福は大急ぎで教室へ向いながら、幸が言っていた事を何度も自分に言い聞かす。
私は、福じゃなくて会田幸、幸は、真面目で遅刻なんてしない。

風のようにいなくなった幸を見て、蓮は、幸に何かが起きていると確信していた。

福は、恐る恐る教室へ入った。
夢にまで見た高校生活。
小さい頃はほとんど学校に行った事がなかった福は、嬉しさと不安で心がはち切れそうだ。


「幸~~、可愛い。
コンタクトにしたんだ」


「きゃ~、この髪形もいい感じじゃん」


福は、あっという間にたくさんの友達に囲まれた。
皆が、髪を触ったり腕を組んできたり、福のことを抱きしめてくれる友達もいた。


「絶対、こっちの方がいいよ」


そう言いながら近づいてきたのは、眼鏡をかけた真面目そうな男の子だった。
福は、幸にもきっと色々な人間関係があるのだろうと思い、とりあえず笑顔で応対した。

幸の在籍する2年B組は、ホームルームの時間を使って体育祭の話をしている。
9月19日の土曜日に、この学校の体育祭があるらしい。
福は嬉しくて飛び上がりそうだった。
すごくすごく憧れていた。思い切って走ることに。


「誰か、女子で100m走に出れる人はいませんか?」


女子全員が下を向く中で、福は高々と手を上げた。