二. 逸話

小説を書き始めてから十年後。

当時13歳だった私は23歳になり、小説とは縁のない世界で働いていた。

私は今化粧品メーカーに勤めている。

「虹岡さん。今度のプレゼンなんだけど会議時間が少し長くなるみたいなの。
資料①のグラフの説明をもうちょっとくわしく書いてもらってもいいかしら?」

この方はいつも私が商品のプレゼンをする際にお世話になっている販売部の

間宮洋子(まみやようこ)さん。

「わかりました。今日か明日には終わらせられると思います。」

「虹岡さんは本当に頼りになるわ~。出来たら私の所に持ってきてちょうだい。」

「わかりました。」

私が返事をすると間宮さんは「よろしくね」と言い小走りで去っていった。

私も、もう入社5年目か、改めて時間が経つのは早いなと感じる。

入社1年目の時は大変だったなと、

私は資料を持ちながら入社1年目のことを思い出していた。


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私には3つ下の弟がいる。

私が高校生、弟が中学生の頃、両親が体調をよく崩すようになり生活が厳しくなった。

正直、父親の収入だけじゃ生活していくので精一杯。

学費も塾に通うためのお金も二人分出すことが出来なかった。

だから私は、家族を養っていくために、

弟に選択肢を持たせてあげるために、

高校卒業後社会人になった。



入社1年目の時は大変だった。

入社してから一カ月間は、研修期間で商品開発などにはまず関われない。

一カ月の研修期間を終えると自分の部署が発表され商品開発などに関わることが出来るのだ。

私にとって研修期間はかなり大変だった。

建物のどこにどの部署があるのか覚えるのにも時間がかかったし、資料などを届けるときは

早めに向かわないと間に合わなかったり

1人暮らしをしようと思い借りた家は意外と声が隣に響きやすく家でも気を使わないといけなく

疲れがたまる一方だった。

前から興味があった化粧品メーカーに入社したのはいいけど疲れがたまるだけであまり楽しいとは思えなかった。


淡々と仕事をこなしていたある日のこと。

部長が「あっ!そうだ、」と声を上げるとこう言った

『商品開発部だけ忙しくて新入社員の歓迎会が出来ていなかったから、やることにした。』

『『え?』』

当然最初はみんな困惑していた。

もちろん私も。

仕事が落ち着いてからも話が出てこなかったから、

やらないんだなって思ってたけど、、

『忙しくて出来なかったから「落ち着いたらやろう。」と思ってタイミングを見てたら

どうやら歓迎会が出来ていないのがうちの部署だけらしいから急ではあるけどやろうかなって。』

部長。やるのはいいんですけど、

むしろ歓迎なんですが今言うのはちょっと、、、

現在時刻【5:35】
定時【6:00】

もうすぐで仕事終わりの時間なんですけど~

しかも終わる直前に言われても行ける人少ないと思います。

『これから行ける人はいないよな?』

部長が聞くと部屋が

シーンと静まる。

『そりゃあそうだよな。直前に聞いてごめんな。』

『俺の机に紙を置いておくから参加希望者は名前といつがいいか希望を書いてくれ。
あとダメな日付も。』

部長はそういうと

『じゃあ、俺は今から新商品の説明用の資料を作ってくる。
書類などの作成が終わってない人以外は全員定時には仕事を終え帰るように。
あと、明日の朝礼は、プチ商品紹介があるからな担当の者は忘れないように。
ではまた明日。』

『『お疲れ様でした。』』

部長が部屋から出ていくと各自仕事を再開する。

部長が言っていたように、明日は朝礼での商品紹介がある。

明日の担当は私と入社2年目の先輩だったのだが、先輩が今日はお休みだったので明日の紹介は一人でやることになった。