「ツイてない」なんて言わないで❤️

☆本話の作業用BGMは、『リバーサイドホテル』(井上陽水)でした。
 昔、リバーサイド(私の場合、隅田川沿い)でマンション探してました。夏の花火をベランダから見たくってぇ……
 コレ!という建設中の物件を(てくしーで)探し当て、概要が発表されるのを待っておりましたが……ある日、外壁に「FOR RENT」の文字を見つけ……私(青年期)の青春は、一旦終わりを告げたのでございます。

(2024年10月執筆……多分)

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 猛威をふるった暑気がどこぞへと消え去り。
 油断した間隙を突いた、小春日和の如き夕刻。
 

 招かれざる桃色の霧が、提灯(ちょうちん)のような物体となって入口に佇んでおります。
 音は皆無ですが、「ウォンウォン」いってても不思議ない感じ。
 アレ、なんて言いましたか。
 公園辺りによく出没する、小さい虫の集合体――あんなアレですよ、お母さま。

 最近、「世界が謎の組織に征服されました」というニュースを目にした記憶はないのですが……。

 ピンクのド●ミちゃんは椅子に腰をおろすと、

『かーわぞいりぃーばーさいっ……ホッホー』

 というボタンを押下いたしました。
「リーバッサイ」なのか「飾りじゃない」のか……どっちなの。

 受話器に添えられた指、爪が短く切り揃えられております。
 ギャルみたいな爪でしたのに。

 モニタ越しの穏やかな顔は、少しふっくらして見えました。

「またアンタか」
【失礼な奴だな。私は客だぞ】

 室温が微かに上がる感覚に呼応して、指先が耳の裏をなぞりました。

 サブローは黒いマントを羽織ったまま。
 下に着込んだ桃色のトレーナーは、胸元に「大鉄人ロック三郎(シックスハンドレッドサーティーシックス)」とプリントされております。
17(ワンセブン)」の間違いでは? ※1
 いや、和の鉄人かも。 ※2

【めっさ忙しいとこスマンにゃ】
「喧嘩売ってるんですか」

 この荒野をよく見さらせ。
 人どころか生物の気配も無い、静謐な東京砂漠(広さは1K)を。

【社交辞令だよ単細胞め→略してシャコタン】
「…………」

 彼女に引かれないんですかね、おやじギャグ。
《……耳が死ぐ…………》←天の声


 サブローはくっと笑い、缶コーヒーで唇を湿らせました。 

【折角だ、その声で「お元気ですかぁ?」って言ってみてくれんか】
「え。やだ」
【まあそう言わず】

 パッと、サブローが立ち上がりました。
 ビニール袋から何やら取り出し、テーブルに置きます。
 うっすら湯気が立ち上ぼります。

【差し入れだ。彼女もあっちの組織を抜けて、バイト先を変えたのだよ】
「……唐揚げか(ゴクリ)……」
竜田(タツタ)!】
「クララ?」
【今すぐ耳鼻科行ってこい。待っといてやる】
「……お元気ですかぁ?」
【そう言えば……最近、陽水の姿を見掛けんな】


 サブローは背凭れにゆったり身を委ねると、

【退職して彼女のアパートで、ど……同棲しておる】

 細く息を吐きながら、つらつら呟きました。

「よくもまあ、秘密結社が足抜けさせてくれましたね」
【それな! これまでの功績を認めてくれたようだ。温情裁決というヤツだな】
「功績?」
【働き方改革が嵌まった。もう、労基署とドンパチやる事も無いだろう】
「ああ、なるほど」

 野望は諦めたのでしょうか。

「戸籍とか、どうしたんです?」
【そこは組織がな、餞別……エロエロ……偽造とか】
「犯罪ですよ」
【一応、真っ当な犯罪組織だからな】

 無事、転入手続きは済ませたそうです。

【ギルドの出張所で――】
「区役所、区役所ね。あんたいつからFランク冒険者に?」
【国保の手続きもした】
「ポーション持ってないの?」

 無礼なツッコミにも目を細め、口元に微笑を漂わせる元・悪の幹部。

【求人広告をネットで眺める毎日だよ】
「求職中なんだ……」
【退職慰労金も出たが、僅かなのでな】

 一転、厳しい顔つきになり。
 間・髪を入れず、短く鋭い舌打ちを放つと、

【この歳(※見た目は「実年」)では、警備員か集合住宅の管理人くらいしかなくてな】
「そういうものですか」
【しかし何故か警備員は、書類選考で悉くハジかれる】

 寧ろ、「警戒対象」に見られるからじゃ。


【アパートが手狭ゆえ、引っ越しも検討中だ。大川(隅田川の古い呼び名)周辺で物件を探している】
「左様で」
【所謂、リバーサイドの川沿いだ】
「(川沿いの川沿いってナンだろ?)」

