「そうですか……あの、施術の話をしても?」
「君が担当してくれるの?」
「えぇ……その予定ですが」

 本当はいやだが、手が空いているのが千花しかいないのだ。

「そうか、すぐに受けられるのかな?」
「えっと……ご契約、ということでしょうか?」

 まだなんの説明もしていないのに、即決とは。

「もちろんだ。一番君に会えるようなコースで頼む」
「では、ヘッドスパの百分のコースはいかがでしょう。こちらは……」
「それでいい」

 頼むから、説明をさせてほしい。
 千花は男を無視して説明を続けた。

「一回二万円で初回は一万六千円とお安くなっております。リフトアップとデコルテマッサージと一緒に施術するコースも……」
「それでいい。毎日、君の空いている時間に予約を入れてほしい」
「毎日ですか!?」
「あぁ」
「あの……弊社は通い放題のコースがありませんので、毎日となりますと、月に五十万円ほどかかりますが……」
「たった五十万で君といる時間を作れるのか。それで一日何時間君といられる?」
「施術は一回、百分となっております」
「百分……短いな。今日、このあと君の時間を買うには、いくら払えばいい?」
「はい?」

 新手の結婚詐欺だと思っていたのだが、金払いのいい客だった。だが、感覚がおかしい。千花に会うためにいくら払えばいいなどと。
 もし法外な金額をふっかけたらどうするのだろう。千花のトラウマを刺激した相手とプライベートの付き合いをするつもりは毛頭ないが。

「申し訳ございませんが、そういったお誘いは困ります」

 千花が断ると、隼人は目に見えて落ち込んだ顔をする。彼の後ろから尻尾が見えるかのようだ。千花がなにか言うたびに、激しく揺れたり垂れ下がったり。
 それに、時折、薄い青色が混じることがあるものの、隼人のオーラは一貫して赤色をしている。
 今までの経験上、赤が濃ければ濃いほどそのときに誰かを愛情深く想っているということだ。ちなみに基紀のオーラが赤になるときは、夜が多かった。つまり、そういうときだ。