「ところで、ラッピングされているのは、どのような趣向があるのですか?」
「え、あ。これは──」
「もしかしてオリビアが贈り物とか!?」
歓喜する尻尾を見た瞬間「違います」と反射的に口に出てしまった。それでも「この姿もかわいい」とセドリック様に抱き付かれたのはいつものことだ。
その後、セドリック様が執務に戻った(アドラ様に引きずられていった、が正しいけれど)ので、待たせていた料理長のジャクソンさんと話を詰めることにした。
ジャクソンさんは狼人族で、外見は三十代後半だが年齢は百二十歳らしい。頬に傷がある強面な上、長身なので威圧的に感じる人も少なくないとか。
鬼の料理長とも呼ばれているのだが、私には優しく接してくれる。
「セドリック殿下は木苺が好まれているので、見栄えとしてスモモ、キウイを砂糖漬けにしてフルーツを使いましょう」
「タングルという砂糖漬けね。宝石みたいで綺麗になりそうね」
「はい。……きっと殿下も喜ばれるでしょう」
「ふふっ、そうね。そうなるように当日は頑張らないと」
ジャクソンさんは眉間に深い皺を寄せることが多いらしいが、私と話す時はいつも穏やかだ。どこか懐かしむような、そんな顔をするのは少し不思議だけれど。
「貴女様とまた一緒に厨房に立てる日が来るとは……長生きをするものです」
「え?」
「いえ。何でもありません。ささ、作る時間ですが──」
当日の料理とケーキの話を終えて、次に向かったのは城の皿やカップなどの陶器などを作るドワーフ族たちの工房だ。サーシャさんが根回しをしていてくれたおかげでこれから焼き上げるカップをいくつか見繕ってくれた。
「おお、オリビア様。こんな場所によく来てくださった!」
「オリビア様。おーいオリビア様が来てくれたぞ!」
「おお!」
彼らも私に対して好意的に接してくれる。ただ不思議なのはジャクソンさんと同じように微笑ましいというか生暖かい視線を受け、歓迎されることだ。
たまに「やはり腕は鈍っていないようで」とか「素晴らしい器用さだ」と称賛してくれる。もしかしたら記憶を失う前にどこかで会っている──のだろうか。
けれど誰もそこに対して言及することも、名乗り出ることもなかった。ただ今の私を受け入れて優しく接してくれている。
(なんだか昔の自分の言動が巡り巡って今の私に戻ってきているみたい)
記憶がないことを寂しいと思わない。ただ記憶を失う前の私は搾取されていたかもしれないが、それだけではなかったことが嬉しかった。
「城の人たちはみんな優しいのですね」
「それはオリビア様の人徳です!」
「その通りかと思います」
サーシャさんとヘレンさんは自分のことのように喜んでくれた。いつも助けてくれる二人に、髪留めを送った。ヘレンには銀で作った羽根模様、サーシャさんは大人っぽい金の薔薇と真珠が付いているものにした。
二人とも飛び上がるほど喜んでくれたようで、贈る相手は喜んでもらえるほうが嬉しい。
そんなこんなで準備も一段落したところで夕食になった。
夕食になるとセドリック様が部屋に来るのだが、執務室で仕事が残っているらしく私が迎えに行くことになった。
廊下の途中でローレンス様を見つける。温室の薬草の世話をした帰りなのだろう。歩み寄ろうとしたら、何もないのに躓いてしまった。とっさにローレンス様に支えてもらったので、転ばずに済んだ。