☆本話の作業用BGM、一発目は『HAVE A NICE DAY』(ワールドオーダー)でした。
 ウ●ッキーさんぽいですが違います。A●B48とコラボ(?)してらっしゃいます。

 締めは『ROCKYのテーマ』であります。
「ラッキー!」と空耳で目出度く聞こえるので、縁起が良いかと存じます。

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 三が日のレッド・デイ。
 本年最初のお客さんは――。

 テカるオールバックの黒髪に紋付袴の中年男性が、シックな装いの少女と手を繋いで店内へと入ってらっしゃいました。
 昨年(しつら)えた二人用のソファに腰を下ろすと、二人顔を見合わせて軽く笑みを交わします。

 私は早速マイクとスピーカーの準備をして、まじまじとお客さんの顔を凝視しました。

 女の子は小学校高学年といった感じ。そして――。
 黒。ゴスロリ。お嬢様。降臨(なんとなくカタコト)。
 よくお似合いです。
 いいですよね、黒。
 黒とねずみ色(正:グレー)の服しか持ち合わせの無い私は、無意識にウンウン頷きました。
 艶々なショートボブの黒髪は、天使の輪がベタフラッシュのように隙がありません。

 パッと見、父親と(おぼ)しきこの男性……お久しぶりですね。

 彼は『ゥゥウウウウィッキーーーデーーーースッ!(笑瓶バージョン)』というボタンを押下すると、マイクへ顔を寄せ、

オープン(明けま)してコングラッチュレーション! ワン・イヤーズ振りかなあ。ご無沙汰だったね】

「美容院で揉み上げにサンダーを刻まれた」かのルーさん(擬き)です。※1

「明けましておめでとうございます。ツイてない御苑へようこそ。ますますご健勝のようで」
【ありがとう。今日は、リトル恥ずかしながら、マイ・ドーターを連れて来たよ】
「ああ、お嬢さんで。こんにちは――お幾つですか?」
【初めまして! 娘の●●です、六年生です】

 快活に笑う少女、白い歯も美しい。
 ルーに(呼び捨て)こんな可愛らしいお嬢さんがねえ。
 片手を繋いだままの親子を、しげしげと眺めてしまいます。

「私が言うのもなんですが、お正月からこんなトコ(卑下)へ……」

 ルーが空いている手で鼻の頭を掻き、

【マイ・ドーターがご所望でね。Where……どこから話そうかな……この()は二年前から「ティー道」のお教室に通っているんだ】
「ティー道?」
【あ、「茶道」です!】

 ぶっ。今日は可愛らしい「通訳」がいらっしゃるようです。

「ああ、なるほど」
【とあるアンダーなサウザンド・ハウスに――】
【裏千家なんです】
【ミーも昨年から、そこに通っているんだよ】
「ほほう」

 親子はチラチラと顔を見合わせます。

【一所懸命通ってるよ。スリー・デイズ坊主にならないように】
【あ、「三日坊主」です。パパは、なんでも長続きしない人なのです】※2

 お嬢さん、流石に慣れたご様子。

 お二人同時にペットボトルのグリーンティーを口にすると、

【僕も楽しくなってきて、家でも茶器を揃えたりして――】
【昨日、その内のお茶碗をわたしが割ってしまって……】
「まあ。ツイてませんでしたねえ」

 しょんぼり俯く少女の頭を、ルーが優しく撫でます。

【アクシデンタル――偶然の事故は仕様がないよ】
「そうそう。次から気を付ければ」
【……あの、そんなんでいいのでしょうか?】

 心無し瞳を潤ませ、上目遣いに父とこちらを見やる少女。
 ルーは軽く微笑みます。

「良いも悪いも、正直に謝ったのならノーサイドですよ。器のお値段も関係ありません。ね?」
【そうそう……って、ウン百万もする器だったら、流石にアングリィヘアーがヘブンを衝いちゃうかも】
【…………「怒髪天」って言ってますけど】
「分かり辛え」

 ドッと爆笑。


【ティー道は心が整うんだってさ。ほっとする時間だってご本人が仰ってた。こんな僕でも、やっと少しは年相応に落ち着くと思うんだ。ボディがムーブする限りは続けてみるよ】※3
【体が動く限りは、だそうです】
「それは重畳。『ストーン(石)の上にもスリーイヤーズ(三年)』ですもんね」※4
【マーベラス。上手い事言うねえ】
「本物のルーさんが仰ってましたよ? どっかで」
【あ、そう? こりゃ失敬】


