秋になった。
さすがに屋上で過ごすのは寒くて無理なので、昼休みの教室で過ごすようになる。
友達もちらほらできた。
でも話題は「お前のお父さん歯医者さんなんだな! 頭いいんだな」と、そのことばかり。父はすごいかもしれないけど、僕は何もすごくない。
ピンポンパンポン。
『これからお昼の放送を始めます。今日の担当は河合福笑です』
教室がシーンと静まり返った。彼女の声はやはり人を惹きつける力があるみたいだ。
『今日は恋についてをテーマにお話をしたいと思います。皆さんは気になっている人にこのままの関係でいいと言われたら、どう思いますか?』
その言葉で自分が言った発言を思い出す。
これって遠回しに、僕のことを気になる存在だと言っているのだろうか? それはちょっと自意識過剰?
今までに経験したことがない心臓の鼓動を感じていた。
耳の奥からもドクドクドクドクと音が聞こえてくるほどだった。
『いつまでも変わらない関係でいたいって言われたらちょっと悲しいですよね? 関係を進展させてもいいって思ってもらうためには、どうしたらいいと思いますか? 放送部では皆さんの意見を募集しています。放送室の隣にポストを設置してありますので、ぜひ皆さんお気軽に意見を聞かせてくださいね。本日のお相手は河合福笑でした』
どんなラジオを聞くよりも、耳が心地よかった。
放課後、福笑に会った。
最近はゆっくり二人で話す機会がなかったから、ちょっと気まずい。
彼女は相変わらず満面の笑みを浮かべて手を振って近づいてきた。
リラックスしやすい空気感を出してくれるから、関わらなかった時間もすぐに隙間を埋めてくれるそんな感じだ。彼女の持っている力なのかもしれない。
僕は照れ隠しをするためペコっと頭を下げるだけだった。
「こう」
「ども」
「一緒にかえろう。せっかく会ったんだし、いっぱい話たい」
「いいよ」
北海道の秋は何でこんなに寒いんだろう。
まだ十月になったばかりなのに、指先がかなり冷たくなっている。
空は紅く染まり、カラスの黒がはっきりと見えた。
「今日はあったかいねー。秋なのに。これって、温暖化の影響なのかな? ちゃんと雪が降るのかなって心配になっちゃうんだよね」
「寒いんだけど」
「え、うっそー? 東京人だから?」
「なんだそれ」
「ほら」
手を出してきたので思わず握り返してしまうと、福笑の手はポカポカしていた。
「うわ、つめた! こう、手冷えすぎ。かわいそうだからあたしのマフラー貸してあげる」
そう言って僕の首にグルグルと巻いてくれた。
そして、にっこり。
あぁ、もうだめだ。かわいい。
夢は応援したいけど、全国区になってほしくない。
でも夢を叶えて輝く姿も見てみたい。
複雑な感情が胸を支配していた。
それから僕は福笑の香りが染み付いたマフラーのことを思い出したり。
笑っている姿を思い出したり。
ちょっと拗ねた顔を思い出したり。
頭の中が彼女に支配されていた。