 一瞬身を捩ると、

【その……ベランダから「両国大花火」を見たくてな】※3

 お尋ねもしていないのに、元・悪の幹部は妙な恥じらいを浮かべて俯いたのであります。





 彼女がねだった……のでしょうか。

「アパートが手狭ねえ……」

 サブローが、「あっ」という顔をします。

【そ、その、陽水も歌ってるだろ? 「若い二人は自由になれるから」とな】 ※4
「あんたは二十世紀超えだったよな?」
【デ●モン閣下から見たらピヨコに過ぎぬ。ちょ、おま、10万だゾ?!】
「あの設定信じてたのか……」


 花火会場となる辺りの隅田川は、台東区と墨田区の区境を流れております。

【ツイてないことに……「ベランダから花火がクリアに見える」物件は、どうにも墨田区側に集中しておってな】

「川の湾曲具合」と「打ち上げ場所」(隅田川は二ヶ所)、それと「ベランダ(または窓)の向き」がぴたりマッチしている必要があるそうで。

「墨田じゃいけませんか?」
【我々は「台東区側」に住みたいのだ】
「どうして――」
【地盤が心配】

 災害も企図した秘密結社に居たくせに。

「花火に浪漫を感じる悪の幹部か……」
【パッと咲いてパッと散る打ち上げ花火……桜のような風情がある】
「ふーん」
【儚げな……「畳の目を数えてる()に終わる」のがまた――粋ではないか!】
「数えるのは『天井のシミ』でしょ。アンタ何日かけるつもりなの」


 台東区側は日本橋界隈のように、町並みごと傾いているのかもしれません。
 色々大変かと存じますが……拘りに合った物件が見つかるといいですね。
 まあ、多少なりと妥協が出来るなら――。

「ST●P物件は、ありまっっす!」
【小()方さんみたいに言うな。「幻の物件」を探しているようで気が滅入るではないか】

 胡麻でも磨り潰すように、ゴリゴリ奥歯を鳴らします。

「ところで――世界征服は諦めたのですよね」
【というか……「私が征服したい世界とは、君のことだったのだ!」と、一世一代の求愛(プロポーズ)をかましたら――】
「やんややんや(棒)」
【グーで殴られた】
「DVっ!」

 思い出した風に、右頬を優しく擦ります。


【……まあ、私の職が決まれば心持ちも安定するだろう】

 いっそ、主夫でも良さそうな気もいたしますが……。

「ラブホのフロントとか如何です?」
【なんて?】
「その装い、夜のお仕事とか風俗系なら嵌まると思うのですけど」

 サブローはぼんやり思案していましたが、そのうち小さく「ポン」と手を打ちました。

【なるへそ】
「或いは……台東区側のリバーサイドで、『ベランダから花火が見える、夫婦住み込みの(マンション)』管理人、なんてのも良さそうな」

 さすがに条件厳しいかな。



 再び、苦い顔で何かモグモグ咀嚼したサブロー。

 徐に、

【夫婦でなぁ……それも良いかもしれんな……】

 何故か……安堵したように微笑みました。

 
☆☆


「なんだかんだ、仲良くて重畳です」
【いやいや、中々どうして……夜は未だ、守勢に回ることが多くてな】
「A型なの?(めっちゃ偏見)」


 意外にも、俯くお顔は蒼白で、頭上には黒い雲が立ち込めております。

「なるほど……所謂、『オレたちの世界征服はこれからだ!』ですね」
【うむ。サブロー先生の次回作にご期待ください! だな】

 最終回(※しかも打ち切りぽい)を迎えたかのように、短く叫びました。





「ゴッド・ブレス・ユー」
【そればっかりだな】
「じゃもう来んなよ」

 のっそり立ち上がるニヤケ顔が癪に触りますが――。

 世界はひとまず平和……なのかな?


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※1 『大鉄人17(ワンセブン)』(1977年TBS系、毎日放送・東映)。石ノ森章太郎原作の特撮テレビ番組。

※2 和の大鉄人こと道場六三郎氏(シックスハンドレッド~はナ●ツのネタです)。

※3 現在の「隅田川花火大会」。
※4 『リバーサイドホテル』より。