「大丈夫です。フレデリック殿下はとても格好いいですし、いろんなお話も知っていて、頭もいいですから民衆を導くすばらしい王になります」
「別に王とか興味ない」
「沢山の人とお話できるようになるんですよ」
「可愛い婚約者のレティシアが居るだけで充分」
「いろんな所に行けます」
「レティシアとなら何処でも楽しいし、幸せだけど」
「ううっ……」
頭を悩ませている姿も可愛い。
僕のことを本当に考えてくれているのだろう。
「ねえ、レティシア。紅茶を入れてくれないかな?」
「あ、はい! 今日はさっぱりした紅茶にしようと思いまして、ハーブ系にしてみようと思います」
「楽しみだよ。あと『殿下』呼びはやめて」
「ええ!? ……ではフレデリック様」
「うん。呼び捨てでも良いよ」
「そんなことできません! はい、ご所望のお茶です」
「ありがとう」
君の淹れる紅茶が好きだ。
日によって、いや僕の気分に合わせて紅茶の種類を変える気遣いがいい。
僕の紅の魔眼を見つめ返し「本当に綺麗」と微笑む君が好きだ。
婚約者になって一年が経った頃、彼女は塔の一つ下の部屋に住み込みで外部とのやりとりやら僕の欲しいものなどを手配してくれる。
侍女みたいなことまで自分で進んでやってくれると言い出したのだ。他の侍女たちは嫌がってやらないのに、まあ呪われた僕と目が合ったら石化してしまうから仕方が無いか。
怖がっても仕方ないのに、彼女はどうして微笑んでくれるのだろう。
僕の両親以外、僕に微笑んでくれる人はいないと思っていたのに。
「ところで、どうして修道院に入りたいんだい?」
「フレデリック様以外に好きになる殿方はいないでしょうから、修道院に入って暮らそうと思うのです! シナリオ展開では断罪後は修道院に送られてもいましたし!」
「僕が好きならずっと僕の傍にいればいいのに」
「何を言うのですか、フレデリック様はエレーヌ様を好きになるのですから私は邪魔になると思います。ずっと一緒には居られないのです」
それを決めるのは僕で、僕はレティシアしか選ばないのだけれど、そう何度言っても信じてくれない。埒が明かないので別の手を打つことにした。
「ねえ、レティシア。その修道院の名前はわかるかい?」
「もちろんです! クロムシアン修道院といってステンド・グラスがとても綺麗な所です。すでに何度か足を運んで生活環境も確認済みですわ」
無駄に行動力がある。そしてとってもポジティブなのだけれど、方向性がずれている。そんなところも可愛らしい。
可愛くて愛おしい僕の婚約者。
だからね、逃げ場なんて迂闊に口にしたらいけないんだよ。