「君が婚約破棄したいと言い出したその時さ」
「えっ、そんな……」
そう君が婚約破棄と言った瞬間、僕は絶望した。
僕にとってそれほど君と離れることは筆舌に尽くしがたい感情だったのに、君はあまりにも明るく、嬉しそうに言うからいけないんだ。
「どう? 怖い? でもこれは君が招いたことだから責任をとってね?」
「――っ」
本来の姿を見せて、今さら拒絶されようと、怯えて逃げようとしても、もう遅い。
君が僕をこうさせたのだから。
レティシアはゴクリと喉を鳴らした。
「フレデリック様……」
「ん? どうしたの? 逃げ場なんて――」
「魔王様モードって形態は何段階あるんですか?」
「……いや、ちょっとまて」
「目からビームとか出るんですか?」
「なにその機能!?」
「じゃあ、四天王はいらっしゃるのですか!?」
「レティシア、落ち着いて」
最初に聞くことはそれなのか。魔王化に対してすんなり受け入れすぎじゃないのか。彼女を凝視するがいつもと変わらない――いや目を輝かせている。
「……レティシア、僕が怖くないのか? えっと、僕正真正銘化物なのだけれど」
「フレデリック様はフレデリック様でしょう? お話もできていますし」
「いや、まあ、そうだけど……怖くないの?」
「姿が多少変わってもこれはこれで格好いいですし! ゲームシナリオだとラストステージでしか見られませんでしたし貴重です! こっちはこっちでかっこいい!」
「多少……、ふ、ふふふ、あはははは。あーあー、もう、レティシアは」
「?」
僕が彼女を捕らえたのだと思っていたけれど、そうじゃなかった。
髪の毛の蛇たちもケラケラと心から笑った。ああ、こんなに笑う日が来るなんて思わなかったな。
最初から彼女の器を図り間違っていたのだ。
この僕が見誤るなんて。
「じゃあシナリオ展開だっけ? それにこだわっていたのも……」
「はい。ヒロインと出会うことでフレデリック様の闇落ちと魔王の暴走を阻止するのが目的でした。それに呪いも解けて外の世界に出ることがフレデリック様の幸せになるって思っていました」
「ああ。なるほどね。最初からそう言えばよかったのに」
「フレデリック様には幸せになってほしいと最初に言いましたよ?」
彼女の中では闇落ちイコール『魔王の暴走』と考えていたようだ。理性なく暴れ、討伐される可能性を摘み取りたかったのだろう。しかし闇落ちしようが、魔王になろうと僕が僕であるなら問題ないと言う。
僕はレティシアの器の大きさを思い知らされた。
「とにかく私はフレデリック様の幸せが一番ですので!」
「そう。じゃあレティシアがいたらそれでいい。……今度は受け入れてくれるんだよね」
念を押す僕にレティシアは「はい」と、はにかんでくれた。
「フレデリック様とずっと一緒に居られて嬉しいです!」
「僕もだよ」
僕たちにとってはハッピーエンドの終幕。
これ以上ない甘くて最高の展開といえるだろう。
***