」
そうなのだ、俺はつくづく考えていたことだった。
魔物達は優秀だ、あいつらならば今以上に魔物の国を発展させる技術を習得できるはずだと。

「私のところに弟子入りかい?」

「そうです、大工仕事に長けたオークと、ゴブリンがいます。預かって貰えませんかね?」
ランドールさんは頷いた。

「こちらとしては、ありがたいことだよ。人出は大いにこしたことはないからね」

「それにゴンズ様の処にもコボルト達を預けたいし、アンジェリッチのところにも何人か通わせたいし、詰まる所、魔物の国には技術が足りてないから修業をさせたいんですよ」
そうなのだ、技術を習得させたいのだよ。
今以上に魔物の国を発展させるには、島野一家の力だけではそろそろ限界なのだ。

「なるほどな島野、良いんじゃねえか?俺は構わねえぞ」

「儂もいいぞ」

「では私にも何人か預けて貰えるかな?」
どうやら各自修業先にはこと欠かないみたいだ。
大変ありがたい。

「島野よ、その前にまずは俺らが魔物の国に行こうじゃねえか、その方がよくねえか?」
ゴンズ様からのありがたい申し入れだ。
その発言を待っていた。

「島野君、私もその方が良いと思うわ。受け入れるのもいいけど、まずは見てみたいわね。それにダイコクさんにも会ってみたいわね」
エンゾさんからも同意見を貰った。

「では、まずは魔物の国に皆でいきましょう。どうですかね?」
賛同の声が挙がる。

「構わねえぞ」

「そうしましょう」

「だね」

「いーよー」
全員賛同してくれたみたいだ。
ありがたい。
これにて神様ズご一行が魔物の国に向かう事が決定した。



小休憩を挟む事にした。
此処から更に集中力を必要とするからだ。
この時の為に、メルルにはシュークリームと茶菓子を準備して貰っていた。
全員が好きな飲み物とお菓子を楽しんでいる。
これで頭をリセットできただろう。

そろそろ会議を進めよう。
今日はこの後宴会の為、魔物の国に行くのは後日ということになった。
まあ神達ズが宴会を延期するとは考えづらいからね。
どうせ俺の奢りだ、好きに食って飲んでくれ。

そして俺はダイコクさんから聞かされた大戦の話と、神様離れについての話をすることになった。
全員が押し黙って話を聞いていた。
アースラ様も難しい顔をしている。
相当に衝撃的だったみたいだ。

特に大戦のあまりの惨劇と、通常では考えられない出来事に空気が重たいものになっていた。
特にその犠牲者数に皆な厳しい表情をしている。
平和な南半球からは考えられないことである。
加えて神様離れだ、南半球の神様を軸とした生活模様からは想像以上の事柄なのだろう。
ドラン様は顔色が真っ青になっていた。

「というのが大戦の結末です、残念ならが今でも小競り合いは続いていて、両国は戦時中となっています」

「何て業が深いの・・・」
オリビアさんが呟いた。
全員俯き加減だ。
何とか北半球の状況を受け止めよとしているのが分かる。
呻いている神様もいた。

「それとこれは悪まで噂ですが、神殺しを生業とする者がいるとかいないとか・・・」
俺は言うべきかどうか悩んだが、ここは詳らかにしなければならないと伝えることにした。

「ちっ!ふざけやがって!」
ゴンズ様が吐き捨てた。

「何それ、喧嘩売ってんのかな?」
ファメラまで三白眼になっている。
案の定の反応だ。

「ちょっと、あくまで噂だって」
落ち着きなさいっての。

「でも島野さん、北半球では神の扱いがこちらとは随分違うみたいですね。下手すると悪者ですね」
オズが感想を述べる。

「ああ、それに大戦について俺とダイコクさんとの間で考察してみたんだが、どうにも大戦には第三者の意図を感じるんだ、オズが言った通り北半球では神様離れが進んでいる、逆風と言っても良いのかもしれない。それは神気が減ってしまい、権能を発揮できなくなってしまった事が原因なのだが、大戦の真の狙いは神様離れを起こさせる事で、大戦は単に切っ掛けなんじゃないかと思うんだ」
全員がまさかという表情をしていた。

