「なんで……っ、俺は社長だぞ! おかしいだろう! 入れないって!」
ビルの前には何十人もの警備員が立っている。もしかしなくとも、彼らは紫藤家が手配した人たちだろう。
「なにを騒いでる?」
隼人が後ろから声をかけると、基紀と希美が驚いたように振り返った。そして隼人の隣にいる千花に驚いた顔を見せる。
「千花……なんでお前がここに」
基紀は動揺したように目を泳がせる。
希美からマンションの件を聞いたのかもしれない。近づいてみると、なぜか彼らの格好はどちらもみすぼらしかった。
着ている服は汚れきっていて、何日もヒゲを剃っていない様子だ。
希美にしても髪には艶がなく、化粧が崩れてところどころがくすんでいる。そして二人とも黒い靄のようなオーラに覆われている。
「ここでなにを騒いでいるのかと聞いている。ここは俺の会社だが」
普段の優しげな話し方とまるで違う、隼人の冷たい声色に驚いた。感情の浮かばない表情は怖いほどだ。こんな顔を千花に見せたことは一度もない。
「俺の会社って! ここは俺の会社だ! てめぇこそなにを言ってる!」
「紫藤グループが吸収すると通達したはずだが。従業員を一新するため今は臨時休業だ」
隼人が言うと、基紀の隣にいた希美が顔色を変えた。目を輝かせて「紫藤グループ?」と呟く。うっとりした目で隼人を見る希美を見ていると、本当に基紀の番なのかと疑問を感じる。基紀もまた久しぶりに会う千花を見て、頬を赤く染めていた。
「俺が持っていたマンションも不動産も、どうしてだか名義が書き換えられていた! お前の仕業か!」
基紀は自分名義のマンションをいくつか持っていたはずだ。会社も。
マジマジと隣を見ると、だからなんだと言わんばかりの態度で隼人が頷いた。
「当たり前だろう。俺の番を傷つけて、職だけではなく住むところまで奪い、この程度の報復に留めてやったんだ。感謝してほしいくらいだね」
「番なんて……そんなもんいるわけないだろ……っ!」
基紀の言葉に唖然とする。彼は今「そんなもんいるわけない」と言った。
ならば、希美との関係はいったいなんなのか。希美という番と出会ってしまったから、千花と離婚したのではなかったのか。
「信じるも信じないも勝手だが。俺の大切な人を傷つけたことに変わりはない。お前たちは何年も前から関係を持っていたな。その女が妊娠したことをきっかけに、千花に浮気がバレるのを恐れて、咄嗟に番といううそをついたんだろう」
基紀が肩をぎくりと強張らせる。
「そうなの?」
「それは……」
千花が聞くと、ようやく番だとうそをついたことを思い出したのか、基紀がばつが悪そうに下を向いた。
ビルの前には何十人もの警備員が立っている。もしかしなくとも、彼らは紫藤家が手配した人たちだろう。
「なにを騒いでる?」
隼人が後ろから声をかけると、基紀と希美が驚いたように振り返った。そして隼人の隣にいる千花に驚いた顔を見せる。
「千花……なんでお前がここに」
基紀は動揺したように目を泳がせる。
希美からマンションの件を聞いたのかもしれない。近づいてみると、なぜか彼らの格好はどちらもみすぼらしかった。
着ている服は汚れきっていて、何日もヒゲを剃っていない様子だ。
希美にしても髪には艶がなく、化粧が崩れてところどころがくすんでいる。そして二人とも黒い靄のようなオーラに覆われている。
「ここでなにを騒いでいるのかと聞いている。ここは俺の会社だが」
普段の優しげな話し方とまるで違う、隼人の冷たい声色に驚いた。感情の浮かばない表情は怖いほどだ。こんな顔を千花に見せたことは一度もない。
「俺の会社って! ここは俺の会社だ! てめぇこそなにを言ってる!」
「紫藤グループが吸収すると通達したはずだが。従業員を一新するため今は臨時休業だ」
隼人が言うと、基紀の隣にいた希美が顔色を変えた。目を輝かせて「紫藤グループ?」と呟く。うっとりした目で隼人を見る希美を見ていると、本当に基紀の番なのかと疑問を感じる。基紀もまた久しぶりに会う千花を見て、頬を赤く染めていた。
「俺が持っていたマンションも不動産も、どうしてだか名義が書き換えられていた! お前の仕業か!」
基紀は自分名義のマンションをいくつか持っていたはずだ。会社も。
マジマジと隣を見ると、だからなんだと言わんばかりの態度で隼人が頷いた。
「当たり前だろう。俺の番を傷つけて、職だけではなく住むところまで奪い、この程度の報復に留めてやったんだ。感謝してほしいくらいだね」
「番なんて……そんなもんいるわけないだろ……っ!」
基紀の言葉に唖然とする。彼は今「そんなもんいるわけない」と言った。
ならば、希美との関係はいったいなんなのか。希美という番と出会ってしまったから、千花と離婚したのではなかったのか。
「信じるも信じないも勝手だが。俺の大切な人を傷つけたことに変わりはない。お前たちは何年も前から関係を持っていたな。その女が妊娠したことをきっかけに、千花に浮気がバレるのを恐れて、咄嗟に番といううそをついたんだろう」
基紀が肩をぎくりと強張らせる。
「そうなの?」
「それは……」
千花が聞くと、ようやく番だとうそをついたことを思い出したのか、基紀がばつが悪そうに下を向いた。