(まさか本当に番だ……なんて言わないわよね……)
ここ最近、番の話を身近に聞いているからか、彼の話を信じそうになってしまっていけない。〝運命の番〟なんて、出会えるものじゃないのに。
運命の番なんて相手に出会うよりも、交通事故で死ぬ確率の方がはるかに高い。
よくあるオカルト番組でやっていた運命の番特集によると、番に出会えるのは、宝くじで数億円が三回連続で当たるくらいの確率らしい。
「では、君の名前だけでも教えてもらえないか?」
彼が纏う色が青くなる。そこまで悲しげな顔をされると、自分が虐めているような気になるではないか。千花は渋々、本当に渋々口を開いた。
これは仕事の一環だと自分に言い聞かせて。
「有川……と申します」
「名前は?」
「……ちか、です。千の花と書いて、千花」
「可愛らしい君にぴったりのいい名前だね。ところで」
隼人が居住まいを正し、真剣な顔をした。
釣られるように千花も気を引き締める。
「はい」
「君は、なにか不思議な力を持っていたりしないか?」
「え……っ!?」
「やっぱり」
千花が肩をぎくりと強張らせると、彼が安心したように笑った。親にしか話したことがないのに、どうしてそれを知っているのだろう。
千花は自分のこの力が普通ではないと知っている。子どもの頃に散々、不気味だと言われ続けたのだ。親からも教師からも友人からも。
だから、基紀にさえ話さなかった。家族になった基紀にまで拒絶され、幸せな生活が壊れてしまうのが怖かったから。
「不思議な力ってなんですか……私はそんなの……っ」
「あぁ……隠したい気持ちはわかる。なにも知らなければ気味悪がられてもおかしくはないからね」
彼は穏やかな顔をして、まるで千花の幼い頃を見てきたかのように言った。
「あなたは……なにか知っていると言うの?」
「あぁ。その説明もしてあげる。だから、君の時間をもらっても?」
「……わかりました」
隼人を信じたわけじゃない。自分が番だなんて話も。
けれど、生まれたときから持っているこの力がなんなのか、彼は知っていると言う。家族からも気味悪がられ、友人からも距離を置かれていた日々は思い出したくもない。
ようやく得た伴侶は運命の番を見つけたと言って千花を捨てた。もう恋愛なんてこりごりだ。誰かを信じることも、期待することも、愛することもしたくない。
隼人から話は聞くが、それだけだ。千花は彼の手を取るつもりは毛頭ない。
仕事を終えた千花は、店の外に出て驚いた。
(なにその車!)
隼人は一台の黒い車の横に立っていた。外国産の高級車である。千花が来ると、花が開くような笑みを浮かべて、後部座席のドアを開けてくれる。
隼人も後部座席に乗り込むと、彼は短く「邸に」とだけ言った。運転手は「かしこまりました」と告げ、エンジンをかける。
ここ最近、番の話を身近に聞いているからか、彼の話を信じそうになってしまっていけない。〝運命の番〟なんて、出会えるものじゃないのに。
運命の番なんて相手に出会うよりも、交通事故で死ぬ確率の方がはるかに高い。
よくあるオカルト番組でやっていた運命の番特集によると、番に出会えるのは、宝くじで数億円が三回連続で当たるくらいの確率らしい。
「では、君の名前だけでも教えてもらえないか?」
彼が纏う色が青くなる。そこまで悲しげな顔をされると、自分が虐めているような気になるではないか。千花は渋々、本当に渋々口を開いた。
これは仕事の一環だと自分に言い聞かせて。
「有川……と申します」
「名前は?」
「……ちか、です。千の花と書いて、千花」
「可愛らしい君にぴったりのいい名前だね。ところで」
隼人が居住まいを正し、真剣な顔をした。
釣られるように千花も気を引き締める。
「はい」
「君は、なにか不思議な力を持っていたりしないか?」
「え……っ!?」
「やっぱり」
千花が肩をぎくりと強張らせると、彼が安心したように笑った。親にしか話したことがないのに、どうしてそれを知っているのだろう。
千花は自分のこの力が普通ではないと知っている。子どもの頃に散々、不気味だと言われ続けたのだ。親からも教師からも友人からも。
だから、基紀にさえ話さなかった。家族になった基紀にまで拒絶され、幸せな生活が壊れてしまうのが怖かったから。
「不思議な力ってなんですか……私はそんなの……っ」
「あぁ……隠したい気持ちはわかる。なにも知らなければ気味悪がられてもおかしくはないからね」
彼は穏やかな顔をして、まるで千花の幼い頃を見てきたかのように言った。
「あなたは……なにか知っていると言うの?」
「あぁ。その説明もしてあげる。だから、君の時間をもらっても?」
「……わかりました」
隼人を信じたわけじゃない。自分が番だなんて話も。
けれど、生まれたときから持っているこの力がなんなのか、彼は知っていると言う。家族からも気味悪がられ、友人からも距離を置かれていた日々は思い出したくもない。
ようやく得た伴侶は運命の番を見つけたと言って千花を捨てた。もう恋愛なんてこりごりだ。誰かを信じることも、期待することも、愛することもしたくない。
隼人から話は聞くが、それだけだ。千花は彼の手を取るつもりは毛頭ない。
仕事を終えた千花は、店の外に出て驚いた。
(なにその車!)
隼人は一台の黒い車の横に立っていた。外国産の高級車である。千花が来ると、花が開くような笑みを浮かべて、後部座席のドアを開けてくれる。
隼人も後部座席に乗り込むと、彼は短く「邸に」とだけ言った。運転手は「かしこまりました」と告げ、エンジンをかける。