☆☆☆


 ふたり元気に繋いだ手を振りつつ、見つめ合いながら表口へと向かいます。

「ゴッド・ブレス・ユー……」

 まるで恋人同士のよう。
 こうなるといっそ、奥様にもお会いしたくなりますねえ。


◇◇◇◇◇


 ルーさん親子と入れ替わるようにして、チラチラ表口からこちらを窺う不審者の姿が目に留まりました。
 頭を引っ込めると、仄かに白い息がひとつふたつ、壁に浮かび上がりました。


 黙って様子を眺めていますと、やがて不審者は諦めたようにトボトボ店内へと歩を進めます。
 
 立ち止まってサッと右手を上げると、

【よっ! ご無沙汰!】
「ああ……トウカイリンさんでしたか」
【ショージだ!】

 リングネーム「ショージショージ」のプロボクサー……お笑い芸人ではございません。※5
 おっと、マイクつけっ放しですね。

「●×▲◇ちゅねー」
【わじまさんはやめ……誰だ?】
「具●堅さんです」
【まだボタン押してねえのに】

 軽く両肩を回すとスッと椅子に腰を下ろします。
 上下真っ白なジャージ姿。お正月と相まって(?)清々しい装いでございます。

 ロードワークの途中でしょうか。
 少しだけ上気したお顔。
『体中からオーロラ(正:オーラ)が漂っているね』というガッツさんの名言が頭に浮かびます。


 背筋を伸ばすと、きりっとボタン群を一瞥し、

『「るぁっきー!」「えいどりあーん!」「るぁっきー!」「えいどり(以下割愛)』

 というボタンへ向けて、迷う事無くジャブを飛ばしました。

【いてっ! 突き指しちまった……】
「………………」

 大仰に項垂れます。

【いやほら、俺、ジャブは「拳を握らない」人だからさ】

 打って変わって恥ずかし気に言い訳をかましたのです。
 なんなら「うえへへへ」とわざとらしく笑ったりして。

「アマチュアにそんな事言っても分かりませんよ」
【そ、そうか……】

 肝心な事を聞いておかないとですね。

「今更ですけど、例の試合はどうだったのですか」
【ドロー。で、その後再戦してK・O負け】
「……×●◇▲」
【今度は誰だ? エ●ドリアンじゃねえよな。また具●堅さんか?】
「ぶぶー。長州●さんです」
【ボクサーでもねえじゃん】


 (くだん)のパイセンにはリベンジ(高校時代の)とはならず、生涯通算戦績2勝1敗1分けとなったショージさん、

【今年の東日本新人王にエントリーした。そこで、あわよくばリベンジだな】

 大分時間を経ている所為なのか、前向きな心持ちなのか――真冬に関わらず、ひまわりのような笑みが浮かんでおります。
 拳をパンパン打ち付けるのは止めていただきたいところですが。

「それは●×◇▲○!」
【長州はもういい】
「ぶぶー。天●源一郎さんです」
【どう違う?! 我慢ならねえ!】

 思いがけず、長州さんと天●さんの物真似を始めた彼は、事細かに差異をレクチャーしてくださいました(さっぱり分かりませんでしたが)。
 いずれ、輪(じま)さんもレパートリーにお入れくださいませ。


【……今度は、勝つぜ。「マジ」と書いて本気だ!】
「逆です、『本気』と書いて『マジ』でしょ普通」
【どっちでもイイだろ】
「……精々、ショージんしてください。ゴッド・ブレス・ユー」
【クッ、上手いこと言ったと思うなよ!】


 立ち上がった彼がウインク? をかましました。両目で。うへっ。
 ……「ナビ」さんかよ。※6


 力強く、弾むようなフットワークを一発決めて――。
 憂いを捨て去った彼のロードワークは、ここからまた再開のようですよ、お母さま。

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※1 42話。
※2~4 全て、ルー大柴さんご本人の弁。茶道を続けていらっしゃるそうです。みんな、もっとイージーな感じでティー道に親しんでほしい、とも。

※5 46話より。
※6 ドラマ『俺たちは天使だ!』のメインキャスト(渡辺篤史さん)。
 探偵業の傍ら、自動車工場でも働いている、という設定。
 ウインクが苦手で、何度やっても「両目」を閉じてしまいます。
 まだこの頃は、他人の家を探訪しません。