「ツイてない」なんて言わないで❤️

☆本話の作業用BGMは、『エロティカ・セブン』(サザンオールスターズ)でした。
 我はエロティカ・セブン……とは、これ如何に。
 主題歌だったドラマをふと思い出して(しまい)、なんとなく。
 ブレーク前の常盤貴子さんが、前触れもなく×××したのが強烈に思い起こされます。
 〆めは、『悲しい夜を止めて』(河合その子)。とある組織の(会員)NO.12のエージェント。
 数年後、↑を作曲した方とご結婚されまちたね。
(本文とはほぼ関わりがございません)

(2024年7月執筆)

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 とある梅雨の土曜昼どき、既に本年幾度目かの冷や麦を啜っておりますと。

「今年はオリンピックがあるらしいな」

 ご機嫌で瓶のビールを手酌で()ぎながら、ほんのり紅色の顔で兄様が呟きました。
 午前の稽古が終わり、爽太くんは所用で帰宅しちゃったので、居間には永峰家の三兄妹が取り残されております。おろろん。
 さながら「苔」のように……(意味不)。

「はあ……あるらしいですね」
「俺もトシかな……一年があっという間だぜ」
「え。オリンピックって毎年やってんの?」

 口をすぼめ、見事に一息でつるんと冷や麦を収めた綾女が、不思議そうな顔で常識(わたし)に問い掛けました。

「いえ、一応四年毎ですね」
「ふうぅん」
「ちょうど閏年と被ってますから、分かり易いですよね」
「お前ら知事選の投票行ったのか?」

 ほら。
 ハゲはこうして、独自に話が飛ぶワケですよ、お母さま。

「行きましたよ、綾女ちゃんと二人で。期日前投票ですが」
「そういう兄貴は行ったんだろな?」

 妹がジロリ兄様を睨み付けると、ハゲは項垂れ、

「…………ナンも言えねえ」※1
「じゃ偉そうに振るなよっ!」
「な、なんだよ、オリンピック繋がりで――あ?! 閃いたぞう!」

 ソロでダンジョンを進む兄様は、胡座の膝を叩こうとした左手をスカし、直撃した脛を擦りつつ、

「よし! 野郎共、ヒトロクマルマル(16:00)・御苑に集合だ!」

 すっくと立ち上がって念入りによろけると、実に迷惑な招集をかけたのでございます。


☆☆☆


 表には『本日貸切』の札がぶら下がっております。
『本日休業』でよろしいかと思うのですが。
 人間の(さが)、或いは見栄というものでしょうか。

 兄様は、肩掛けの可愛らしいキ●ィちゃんの鞄をぶらぶらさせながら、ご老体の如くよろよろ店内を歩き回り。

 血走った目で各種接続作業を終えると、

「じゃ。デモろうか」
「ちゃんと説明しろハゲ」
「先走んなキモ兄貴」
「まっしか! いいか、これはな――」


 兄様は、事務所机上に置いた小さな箱を指差し、

「『あいのてくん』だ!」
「「あいのてくん?」」
「オリンピックバージョン!」

 お客さんとの雑談(卑下)中に、「あいのて」を入れられるようにしたのだそうです。

「エメラルロのでぃえ、でぃ……自演乙? みてぇな」
「滑舌イェ~!」

 綾女が舌を出してウィンクを飛ばしました。

「『エメラルドの伝説』がどうかしました?」※2
「神幸ちゃん分かるの? ごいすー」

 ハゲの輝きが若干鈍ります。

「これだから若人はよう……」
「兄様もまだ若いですよ」

 あからさまなおべっかに、一瞬憮然とした兄様。
 口元が「おほっ?」と弛緩したようです。

「うーんと……アレだ。『六本木心中』のアレみたいなヤツだ!」※3
「結局例えは昭和じゃんかよ」
「これ、意味あるんですか?」
「百聞は一見にしかず、だ。早速デモを――」
「ヒャクブンハイッケンニシカズ! ヒャクブンハイッケンニシカズ!」
「どーした神幸ちゃん?!」

 なんとなく羽ばたいて見せたら、兄様が尻餅をお着きになり申した。


☆☆

「「「んん~…………」」」「しゃん()!」

 でアホになった私が、お客さん役になりました。
 何気に、この席に腰を下ろすのはお初です。

「こんなの初めて……!」
【言ってみたかったんだよね(ホロリ)】
【あと5年くらいだろ。頑張って(こら)えろ】

 ほんわかと場が和んだ塩梅で、デモ開始でございます。

「この間、知事選の投票に行ったナリよ」
【コロ助に選挙権あったか? いや、まさかな……】

「お名前を書こうとしたら、無かったナリ」
【立候補してるのに?】
【ナンて人だ?】
「浅見千秋さんナリ」※4
【え、誰?】
【劇画の主人公書いたらアカンだろ】
「ツイてねえ……おっと、ツイてないナリ」

 ここで兄様が、

【よし出番だ『あいのてくん』!】

 切れ良く叫び、ボタンを押しました。
 御苑内に響く、新たな機械音声は――。

《僕が魔物でした》※5

 ――という……カミングアウト?

