生徒会選挙の公開討論会は、学園ホールで開催された。
満席の生徒たち、教職員、そして中継されるモニターの向こうにいる学外の保護者たちまでもが、その瞬間を見守っていた。

ステージ上には、候補者三人。

リリアン・セイン(表向きの本命)。

アルテミス・ポアロ(急成長の対抗馬)。

そして、候補者ではないのに、特別発言者として名を連ねたシュヴァリエ・レンリー。

アルテミスは、ステージ袖に立ったリベルタたちに一度視線を送り、ゆっくりと登壇した。
リリアンは沈黙を守っており、フィオナは控室から事の成り行きを見つめている。

司会が静かに言った。

「では、各候補者と推薦者より、学園に必要なリーダー像についての討論を行っていただきます」

まず、シュヴァリエが話し始めた。
その声は澄んでいて、理路整然としていた。

「学園に必要なのは、安定です。不安定な秩序は争いを生みます。秩序の維持には、明確な規律と、正しい導きが必要です」

どよめきが起こる。
その理想論は、どこかで聞いたことのある言葉だった。

アルテミスはゆっくりと答えた。

「導く者が誰のために導いているのか。それが問題だわ。支配を保護と呼び、沈黙を秩序と呼ぶのなら、それは偽りの優しさよ」

シルヴィアは笑顔を崩さず返す。

「偽り? 面白いことを仰る。僕はただ、混乱から皆を守ろうとしているだけ」

「本当に?」

アルテミスの声が少し低くなった。

「推薦人を匿名で脅し、別の声を封じ、選ばれた候補を操ってそれも、守るというの?」

ざわつきが広がった。