千花が頷くと、隼人は言葉を続けた。

「海神の血に刻まれているのか、番と出会うと本能でわかる。この人だと魂が訴えている。そこに間違いはない。でも、相手はそうじゃない。君も、俺が番だとはわからなかったよね?」
「えぇ……悪いんだけど、あなたを見ても、なにも思わないわ。番ならわかるんじゃないの?」

 正直に言うと、隼人は苦笑をした。

「今、運命の番と出会える人間はほとんどいない。それはね、人々が海神の願いを叶えず番以外と繁殖してきた結果なんだ。海神の血がどんどん薄くなり、ほとんどの人が番を番と認識できなくなっている」

 そうなのか。しかし、基紀と希美は互いを運命の相手だと認識している。互いを運命の相手だとわかる人間も一部に残っているのだろうか。

「紫藤家は番を探すために、国が無視できないほどの権力を持ち、繁栄してきた。番の特殊な能力のおかげでもあるけどね。当主は必ず番を娶る、というより、番を娶った紫藤家の当主候補が当主になるんだ」

 たしかに「運がいい」なんて奇想天外な能力が番にあるのなら、いくらでも会社を大きくし経済界に幅を利かせることも難しくないだろう。

「あなたも当主候補ってこと?」
「そうだよ。君という番を見つけたからね。君が俺と婚姻を結んでくれるなら当主となる」

 そう言われても、千花は彼と結婚するつもりは毛頭ない。諦めてくださいと言うしかないのだが。

「そういえば、君の力はどんなもの?」
「私は……色が見えるだけ。運がいいとかたいそうな力じゃないわ」
「色?」

 今まで、誰かの感情が見えるなんておかしな話を真剣にしたことはない。バカにされるか頭がおかしいと言われるかだったから。
 それなのに隼人は茶化すこともせずに、真剣な目をして続きを促してきた。千花が不思議な力を持っていることを疑ってもいないのだ。

「人の感情の……色が見えるの」
「へぇ~それはすごい。ちなみに今の俺は何色をしてる?」
「あなたは……会ってからずっと、赤いわよ」

 あまりに恥ずかしくて目を逸らしながら言うと、赤の意味がわからない彼は首を傾げた。だが、自分の感情だ。すぐに察したのか、嬉しそうに口元を緩める。

「あぁ、赤は愛情とか喜び……かな。今日、千花に会えてから嬉しくて、ずっと触れたいと思ってたから」
「触れたいって……おかしなことを言うのはやめて!」
「それがうそじゃないって、君ならわかるんだろう?」

 わかってしまうからいやなのだ。だって、今も隼人は赤色を纏っている。
 彼の色は会ってからずっと色の濃さを増している。幼い頃から色で他人の感情を判断してきた千花は、彼の赤色が濃くなるたびに、好きだと言われているような気持ちになってしまう。