「ツイてない」なんて言わないで❤️

☆本話の作業用BGMは、『 I・CAN・BE 』(米米CLUB)でした。
 デビュー曲だそうです。
 微妙なワードですが、オバマ元大統領は関係ありま…………せん。

 〆めは、気分で『ビハインド・ザ・マスク』(YMO)。
 ビョンビョビョビョビョン……

(2024年8月執筆p)

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 台風××(チョメ)号が列島を掠め去った翌日。

 猛暑が強風を伴って関八州を襲う中、西陽を背負った不快な茂森(仮)さん――もとい、不快な西陽を背負った茂森(仮)さんがご来店です。
 おや? 戸口に陽炎(かげろう)……と思ったら、全身黒で統一された、一見して暑苦しいスーツ姿が揺れておりました。

 ああもう、早く秋になんねえかな……(仮)にすらイラッとしつつ(とばっちり)ボンヤリ眺めておりますと。
 チアノーゼのような憔悴しきった蒼白のお顔で、茂森さんがヨタヨタ足を踏み入れました。
 この際、(仮)は取っ払いましょうか。
 足元が危ないので。
 ストレスは最小限に。

 姐さんは肩掛けのバッグから何やら取り出すと、アダモちゃんの如く、ペイッ! とテーブル上に投げ捨てました。
 ビニール袋に入った丸パンのようです。

(お? み? や? げ♥)

 セクスィー小泉くん()の栗・素照さん風に囁くと、口の端をひくつかせたのでした。

 



 椅子にズブズブ沈み込み、虚ろにボタン群を眺めていらっしゃいます。
 きっちり結わえたお団子頭に、ゆらゆらとチンアナゴのように揺れる(ほつ)れ毛がチラホラ。

 と、突然「ハッ!」とわざわざ発っし。
 とある一点を射るように凝視すると。
 指を震わせながら、

『そうしろとささやくのよ、私のゴ●ストが……』※1

 というボタンを押下しました。
 ついで――何も言わずに、ハラハラと涙を流したのでございます。

 情緒どおした? ダイジョーブまいフレンド?

 私、ちよと驚きまして。
 声を掛けることも忘れ、黙ってその姿を見詰めておりました。





 少し落ち着いたものか、パン屋さんのパートゾンビ(失敬)が俯き加減でポツリポツリ語り始めました。

 
 最近、専門学校時代の友人たち(声優崩れ多数)と演劇サークル擬きを起ち上げ、ボランティアで各所を回りだしたのだそうです。

「素敵な試みと存じます」
【うっ……!】

「本日の声」に、やたら過敏に反応するー。

 顔を上げ、目を見開くと。
 ふるふる唇を戦慄(わなな)かせ、またしても目尻がじわります。
 どうしましょう、ホント情緒が……。


 姐さんは胸にそっと手を添えると、暫くの間、浅い呼吸を繰り返していました。





【……この間……幼稚園で人形劇を演って見せたんだけど、園児達に全くウケなくてさ……ツイてねえよ】
「ご愁傷様です。因みに演目は?」
【桃太郎――】
「定番なのに。鮮度がアレでしたかね」
【「桃太郎侍」面白いのによぅっ!】※2
「なぜ英樹? 今の子どもたち知らないでしょうに」
【語り部が被ってた「般若の面」見て泣き出す子もいてさー】

 語り部がお面つけなくとも――とはツッコミませんでした。
 決して怠慢では……。
 いいでしょ別にぃ。ちゅ♥(?)

【クライマックスの登場シーン……あの「数え歌」なんか痺れるだろ!】
「そんなのありましたっけ?」
【「……ひとぉつ、人の世 生き血を啜り……」】
「園児相手に物騒がすぎる」
【「ふたぁつ、ふるさと(あと)にしてぇ……」】※3
「いきなり『いなかっぺ大将』になってますよ」
【…………ポンポンポンッ……てさ……ふぐっ】
「演目のチョイスに問題アリでしょう」


 終演後の反省会(ファミレスにて)、ひと悶着あったようです。

【基本、みんな一所懸命演ってたんだけど】
「お疲れ様です」
【一人、あからさまに手を抜いてる奴がいてさ】
「ボランティアですもんね。仕事じゃないし」
【そう。でもさ、だからって、舐めちゃダメでしょ】
「御意」
【そういうのが伝わっちゃったのかもね。園児たちにも】

 なるほど。
 演目だけが問題だった訳でもないと。

「そもそも、どういう経緯(いきさつ)でサークルを?」
【息子が通う小学校のPTAでちょっと議題に出て……で、昔馴染みに話振ったら、いい感じに盛り上がっちゃって】
「ほう」
【……結局、みんなどこか「夢を捨て切れてない」んだよね……】


