「いや~皆お疲れ様、とっても演技良かったよ!」
「先生ありがとう」
暖かい家族に見て貰い幸せ者の引き立て役、私はこの輪の中に入る事は出来ない。どの面下げて入れば良いのかも、解らない。
「いいな幸せそうで、私は主役なのに。台無しにしちゃったな」
合同開催の発表会、自分の子供を楽しみに待つ暖かい家族からしたらヒロインどころか引き立て役ですら無い私なんて「邪魔モノだ」。
「じゃあこれで解散しま~す。皆さんお疲れ様でした!」
「お疲れ様でした~!」
演技を終え魔法が解けた私は、一人寂しく冷たいコーラを飲む。
「ねぇねぇ、お父さん!発表会見てくれた?」
「ちゃんと見てたよ、よく踊れてて偉いね」
名前も知らない引き立て役がぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。幸せそうな笑顔が、憎い。
「えへへ~ありがとう!お母さんは私の踊りどうだった?」
「モネちゃん良かったわよ~!よく踊れていたし、今日はステーキにしましょうね」
「えっ!ステーキ?やったぁ!モネ、ステーキ大好き!」
引き立て役が暖かい家族に導かれる、きっとコイツは家に帰ると主役に格が上がるのだろう。
「私が主役なのに…」
飲み干した空ゴミを満たされない感情と共に投げ捨て「傷モノ」の頭を一人、優しく撫でる。
「…帰ろ。」
私は何て「不幸モノ」なのだろうか、軽かった足取りが嘘のように重くなる。バス停へと重い身体を引きずると、見覚えのある顔が視界に映った。
「あれ、夏木ちゃんもバス?お母さんは?」
「あっ、先生…私は一人だよ」
普段なら泣いて喜ぶ二人の時間、しかし今の私にとってはこの時間が居心地悪く、怖い。
「夏木ちゃんさ、最後皆で抱き合った時に一人だけ輪に入らなかったのは。どうして?」
沈黙にじれったさを感じたのか、先生からのアプローチ、大人が子供に手を差し伸べた。
「私のせいで失敗したから。全部、台無しにしたから」
「したから…輪に入らなかったって事?」
大人しく先生の手を取った、しかしあの時は取れなかった。
「私には輪に入る資格が、無かったから…」
言葉に詰まりながらも少しずつ、弱音と共に吐き出していく。
再び続く沈黙、目の前に止まるバス、大きい大人の背中と丸まった子供の背中が二人、並ぶ。
「隣空いてるよ?座って」
大人の肩幅。狭い座席。触れ合う脚。纏う香水の匂い。大人の優しい手がボタンへと伸びる。
「夏木ちゃん良かったら一緒にご飯食べてくれる?反省会もしたいしさ」
大人の微笑みが視界に大きく映る。子供の私は、小さく頷く事しか出来なかった。
ファミリーレストランへ導かれた私の前に並ぶオムライス、先生の前にはコーヒーとポテト、誰かと食べる食事は久し振りだ。財布から五千円を取り出すも「子供がそんな心配しなくて良いの!」と突き返されてしまう。
やはり私は大人からしたらまだ子供、どうにもならない現状が歯痒くて、苦しい。
「夏木ちゃん前半は完璧だったね、凄く良かったよ?」
「やっぱり前半『は』良くて後半はボロボロだったんだね」
甘酸っぱいケチャップの味がより酸っぱく感じられるほどに、手厳しい意見が刺さる。
「後半の途中までは自然な微笑みで良かったけどね。一瞬顔が強張ったのはどうして?」
ずっと一緒に踊っていた相方は、私の異変に気付いていた。
「余計な事、考えちゃったから」
「余計な事って?」
私は大きく息を吸い。小さなSOSを吐く。
「観客席の家族が私じゃなくて後ろの子を見ていたの、主役は私なのに。きっと私の事なんて」
「誰の視界にも映らないんだ」
子供の背中を上回る苦悩が押し潰す、大粒の涙が、抑えていた感情が溢れ流れて止まらない。
「愛ちゃん?」
「なぁに?」
「傷モノ」の頭をぐしゃぐしゃと撫でる、大きくて暖かい大人の「愛」が私を優しく包み込む。
「先生は愛ちゃんが主役として頑張る背中をず~っと見ていたよ?それに今日の愛ちゃんは今までで一番輝いてた。だから今日はい~っぱい話そ?それとも先生じゃ『役不足』かな」
人に撫でられる幸せは、私の心に今まで味わった事の無い感情を植え付ける。
「先生…あのね、私…」
「どうしたの?ゆっくりで良いからさ、話してみて?」
「………うわあぁぁぁぁぁぁぁぁあああん」
周囲の奇特な目など気にしない。大人に甘え、話を聴いて貰えるのは子供の特権なのだから。