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ピンポンパンポン。
『これからお昼の放送を始めます。今日の担当は河合福笑です』
窓から校庭を見るとチラチラと雪が降ってきた。
リアルな雪を見るのは初めてかもしれない。
クラスメイトは初雪だとはしゃいでいる。毎年見てるのに、よくそんなにテンションあげられるなって思う。
『ついに雪が降ってきちゃいましたね。雪を見ると大変な季節がやってくるのに、嬉しくなっちゃうんですよね―。ここからは突然のカミングアウトなんですけど、あたしは来年の桜を見れるのかわからない状態です』
何気なく流れている放送だったが、この言葉に僕は引っかかった。
どういう意味で言っているのだろうか?
桜の見えないところに転校するとか?
桜の見れないところなんてあるのだろうか。南極……とか?
『実はあたしの担当は今日で終わりになってしまいます。ガンという病で治療をすることになりまして……。ステージ4らしく。あたしの体にそんなに悪い細胞がいるなんて信じられません。だって今はめちゃくちゃ元気なんですよ! 余命、四ヶ月ですって。びっくりしちゃいました』
まるで感情を押し殺しているかのように明るい声が聞こえてきた。
あまりにも楽しそうに話すから、クラスメイトは内容に気がついてない人もいる。
一方で「余命だって」と、ひそひそと話している人もいた。
来年の春には福笑がいない?
何を言っているんだ。二人合わせて『幸福』って言ってたじゃないか。どうして夢を追いかけて頑張っている人が余命宣告を受けなきゃいけなくて、僕みたいな何もしたくない人間がのうのうと生き延びているんだ。
あまりにも不公平だ。
どこに怒りをぶつけていいかわからなくて、教室を飛び出した。
『でも、余命宣告をされて良かったと思います。突然死んでしまったらやりたいことも伝えたいこともできないまま死んでしまっていたのですから。残された命を全うして、あたしなりに最後まで人生を楽しんでいこうと思っています。本日のお相手は河合福笑でした』
廊下には福笑の声が響いている。
なんで、なんで……! 福笑が死ぬなんて嫌だ。
放送が終わり、福笑が放送室から出てきた。
僕は彼女の目の前に立って、大きな声で言う。
「関係が変わりたくないっていうのは、悪い意味じゃないんだ。絶対に壊したくなかったから……」
彼女は今までに見たことのない優しくて穏やかな表情を浮かべた。
まるで仏様のような女神様のような、全て悟ったみたいな顔だった。
「こう、ありがとう。あたしがいなくなっても忘れないでね。やりたいことがたくさんあるって言ったでしょ。 でも入院しちゃうからあまりできないんだよね。 寂しいからメッセージのやり取りをしてほしい。そうだ。 こうの写真送ってくれたら嬉しいな。 部屋の写真とか、男の子の部屋に行ってキスとかしてみたかったんだよね 」
「そんなことくらいなら 協力する」
「わーい! ありがとう」
自分の運命を受け止めて、残された命を全うしようとしている。
そんな凛とした姿に涙が思わず溢れてしまった。