★本話の作業用BGMは、『Young Bloods』(佐野元春)でした。
 静かな冬のブル●スに眠る……ほーん。
 もっと売れて、ザ●ベ●トテンで見たかった(観た記憶が無い)。
 まあ、TVには出なかったかもですが。
「国際青少年」年(年がクドイですけど)のテーマソング。
 PVの舞台は代々木公園だそうです(※by ニコ動)。
 イイ感じでーす。

 〆めは『走れ正直者』(西城秀樹)。
 ハムジャナイ……。

(2024年2月執筆)


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 南岸低気圧の影響で、未明からお見事な雨が降り続いております。
 都心でも積雪の恐れがあったりなかったり、とか。
 所詮、TVの天気予報です。
 そ●じろーもツッコみませんし。一言も喋りませんし。
 し●じろーの方が、ビジュアルもエンタメ性も優秀だと思うのですが。
 おまけに喋るし。
 どう思います、お母さま。

☆☆


 雨が上がり、町中(まちじゅう)に寒気が置き去りにされております。

 ぷりぷりしながらリモコンを掴み、室温を数度弄って心中が落ち着くのを待ってみます。
 ついでに脈拍も測ってみたり。

 ……20秒で26回。さて、1分で幾つになるでしょう…………か。
 寒さ(ゆえ)か恐れからか(←正解が導けないという)、右手が動きません。
 こんな歯痒い心持ちになるなら、初めから1分で測るべきでした。

 
 悶々とするなか来店されたのは、文字通りピチピチ(死語?)の若い女性でした。
 臙脂色(えんじいろ)のジャージを羽織り、限界まで上げられたファスナーが顎先をそっと隠しております。
 お胸の辺りが窮屈そうに腫れ上がってらっしゃる。
 なんぞ、重い(物理)(やまい)でも患って……慢性爆乳症?

 下も同色の短パン。
 黒タイツかレギンスか知りませんが、時折キラつくおみ足は、起伏に富んだ美しい曲線を描いて――(なまめ)かしさが淡い熱を伴って匂い立つようです。
 真っ白なスニーカーが、そこだけしくじったように清楚な光を弱く放っております。

 ド忘れいたしましたが、リアルなんとか――なんてファジーなフレーズが浮かびます。


 知らぬまにつと流れた鼻血をもそもそ拭っていると、女性が椅子に腰を下ろしました。
 ジャージのポケットに両手を忍ばせ、ボタン群を覗くと、鮮やかな短めの金髪がサララと流れました。
 押下したボタンは、『走る疾る俺たソ』。
 また誤植でしょうか。
 一応仕事なのですから、少しはプロ意識を――。

【こんにちは】
「赤貧のツイてない御苑へようこそ。お寒くないですか」
【はい。暖かいです。27.5度くらいですね】

 それこそ走ってらしたのでしょうか。

「このボタンは、ひょっとして中●くん?」
【多分、●野くんです】

 珍しくも正解。

「たい●きやいた……」
【その人です】

 ふと思い付いて引き出しを開けてみましたが、サングラスは見当たりませんでした。



 袖から指だけ覗かせ、その白い両手指で口元を覆うと、目を瞑ってハァ♥とやってみせます。
 あざとい……あったかいって仰ってましたのに。
 またポタリと鼻の血が滴りました。んむぅ。
 今日は無事におうち帰れるでしょうか。

【高三男子の家庭教師をしてまして】
「字面だけで()せそうです。というと、大学生ですか?」
【ええ。JDです】

『J』はいらん。見りゃ分かる。

【じゃDで】
「あ、聞こえました? でも『D』だけじゃ」
【あおがくです】
「ああ、駅伝で有名な」
【え。駅伝のどこ?】
「どこ? といはれましても」
【青山様学園大学です。私立の女子大】
「申し訳ございません。全っっっ然耳にしたことが……」
【八丁堀の青山様が名誉理事長で――】※1


 失礼ながら、在籍する大学やビジュアルからすると……よくぞ家庭教師として()われたものじゃ――新入りの脳内評議員(自称・仙人)が呟きました。
 激しく同意です。

【彼の学力からして、志望校は少し難儀な感じなんだねぃ】
「江戸弁?」
【あら、ごめんなさい。青山様に心酔している生徒は、時折江戸弁が】
「……そうですかぃ……」

 落胆した下っ引きみたいになってしまいました。

【やがて彼が――「合格したらご褒美をください」って言い出して……】
「言っちゃったか」
【言ったんだねぃ】
「…………で?」
【あたしに出来ることならいいぜぃ、って】
「言っちゃったか」
【言ったんだねぃ】