「これ『あいのて』?」
【意味わかんない。誰か知らんし】
【えー? オリンピアンだぞ?】
「その方が魔物なら、私は()騎士ナリ」
【やめなさい。小さい子も見てるんだぞ(?)】

 一応、常識の範疇で、投票用紙にお名前を書きました。

「消去法になってしまうのが誠に残念ナリよ」
【まあなあ……】
【結局、誰に入れたの?】
「ひょう××のひゅおぅ××」
【いつもそんな風に、息を吸いながら話すのかい?】
「下腹部に力が入らないナリ」

《チョー気持ちイイ!》※6

「変態みたいナリ。誤解を招くナリよ」
【え。やだ、神幸ちゃんたら……】

 何故か綾女が身悶えます。


 職業や出自で投票するワケにはまいりません。

「天は……●のうえに●をつくらず」
【なんでローラ?】
「元ネタは福沢諭吉さんですよ、お札の――」

《最高で金 最低でも金》※7

「『カネ』じゃないだろ?」
【カネの亡者に聞こえるよね】


 建設的なデモとは言えませんね。

【……ここまでで、何か感想は?】
【『あいのて』になってないんじゃね?】
「……お、()兄様」
【なんか失礼なコト言われたのは分かるぞ】

 母国語で話せないのは結構なストレス――
 ここで印を結んだベイコクの青年が頭に浮かびました。

「日本語のモノしかないのですか?」
【ん? んんー……外国人観光客はこんなとこ来ないだろ?】
「外国の方が来店されて焦ったことがあるのですよ」


 兄様はひとしきり天井に視線を「飛ばし」て、顎を擦っておりました。

「……飛ばねえ二郎((坂上))さんは、ただの二郎さんナリよ」
(くれない)の二郎さんだ!】
「ジ●リ~」
【……参考までに、なんか英語で『あいのて』入れてみろぃ】
「え? ええー……あ、アイ、I am ………… an apple?」
【唐突な「私はリンゴ」宣言……】
【いや質問かそれ】
「たはーナリ」

『あいのて』だけ外国語でもねえ。
 でも駅前留学は勘弁してほしい……ナリ。


【そもそも、『あいのてくん』の必要性を感じないしー】
【まっしか……急いでつくったのに……】

 気の抜けた声色を耳にすると、少しだけ(本当に少しだけ)兄様があはれに思えました。

「ここぞ、という時に使ってみますよ」
【…………】
【そんなシチュエーションあんのかなー】

 デモに飽きたのか、綾女がスルメを齧っているようです。
 クチャクチャという音が微かに聞こえます。
 どのタイミングで飲み込むのか、多少興味がございます。

「まあ……結構楽しかったですよ」

 何が、と問われるとアレなのですが……。
 まあ、空気、と申しますか。 
 兄妹でこういう……平和にわちゃわちゃすることも、そうそう無いことですから。

【そうね! (くっちゃくっちゃ)】
【…………】
「では一応、締めてください、綾女ちゃん」
【お?! 任せて!】

 ハイトーンで返した綾女が息を調え、

【ゴッド・ブレス・ユー!】

《ここで終わらせるつもりはない》※8

【誰?!】

 兄様・意地の一発は、噛み合っているのかそうでないのか……。
 やっぱり、《こけちゃいました》って感じですかね。※9

 本当に楽しかったのですよ、お母さま。
 働かなくてよかったしー。


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※1 2008年北京大会 競泳・北島康介選手
※2 1968年 ザ・テンプターズの楽曲
※3 1984年 アン・ルイスさんの楽曲
※4 『サンクチュアリ』(原作・史村翔、作画・池上遼一)主人公の一人
※5 2022年北京冬季大会 ノーマルヒル小林陵侑選手。「五輪の魔物? 僕が魔物でした」より
※6 2004年アテネ大会 北島康介選手
※7 2000年シドニー大会 田村亮子選手
※8 2021年東京大会 ボクシング・田中亮明選手
※9 1992年バルセロナ大会 男子マラソン・谷口浩美選手