どうしても腑に落ちない蓮は、電車のつり革にぶら下がりながら、蓮の真下にちょこんと座っている幸を見ていた。

れんれんというのは、俺が小さい頃、この双子姉妹に呼ばれていたあだ名。
でも、幸は、福が死んで以来、絶対に俺の事をれんれんって呼ぶことはなかった。

なのに、なんで急に?

蓮は考えても考えても、この突然やってきた謎に戸惑うばかりだ。


「れんれん、今日、うちのママがお弁当作ってくれたんだ。
れんれんも、お弁当持ってきた?」


蓮は、このちぐはぐな会話の展開についていけない。


「は? あ、うん、持って来たけど」


「じゃ、一緒に食べようよ。
今日は天気もいいし、ね?」


幸、一体、どうしちまったんだ?


「いや、確かに、今日は始業式だけで午前中で終わるけど、お前は部活はあるだろ? 
俺はその後バイトが入ってるし、そんな暇ないよ」


すると、幸は子猫のような目で蓮を見上げ、泣きそうな顔をしている。


「分かった、じゃ、一人で食べるからいいよ…」


「え? 友達と食べればいいじゃんか」


蓮は何だか幸が可哀想に思えてくる。
今日の幸は、蓮の心をかき乱す何かを持っている。


「分かったよ、じゃ、12時半に校門の前に待ち合わせな。
バイトが1時半からだから、猛ダッシュで食うぞ。
分かった?」