 そろそろ本試験だそうです。
 なかなかご褒美について口を割らなかったそうですが、ついに。

【「ぼ、ぼくが(受験に)せ、成功したら」】
「性(コウ)(単なる聞き間違い)?」
【…………】
「あれれ? だぜぃ」
【正解はCMのあとに言うもんだぜぃ】
「………………マジですかぃ?」

 漫画のようなお話、あるのですね、現実に。

【安請け合いを……ちよと後悔してる……ぜぃ】

 ワイルドさが激減したスギちゃん擬きが、元気なく呟きます。

 その割には、火照ったお顔。
 鼻から下を、やはり指先だけで覆ってらっしゃいます。

「彼にはアレですが、お断りされては?」
【…………】
「断んなぃ、姐さん」

 あーあれですか。

「順番が違うだろ? ってことですかぃ、旦那」

 記念でイタすことでもないとは思います、毛ど。

【……単純に、青臭い男子高生の、肉欲への渇望「ダケ」が言わせたモノなのか、それとも……あたしを好きになったから付き合いたい、って気持ちから出たモノなのか……ふ、複雑な心持ちになっちゃって】

 イソギンチャクの如く、指先が賑やかに踊ります。

「お付き合いされたご経験は?」
【……いえ。恋人いない歴21年……】

 ほう……このビジュアルで。
 いや。そこじゃないか。

「大人の恋愛は、『付き合おうぜぃ』から始まらないと言いますが」
【う、嘘でぃ!】
「そう言われるとねぃ……」

 何れにしろ、処●にはキツいお話でございます。

「身体の相性は\(^_^)/だね→付き合おうか! もアリかなあ、とは個人的に思ったり思わなかったり。まあ、受け売りですが」
【…………】


 JDは下を向いたままです。
 頭頂部から(はかな)げに煙が漂い……。
 故障かもしれません。
 JDが。故障。

 じっと見詰めていると、時折、微かに、二の腕や太股をモジモジ擦り合わせます。
 あ、摩擦熱?

 私もまた一滴、血を溢してしまいました。
 (こら)えて。私。


 彼女が小さく、熱を持った吐息を洩らしました。
 ――堕ちた…………か?
 すりゃイカンですばい。

「妄想捗る中、(はなは)だ恐縮ではございますが……熱いモノを全部吐き出して、冷静になってください。勢いでノっちゃうのはよろしくないと思います」

 赤い顔のJDが、ぼんやり視線を寄越します。

【でも、約束……】
「元々、公序良俗に反する契約です。取り消しましょう」
【……】

 JDが目を潤ませつつ、数度、深呼吸を繰り返しました。

「貴女が衷心から欲しているなら(やぶさ)かではありませんが」
【欲してません! そんな、まだ早いもん……】

 ん? 成人……?

「では、常識的な範疇にハードルを下げていただいて――」
【「じゃあ、お●ぱい揉ませて」って言われたら!】

 食い気味。ふう。

【お●ぱい揉ませてって言われたらっ?!】
「落ち着いて&泣かな~いでぇえ~↗(by 舘ひ●し)。肉欲絡みは却下しましょうか」※2


 この人、ご自身が発しているモノを解ってらっしゃらないようですね。
 そこがこの問題のややこしさ(?)のようにも思うのですが。

 かの高校生。
 血を吐く思いで我慢しているのかしら。



 願わくは――

『じゃあ、合格したらボクと付き合って』

 彼女が一番欲している(may be)言葉を、彼が口にせんことを。
 順に進んだ方がこの人の為……のような気がいたします。


「顛末を是非、お教えください(後学の為に)。ゴッド・ブレス・ユー?」


 白桃のようなお顔……少しだけ熱も引いたようで。
 愛らしい紅い唇には、キリッと力が宿って見えます。


 お陰様でようやく、私の鼻血も止まりました。

 折角止まったところでナンですが。
 もし――近い将来、同じような状況で、爽太くんにこんなアレをねだられたら私も……。
 はい~喜んで! って言っちゃいそうな気もいたしますねぃ。
 順番的にも、まあまあ……。


 ……心配ご無用です、お母さま。
 爽太くんは、こんなこと口にいたしませんよ。


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※1 『八丁堀の七人』第7シリーズまで制作されたテレビ朝日系の時代劇。
 主人公の上司が、与力の青山様(村上弘明さん♥)。江戸弁が渋い。

※2 『泣かないで』(1984年)。同名曲が多いらしいですが、ここでは舘さんのお歌をイメージしております。