星野芽羽(ほしのめう)。
私はよく、周りの女子から「穏やかでフワフワしてるね」と言われる。

穏やか?
フワフワ?

どういう意味なのか、初めて言われた時は分からなかった。

母に聞くと「褒め言葉だよ。要するに可愛いねって言われてるんだよ」と教えてもらい、
その時、初めていい気分になった。

そっか。あれは可愛いって言われてたんだ。

時間が過ぎるのと共に、一緒にいる友達も変わっていく。

中学生に進学して、新しい友達ができた私。
私含めて6人のグループができ上がった。

ある日、一人の友達――真子ちゃんが私に対して「声可愛いね」と言ってきたのだ。

初めて言われたことで、正直なんて返せばいいのか分からず「そんなことないよ」と言った。

私って、声可愛いの?
今まで、言われたことなかったから気付かなかった。

だけど――

「この前、真子ちゃんが悪口言ってたよ」
真子ちゃん以外のグループの子達が、そう教えてくれたのだ。

「真子ちゃん、芽羽ちゃんがいない時に、
‟絶対、芽羽ちゃんって声作ってるよね”ってうちらに言っきたんだよ」

信じられなかった。
衝撃的すぎて、心臓の音がバクバクして、過呼吸になりそうだった。

「あと‟自分のこと可愛いって思ってそう”とかも言ってたんだよ。
もう酷すぎて、うちら真子ちゃんと絡むのやめようと思ったもん」

なにそれ。
私、真子ちゃんにそんなこと言われてたの?
許せないよ。

その時から、私は人の言うことなんて信じられなくなった。

表では信じているけれど、やっぱり信じることが出来ない自分がいた。

前髪を切りすぎたある女子に対して、みんな口を揃えて「可愛い」「似合ってる」とか言っている光景を見て。
私はふと思ってしまった。

‟全然可愛くないし、似合ってないじゃん”と。

それが本心だった。

こんなこと思ってるの私だけ?
私が見る目ないの?

どうなの?
私って、性格悪いのかな?

怖かった。
自分がみんなと違うことを思っていること。

みんなが思ってもないことを言っていることに。

どっちなのかが分からなくなった。

私に対する「可愛い」って言葉も、信じられなくなった。

だから私は他人に対して「○○ちゃん可愛い」と思ってもないことを言えなくなった。

本当に可愛いなって思った人に対しては言えるけれど、
そうではない人に対しては無言で、みんなが口を揃えて褒める光景を見ることしかできなくなった。

「ねぇ、芽羽ちゃんも○○ちゃんのこと可愛いと思うよね?」なんて聞かれた時は、
コロナ渦でマスクの影響もあって、私は「マスク下見たことないから、可愛いか分からない」と言い訳していた。

素直に可愛いと言えないわけじゃない。
可愛いって思っていないから言わないわけで、
こんなこと言ったら、性格悪いと思われてしまうかもしれない。
だけど、そう思われてもいい。

女子は性格悪くないと、精神的に生きていけないのだから。