「ごめん、千花が警戒するのも当然だね」
「……ありがとうございます」

 申し訳ないような気持ちで千花も箸をつけた。ここまでしてもらって食べないという選択肢はなかった。

「君の力について、聞いてもいいかな?」

 腹が満たされてきたところで、隼人が切りだした。

「知ってるんじゃないんですか?」
「力があることは知ってる。でもそれがどんな力かは知らないよ。ただね、紫藤家の男が番を見つけると、例外なくその相手は不思議な力を持っているんだ。俺の母もそう。だから俺には、君が何らかの力を持っているとわかった」
「紫藤さんのお母さんも?」
「あぁ。母の場合は〝運がいい〟んだ」
「え、運?」
「そう。そう聞くと大したことがないと思うよね……」

 運がいいなんて、ただの偶然なのでは。千花がそう思っていると、その気持ちを見透かしたように隼人が「たとえば」と切りだした。

「母がギャンブルをすると、百パーセントの確率で勝つ。昔、母が独身だった頃、片っ端から宝くじを買って試してわかったそうだよ」
「まさか、全部当たった……なんて」

 千花がぎょっとして聞くと、隼人が頷いた。

「母という番を見つけた父が、紫藤の当主の跡を継いだ。紫藤家は国内で唯一、海神の直系の血を引いている。だから代々、番と出会った者が跡を継ぐ。それが海神の願いだし、この国のためでもある」
「海神の……この国のためって?」

 海神とか番とか、もう訳がわからない。千花はすでに思考を放棄していた。考えたところで、男の言葉を百パーセント信じるのは無理である。

「海神は海の神だ。天候を操り、荒れた海を収め、地震の多いこの国を津波の被害から守っていた。かの神がいなくなってから、それは紫藤家の役目になったんだ」
「いや……そんなこと、できるはず……まさか、できるんですか?」

 千花が言うと、隼人が困ったように眉を下げて頷いた。そんな壮大な話を理解できるはずがない。荒れた海を収めるなど神の御業ではないか。

「大きな力を手にする分、その制御は簡単じゃない。紫藤に生まれた男は例外なく感情を抑える訓練をしているが、それでも力を持つと気が昂ってしまう。気が荒れれば海も荒れる。俺は紫藤の中でも特に力が強くて、幼い頃は泣いただけで雷雨を起こして大変だったと聞く」
「でも、どうして番が必要なの?」
「番に子を産んでもらうのが当主の役目だから。番が見つからなければ、当主となり得ないんだ。海神は番以外の女性を伴侶とするのは許さないんだよ」

 この人はべつに千花を好きなわけではない。彼の話を信じるなら、当主になるために必要だから千花を求めているだけではないか。
 番だなんだと言っていても、愛があるわけではないのだ。基紀は言っていた。息を吸うように番を求めてしまうと。隼人からはそんな焦燥をちっとも感じない。

「神の愛する人が生まれたこの国を、海の底に沈めるわけにはいかないからね」
「そう……それで、私の力については? どうしてわかったの?」
「あぁ、紫藤家の男の番は、例外なく不思議な力を持っていると言っただろう?」