私の夢は、日常に溶けてなくなった。

 忙殺される日々の中、雪が温かくなるにつれ消えるよう、いつ消えたのか自分でもわからないほどに、ゆっくりと日常に浸食されていった。
 気付いたときにはもう手遅れで、いつの間にか夢を見て輝いていたころには戻れなくなっていた。

 瞼の裏側に広がる世界では、私はどこにでも行けたし、空を飛ぶことだってできたし、何にでもなれたのに。
 そんな馬鹿げた夢物語を想像することですら、今の私にはもう難しくなっていた。

 最初に見た夢は本当に些細な、小さな小さな夢だった。

 たとえば、料理を作ったら「おいしい」って言ってほしいとか、テストで満点を取ったら「すごいね」って褒めてほしいとか。

 あるいは、ほかの子みたいに髪を染めたり、ネイルをしたり、放課後遊んだりしてみたい。

 ……あとは、そう。恋、とか。

 そんな小さな、小さな夢。

 だけど私には到底手の届かない、大きな大きな夢だった。

 そんな儚く淡い夢は、とうの昔に散ってしまったけれど。

 願いは叶わないと知ってしまったから、いつの日からか私は全部諦めた。

 期待するから傷付くのだと、自分の心に言い聞かせて。
 言いたかった言葉のひとつも口に出せないまま、心の隅に追いやった。

 そうやってずっと毎日何かを諦めて、心をすり減らしながら生きていくんだって思ってた。

 ——だけど、自分自身ですら大事にできない言葉を、自分を、誰が大事にしてくれるというのだろう。

 口に出さなきゃ伝わらないことなんてたくさんある。
 一度じゃなく何度でも向かって行っていいのだと、そう気付かせてくれたのはたったひとり、君だった。