第五章 決着とプロポーズ

 千花は迎えに来た隼人の車に乗り、紫藤家に足を踏み入れた。
 またここに来ることになるとは思ってもいなかった。あのときは隼人と結婚するなんて考えもしなかったのに。

「急に来てごめんなさい」
「千花ならいつでも大歓迎だよ。でもどうしたの? なにかあった?」

 応接室の一つで隼人と向かい合い、千花は切りだした。事情を説明し、自分の望みを伝える。

「元夫に復讐したいの。そのためにあなたを利用する。それでもよければ、私と結婚して」
「君の元夫とその番、本当に低俗な人間だね。もちろん君にならどれだけ利用されてもいい。復讐にも手を貸してあげるよ。今日からはここに住んで。仕事には行かなくていい」
「……ありがとう」

 隼人はにっこりと笑ってそう言った。
 予想通りの言葉にほっとしつつ、千花は礼を言った。彼の深い赤の中に黒が混じる。それだけで彼が基紀たちに怒っているのだとわかって嬉しかった。

「とりあえず、千花の服を揃えないとね。明日までには用意するから、ほかに必要なものがあったら言って」
「え、ううん、そこまでしてもらえないわ。住むところが決まっただけで十分。あとは自分でなんとかするから」

 そうは言っても、復讐したいと意気込んでいるだけで、しばらくは自分の暮らしで精一杯な気もする。
 給与も振り込まれていない以上、あの店に自分の居場所はないとみていい。働く場所を探して、必要なものを揃えなければ。

「大丈夫だよ、千花。もう少し肩の力を抜こう」

 隼人はそう言うと、千花の肩を引き寄せた。
 不意に抱き締められて、胸がぐっと詰まる。
 怒りのせいで頭が真っ赤になり、全身が強張っていたのだろう。背中をぽんぽんと叩かれると、目の前がぼやけて唇が震える。

「……っ」

 基紀や希美に泣かされるなんて、負けたみたいで絶対にいやだった。けれど、隼人に泣かされるならいいかもしれないと思ってしまう。

「紫藤さん……ごめんね、今だけ肩貸して」
「今だけと言わず、ずっと貸すよ。千花が泣くのは、俺の腕の中だけにしてくれる?」

 腕を背中に回すと、思っていたよりもずっと逞しくごつごつしている。苦しいくらいにぎゅうぎゅうと抱き締められて、苦しいと言えば、腕の力は緩むのに離してはもらえない。