「守ちゃん、それは何となく分かるけど、神様離れをさせる目的はなんなのよ?」
マリアさんがぐいっと前に出る。

「それが分からないんですよ、単純にこの世界の崩壊を目論んでいるなんて安易な目的とは考えられないですね、俺としては」

「そもそも神気を減少させている原因は何なんだろうか?」
カインさんが疑問をぶつけてきた。

「それが最大の疑問なんですよ、まずはそれをどうにかしたいのですがね・・・」
これさえどうにかなれば、どうとでもなる。
それぐらい神気減少は大きなファクターなのだ。
逆をいうとそれを分かっての神気減少なのだろう。
それを思うと一手先を行かれている様で歯痒い。
相手はこちらを研究しているのがよく分かる。
その対応から決して甘く見てはいけない相手だと気を引き締めざるを得ない。
先手を取られたようで苛立ちすら感じる。
神に喧嘩を売る。
そういうことなのだろう。

「そうだよな、神気の減少が無くなれば、世界の崩壊を阻止できるし、その第三者に手痛い思いをさせれるということだよな」
カインさんは頷いていた。
それが出来れば逆転の要素となる。
でもここまでの流れをみる限り、それすらも想定している可能性もある相手と考えた方がよさそうだ。
かなりの手練れだと認識しよう。
正体の見えぬ相手だが、舐めてかかる訳にはいかない。

「そうなりますね、俺の考察としては、戦争に目を向けさせている間に、何かしらの手で神気の減少を起こさせたということですね」

「ダイコクさんにその第三者の心当たりは無いのだろうか?」
ランドールさんが俺の方を見て言った。

「無いということでした」

「それはほんとうなのかしら?」
横からエンゾさんが意見を述べる。
その視線は鋭い。

「といいますと?」

「疑えば切りがないけど、北半球に住んでいて、商売の神をやっているとなると、いろいろな情報が集まってくるはずでしょ?百年も経っているのに心当たりすら無いなんて、私にはちょっと考えられないわね」
エンゾさんの意見は的を得ている。

「それは当人と話してみれば分かると思います。俺には彼が嘘を付いているとは思えませんでした、それに彼としてもこの百年間、水面下で商売を行ってきたと言っても過言では無いのですよ。そうそう情報が集まって来る状況であったとは考えられないです、それに彼も被害者なんです、神気の減少で相当制限して商売を行っていると言ってましたしね」
エンゾさんは片眉を上げた。

「確かにそうかもしれないわね・・・私は可能性の話をしたまでよ」

「おい、エンゾ、同僚を疑うなんてどうかしてるぞ?」
オズがツッコむ。

「だから可能性の話だって・・・」

「オズ、エンゾさんの考えを責めないで欲しい、実は俺もダイコクさんを疑ったのも事実なんだ」

「そうなんですか?」
オズは素っ頓狂な声を挙げた。
相当以外だったらしい。

「ああ、エンゾさんの言う通りその可能性は否定できないからな。だから俺はダイコクさんにこっそりと洗脳の可能性が無いかを確かめてみたんだ」

「洗脳って、島野君、あなた私より酷くないかしら?」

「それは言いっこ無しということで・・・前にオリビアさんから大戦の話を聞いた時に洗脳を行っている可能性が高いと思ってましたので・・・」

「まあいいじゃないか、そのダイコクとやらは白なんだろ?」
ゴンズ様が割って入ってくる。

「はい、そうです」

「それに魔物の国にいけば、そのダイコクにも会えるんだろ?」

「そうなりますね」

「なら俺達が直接乗り込んで、見極めてやろうじゃないか。なあ?」

「そうだの」

「だな」

「その方がいいね」

「そうしよう」
神様ズは魔物の国でダイコクさんと会う事になった。
ダイコクさんにしてみれば、突如十数名の神に囲まれることになる。
大丈夫なんだろうか?
まああの人なら問題ないだろうな。
それにしても魔物の国にとっては転換期を迎えることになりそうだ。
少々以外だったのは、北半球との接点を持つのはもっと先になると考えていたからだ。
こうもあっさりと乗り込むことが決まろうとは、どうにも神様ズは好奇心の旺盛な神様ばかりのようだ。
やれやれだ。



その後、恒例の宴会となり、神様ズは大いに賑わっていた。
俺は何故だかアンジェリっちとオリビアさんに捕まってしまい。
窮屈な思いをすることになってしまった。

その原因は珍しくヘベレケになったオリビアさんが、俺に絡みだしたからだ。
大戦のその後を知ったことで、何か思う処があったんだろう。
まるで鬱憤を晴らすかの如く、ガバガバとワインを飲んでいた。
そして何故だか、アンジェリっちからはその様子が気にいならなかったのか。

「守っちはオリビアに甘すぎる!」
とお叱りモード。
何故かこってりと叱られることになってしまった。

外の神様ズは流れ弾が来ない様に絶妙な距離感を保っていた。
あのマリアさんまで救援には来てくれなかった。
俺が何したってんだよ~!
許してくれ~!
やれやれだ。