あれからハクリュウとシエルは、あかね村を旅立った。

 そして数日が経ち……現在、ハクリュウとシエルは道を歩いている。

 周囲には草原が広がっていた。そして、赤、青、黄、ピンク、色々な花々が咲いている。そんな花々の周辺を、綺麗な蝶が飛んでいた。

 ハクリュウは、前髪を触る。

 (そういえば……この世界に来た時は、もっと髪が短かったよなぁ。今じゃ、かなり伸び放題だ)

 そう思いながら歩いていると、ふとあることに気づいた。

 「シエル、旅をしていて思ったんだけど。この世界って思っていたよりも平和だよな……これってどういう事なんだ?」

 「平和では、いけないのですか?」

 シエルが驚いたように問いかける。

 「あっ! そ、それはそれでいいんだ」

 一呼吸おき再び口を開いた。

 「ただ魔獣も、それほど強い訳じゃない。こんなに平和なのに、なんで俺が召喚されたんだろうって」

 少し歩いてからシエルは、戸惑った表情でハクリュウの方に視線を向ける。

 「申し訳ありません。今は、何も言えないのです。そのことについては領主様に直接、聞いて下さいませ」

 そう言われハクリュウは、余計に困惑した。

 (ん〜……なんか訳が分からない)

 ハクリュウは、そう思いながら歩いている。

 (アニメとかなら、異世界に召喚されたヤツは必ずその世界を救う的存在。
 それにその世界が滅亡寸前だったり、なんらかのトラブルを抱えている……みたいな感じなんだけど)

 なぜなのかと思考を巡らせていた。

 (どうみても、この世界は平和だと思う。でも召喚されたんだから、トラブル的なことなのか?
 あ〜、考えれば考えるほど分からない。はぁ、考えても俺の頭がパンクするだけだしな)

 ハクリュウはシエルに視線を向ける。

 (ここはシエルの言う通り、領主に合って事情を聞くしかないかぁ)

 そう自問自答しながらハクリュウは歩いていた。

 するとその視線をシエルは感じとり、チラッとハクリュウの顔をみる。その後、また歩き出した。

 (まだ、着かないのか? 流石にしんどい……)

 そう思いながらハクリュウは歩いている。すると、いつの間にか森の中にいた。

 相変わらず殆ど喋らないクールな表情でシエルは、ハクリュウの一歩を前にいる。そして、警戒しながら歩いていた。

 「キャァァー!!」

 森の奥から女の悲鳴が聞こえてくる。

 「おいっ!? こら待ちやがれ〜!」

 そう言いながらヒュウーマンの男性が、その声の主を追って森から出てきた。

 「だっ、誰か助けて〜!」

 そう言いながら女が、ハクリュウとシエルの前に現れる。

 そしてその女は、ハクリュウとシエルをみた。

 「あっ!! お願いです。スケベじじいに、もう少しで拐われそうになり慌てて逃げてきました。た、助けて下さい」

 するとその追手の男が、ハクリュウとシエルの前に現れる。すると、その女をみるなり怒鳴り付けた。

 「このアマァァー!? 逃げるなー待ちやがれっ!!」

 その男は怒鳴りながら、その女を追いかけようとする。

 それをみたハクリュウは、男の眼前で剣を抜き突き立てた。

 男は慌てて剣を避けたが、近くにあった岩に体当たりしてしまい動けなくなる。

 ハクリュウは動けないところを、すかさず持っていた縄でその男を縛りあげた。

 だが、なぜか男は泣きそうになっている。

 「これじゃ逃げられてしまう。あ〜、どうしたらいいんだ〜」

 その様子をみてハクリュウは、あの女の言っていたことと明らかに違っていておかしいと思った。

 そして、辺りをくるりと見渡してみる。すると、あの女は既にいなくなっていた。

 「あれ? シエル。さっきの女は?」

 「あの方なら、もう既に逃げていかれましたが」

 男は俯き溜息をついている。

 「はぁ……あの女はなぁ、俺の全財産を盗んでいきやがったんだよ!!」

 そう言い男は、ハクリュウを睨み付けた。

 (これって、俺がその女逃したってことは……)