(きっと何かの間違い……。ちゃんと調べて貰えれば……)
「その魔導ギルドだが問い合わせたところ、そんな依頼は来ていないと言っていたぞ」
「え」

 毎月、叔父夫婦に研究費を渡していたはず。そもそも魔導ギルド職員に屋敷まで足を運んでもらい、依頼内容もしっかり目を通し、署名捺印まである。だがそれすらもクリストファ殿下は否定した。

(まさか……。今までの叔父夫婦が豪遊に使ったのは、私が渡した研究費!?)

 周囲を見渡すと叔父夫婦の姿が見えない。叔父は仕事だったとしても、夜会やパーティー、買い物以外は屋敷に居る叔母が居ないのはおかしい。

「そもそも百年以上前に滅んだ国を今更復興したいなど、何を考えているのだ」
「なっ──」

 先ほどの言葉よりも衝撃的で、脳天を殴られたようだった。私にとって三年しか時が経っていないというのに、殿下との話が嚙み合わない。今更ながらに疑問があふれ出る。

(三年だと思っていたのは私の記憶違い? でも隣国の街並みや雰囲気がだいぶ違うと感じたのは、隣国だから──ではなく時代の違い?)

 お茶会や社交界での会話に時々違和感があった。服装もより派手で洗練されたデザインになっており、建造物も隣国とは違い発展していると衝撃を受けた。

 なにより私を屋敷に閉じ込めるように毎月山のような発注書が届く。そのせいで他に頭を回している余裕もなかった。錬金術や付与魔法は我が国では珍しくはなかったけれど、滅亡して百年が経っているなら失われた技術になるのでは?
 竦まれて、何も知らない私を利用して、搾取し続けていた──?

「さあ、我が国の生贄、いや()()として指定の場所へ案内しよう」
「クリストファ殿下、待ってください!」

 ここで諦めたら誰が祖国の呪いを解くというのだ。そう反論しようとしても、有無を言わさず私は保護というか拘束された。

 逃亡を恐れてか甲冑に身を包んだ騎士に囲まれて、両手を縛り上げられる。これではまるで罪人、いや生贄じゃないか。どこが聖女だというのか。この国の聖女が人身御供となる存在を指すのであれば、間違いではないが。

「そもそもフィデス王国の復興を掲げていたのはクリフォード子爵の発案とお前は言うが、社交界で子爵がそのような発言や行動を一切見ていない」
「なっ……」
「お前を働かせる口実があれば何でも良かったのだろう。亡国の復興など誰も望んでいない」
(そんな……。私の三年間の全ては一体なんだったというの)
「きゅう!」
「フラン!?」

 私の部屋から飛び出してきたのは、緋色のオコジョのフランだ。三年前に私と一緒にエルジア王国に入国した大切な友人。

 最初の頃は病弱だったのが看病の末、今では元気いっぱいに屋敷内を飛び回るようになった。伯父の話では、フランはかなり上位精霊で人にも見えるらしい。フランは私の肩に乗り、枢機卿とクリストファ殿下に向けて毛を逆立てて威嚇する。
「フーッ!!」と、クリストファ殿下に敵意を向け襲い掛かる。

「ひっ!」
「殿下、お下がりください!」

 枢機卿が手を翳し魔法障壁を展開。
 突如フランの目の前に白い魔法障壁が生じ、フランの体は弾かれてしまう。

「きゅん!」
「フラン!」

 フランが床に叩きつけられそうになるのを抱きとめようと駆け出したが、騎士たちに体を抑え込まれてしまい床に倒れ込む。「大人しくしろ」と、怒号が飛ぶ。

「――っ!」