福笑が亡くなってから二週間後、校庭から見える桜の木が満開だった。
ピンポンパンポン。
『これからお昼の放送を始めます。今日の担当は河合福笑です』
この声に教室内がざわついた。
『この音源が流れているということは、あたしはこの世の中にいないということになります。あまりにも短すぎる人生でした。夢を追いかけて、好きな人と話をして、楽しい高校生活だったと思います。どうしてあたしなの? 悔しい』
今までに聞いたことがない泣いた声だった。
鼻が詰まって、鼻水をすすりながら声を振り絞っている。
『こんなに早く死ぬなら……生まれてきた意味があるのかなって……思ったりもしました。でも人は病気で死ぬのではなくて、寿命で死ぬんだって言われたことがあります。だからきっと生まれてきた意味があると思うんです』
いつも騒がしい昼休みのクラスだが、今日は誰一人喋っていなかった。
鼻をすする声も聞こえてきた。
『まずは感謝です。支えてくれた家族や友達、好きな人。人と関わることで人生が色鮮やかになったのかなって思うの。あとはやっぱり生きているだけで感謝なんだなって。悔しかったり苦しかったりつらかったり、死にたくなったり。それが生きている証拠。死んでしまったら何も残らないの。……本当はもっと生きたかった』
校庭に咲いている桜がグレーに見えた。
福笑の泣いている声が響いている。
『ごめんなさい! こんな暗いことばっかり言ってたら、放送に乗せてもらえないかもね。とにかくあたしは、今この放送を聞いてくれているみーんなに、人生を精一杯楽しんでほしいっていうメッセージを届けたいです。悩んでも苦しんでもいいから、つらかったら人を頼ってもいいから。アナウンサーになる夢は叶えられなかったけど、こうして最後の最後までやりたいことやらせてもらえてありがたかったです。この放送を聞いてくれてありがとうございました。皆さんどうかお元気で。本日のお相手は河合福笑でした』
しばらく僕はその場から動けなかった。
頭が働かなくて、体中の力が抜けていくような感覚に陥った。
そして次第に福笑が残してくれたメッセージが心の中に広がっていく。
福笑が生まれてきて残してくれたものはすごく大きなものだ。
僕は、きっとこの先やりたい仕事を見つけることができる気がした。
彼女の言葉のおかげで。彼女の存在のおかげで。
福笑の話してくれた言葉たちは 、永遠に僕の中で生き続けると思う。
福笑は空の上でも、精一杯、おしゃべりしているのだろう。