 夢破れるまで追い続けた若き頃――。
 嘗て憧れた声優のように、自分の芝居でみんなをハッピーにしたい、という燻っていた情熱が(弱火で)トロトロと燃え出し……。


 茂森さんが枯れ気味の声を絞り出しました。

【単なる承認欲求かもしれないけどさ】
「……」
【でも演る以上はプロの気概を見せろよ! って怒鳴っちゃたよ】
「左様で……」

 糾弾されたお方、その場でサークルを脱退したのだそうです。

【自分の飲み(しろ)ぐらい置いてけや! って追い討ちかけて、取っ組み合いになちゃた】

 ははは……力無く溢します。

【……もう少しオブラートに包みゃよかったかね】
「うーん……是非もなし」


 学校を卒業()て数年。
 皆さん、鬼ばかりな渡る世間に揉まれて、様々な(ダッフンダ?)にお遭いになったのでしょう。
 情熱の濃淡に差異があるのも、仕様がないことと存じます。





【あたしもさ、あと二十年もしたらさ、穏やかで心に響く声音でさ……台詞回したり…………スン】
「んだんだ」
【二十年後のあたしは何歳になってるのかなあ……】
「二十年を足してください」
【ん?】
四十六(しじゅうろく)だっぺ」
【え……えーと、待って待って……来月、誕生日だから――】
「お誕生日でしたか。実は私も、誕生日に生まれたらしいんですよ」
【みんなそうだろっ?!】



 ふと間が空いて、何とはなしに伸びをしたところ。
 デスクの引き出しから、ピンク色の紙がはみ出しているのに気が付きました。
 すっと取り出し、まじまじ見てみますと。

 ポエム……いえ、某か台詞のようでもあります。
 末尾に「光生」の署名。
 その側に、灰色がかった染みがポツンと一軒家(?)。

 まさか……ティアー()(ズ)…………?

 
 あらためて記憶を辿りつつ熟読の後、深呼吸をひとつ――。
 本職ではございませんが、そこはそれ、心意気で読み上げました。

「……世の中に……」

 茂森さんが、びくりと微動します。

「世●中に不満があるなら自分を変えろ。それが嫌なら耳と目を閉じ、口●噤んで孤独に暮らせ。それも嫌なら」※4
【うおぉぉぉおん少佐ぁぁぁ嗚呼嗚呼っっ!!!】

 ドバッと涙を迸らせた茂森さん、嗚咽混じりに叫ぶと、悔しげにテーブルをバシバシ叩きました。


 やがて――両の拳を固く、固く握り締め……そのまま突っ伏してしまったのでございます……。


☆☆☆


 恐らくは、茂森さんのために用意されたと思しきボタン。
 けれど今日の彼女は泣くばかりで、肝心な事には触れません。
 押下した途端、堰を切ったよに語りまくるでもなく……。
 頑なに、己れの内で消化しようともがいているのかもしれません。


 ……ひとしきり、声をKILL(コロ)して泣いたのち、

【でもさ……あたしが、口を噤んで孤独に暮らせると思う?】
「否」
【だろー?】

 目尻を拭いながら、ニカッと相好を崩します。

 ええ。
 それが茂森姐さんです。それでいいと思います。
 もっとブチまけてくれてもいいんです。
 噤まなくていいっす。


【以上! 今日はこれでお仕舞い~ケル】
「……もう、よろしいので?」
【よろし!】
「……ですか。では――」


「ゴッド・ブレス・ユー」


 彼女が偲んだ声優さんは、ずっと憧れていたお方なのかもしれません。

 内出血のように深い悔恨が刻まれていたお顔は、今は聖母のごとき慈愛に満ち(多分)、優しげな色を浮かべております。
 

【またね!】


 またね――という「生者の約束」が、どれだけ尊いものか。
 私は、多少なりと分かっているつもりです。

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※1 漫画『攻殻機動隊』(士郎正宗)より。

※2 テレビドラマ『桃太郎侍』(日本テレビ系列・1976-1981年、高橋英樹版)。その後、英樹さんが現代劇をお演りになっても、全て「桃太郎侍」に見えて困る、という投書を頂戴するほど(嘘)代名詞的コンテンツ。

※3 アニメ『いなかっぺ大将』のOP、『大ちゃん数え唄』より。歌唱は天才少女・吉田よしみさん(現・天童よしみさん)。にゃんこ先生好きでした……。

※4 アニメ『攻殻機動隊 S.A.C』より。
  草薙素子少佐(=声・田中敦子さん)の台詞。



 ありがとう……田中敦子少佐に合掌